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第3回アジア太平洋CBR会議

2014ミャンマー国勢調査における障害インクルージョン

Dr Kay Khaing Win1)

1) The Leprosy Mission Myanmar

ミャンマーでは1962年~2011年までの軍事体制下で、保健、教育、その他の基本的権利にほとんど投資されてこなかった。2010年11月の選挙後、2014年3月29日~4月10日に実施されたミャンマーの人口と住宅調査の計画進行を新たな民政が先導してきた。成功を収めた計画から調査、結果の公表は政府の政治的・経済的再生、国家の団結、インクルーシブ開発に対する責任を明らかにした。これは30年以上の間で最初の(1983年以来)国勢調査であった。

連携と協力

2014年のミャンマーの国勢調査は入国管理・人口省、人口部門、中央国勢調査委員会によって実施された。しかしながら技術的な支援は国連人口基金と英国国際開発省によって提供された。社会福祉省(The Department of Social Welfare: 以下DSW)とミャンマーのハンセン病ミッション(The Leprosy Mission Myanmar: 以下TLMM)が障害分野のリーダーであった。TLMMはロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのLeonard Cheshire and Inclusive Development Center、国際障害と開発コンソーシアム(International Disability and Development Consortium: 以下IDDC)からDaniel Montをワシントングループの代表として招待した。欧州連合とTear基金が障害をプロモーションするための物資のドナーであり、ミャンマーラジオテレビ局(Myanmar Radio Television以下: MRTV)と国民放送(National Races Channel: 以下NRC)が公共教育アナウンスをした。

最も適した方法の発見

この国勢調査はミャンマーの障害のある人の主なデータを得る良い機会であった。しかしながら、国勢調査委員会は当初、障害に関する質問を取り入れることに興味を示していなかった。DSWとTLMMは障害インクルージョンの重要性を説いた。TLMMのリーダーは国勢調査の10ヶ月前の2013年5月のIDDC会議に参加して、ワシントングループの代表者であったDaniel Montに会った際に、障害のある人のデータ収集に最も適した方法を見つけた。

障害統計に関するワシントングループ(The Washington Group on Disability Statistics: 以下WG)は障害尺度に関する国際セミナーに引き続いて、2001年に組織された。国勢調査に適した障害尺度に注目しながら、国内の障害データの比較や障害尺度を発展させてきた。国勢調査に用いる質問は障害尺度の発展を反映し、概念上の枠組みとして、WHOの国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: 以下ICF)を使用した1。WGの質問は、異なる経済資源や文化の中で暮らす人々の、国内における基本的動作の制限に関する比較可能なデータを集積することが可能である。2

視覚、聴覚、歩行、認知、セルフケア、コミュニケーションの6つの核となる領域における、保健に関連した困難さに関する質問は以下の通りである。1)眼鏡を使用しても見えづらいですか、2)補聴器等を使用しても聞こえづらいですか、3)歩くことや段差が上がりづらいですか、4)記憶したり、集中することが難しいですか、5)服を着たり、体を洗うことなどのセルフケアが難しいですか、6)日常の言語を使用して、コミュニケーションをとること(理解したり理解してもらったりすること)が難しいですか。3各質問は4つの回答で評価される。1)いいえ、苦労しません、2)はい、少し苦労します、3)はい、とても苦労します4)全くできません。この回答における評価尺度は軽度から重度まであらゆる範囲の機能制限を捉えることができる。4

啓発

最も大きな障壁の1つは、国勢調査委員会や国際技術諮問委員会、障害者団体がWGの質問は難しすぎて、理解できない、使用できないと考えていることであった。そこで質問の背景にある理由や選択について説明するために、“WGの障害の一般的尺度の理論的解釈に関する報告書”5を使用した。

障害に関する情報は正確に集められる必要があるが、回答者の気分を害したり、困らせたりしないように一定の配慮をしなければならない。質問は家族全員に対して行われるべきである。国勢調査委員会は慢性疾患や老年症候群を障害と見なすべきではないと考えていた。しかしWGは障害を考える上で、できない原因を考えるのではなく、その人は何ができるのかを考えるべきとしている。年齢や病気が障害の原因にもなり得る。もしその人が高齢、体調不良で歩けないもしくは自己のケアができない場合、どんな理由であっても彼らも障害があると言える。高齢者は医療やリハビリテーションのニーズがあり、地域や宗教、社会活動に参加する権利を有している。もし彼らが必要な支援を受けられないとしたら、子供や孫の世代が彼らを世話する責任を担い、それが教育や雇用の機会に影響を与えてしまうこともある。だからこそ障害のある人を特定することは、公共政策の発展のためにも大切である。

質問の中で使用される言葉も重要である。多くの国でDisability/障害は慎重に扱うべき問題である。質問をするときには、気配りや配慮が求められる。家族内に障害のある人がいるとカウントされたくない家庭もある。障害に関する情報を収集することはミャンマーの全国民にとって大切なことだと説明する必要がある。Disability/障害という言葉の使用は、軽度から中等度に制限を受けている人を見逃してしまいがちで、低い障害者率となり得る。同様に、高齢者は自分たちを障害がある、機能制限があるとはみなさず、単に“老い”と考える。それ故に“~しづらいですか”という質問と段階分けした回答を組み合わせたものが、前述の問題を回避できる傾向にある。同様に“見えづらいですか?”という質問よりも“視覚障害がありますか?”の質問のほうが回答するに難しい。皆視覚については知っているが、機能制限があるかどうかについては困惑してしまう。“Disability/障害”や“Impairment/機能障害”といった言葉は使用しないのが望ましい。

別の問題は国勢調査委員会が障害に関して4つ以上は質問したくないとし、6つの推奨項目の優先順位や説明を求めていたことである。彼らはセルフケアとコミュニケーションの項目を重要視していなかった。セルフケアは重要である。なぜなら上肢の障害など広い範囲で重要な障害や障害給付金を必要としている人々を捉える。コミュニケーションの質問も発達障害や自閉症など広い範囲の問題を捉えるために重要である。しかしながら最初の4つの質問は障害のある人の大多数を特定することができる。

段階分けされた回答を理解することも、質問者と回答者の両者にとって非常に複雑であると考えられた。質問者は他に40テーマに及ぶ質問がある中で、1つの分野に多くの時間を費やすことは負担になる。しかしWGは段階分けされた回答は非常に重要であると説いた。もし“はい/いいえ”で回答するだけの質問であれば、障害者率は50%以上低下する可能性がある。段階分けされた回答は軽度の障害も特定するため、何ら問題をもたらさず、より正確なデータを生み出す。

インクルージョンのための支援

政府は障害インクルージョンを優先的に扱い、多くの議論が交わされた。関係者は政府に対して、民族や宗教と同等に障害に対する関心を持つよう要求した。ミャンマーは既に国連障害権利条約に署名・批准しており、包括的な障害に関するデータを持つことは必要不可欠である。

DFIDはより後半から議論に参加したが、WGによって作られた障害に関する質問が現状最も有効で、障害者率を計るために最も広く確立した方法論であると認めている。DFIDは国際技術諮問委員会とミャンマー国勢調査委員会がWGの質問票の省略版をカバーする質問票の使用を認めたことに一役買った。国勢調査に対するUNの方針や助言では、少なくとも歩行、視覚、聴覚、認知の主な4項目が必要としている。

能力強化

国勢調査委員会はWGの質問票の説明などのデータ収集に関するマニュアルを作成し、それをミャンマー語に翻訳した。このマニュアルは質問者にとって、4つの障害に関する質問およびその回答を理解するのに非常に重要なものである。調査に携わる質問者(10万人)とスーパーバイザー(2万人)を対象に障害に関する総合的な研修が行われた。これらは夏休み中でデータ収集のために集められた小中学校の先生のために行われた。

関係者間で、障害データ収集に関する研修の必要性について議論が起こった。国勢調査のためのWGの質問票は既に明白で、説明は必要ないという意見もあった。質問者はただ文字通り質問をすれば良く、解釈や意見を付け加えてはいけない。もし回答者が回答に窮する場合は、質問が繰り返される。しかしTLMMとDaniel Montは障害について質問する際に、もし障害に対して偏見や文化的な問題がある場合、更なる問題が生じることもあると主張した。

通常の研修にこれらのことが追加された。1)質問者はdisability/障害という言葉を使用せず、書かれている通りに、何かをするのに不便を感じているかと質問するよう研修を受けた。2)質問者は居心地悪そうに、障害のある人がいないかと家の中を見渡したりせずに、質問をしなくてはならない。これは過去にある国々で起こった。もし彼らが前述したようなことをすれば、家の中で隠れていて、“見えない”障害のある人を見落としてしまう。例えば、質問中に、耳が聞こえず、家の隅で料理をしている人は障害があるようには見えない。3)質問者が障害のある方に対して、心地悪くならないように、接し方のコツを教える。

国勢調査委員会は障害に関する最も適した質問方法について、質問者研修の指導書として使われていた、UNESCOの障害統計(特に第7章)収集研修マニュアルを使用することを推奨した。6DSW、TLMMそして障害者団体は国勢調査を通して、正確なデータ収集のため、障害についての理解を効果的に深めるためにも研修は不可欠だと感じた。

ミャンマーにおける障害者権利の理解に関するプロジェクトを通して、TLMMとDSWは国勢調査のスーパーバイザーと質問者に3万枚の研修DVDコピーを準備することができた。これにはスーパーバイザーと質問者が、どのように質問するかという内容も含まれている。国勢調査の準備として、1つのDVDを4~5人の質問者で共有し、スーパーバイザーと一緒に観てもらった。これらのDVDは国勢調査マニュアルと一緒に使用してもらい、また国勢調査中に使えるように、2ページの障害に関するカードが配布された。

これに加えて、TLMMとDSWはミャンマーの異なるチャンネルで公共啓発運動として流すために、2つの障害に関する支援ビデオ(5分と15分)を作成した。これらのビデオは、国勢調査中に、障害のある人を世帯人数に含む必要性を啓発するようデザインされた。人として彼らの平等な権利の重要性に注目しながら、障害のある人が家族のメンバーであることを恥じたり、隠したりするような風潮を止めることを目的とした。MRTVは字幕や音声でビデオを異なる民族の言語に翻訳することに協力した。これらの翻訳はミャンマーの少数民族にも届くよう、指定のチャンネルであるNRCで放映された。

教訓

遂にミャンマーの国勢調査は3月29日~4月10日に実施された。20カ国以上から成る23人のチームが他の23人のミャンマー人とともに、国勢調査期間中に独自に観察を行った。

2014ミャンマー国勢調査への関与に関して、最初からやり直すといったような必要性は無かった。以前にも実施した経験があり、プロセスや得られた教訓は他の国々にも適用され得る。踏襲されるべき最も適した方法であるとも言える。国勢調査委員会は障害に関するデータ収集方法の改善のために、実践的な支援を提供してくれた障害セクターに感謝の意を表する。

国勢調査終了後、改善の余地があるとした。研修では障害に関する質問は、障害がありそうか否かに関わらず、家族メンバー1人1人に尋ねられるべきだとしていたが、家族の中に明らかに障害のある人がいなさそうな場合に、質問者が障害に関する質問を省いていたとの報告があった。調査関係者は質問者が障害に関する質問は、失礼で立ち入り過ぎているとして、質問をしなかったのかもしれないと考えた。これらの問題を修正するためには、将来の国勢調査に向けて未だ努力が必要である。

UNFPAは4人の専門家を雇い、ミャンマーの関係者全員に会って、国勢調査報告書に含むべき情報を確認した。これらの専門家はミャンマー政府に対して、報告したいことだけを報告するのではなく、現実的な報告書を作成するよう勧めた。これは障害セクターにとって、収集された障害のデータに関して作成された、彼らが見たかった種々の報告書に提案をする機会でもある。

全体的に見て、2014ミャンマー国勢調査は障害者権利やインクルージョンについての意見交換や啓発の非常に良い機会でもあった。多くのことを学び、今回のプロセスの中で、障害者率は2.3(2009国家障害調査7)から4.6(2014ミャンマー国勢調査)に上昇した。

1 The Measurement of Disability, Recommendations for the 2010 Round of Censuses, Washington Group on Disability Statistics(WG)

2 Statement of rationale for the Washington Group general measure on disability

3 The Measurement of Disability, Recommendations for the 2010 Round of Censuses, Washington Group on Disability Statistics(WG)

4 The Measurement of Disability, Recommendations for the 2010 Round of Censuses, Washington Group on Disability Statistics(WG)

5 Statement of rationale for the Washington Group general measure on disability

6 http://www.unescap.org/stat/disability/manual/

7 First Myanmar National Disability Survey, Department of social welfare(DSW)and The Leprosy Mission International(TLMI)in 2009