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第3回アジア太平洋CBR会議

JICA’s Approach to Facilitating the Development of Empowered Communities
- From a Disability and Development Perspective -

開発の視点から見たCBID

ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)の達成という国際社会の共通の目標に向けて政府、市民社会、開発援助機関が協力して取り組んだ結果、全体でとらえると貧困人口の比率の半減、安全な水や衛生施設へのアクセスできない人口の半減という成果が見られた一方で、地域間や国内、男女別、所特別などによる大きな格差が依然存在する。MDGsが障害に言及せず、障害者に関するデータが収集されていないこと、障害者は人口の約15%を占め、貧困と障害は密接に関わり合っていることを考えると、MDGsの達成に向けたプロセスや恩恵から障害者は排除されがちであり、障害を原因とした格差が存在しているのが現状であろう。

これに対し、今年の9月に採択予定のポスト2015年開発アジェンダでは、教育、雇用/労働、生活環境に関する目標のターゲットの中に障害者の記載があるほか、人権やエンパワメントという観点でも障害に言及がある。障害のみならず、人種、性別、年齢、言語等の多様性に配慮する必要を指摘しており、障害を含む様々な多様性を前提とした、インクルージョンに向けた取り組みが必要であることが明らかだ。特定の人々が阻害されない社会の構築に向けて、地域社会に根差したアプローチがますます重要となってくる。

JICAがビジョンとして掲げている「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」、また、そのビジョンの実現に向けたミッションの一つとしている「人間の安全保障」は、人間中心のアプローチにより、貧困や災害等の脅威から人々を保護すると同時に、一人ひとりの能力強化を推進し、また、社会資源である多様な担い手との連携を通じて、誰もが安心して生活できる地域社会づくりを重視している。障害者を含むすべての人々を含むインクルーシブな地域社会を目指すCBIDのアプローチと共通点が多く、CBIDの実践はJICAのビジョンやミッションの実現のためにも有効である。

障害の視点から見たCBID

CBIDを進めていく中で、地域社会における共通の課題に対し、住民が主体的に協力することが大切である。そして、障害者が他の住民と平等にそのプロセスに参加できるようにするためには、障害者自身および周囲の人々による障害の理解、アクセシビリティの確保が不可欠である。また、障害の理解促進やアクセシビリティ確保を障害者自身が中心となって行っていくことが有効であることが、これまでのJICAの取り組みを通じて明らかになってきた。障害者自身が、障害平等研修(Disability Equality Training: DET)のファシリテーション、ピア・カウンセリング、アクセシビリティ監査等のスキルを身に付け、リソースパーソンとして貢献することが、障害者自身のエンパワメントに加え、インクルーシブな地域社会作りにもつながる。障害者が中心となって多様な関係者と共に地域課題の解決に取り組むには、このようなアプローチが欠かせない。

障害者の課題に取り組むことが地域社会の強靭性を高めた事例

例えば、フィリピンで実施した「地方における障害者のためのバリアフリー環境形成プロジェクト(2008~2012年)」では、障害者が地域社会で生活するうえで課題となっていた、物理的および社会的な障壁(建造物、法律、態度等)の解消を目的とし、農村地域のアクセシビリティ改善に、障害者が中心的な役割を担い、2つの市(イロイロ州ニュー・ルセナ市、ミサス・オリエンタル州オポール市)と協力して取り組んだ。具体的には、障害者団体が中心となり、家庭訪問やピア・カウンセリングを通して障害者に関する情報収集や当事者団体の強化を図り、また、障害者自身がトレーニングを受け、DETやアクセス監査を行うリソースパーソンとして主体的に関与した。対象の市レベルでは、障害者とその家族、市の職員等から成るプロジェクト・マネジメント・チームを形成してプロジェクト活動の策定を行ったのに加え、州、国のレベルにも調整機関を設置し、対象自治体での取り組みが他の自治体とも共有される仕組みを作った。

このようなプロセスを経て、ユニバーサル・デザインが多くの建造物や公共交通機関に導入された。また、自治体は障害者の権利やアクセシビリティに関する条例を採択し、障害に関する予算を大幅に増額した。地域住民による障害理解も深まり、プロジェクト開始前と比較して、より多くの障害者が外出し、社会活動に参加できるようになった。さらに注目すべきなのは、2013年に台風ヨランダがこの地域を襲った際に、環境がアクセシブルであったことが、障害者のみならず他の住民の避難にも役だった点である。このように、障害者が地域社会で生活する課題に対応するという視点で始まったこの事業は、災害という共通の課題に対する地域社会の強靭性を高めることにもつながった。

地域社会の共通課題への対応に障害の視点を主流化した事例

一方、「コミュニティ防災推進事業(2012~2015年)」では、地域社会の共通課題である防災に対処するという視点から始まった事業に、障害の視点を入れていった。行政と地域住民が協力して、日本全国で初めて町内会のハザードマップを作成する等の防災対策の経験を積んでいる横浜市およびCITYNETが同事業の実施を担った。フィリピンのイロイロ州で実施されたが、前者が農村地域を対象としたのに対し、同事業は州都のイロイロ市の5つバランガイを選び、地域社会の防災力強化と洪水被害の縮小を目的とした。台風や集中豪雨により氾濫しやすいイロイロ川沿いにはスラムが形成されており、特に貧困層が被害に遭うリスクが高く、その中には障害者も含まれている。

住民参加型の自主防災組織の形成に取り組む中で、自治体職員、ヘルス・ワーカー、高齢者や若者が計画段階から関わったが、事業開始当初、障害者の参加は十分でなかった。当時、イロイロ州の障害者協会に派遣されていた青年海外協力隊員の働きかけにより、ニュー・ルセナ市がアクセシビリティに配慮した自治体のモデルとして紹介されたことが、障害インクルーシブな防災に向けた取り組みの強化のきっかけとなった。イロイロ障害者協会のメンバーはイロイロ市と協力してDETやアクセシビリティ監査を行い、地域住民の啓発と物理的環境の改善に貢献した。その結果、災害被害に遭うリスクの高い障害者や高齢者に関する情報が収集され、公共の施設へのスロープ設置や公衆トイレへのユニバーサル・デザインの導入が進み、ハザードマップの作成や避難訓練等の活動への障害者の参加が促進された。このような取り組みが功を奏して、台風ヨランダ発生時には、対象地域の住民は事前に避難し、負傷者は出ていない。この事業の成果をふまえ、現在イロイロ市では後継事業が実施されている。今回は、プロジェクト開始当初から、障害者、高齢者、女性、子供などもインクルーシブな防災対応の強化が活動に盛り込まれている点が特徴だ。

教訓と課題

これらの事例から、二つのアプローチが有効なことがわかる。一つは、障害者が地域社会で生活するうえの課題に、障害者が地域住民と協力して取り組むアプローチ。もう一つは、地域社会の住民の共通課題として認識されていることに取り組む際に障害の視点を入れていくアプローチ。いずれのアプローチにおいても、障害者が社会的弱者としてではなく、よりよい地域社会作りに貢献できる主体として関わるということが大切である。

JICAはこの教訓を今後の協力に活かしていく。例えば、今年の3月にコロンビアで開始した技術協力プロジェクトでは、紛争の被害者が多い自治体を対象に、その地域の障害者が直面している課題、地域社会で共通の課題、そこに存在する社会資源を調査し、それぞれの自治体に適した活動を、障害者が中心となり、多様な関係者と協力しながら進めていく予定だ。また、モンゴルで来年開始予定の障害者の社会参加促進を目的とした技術協力プロジェクトでも、インクルーシブな地域社会を作るために、エンパワーされた障害者が障害理解やアクセシビリティ改善等に貢献するような活動を実施していきたい。そして、このような取り組みが、障害者を含む地域社会全体のエンパワメントやインクルージョンにどのようなポジティブな影響を与えたのかということを可視化することが、CBIDの推進、開発計画への盛り込み、予算措置につながる。そのために必要なベースライン調査の内容、指標の設定が課題であり、これらに関するJICAの取り組みをCBIDに関わる各国の関係者と共有し、CBIDの推進に向けて協力していきたい。

以上