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地域に根ざした共生社会の実現 CBID事例集

のわみ相談所

(愛知県一宮市)

キーワード 貧困、学習

のわみ相談所は世界人権宣言の定める精神に従い、人権及び基本的自由の普遍的な尊重と尊守の促進のために活動する団体である。日本国憲法に定める基本的人権の尊重と経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約実現のために活動する集会結社=憲法法人と自らを位置付けている。社会的弱者及び生活困窮者の基本的人権を擁護するために活動し、その諸活動を通じて国民全体の人権を擁護し、公共の福祉に貢献できることを目的としている。

◆背景

近年、社会や人間関係の不適応や、アルコールやギャンブル依存のため、仕事が長く続かず失業、しかし次の仕事がなかなか見つからず、家賃滞納や寮を追い出され、ホームレスになる人が多く存在している。また、派遣労働などによる労働環境の変化のため、やむをえずホームレスになる人も後を絶たない。

◆事業概要

一人ひとりに寄り添った住・食・衣・居・職・医のトータルサポートができるように、のわみサポートセンターと連携して、宿泊所の提供、食事の提供、日用品の提供、居場所の提供、仕事の情報提供・社会保障制度の支援などを行っている。人間の生活には安心して寝られる住居が最も大切と考え、特に「住」の保障を一番に考えた活動を行っている。

写真 炊き出しのようす
炊き出しのようす

地域の基礎データ

●カバーする地域:一宮市を中心とした尾張地域(地方都市)

●人口:カバーする地域全体で約60万人

●地域の課題:愛知県内で、一宮市は名古屋市に次いでホームレスが多い地域である
当団体による調査では、2014年9月時点のホームレス数は29人

■設立年

1998年、のわみ相談所設立。2007年、一宮市内に事務所と簡易宿泊所を開設。

■事業内容

●事業の目的:相談に訪れた全ての人に必要な支援を行うことによって公共の福祉に貢献する。

●事業の目標と対象者:高齢者、精神障害者、知的障害者、発達障害者、外国人、ホームレス、生活困窮者、就職困難者、DV被害者等。事業でカバーした人数は約3,000人。

●関係当事者:自立した元利用者、地域住民、障害者団体、民生委員、地元企業、自治体。

●事業の主な財源:事業の売上金(45%)、助成金(15%)、個人からの寄付金(40%)。

●実施したこと

  • 日本人・外国人の生活相談、労働相談、支援(年間1,000件以上)
  • ホームレス・生活困窮者支援、シェルター6ヶ所の運営(年間140件以上)
  • 月2回の炊き出し及び生活困窮者自助組織(救生の会学習会)の運営(参加者約60人)
  • 食堂1日50食・リサイクルショップ・便利屋での就労支援および仕事の情報提供(年間200件以上)
  • 尾張断酒会と連携して、のわみ断酒会の運営(月2回、参加者約15人)
  • フードバンク事業
  • ホームレス調査
  • 共同墓地・位牌堂運営・弁当工場の運営
  • 講演会やチャリティピアノリサイタルの開催

事例7 図1(図の内容)

■特徴

設立者の一人である三輪憲功氏は、1995年から単独でホームレス調査や食料配布などを行っていた。その後キリスト教団体の協力で古着の配布等もはじめ、さらに公園で炊き出しを行うブラジル人グループと共同で「のわみ相談所」を設立、外国人相談とホームレス支援を行う。2000年にはホームレス当事者の手でシェルターを建設した。2006年から、現在の活動地である一宮市でホームレス調査と炊き出しを始め、当事者の自助組織である「救生の会」が活動を開始。2007年に、事務所とシェルターを一宮市に移し、DV被害者支援もできるように女子シェルターも建設。

2008年以後、リーマンショックによる派遣切りや不安定雇用の増加により、就職困難者が増えていった。そこで「救生の会」で何度も話し合い、2011年にNPO法人のわみサポートセンターを設立し、当事者主体の「カフェ・レストラン」、「便利屋」、「リサイクルショップ」を立ち上げることにした。2013年には弁当工場も立ち上げ、現在20人近い雇用を生み出している。

現在の日本は、無縁社会が広がり、孤独死が増えている。

死後、遺骨の引き取り手がなく、お墓に入ることができないなど、死後の問題は高齢化する当事者にとって切実であり、2012年から地元の寺の協力を得て、共同墓地と位牌堂を建設することになった。これは全額市民の寄付で建設することができ、死後の不安がなくなり、安心して今を生きることができるようになった。

2014年度はセカンドハーベスト名古屋と協働してフードバンク活動に力を入れ、住・食・衣・居・職・医のトータルサポートが日常的に行えるようになった。

人間の生活には安心して寝られる住居が最も大切と考え、毎年1ケ所ずつシェルターを増やし、現在は6ヶ所のシェルターを運営している。

事例7 図2(図の内容)

■救生の会

「救生の会」とは、当事者による勉強会である。野宿から脱却した後の支援が一番大切だと考え、当事者の自助組織として活動している。生きる知恵や近況報告等、さまざまな話し合いを行い、安否確認の場ともなっている。のわみ相談所で行うさまざまな事業は、「救生の会」を通じて当事者主体で考案され、理事会によって承認され、実施される。勉強会を経て必要性を認識し、課題の解決方法を当事者自らが考案し、運営を行うことで、利用者によるオーナーシップが促進されている。

写真 「救生の会」の活動風景
「救生の会」の活動風景

■地域ネットワーク

フードバンク事業では、NPO法人セカンドハーベスト名古屋を通して、尾張地域の拠点となっている。地元のスーパーや食品会社からも、独自に食料品の提供を受けている。提供された食料品は、困窮者への配布のほか、さまざまな福祉施設や団体、地域の高齢者サロンなどの求めに応じて供給することで、他団体とのネットワークが構築されている。また民生委員との間では、情報交換と相互支援のネットワークが構築されている。さらに地元企業からは、仕事の斡旋や寄付など、さまざまな支援を受けている。

■課題と展望

一時宿泊所(シェルター)への入居希望者が多く、増築が必要である。またシェルターでの長期入居者が増えているので、グループホーム的な共同住宅設置を検討中。行政にも多目的シェルターの設置を呼びかけているが、予算の問題等でなかなか実現しない。2015年から精神障害者の日中の居場所として、地域活動支援センターの運営を開始する。市内に9か所ある同種のセンターには連絡会がなく、連携が取れる仕組みを作っていきたい。また、独居高齢者、子どもの貧困、外国人の不登校や就労などの問題についても対応していきたい。

◆変化したこと

利用者がのわみ相談所を知るようになったきっかけとしては、行政、他団体からの紹介、新聞、テレビ、インターネット、支援された人からの紹介などがある。また、食堂を設置して、無料から1食200円で生活困窮者への食事の提供を行っているが、新しいホームレスが参加しやすいように、月に2回炊き出しを行っている。また、かつての利用者がボランティアで地域内の巡回を行い、ホームレスを発見し、アプローチを行っている。支援された人が支援者になれるように、その人の抱えている問題を解決しながら、その人の能力を最大限に引き出す努力をし、問題解決後も支援者として活動に参加し続けられるように支援している。

利用者は、しっかりとした教育を受けていない人が多い。知識は力であり、理解が薄いことが本人の力を奪っていると考え、1ヶ月に2回の頻度で「救生の会」という名前の勉強会を行っている。またそれに合わせて当事者の近況報告を兼ねた「救生の会ニュース」も発行している。それぞれが問題の理解をすることで、自助・共助を行っていけるという思想であり、さまざまな事業もこの「救生の会」を通じて提案され、それを「のわみ相談所」として実現している。

そして、「のわみ相談所」の事務局は2名であり、全ての事業は利用者が地域のボランティアとともに運営しており、それらの活動を通じて利用者の自立が促進されている。

シェルターは年間120名程度の利用者があるが、生活保護を経ることなく自立する人が70~80%程度である。半数程度はシェルターを経過し、半数程度は相談・支援のみで自立に向かう。シェルターの住居費と食費は月2~3万円程度であり、身の回りの必要なものはリサイクルショップで無料で手に入れられる。便利屋と弁当屋では月8万~15万円程度の収入を得ることが可能であり、シェルターで生活しながら便利屋や弁当屋の仕事に従事することによって、利用者は貯金をすることができる。そして、それぞれのタイミングで一般就労し、アパートでの生活を始めるという流れがある。

シェルター入居者の元大工は、シェルターの修繕に積極的に取り組み、他の入居者にも教えた。近所の人や支援者がそのようすを見て、自分の家のリフォームや草取りを頼むようになった。何人ものシェルター入居者が手分けして、草取りやペンキ塗りなど頼まれたところに出向いて仕事をして、お金をもらってくるようになった。「救生の会」でトラックがあれば便利屋ができるという話になり、理事の一人がトラックを寄付したことにより、引越しの手伝いや不用品の引き取りもできるようになった。不用品が倉庫にどんどんたまるようになり、「救生の会」でリサイクルショップができるという意見が出され、新しく作るシェルターの1階を、便利屋とリサイクルショップのコーナーとすることになった。

市民に理解されることを活動の原則としており、理解されるアピールの仕方を心がけている。市の市民活動支援制度により毎年全戸配布されるチラシに名前が掲載されることによって、信頼できる団体であるという認知も進んでいる。さらにはテレビや新聞で報道されることもあり、さまざまな寄付物品、活動へ協力してくれるボランティアや仕事の発注が促進されており、地域の人々に支えられている。また、障害者団体と密に連携して、就労支援を行っている。民生委員が町内会などの間に入り、理解を促してくれる場面も多い。逆に民生委員から気になる人についての紹介を受けたり、フードバンクや弁当工場で余った食料などを、民生委員に渡して気になる家庭に届けてもらったりしている。

事例7 図3(図の内容)

●波及効果(モデル化できること)

生活困窮者の支援方法として、シェルターの設置に加えて賃金を得られる中間就労の場を手厚くする。寄付等による物資を集め、衣食に金がかからなくすることで、シェルター入居中に自らの賃金労働によって貯金ができるようにし、自立を可能にする。

また、当事者のエンパワメントと事業の持続可能性を高める方法として、当事者の勉強会によって課題認識を深めた上で、当事者自身の手で事業を提案されるよう促し、その提案された事業を当事者自身の手で運営されるようサポートする。

■CBRマトリックス使用による分析

◆のわみ相談所設立当時(1998年頃)

ホームレス・生活困窮者および外国人を対象として、その生活支援を行っていた。

事例7 図4(図の内容)

◆現在

自立した後の生活を支援することや、さまざまな課題を持つ人を包括して支援している。

事例7 図5(図の内容)