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CBRとインクルーシブ開発

CBRは1980年代初めに、多くの発展途上国の従来のリハビリテーション・システムが障害者のニーズに応えることに失敗した(ヘランダー,1993)という認識のもと開始された。提案された代案は、発展途上国の地方に住む障害者のためのリハビリテーション適用範囲の強化というプライマリーヘルスケアの原則に基づいていた。家族を含めた、地域の人々にスキルを移転する(WHO,1989)ことによって、高額な施設や、設備、専門家の必要性を減少させ、プロセスを手頃なものにするというのがねらいであった。過去25年にわたり、CBRに対する理解や、実践方法は大きく変化してきた。1980年代、90年代においては、ほとんどのCBRプロジェクトは、本質的に縦方向で、開発プログラムに統合されたものはほとんどなかった。当時は、CBRは医療リハビリテーション(移動、日常生活技能、コミュニケーション、家庭に根ざしたリハビリテーション)、教育(就学、特別教育)や社会保障制度、生計活動、地域に参加する活動、あるいは、ご近所や友人に受け入れてもらうような社会活動等のサービスに焦点が当てられていた。

1990年代中頃以降のCBR理解と実践に関する変化は、CBRを「障害をもつすべての子ども及び大人のリハビリテーション、機会均等化及び社会統合に向けた地域社会開発における戦略の一つである。CBRは、障害のある当事者、家族、団体、コミュニティ並びに適切な政府系、非政府系の保健医療・教育・職業・社会サービスが一致した努力によって実施される」と定義したWHO、ILO、UNESCO(2004)の合同政策方針が最も良く解説している。

合同政策方針によると、CBRの二大目標は、

  • 障害者が身体的、精神的能力を最大限に発揮でき、通常のサービスと機会を利用でき、地域や社会において積極的な貢献者となるよう促進すること。
  • 参加の障壁を取り除くといった、地域社会での変化を通して障害者の人権を促進・保護するよう地域社会を活性化すること。

徐々に、CBR活動の範囲は医療、教育活動の分野から貧困や生計に対応したり、自助グループ、障害者の自助組織、家族会の設立、意識向上、パートナーシップとネットワーキングの構築、そして女性障害者、知的障害者や複数の障害をもつ人、精神社会障害者、HIV/AIDSと共に生きる人々等、主流から取り残されるグループのインクルージョンを扱うことへと広がった。「エンパワメント」、「インクルージョン」、「参加」、「バリアフリー」といった言葉が、企画立案に使われ始めた。障害に特化した権利を超え、一般的な開発及び貧困削減プログラムに障害者を含めるための努力があった。

従ってCBRの実践は、医療適応型で、多くの場合、単一セクター(例えば、保健や教育)でサービスを届けるというアプローチから、障害者が包括的で多部門に渡る、彼らのコミュニティの中の全ての人々のように、全ての開発利点にアクセスできるようなインクルーシブ共生社会の創造に焦点を当てた権利ベースのものに変わった(トーマス、2013)。

2007年に実行されたWHO調査は、CBRの進展を示している。約92ヶ国がCBRプロジェクトとプログラムを実施していた。アフリカの35ヶ国、アジアの26ヶ国、ラテンアメリカの24ヶ国及びヨーロッパの7ヶ国である(カスナビスとハイニッケモッチュ、2008)。アフリカだけで、25ヶ国で280ものプログラムが列挙されている(アデオイエとハートレー、2008)。CBR会議は過去10年で、アフリカ、アジア太平洋地域、ラテンアメリカで開催されており、CBRの研修や情報交換を通して活動を維持するための地域的CBRネットワークが確立されている。最近になって、グローバルCBRネットワークも始まった。

アジア地域においては、CBRに対する具体的な言及が現在ブータン、インド、インドネシア、ミャンマー、パキスタン、フィリピン、スリランカ、タイ及び東チモールの国家レベルの政策等に見ることができる。これは10年前の状況からすると、意義深い変化である。アフリカのブルキナファソでは、CBRが障害者支援の国家的戦略として取り入れられている。

CBRガイドライン

WHO(2010)のCBRガイドラインは、CBRのコンセプトと原則の理解を統一するために世界各国からの経験を統合する試みである。世界の様々な地域からCBRに関する経験を統合することで、CBRガイドラインは既存の、そして新しいコンセプトを説明し、フィールドレベルの実践を支持し、またそれを土台に構築される。

ガイドラインは、CBRプランナーや実践者にその地域の状況、ニーズ、資源に即した、彼らが活動を開発するための土台となる骨組みを提供する。CBRは単一のモデルだけで世界の状況に対応できないことは、何年もの間理解されてきたことなので、ガイドラインでは特定の「モデル」は主張しない。ガイドラインにあるCBRマトリックスは、CBRの5つの構成要素と従属要素を要約している。

CBRガイドライン
   CBRガイドライン

CBRマトリックス

CBRマトリックスは、計画を立てるための枠組として使うことができるが、すべての状況においてマトリックス全体が、実施されることを期待されている訳ではないことは、ガイドラインにおいて明確である。プログラムは、その地域の状況、ニーズ及び資源に最適な部分を選ぶことができ、専門知識が足りない部分に関しては、他の組織との連携を探ることができる。
CBRマトリックステキスト

CBR と CRPD

国連が2006年に採択した「国連障害者の権利に関する条約(CRPD)」は、世界中の障害者にとって、障害者に対する態度と対応の仕方が、慈善と福祉の「対象」という見方から、コミュニティの他のメンバーと同じ権利を持ち、自分の人生について自己決定する能力のある、社会に参加し寄与する一員である、という観点へのシフトを体現した、最も重要な法的展開である。条約の中心的な信条は非差別であり、そのビジョンはインクルーシブな社会である。条文は、障害当事者及びびその代表的組織の積極的な参加によって策定された(IDDC、2012)。

世界保健機関(WHO)のCBRガイドラインに基づいたCRPDの原則:

  • 固有の尊厳、自ら選択する自由を含む、その個人の自律及び自立の尊重
  • 非差別
  • 完全で活発な社会への参加とインクルージョン
  • 違いを尊重し、障害者を人間の多様性、人類の一部として受け入れる
  • 機会均等化
  • アクセシビリティ
  • 男女平等
  • 障害のある子どもの能力発達の尊重。子どもが自分のアイデンティティを保持する権利の尊重。

CRPDはCBRの枠組みを支え、CBRガイドラインにこのように述べられている。
「CBRは、条約がコミュニティレベルで違いを生み出すことを保証する多分野にわたるボトムアップ戦略である。条約が理念と方針を示す中で、CBRは実践のための実用的戦略である。CBR活動は、障害者の基本的ニーズを満たし、貧困を削減し、そして健康、教育、生計、社会的機会へのアクセスを可能にするために作られている。そういった全ての活動が条約の目的を果たす。」

CRPDはCBR について3つの条文の中で言及している。関連のある部分は以下の通りである。

第19条:この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。

第25条:(c) これらの保健サービスを、障害者自身が属する地域社会(農村を含む。)に可能な限り近くにおいて提供すること。

第26条:締約国は、特に保健、雇用、教育及び社会に係るサービスの分野において、ハビリテーション及びリハビリテーションについての包括的なサービス及びプログラムを企画し、強化し、及び拡張する。

(b) 地域社会及び社会のあらゆる側面への参加及び包容を支援し、自発的なものであり、並びに障害者自身が属する地域社会(農村を含む。)の可能な限り近くにおいて利用可能なものであること。


CRPDの中心的な条文とCBRガイドラインの間の強い関連性は、「国際障害と開発コンソーシアム(IDDC)」(2012)により出版されたリポートにおいて説明されている。

CBRガイドライン CRPDの中心的条文
CBR前文 第3条 一般原則
第4条 一般的義務
主な分野横断的テーマ:障害のある女性、障害児障害のある子ども、CRPDの原則 第3条 一般原則
第4条 一般的義務
第6条 障害のある女子
第7条 障害のある児童
健康 第20条 個人の移動を容易にすること
第25条 健康
第26条 ハビリテーション及び(適応のための技能の習得)リハビリテーション
教育 第24条 教育
生計 第27条 労働及び雇用
第28条 相当な生活水準及び社会的な保障
社会 第12条 法律の前にひとしく認められる権利
第13条 司法手続の利用の機会
第14条 身体の自由及び安全第
15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
第17条 個人をそのままの状態で保護すること
第19条 自立した生活及び地域社会への包容
第23条 家庭及び家族の尊重
第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
エンパワメント 第4条 一般的義務 
第5条 平等及び無差別
第8条 意識の向上
第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ
第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
第17条 個人をそのままの状態で保護すること
第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
第22条 プライバシーの尊重
第29条 政治的及び公的活動への参加
メンタルヘルス 第25条 健康
緊急事態と災害 第11条 危険な状況及び人道上の緊急事態

出典:IDDC,コミュニティベースのリハビリテーションと障害者権利条約の条文、ブリュッセル、2012、7ページ

インチョン戦略とCBR

アジア太平洋障害者の「権利を実現する」インチョン戦略、2013-2022、は10の目標を採択した。その多くは、低中所得国家のCBRプログラムの本質をなす。
目標 1 貧困を削減し、労働および雇用の見通しを改善すること
目標 2 政治プロセスおよび政策決定への参加を促進すること
目標 3 物理的環境、公共交通機関、知識、情報およびコミュニケーションへのアクセスを高めること
目標 4 社会的保護を強化すること
目標 5 障害のある子どもへの早期関与と早期教育を広めること
目標 6 性(ジェンダー)の平等と女性のエンパワメントを保障すること
目標 7 障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること
目標 8 障害に関するデータの信頼性および比較可能性を向上させること
目標 9「障害者の権利に関する条約」の批准および実施を推進し、各国の法制度を権利条約と整合させること
目標10 小地域、地域内および地域間の協力を推進すること

家庭訪問
        家庭訪問

CRPD実施のための包括的で多分野に渡る貧困削減戦略を提供する、世界保健機関(WHO)、国際労働機関(ILO)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、国際障害・開発コンソーシアム(IDDC)の共同文書である「地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)ガイドライン」に留意し、

アジア太平洋地域の障害者の権利を実現、保証するために、インチョン戦略は以下のCBRを促進する方針を強調する。

(i) すべての障害者が、社会的・経済的な地位、宗教、民族および門地に関わりなく、開発イニシアティブ、とりわけ貧困削減プログラムに参画およびその利益を享受できることを保障するために、コミュニティおよび家庭を基盤としたインクルーシブな開発を促進する。

(m) 障害当事者団体、障害者支援団体、自助グループおよびセルフ・アドボカシー・グループは、家族および介護者の必要に応じて支援を受け、適切な場合には意思決定に関与し、周縁的なグループにまで利益が十分に行き届くようにするために保障される。

変化の担い手
   「変化の担い手」としての障害者

地域に根ざしたインクルーシブ開発

CBRガイドラインでは「地域に根ざしたインクルーシブ開発」について言及しており、これは現在障害者のためのプログラムに関連する言葉として広く使用されるようになっていて、時には、CBRと同じ意味として扱われている。

地域に根ざしたインクルーシブ開発は目的であり、ゴールであり、一般コミュニティや社会において、障害者を含め、すべての社会から取り残された人々とその懸念事項を包括するという、到達すべき最終結果でもある。その論理的根拠は、性別、障害、民族性、難民かどうか、セクシュアリティ等に関わらず、どのような理由があっても、誰一人として開発から排除されてはならないないということである。CBRは、ちょうど地域の他の利益団体(ジェンダー等)が構成員のインクルーシブ開発のために戦略を使うのと同じように、障害者のために地域に根ざしたインクルーシブ開発のゴールを達成するための手段であり、戦略である。

インクルーシブ開発は、パートナーシップや同盟が様々な関係当事者、特に、CBR、DPO、障害者の家族と政府の間で必須であるという事を意味している(トーマス他、2010)。

− CBRガイドラインの策定は、国連機関、DPO、政府、ドナー機関、国内や国際非政府組織を含めた市民社会といった、複数の関係当事者間の有効なパートナーシップの一例である。