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ポスト2015開発アジェンダにおけるCBRの挑戦

CBRは、ユエンワー(2012)が列挙しているようにアジア太平洋地域だけでなく他の地域においても共通する新たな問題に、もっと注目する必要がある。これらは、急激な都市化、非伝染性疾病の増加、災害と気候変動、人口転換による高齢化、貧困に追い打ちをかける経済問題、食料安全保障、及び開発イニシアティブの持続可能性である。

CBRは、これらの重要な領域において将来効果的な役割を果たすことができる。

都市の貧困

2012年のミレニアム開発目標報告書は世界の8億6千300万人が、スラムで生活していると推定している。アジア太平洋地域に関するいくつかの国連予測によると、この地域は継続的に都市化し、人口の大多数は2025年までに都市エリアに居住するようになる。「都市」は、大都市のみに留まらず、小都市、町をも指す。急激な都市化及びその結果として起こる都市の貧困地域の拡大は懸念すべき問題であり、CBRプログラムを含む開発アジェンダの中に都市の貧困を含むことがますます求められている。

この20年間、CBRプログラムは世界の様々な地域の都市のスラム街で実施されてきた。それらの取り組みは、農村で成功したCBR戦略と活動は、都市貧困コミュニティで容易に再現できないことを示した。

貧困と貧困に関連した諸問題は、地方に住む障害者と都市エリアの障害者によって違う。貧困地域の障害者のための情報、サービス及び機会を入手できる可能性は、教育、医療及び生計に関しては、都市エリアの方が高いかもしれないが、実際のアクセスは貧困やより高いサービスのコスト及び超法規的な生活や就労ステータスにより彼らを公的サービスから除外しようとするコミュニティのせいで低い。都市エリアの飢餓は、食料を育てず買わなくてはならないため、ますます大きな問題となっている。価格の高騰、低所得、あるいは所得が安定せず、不法な場所に住む都市部貧困世帯が、非公式経済のなかで働いているというのは大きな難題である。劣悪な労働と生活環境により、都市部の貧困コミュニティは多くの健康上の問題に直面している。

CBRプログラムの重要な柱であるコミュニティ動員と組織は、都市貧困地域の多様な特質とほとんどの大人が組織化されていないセクターで雇用されていることから、比較的難しい。過去の評価では、都市部CBRプログラムのコミュニティは「パートナー」と言うよりも、主に受動的にサービスを受ける傾向の母親や世話をする他の女性達によって構成されていた事を示している。都市のスラム街におけるCBRのこれまでの経験により、障害者とその家族には、情報とアドボカシーを通じた既存のサービスと機会へのアクセスや技術訓練と生計の促進が重要であることがわかっている。

2012 ミレニアム開発目標リポートが示すように、地方の貧困問題が続く中、政府及び市民社会に対して都市部の貧困層の懸念事項に対応する適切な戦略を求める声が増えている。これまで地方に住む障害者に焦点を当てていた障害セクターの政策立案者、企画者及び実施団体は、今度は都市貧困コミュニティのスラム街に住む人達のための適切なCBR戦略を計画する必要がある。インチョン戦略が述べるように、障害者とその家族を貧困から救い出すことは、包括的な成長及び持続可能な開発の達成に寄与することになる。

高齢化社会

30年前にCBRプログラムが低中所得諸国で始まった際には、一般に、小児と若年成人の障害者対象の活動が中心になりがちであった。と言うのも、機能障害や能力障害の発生率は感染病や伝染病のような予防可能な原因ゆえに、この年齢層においてより高くなっていたからである。CBRが始まった初期の頃は、そういった多くの国々では平均寿命がより短く、高齢者のいる家族も少なかった。その結果、障害をもった年配者や、加齢による感覚障害及び移動障害をもった他の人々は、社会保障制度への容易なアクセスを得ること以外には、あまり支援を受けることがなかったのである。伝統的な農村部の年配者で、例えば、白内障のような加齢による障害をもった人々は障害者としてはみなされなかった。つまり、そういった人々の不都合は、通常の老化現象の一部としてみなされていたのである。

ここ数年、地域社会において人口転換及び疫学転換についてますます多くが議論されるようになり、その結果地域社会の中で取り組まれるべきニーズを抱えている障害高齢者の数が増えることとなった。一方では健康管理へのアクセスが良くなり、多くの障害者の寿命も延びることとなったのだが、他方では障害のない人の寿命も延びるにつれ、老化その他による障害の発生率が高くなっている。最近の国連アジア太平洋経済社会委員会の報告によると、65歳以上の5から10パーセントが、アジア太平洋地域においてアルツハイマー病の兆候を示しており、2030年までには、この地域では、推定3千3百万人が認知症を抱えて生活することになるであろうと予測されている。

年齢と共にますます脆弱となり、やがては障害へとつながるような肉体的ないし精神的な健康状態に陥る可能性が増える。多くの低中所得諸国においては、非伝染性の、または生活習慣による病気が増えてきており、そういったものの中には、心臓病、発作、癌、糖尿病、呼吸器系疾患、筋骨格系疾患、視覚及び聴覚障害、認知症及び精神病等がある。そして、これらが原因で障害を引き起こすようになる人々の割合が、成人人口の中でかなり高い比率を占めるようになる可能性がある。一部の国においては、年配者が障害者人口の中で不釣合なまでに高い割合を占めている。

障害をもった年配者にはリハビリテーション関係へのニーズがあり、それらには、移動、コミュニケーション、日常の生活能力、補助器具、家の改修や居住環境整備、そしてその他の様々な支援サービスのニーズが挙げられる。より良い生活水準を確実なものにするために、年配障害者の社会的包摂と社会参加へのニーズにも取り組むべきである。低中所得諸国の障害者が直面するあらゆる問題は、障害のある高齢者の問題ともなるのだ。そういった問題の中には、サービスを利用しようとするのに障壁となるもの、とりわけ農村地区において、ニーズに基づいたサービスがなかなか受けられないことや、金銭的な余裕がないこと、そして訓練を受けた人材が足りないこと等が挙げられる。
伝統的な家族構成が変化したために、地域社会において介護する人や支援システムがなかなか得られないという結果を生み、そういった事実によって問題がさらに悪化してしまうのである。一部の低中所得諸国では、人口がますます高齢化してきたため、若年者が自分の家族の中で不釣り合いな数の高齢者を介護しなければならないという状況を招いたのである。

障害高齢者のニーズ、特に様々な健康管理やリハビリテーションのニーズに取り組むことはコストのかかることである。このような事情から、低中所得諸国でのCBRプログラムこそが、障害をもつ年配者のニーズに取り組む、費用効率の良い対応になりえると考えられる。というのも、CBRプログラムは、家庭や地域社会と協力して障害児童やより若い障害成人のインクルージョンや参加を促し取り込むことにおいて、何年もの実績があるからである。一部の国では、CBRプログラムは既にこういった方向に動いており、例えば、家庭でのリハビリテーションに高齢者の脳卒中生存者を参加させること、家庭教育やカウンセリングを提供すること、そして所得創出へのアクセスを提供すること等が行われている。

CBRプログラムは、障害をもつ高齢者の急激な増加という新しい問題に今後は覚悟して対応する必要がある。これらの新しい問題に対応するため、またCBRプログラムが、地域社会で高齢化する障害者の生活の質を改善する方向に働きかけることができるよう、政府の政策立案者やCBRを支援する国際的支援団体といった鍵となる関係当事者は、政策や見解を再構築する必要があるであろう。

ヘルスケア

途上国における格差として繰り返し強調されてきたことであるが、障害者の健康やリハビリテーションが容易に利用できないことについての不均衡を是正することが、CBRが特別の注意を払わなければならない点であろう。「障害は、重要な公衆衛生と開発の問題である」と宣言する、障害と開発に関する国連総会ハイレベル会合の準備のための技術的ブリーフィングのリポートで、2013年5月23日、世界保健機関(WHO)の第66回世界保健総会の保健分野の貢献の部分では、以下のように記されている。

  • 人口の15パーセントを占める障害者は、公共医療サービスを受ける際に広くはびこった障壁に直面しており、それ故障害のない人々に比べ健康管理のニーズが満たされない場合が多く、より悪い健康状態及びより高い貧困率という結果となっている。
  • より健康状態の悪い状況におかれているということは、家族、地域社会及び保健システムにより広範な悪影響が及んでいるということで。
  • 障害者がより容易に健康を手に入れられるようにすることは、人権であるというだけでなく、教育、雇用及び家族・地域社会・公共生活への関心と参加等を含む目標達成のための絶対必要条件でもある。
  • 障害者にとって健康であることは、より良い総合的な社会経済的効果をもたらし、より広い世界的開発目標を達成することにつながるだろう。

継続発展性

世界的に見て、現在、大半の国で見られる景気の低迷は懸念材料であり、今後も数年間は続くであろう。このことは、とりわけ途上国における障害と開発の分野について言えば、特別な意味合いを持っている。その理由は、一部の支援国家からの援助資金の割り当てが、今既に大幅に削られており、今後は援助資金そのものの流れが止まってしまう可能性があるからである。大半を海外からの支援に依存してきた、CBRを含めた途上国の障害と開発プログラムの継続発展性は、今この時点で特に重要な意味を持つのである。順調にいっている自助グループを通し、また現地で手に入るあらゆる手段を総動員することにより、CBRプログラムがいかにしてうまく継続されているかについて、事例分析が既に公表され、様々な公開討論会でも発表されている。

プログラムが継続可能となるよう促進するため、途上国内の現地における資金調達は、ここ数年にわたり障害と開発の分野の担当者により試みられてきた。現地で利用できる手段を、大規模に総動員するのに成功した事例は数少ないものの、そういった成功例は、確実に今後の流れについてのヒントを与えてくれるものであると言える。例えば、資金財源をより幅広く築くこと、開発分野での企業の参加、多くの新興国において拡大する中間層の<寄付する>潜在力を利用すること、退職者のボランティアを活用すること、そして一部の国においての合同資金調達のための地元のNGO連合の設立等がこの例である。しかしながら、特に現在多くの国に見られる経済危機のために、このような試みの成功例は限られたものとなっている。

継続可能であるための重要な原則の一つは、国外の援助で始まったこれらのプログラムを、現地政府に引き継いでもらって継続させることである。国外の援助団体が、自分たちの計画や考えを現地政府の計画や予算に合わせていくことが大切である。一部の国においては、この意味で、より現実的な計画立案の好事例がある。例えば、サービス提供の革新的モデルを始めるために、国外の団体が主として技術的援助や能力開発援助を与え、現地の政府との間に、協力関係を構築することが挙げられる。このようにすれば、こういった活動は、より関連性と実現性が強くなり、かつ、その活動を実行に移し持続していく責任は、現地政府に置かれることになる。

アジア地域の事例証拠によると、CBRが持続することに関する優れた実践例がいくつかあることがわかっている。CBRの主要な関係当事者である障害者の自助グループや団体は、自身でCBRの持続に貢献できるのである。これらの団体と、例えば女性連合会のような、その他の順調に運営している地域に根ざした団体との結びつきを図ることも役立つであろう。地方政府、親、CBRの担当者の間の協力関係によって、一部のCBR活動の継続が成功を収めていることも報告されている。一方、障害者を現地レベルの開発評議会のメンバーにすることによって、障害者問題が確実に開発計画に含まれるようにすることもできる。

悲観的な世界経済の見通しは、障害者分野にとっては確かに難問ではある。しかし同時に、より現実的な計画の遂行という点で好機となる可能性があり、またすべての関係当事者にとって、とりわけ、かたや障害者とその家族、かたや地元政府及びサービス提供者にとって、自立への新たな焦点にもなりえるであろう。

地域社会
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