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地域ささえあいネットワ-ク作りに向けて
-CBRセミナー・ワ-クショップ-報告書

◆ワークショップ
できることもちよりワークショップ

一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト代表理事
渡辺ゆりか氏

渡辺 草の根ささえあいプロジェクトの資料がありますが、お手元の白黒の資料と前のスライドは一緒ですので、こちらを見ながらお聞きいただければと思っています。よろしくお願いします。

草の根ささえあいプロジェクトについて

私たち、一般社団法人草の根ささえあいプロジェクトという不思議な団体名ですが、実はまだ本当に設立間もない未熟な団体です。平成23年4月23日に産声をあげました。この時はまだ任意団体でした。何をしているかというと、一言でいってしまうと制度や地域の行政の支援などに当てはまらずに、誰からも応援を受けられず、孤立している方々に、それなら私たちが駆け付けてしまおうというボランティアから始まった団体です。今もそのボランティア性というのは、事業が大きくなっても引き継がれていまして、私たちの団体を支えている中核のメンバーは全て他の仕事をもったボランティアになっています。

プロジェクトメンバーが96人と書いてあるのですが(図1)、これは実際にはわからなくて、草の根ささえあいプロジェクトを応援するよという、イベントがあれば駆け付けてくださる方、正会員・賛助会員の方、コアメンバーをメンバーに入れると今はたぶん150人ぐらいの団体になっているのではないかというふうに思っています。見るとちょっと若いメンバーが多いかなと思われるのですけど、これは若い人だけを集めたのではなくて、20代後半から30代を中心に、40代、50代も含まれたすごく若いメンバーで構成されています。こちらは皆さん知っているかもしれませんが、湯浅誠さんという有名な社会活動家がいるんですが、この背の高い男性(図1、左上の写真)は湯浅誠さんです。貧困問題に取り組む団体を応援したいということで何度か駆け付けていただいて、力を借りています。すごく多くの方に力を借りて運営している団体です。

(図1)
図1(図1の内容)

どんな人の集まりなのとよく聞かれるのでまとめてみました(図2)。障害支援、母子家庭の支援、DVの支援、キャリアの支援、ホームレスの支援という支援業をやっているメンバーがだいたい半分ぐらいで、私たちの団体の面白いなと思うところは、障害のある方の家族、主婦、当事者の方、システムエンジニアの方、住宅設備屋さん、パソコンのデザイナーなど支援とは関係ない多様なメンバーが、貧困や孤立の問題に自分たちも関わって考えたいということで集まっています。ですので、そういう支援業ではないメンバーの発言やアイディアが私たちの団体のユニークさを支えているというふうに思っています。

(図2)
図2(図2の内容)

そもそも、どうして草の根ささえあいプロジェクトがあるかという問題なのですが、支援やサービスというのは先ほどのマヤさんのお話しでもあったように、日本は他のアジア諸国よりたぶん多いと思うんですね。でも、それでも例えば障害のグレーゾーンの方、64歳なのでまだ高齢福祉サービスに引っかからない方、あるいは支援にのる対象の方なんだけど、人間関係が下手過ぎていろんな支援機関にあまり好かれずに、排除されてしまう方、そういう方々が今、日本では、特に名古屋市のような大都市だと地域コミュニティが衰退していまして、声を掛けてくれる人がいないということで、制度や支援に照らされずに放置され、孤立してしまう人がいます。私たちはこういう人たちのことを「穴にいる人」というふうに呼ぶんですけれども、この「穴にいる人たち」に対して、「仕方ないよね…」というふうに言ってしまいたくないということで、私たちメンバーは活動しています。そういう人たちを排除するすごく簡単な言葉が、「わかってるけど仕方ないよね」という言葉です。ものすごく簡単です。自分の責任でないことにしてしまい、他人を排除するには簡単な言葉なんですけれども、それを使わないために多くの人と考えようということでいろんな活動をしています。

活動の3本柱

私たちの活動の3本柱です(図3)。まず、穴を見つける会から始まり、穴にいる人はどんな人だろうと考えることから始まりました。それを「黙っていられないね」ということで、「みんなに教えちゃおう」ということでイベントやこのようなワークショップにして、広く伝えることも一所懸命やっています。そうすると、どんどん仲間が増えます。反応がもらえます。嬉しいです。それをまた調査や勉強や研究会に活かしていって、集まったメンバーでもわからないところはセミナーを立てたりしながら学び合っていきます。そして、その見えてきたことを現場に活かそうということで、現場の支援や、名古屋市から委託を受けた相談センターも行っていて、わかってきたことを反映しつつ、事業をしています。

(図3)
図3(図3の内容)

事業を立ち上げると、現場の課題がまた見えてきますので、それをまた調査研究しようということで、この3つの循環で私たち草の根ささえあいプロジェクトは成り立っています。じゃあ何やっているのということをお話しすると、長くなってしまい、時間がなくなってしまいもったいないので、ここははしょります。また、ぜひ名古屋にお立ち寄りの際は遊びに来ていただいたり、あるいはホームページ等で見ていただければ嬉しいなというふうに思っています。

私たちはいろんな事業や仲間を集めるネットワーク構築、あるいは研究調査を進めながら、誰もがありのままを認められる暮らしの中で、一人一人の小さな一歩を大切にし合えるやさしい社会を作ろうということを理念に掲げて進んでいます。そのために先ほどもご紹介した困っている方、制度に当てはまらない方、ちょっと応援するには手間暇がかかるという方、ありとあらゆる方に対して「仕方ないよね」と言ってしまわないということをコンセプトにして頑張っています。

140の事例を調査分析

草の根ささえあいプロジェクトの説明は以上ですが、ここからは草の根ささえあいプロジェクトの活動で見えてきたものを中心に、何故、「できることもちよりワークショップ」なのかということをお話しさせていただきたいと思います。

お手元の資料をご覧いただければと思います(図4)。これは草の根ささえあいプロジェクトが穴に落ちてしまった方が何故そういう状態になってしまったのかということを、140の事例を聞きに行きながら調査分析したものです。穴に落ちてしまう方々にはパターンがあるということを発見し、それをフローチャートにまとめました。穴に落ちてしまう方というのは本人のせいというように今の日本の社会では言われがちなんですけれども、調査をすればするほど、もともと軽度の発達障害や知的障害がおありだとか、お父さんのDVを見て育ったとか、貧困家庭で育ったとか、個人のもって生まれたもの、環境の因子をもっています。ご本人のせいではないものですね。ただ見た目は普通でいらっしゃるので、それがなかなか人から理解されず、そこで理解されないことにかっとなってトラブルを起こし、また人から阻害されるというループ。そのループがまず初めに発見されました。次に私たちが見い出したループは、人に理解されないことをトラブルで返すのではなく、自分の自信のなさにもっていってしまう、それで引きこもりになってしまう。

(図4)
図4(図4の内容)

今、日本の引きこもりの中心は30代、40代になったと言われますが、そういう方々は人に理解されないことで社会との扉を閉ざして孤立してしまう。そういう方々をもっと調査すると、その方々はずっと引きこもってはいないこともわかりました。何かのきっかけ、例えば20歳の誕生日を迎えるとか、お父さんに誕生日プレゼントを買ってあげたいとか、友達が就職したというようなエピソードがあると頑張って何とか社会に出てみようとされます。だけど、もともと人に頼ることを学んでいない、経験していない、あるいはコミュニケーションが下手な方が多いので必ずや失敗をされ、また人に理解されないという思いを増やしてしまうという、こちらのループがあることがわかりました。一番向こう側(図4右上)なんですけど、家族で多様な障害をたくさん抱えている。複数の課題を抱え過ぎてしまうと、一気に家族で孤立してしまうというループも見えてきました。

孤立の川

この3つのループの最終的な行き着く先というのは孤立、あるいは最悪の場合、自殺や孤立死です。そこにいく前に、私たちは孤立の川(図4)というふうにメタファーを付けましたが、一つ大きな山場があることを調査の中から発見したんですね。何度も何度もライフステージごとに失敗や人から理解されない経験を積み重ねる方々なんですが、そこでふと諦める瞬間というのがあります。もうこれ以上人と関わるのは嫌だ。この人は信頼できないというふうに思ってしまうとますます社会とつながる力を失って、なかなかこの孤立の川から上に来られなくなるということが調査から見えてきました。私たち草の根ささえあいプロジェクトでは、「わかっているけどしょうがないよね」と言っている人たちは孤立の川を越えてしまったか、あるいは越えた所で最悪の事態までにはいかずに、何とかしようともがいている方々というふうに思っています。私はできればどんな人も孤立の川を越えてほしくないし、越えたとしてもまたすぐに戻って来られる社会にしたいと思っています。

では何故、ここの孤立の川の人たちが社会につながりにくいのかというのは、いろんな調査も出ていますけれども、私が最近衝撃だったのは厚生労働省の熊木さんがくださった資料です(図5)。皆さん既にご存知のことと思いますが、自殺者3万人。最近ちょっと下がり増加の一途は留めたものの、まだまだすごい数字です。私が衝撃だったのは、20歳から39歳までの死亡原因の第一位は日本は自殺なんだそうです。これは、他の先進国から見て異例なことだそうです。これもいかに「SOS」と言いにくい社会かということを表しているんですが、私がもっともっと衝撃だったのが一番下のデータです。自殺した人のうち、相談機関に行ったことがある人は72パーセントに上ります。そのうち、自殺してしまう1か月以内に行った人は62パーセントという数字が出ています。誰も死にたくなかったし、亡くなる前に誰かに相談しているけれども、そこで何とかならなかったというデータが見えてきました。

(図5)
図5(図5の内容)

調査から見えてきたもの

それは何故だろうということを考えることで、私たちの調査の中から見えてきたものをまとめてみました。支援の団体が困りごとの多様性に追いついていないんじゃないかというのが一番大きな理由かというふうに思っています。支援者自体が頑張っていても、他の解決方法を知らないと、ご本人が複数の困りごとを抱えているのに、その一部にしかご提案や解決の方法を提示することができません。就労の支援の人だったら就労のお世話はできるけれども、何で短期離職に終わってしまったかという背景にスポットを当てずに、もうちょっと頑張らないとねというふうに言ってしまうとか、そういうことが起こります。そうすると、未解決な問題は未解決のまま終わり、自己責任にされてしまうことも多いので、そこでトラブルがますます増加し、孤立に陥ってしまうということが起こっているんじゃないかというふうに思っています。

できることもちより支援

私たちがしたいなと思っているのは、ご本人を中心とした支援に切り替えた時に、私たちの支援機関への当てはめの応援では駄目じゃないかということです。ご本人を中心として、ご本人を取り巻いて、どんな支援機関にもつなげられる、あるいはご本人の困りごとをいろんなネットワークに伝えられる通訳機能に私たちがなれたとします(図6)。そうすると、ありとあらゆる困りごとに対して、困りごとAにはAの支援機関、BにはBの支援機関、CにはCというふうに、私たちが集まって連れて来ることができます。本人を中心として、ですね。

(図6)
図6(図6の内容)

それでも、福祉や行政のサービスや支援機関のサービスが全てを解決する訳ではないので、必ずすき間が生まれます。そのすき間にいかに支援者以外のインフォーマルな人を連れて来られるかというのも、私たち相談業務に携わる者が、支援者として今後ますます必要なスキルになっていくのではないかと思います。そして、最後に見守りの人。それを常に見守って、ご本人の変化をいつも励まし、傍にいてくれる人というのも必要だろうというふうに思っています。これを私たちは「できることもちより支援」というふうに呼んでいます。支援機関の一つが全てを解決するのではなく、いろんな人が集まって、その人たちのできることをつなぎ合わせていって、ご本人の困りごとを包括的に、インクルーシブにサポートしていくというのが私たちのこれから目指していく支援というふうに思っています。

それを実証するデータとして、各地の先進事例を回って見てきた成功例のポイントを書いた図がこれです(図6)。皆さんのお手元にもあるんですが、これを説明しますとまた長くなってしまうので、またちょっとご覧になって、ご自身の経験に当てはめていただけると嬉しいなというふうに思っています。一つだけお伝えしたいのは、先ほどの「できることもちより支援」をすると何が今までと違うかというと、ご本人が勝手にそこの支援に安心してエンパワメントされ、自分で自立して、社会とつながる力を身につけていかれるということです。なので、「できることもちより支援」の最終支援は、ご本人が見守られる支援の中で安心の場や活躍の場を得て、本人が自らの力を発揮できるように応援していくこと。社会的に孤立した方、「わかってるけど仕方ないよね」と言われてしまっている方が、本人自らの力でコミュニティを動かして、多くの人たちとつながっていける力を付けることを応援するのが私たちかなというふうに思っています。

「うまくいかないネットワーク」を「うまくいくネットワーク」にする

いろんな人たちとつながらなきゃいけないということは、私たちも日々現場や調査の中で実感するんですけれども、よく専門家の間で「ネットワーク会議ほどネットワークができないものはない」と自虐的に言われることってないですか。名古屋だとすごくあるんです。その上手くいかないネットワークをどう上手くいくネットワークにするかということも、いろんな支援機関からヒアリングしたり、私たちの調査の中で見えてきたのでそれをお伝えしたいと思います(図7)。

(図7)
図7(図7の内容)

上手くいかないネットワークは議題の中心に本人がいない。来る人、来る人が組織の役割として定例的に出席しているので、「いや、うちそれできんよ」、「うちにそれ言われても困るよ」という会議になってしまう。同じ就労なら就労、高齢なら高齢、若年なら若年のメンバーで集まっているので、解決方法に広がりがなく、できないものはできないで終わってしまうというのが上手くいかないネットワークかというふうに思っています。

逆に上手くいくネットワークは、本人の困りごとと課題が中心で、そのプロセスに応じてその都度必要な人が柔軟に集まったり、解散したり、強制される場じゃないということです。あと、できないことのもちより会議ではなく、できることなので、みんな得意分野を言い合えばいい。そこでできないこと、このメンバーではできないよねという時はできる人を連れて来る。私たちがやらなければならないではなく、連れて来るという発想に切り替えることが大事かと思っています。

先ほど熊田さんが挨拶の中で印象的なことを言われました。「人数はそんなに集まらなかったけれど、私の来てほしい人が来てくれた」というふうにおっしゃったんですが、私が大好きなワークショップの理念に「ここにいる人が来るべき人だ」という言葉があるんですけど、まさにこのことを言われたと思います。ここにいる人、本人を中心に考えられる人がいかにたくさん集まるか。無理やり来させられた人ではなく、来るべく人をいかに増やすかというのが私たちのこれからのミッションなのかなというふうに思っていて、そのために開発されたのが「できることもちよりワークショップ」です。

「できることもちよりワークショップ」

愛知県では開催事例がたくさんあるんですが、他県で結構呼んでいただいていまして、さいたま市、富山市、岐阜市、あと各大学の講義にも使われたりしています。あと、愛知県内の支援機関がネットワーク作りをするために、あるいは本当の事例を使った事例検討としても使われています。今日も福島にお呼びいただいて本当に光栄だなと思っています。「できることもちよりワークショップ」はマニュアルにしているんですけど、実は上野さんの力がありまして、国連のホームページに抜粋版が載っているということで、国際的にも評価を得られるワークショップになっていきました。私たち自身が一番びっくりしているんですけれども、それを皆さんと今からここで味わって参りたいと思います。

では、だんだんとスタートが近づいて参りましたが、皆さん出入り口のホワイトボードにどのジャンルに関心があるのかというのと、関わりがあるかというシールを作っていただきました。これ(図8)は愛知でやった時ですけど、赤が女性、青が男性で、県内・県外、関心があります・関係があります、その支援やったことがあります・興味がありますというのに分けていただきました。

(図8)
図8(図8の内容)

今日だとどうでしょう。愛知県だとホームレス支援の団体がすごく多いんですけれども、都会なのでホームレスが多いので。今日は就労や障害の方が多いのかな。男性が割かし多いなという印象です。母子支援に関しては関心がある方はいるけれども、やってる方がいらっしゃらないので、もしここに母子の事例が飛び込んだ場合は、仲間をこれから探していかなければならないということになりますね。あと「関心があります」に外国人支援もありますが、ここにはどうも外国人支援をされている方がいらっしゃらないので、この仲間も作っていくことが必要かもしれません。就労や障害や若者の支援に関してはたくさんの方が知識をもっていますので、そういうところは逆に他の支援機関だとどうやっているんだろうという情報交換がとっても面白いことになるかなというふうに思っています。

ではさっそく、「できることもちよりワークショップ」を始めたいのですが、今日の目的は、まず出会うこと。ここにいらっしゃる方は3分の2ぐらいの皆さんは顔見知りだというふうにお聞きしました。まず、まだ出会ってない方もいらっしゃるので、ここが大きな地域だとした時にまだ出会ってない人と出会っていくということをこれから楽しんでいただきたいと思います。あと、資源化する。互いのスキルやノウハウやできること、得意なこと、それが専門分野じゃなくても「実は私、編み物得意なんだよ」とか、そういうことでもいいんですよね。そういうアイディアを持ち寄って、お互いに学び合っていく場にしたいと思います。最後にネットワークを探っていって、事例の中のお困りごとの方をどうやって力を合わせて応援していこうかという話し合いで終わっていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

長らくご清聴ありがとうございます。

ここからワークショップに切り替わっていきたいと思いますので、お願いいたします。では、「できることもちよりワークショップ」です。皆さん、せっかく着席いただいたのですが、実はワークショップはこの席からスタートしないです。今から大きな荷物のある方は、どうぞあちらの受付の正面にクロークとか倉庫があるので、そこに入れていただくか、端にお寄せいただいて、資料も事例集のみで結構です。あと筆記用具も要りません。ですので、事例だけを持っている形になって、一度ご起立を願いますでしょうか。お荷物を移動させる方はちょっと時間をおきますので移動させてください。

【このあと、「できることもちよりワークショップ」の作業】