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CBRガイドライン・保健コンポーネント

原因の予防

はじめに

保健ケアにおける障害原因の予防の主な焦点は発病の抑止である(第1次予防)が、予防は進行予防のための早期発見と治療(第2次予防)、現在の健康状態の低下防止(第3次予防)も含む。本項目では主に第1次予防に焦点を当てる。

第1次予防には、プライマリーヘルスケア、産前・産後のケア、栄養教育、感染症に対する予防接種キャンペーン、風土病コントロールの手段、安全規則、仕事上の怪我や病気を防ぐための職場の改善を含むさまざまな環境における事故予防のためのプログラム、環境汚染や紛争による障害の予防を含む(23)

第1次予防と健康増進の有効活用により疾病による世界の負担は70パーセント(10)まで減少可能と見込まれている。そうであったとしても、障害のある人の健康管理に対する(健康増進が果たす)予防の役割はごく僅かであると一般的には信じられている。

一般的に障害のある人の保健ケアは特別な医療ケアやリハビリテーションに焦点があてられる。しかしながら前述のとおり障害のある人は、他の健康悪化のリスクや、当初の健康状態に起因する二次的な悪化のリスクにさらされている(24)

ちょうど健康増進がそうであるように、予防もまた多くの部門との連携を要する。保健部門においても、プライマリーヘルスケアは重要な役割をもち、中でもCBRプログラムがもっともプライマリーヘルスケアと緊密に関わるため、障害のある人の健康増進や予防のサポートに大切な役割を果たす。

BOX8 インド

尊厳のある生活

インドの最貧地区の1つであるカルタナカ州にあるチャーマラージャナガルでは、生活の質(QOL:Quality of Life)が非常に低く、特に障害のある人の場合は顕著である。その中で、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)であるモビリティ・インディア(MI:Mobility India)によるCBRプロジェクトがイギリスの障害と開発パートナーズ(Disability and Development Partners)の支援のもとに行われ、地域の多くの人々が基本的な衛生設備を利用できていないことが判明した。多くは家から遠く離れた空き地へ足を運んでいた。これは障害のある人にとって、さらに障害のある女性には過酷な状況であった。

インド政府は各家庭へトイレ完備のための補助金を提供し、MIがチャーマラージャナガルに住む障害のある人とその家族に対しアクセシブルなトイレの設営を手助けした。MIは、既存の地域ネットワークおよび自助グループ(SHG:Self-Help Group)がこの新しいプロジェクトの手助けしてもらい、衛生観念や健康問題予防のための正しい衛生設備の使用への意識を高めるため、路上での寸劇や壁画制作を企画した。人々が興味や意欲を示し始めた中、MIは基本的な衛生設備の利用を促すために彼らと協働することに同意した。

1つのトイレを整備するための費用はおよそ150米ドルと見積もられた。インド政府が各家庭に対し補助金を提供したとはいえ、残金の負担をすることは多くの人々にとって、特に障害のある人にとっては困難であった。スイスのMIBLOUと地域からの資金援助により50の良質でアクセシブルなトイレの設営が可能となった。自助グループのメンバーは、トイレの必要性が非常に高い障害のある人がいる家庭を選出することを依頼された。彼らはまた、家族と協力して建設作業を調整し資金の適切な使用を保障した。

障害のある多くの人はトイレへ行くために長い距離を背負われたり這って移動する必要がなくなった。彼らは自立し、そして、重要なことに、彼らは尊厳を取り戻すことができた。彼らの衛生設備の不備に起因する健康状態悪化のリスクは明白に減少した。MIプロジェクトの成功を目にすることでインド政府は補助金を増額し、地方当局にこれらの補助金を迅速に配るように指示した。障害のある人々もそうでない人々もこのプロジェクトにより恩恵を受け、徐々に地域レベルのプロジェクトへとスケールアップした。そしてチャーマラージャナガルは、家庭内にまたは少なくとも家の近くに、トイレのある地域へと間もなく変貌した。

目標

障害のある人が、彼らの機能障害と関連しているか否かに関わらず、彼らの機能、健康および幸福全般に影響を与える健康状態の悪化を起こしにくく、家族や他の地域メンバーもまた障害に関連した健康悪化や機能障害を起こしにくい状態となる。

CBRの役割

CBRの役割は、地域と適切な開発部門が、障害のある人とない人の両者の予防活動に焦点を当てることを保証することである。CBRプログラムは障害のある人と家族が、健康を増進し、健康状態の悪化または2次的疾患(合併症)を予防するためのサービスが利用できるよう支援する。

望ましい成果

  • 障害のある人と家族が健康に関する情報や予防を目的としたサービスを利用できる。
  • 障害のある人と家族が、健康的な行動やライフスタイルを開始し維持することで健康問題を悪化させるリスクを軽減する。
  • 障害のある人が、1次予防活動に参加できる。例えば、更なる健康状態の悪化や機能障害のリスクを減少させるような予防接種プログラムなど。
  • すべての地域の人々が1次予防活動に参加している。例えば、障害の原因となる健康状態の悪化や機能障害のリスクを減少させるような予防接種プログラムなど。
  • CBRプログラムが保健部門や他の部門と協働する。例えば、健康問題に対処し予防活動に対する支援とサポートを提供する教育部門など。

主要概念

健康に対するリスク

危険因子は人々の健康に影響を及ぼし、怪我や病気の可能性を決定する。人々は人生を通じていたるところで多くの健康リスクにさらされている。いくつかの主要な危険因子には、低体重、危険な性行為、高血圧、喫煙、アルコール摂取、安全でない水・衛生設備や公衆衛生、鉄欠乏症、そして固形燃料による屋内吸引が含まれる(25)

予防活動は個人と地域の健康に対するリスクを減少させる。家族歴といったいくつかの危険因子は個人のコントロールを超えるが、その他のもの、例えばライフスタイルや物理的・社会的な環境は、健康状態の維持や改善のために、変えることができる。保健部門は、これらの危険因子に対処するために重要な役割を果たすことができる。

予防の3段階

予防介入は3段階存在する。

1.第1次予防-「予防は治療に勝る」は多くの人が親しみのある言葉で第1次予防に着目している。第1次予防は回避に焦点をあてていて、発病を防止する介入を行う。介入は主に人々(例えば、健康習慣の変更、予防接種、栄養)と、彼らの住む環境(安全な水の供給、衛生設備、適正な生活環境や職場環境)を対象としている。第1次予防は障害のある人とそうでない人双方にとって等しく重要であり、それが本項目の主な焦点である。

2.第2次予防は、治療と健康悪化の影響を弱めることを目的とした早期発見と早期治療を指す。早期発見の例として乳がん発見のためのマンモグラフィや白内障発見のための視力検査がある。早期治療の例としては失明予防のためのトラコーマの抗生物質治療、ハンセン病の進行予防のための多剤併用治療や、変形予防と適切な治療の促進のための骨折部位の適切な扱い方などがある。障害のある人とそうでない人への2次予防戦略は次の医療の項目にて述べる。

3.第3次予防はすでに存在している機能障害や健康状態悪化の影響を抑えたり転換させることを目的としている。その中には、活動制限の予防、自立、参加、インクルージョンの推進を目的とするリハビリテーションサービスや介入がある。第3次予防戦略はリハビリテーションと支援機器の項目で述べる。

(図1)予防3段階
(図1)予防3段階図1の内容

BOX9 インド

アニータは胸を張って立つ

アニータはインドのマハラシュトラ州、丘陵地のライガド地区にあるカンデール村に住んでいる50歳の女性である。ある日アニータは右足に軽い傷を負った。彼女の脚はすぐに痛みを生じ、数日には黒く変色した。息子は彼女を15km離れたアルバーグ病院へ連れていったが、そこでは100km離れたムンバイにある専門病院へ彼女を連れていくよう助言された。ムンバイの保健スタッフは即座にアニータを糖尿病と診断し壊疽を起こしていたためひざ下を切断した。術後、市内に滞在する余裕がなかった家族は、アニータを村へ連れ帰った。アニータは歩くことができなかったため息子が背負って彼女を運んだ。

村の保健ワーカーはアニータと家族に腕や脚を失った人々への無料保健サービスを提供しているCBRプログラムについて情報を提供した。アニータは村の近くにある保健センターのCBRプログラムを訪れた。そこで切断された部位が適切な治癒状態にあるか、また左下肢に感覚と循環の変化がないかがチェックされた。アニータは糖尿病について、薬や定期的な運動と食事によりどのようにして状態をコントロールするかについて学んだ。また、将来的な左下肢の切断を回避するため適切な足の手入れについても学んだ。アニータは松葉杖を与えられ、使用方法についても訓練を受けた。

その後、保健専門家が保健センターを訪れ、義足と左足を怪我から守るきちんとした靴を1足、アニータに合うように調整し、提供した。彼女は適切に義足で歩くことができるよう歩行訓練を受け、CBRスタッフは家庭においても義足歩行訓練が行えるよう、小屋の外に平行棒を設置した。アニータの自信は徐々に回復し、義足での自立歩行ができるようになり、家事や野良仕事に復帰できるようになった。彼女は定期的な薬物治療と検診を継続している。アニータはQOLが向上し、CBRプログラムその他の助けにより糖尿病による合併症の併発予防にも成功していると述べている。

障害のある人にとっての予防の意味とは?

大勢の人々と同様、障害のある人も危険要因にさらされており、予防接種のような定期的な予防的のための保健ケアが必要である。しかしながら彼らは地域社会の中に存在する健康リスクに脆弱であるために、より対象を絞った特別な介入が必要である。例えば、貧困の状態においては障害のある人がもっとも安全な水や衛生設備の利用ができないでいる。こうした設備の利用が乏しいことは彼らに不衛生な慣行を強い、彼らの健康を危険にさらし、貧困状態の継続と生活を改善できない状態におく(26)。こうした状況下では、障害のある人に対して特別な設備や改造が提供される必要があるだろう。

障害のある人はまた2次的疾患に対してもリスクを負っている(すなわち1次症状に関連した健康問題や合併症など)。例として、褥瘡、尿路感染、関節拘縮、疼痛、肥満、骨粗鬆症、うつがある。これらの2次的疾患は早期介入により対処可能でこれらの多くは完全に予防可能である。例えば、対麻痺のある人々はスキンケアにより褥瘡を予防することができ、膀胱管理により尿路感染を防ぐことができる。

BOX10 ベトナム

利用しやすい家庭環境作り

ハンディキャップ・インターナショナル(Handicap International)はベトナムのホーチミン市にあるリハビリテーション病院の脊髄損傷部門設立を支援した。この部門で働くCBRスタッフは、2次的疾患予防と、車いすを利用しやすい家庭環境作りという目的で、退院した患者のフォローアップを担当した。CBRスタッフはすべての患者のフォローアップを試みたが、人材不足と担当範囲が広いので、25パーセントの個人のみが対象となり、しばしば重要なニーズをもつ人が見逃された。医療従事者およびCBRスタッフは、患者に優先順位をつける新しいシステムを実行することを決め、リスクの高い個人に対しては家庭訪問を行い、リスクの低い個人に対しては電話と教育用小冊子で対応した。結果としてリハビリテーション病院への再入院は減少した。またこうした取り組みは、より費用対効果があり、CBRスタッフにとってよりストレスの低いものであることが判明した。

障害のない人にとっての予防の意味とは?

予防は障害のある人に対するのと同様に障害のない人に対しても重要である。機能障害と障害に関連する多くの健康の悪化は予防できる。例えば80パーセントの成人の失明は回避または治療可能であり、およそ半分の小児の失明は病気の早期治療と白内障や緑内障のような出生時の異常を矯正することにより回避することができる(27)。第58回世界保健総会の予防、管理およびリハビリテーションを含む障害に関する決議(WHA58.23)では、加盟国に対し障害の問題の重要性に対する一般の認識を向上させ、障害予防活動の実行のためにすべての部門が協調するよう呼びかけた。

健康状態の悪化予防や障害に関連する機能障害に焦点を置いたプログラムや取り組みを促進する際には、繊細さが求められる。なぜなら多くの障害者コミュニティの中の人々はこれらを脅威または攻撃的と感じ、障害のある人が存在することを阻止する試みとして捉えてしまう可能性があるためである。障害に起因する健康状態の悪化を削減する努力に対する予防介入と、障害のある人の健康維持または改善との間の対立は、避けるべきである(29)

推奨される活動

予防は健康増進と医療に深く関連しており、以下の3項目の中で述べる推奨される活動は重複している点を心に留めておくことは重要である。また3項目すべてを一緒に読むことが推奨される。ここでの主要な焦点は第1次予防の活動についてであり、暴力とHIVは社会コンポーネントとCBRとHIV/エイズに関する補足の章で述べる。

既存の予防プログラムの利用促進

CBRプログラムは地域の既存の予防プログラムについて情報収集し、障害のある人を含めるために予防プログラムと協働して確実に対象を広げることができる。CBRプログラムは、以下のことが可能である。

  • 障害のある人と家族の地域内にて入手可能な予防活動の種類についての認識を高める。
  • 保健スタッフの障害のある人のニーズに対しての認識を高める。
  • 予防活動についての情報が適切な形式で、人々が住む所から近いさまざまな場所で確実に入手できるようにする。
  • 予防活動の行われる場所が物理的に利用可能か否か決定し、そうでない場合にはそれらが利用可能となるよう現実的なアイディアと解決方法を提供する。
  • 利用困難な場合には、例えば家庭環境内など、代わりの場所にて予防サービスの提供が可能か否か判断する。

BOX11 ケニア

車いす使用者のニーズを満たすこと

ケニア、ナイロビ、コロゴチョ地域のNGOに運営されている保健センターには、かなりの階段があり車いす使用者は利用できなかった。結果として予防接種プログラムは障害のある人(脳性麻痺の子どもたちなど)にとって利用不可能であった。そのため保健ワーカーは家族を市内にあるリハビリテーションセンターへ行くよう案内していた。CBRプログラムはこの問題について保健ワーカーと話し合うためのミーティングを企画し、障害のある子どもたちの予防接種を保健センターの建物の1階で行うという、簡潔な解決方法を見いだした。

健康的な行動とライフスタイルの促進

禁煙やごく少量の飲酒、健康的な食事、定期的な運動、そして性行為の際のコンドーム使用など健康的な行動は、健康問題の発展に至るリスクを減少させることができる。予防プログラムはしばしば、地域内にて予防メッセージを伝える啓発キャンペーンや、個人に向けた教育など、健康的な行動を促す健康増進戦略を使用する。より健康的な行動を促進するための推奨される活動については保健:健康増進を参照されたい。

予防接種の奨励

各々の地域内において、特定の疾病に対する、あるいはハイリスクグループに対して、予防接種プログラムが利用可能とするべきである。例えば乳幼児へのポリオやジフテリア、破傷風、はしかの予防接種、妊婦への破傷風の予防接種がそれにあたる。CBRプログラムでは、以下のことを行うことができる。

  • 障害のある人を含むすべての地域の人々に対して予防接種を促進する奨励キャンペーンに積極的に関わる。
  • 障害のある人、特に機能障害の有無に関わらず障害のある子どもたちにとっての予防接種の重要性をプライマリーヘルスケアワーカーに教えるために接触を図る。
  • 障害のある人と家族が地域内にて予防接種プログラムを確実に利用できるよう、プライマリーヘルスケアサービスと協働する。
  • CBRプログラムから援助とサポートを受けている人々が、奨励される予防接種プログラムを確実に受けられるようにする。例:障害のある子どもたちとその兄弟姉妹、障害のある子どもをもつ妊娠女性など。
  • 奨励される予防接種を受けていない人々に対し、安全で評判の良いサービスの受けられる場所についての情報提供をし、必要に応じてそれらのサービスを利用できるようサポートする。
  • 学校に通っていない障害のある子どもなど、予防接種プログラムを利用できない人々に対しプライマリーヘルスケアサービスと協働し、彼らに代替の接種方法を準備する。

BOX12 マレーシア

若い命を救うこと

マレーシアの国家CBRプログラムは、障害のある人が、プライマリーヘルスケアワーカーの実施する活動を利用できることを保証するために、プライマリーヘルスケアと密接に協働する。その中には、若い母親への風疹予防接種や子どもへの予防接種プログラムが含まれる。

適切な栄養の確保

低栄養(栄養失調)はほとんどの場合十分に食べることができない、不適切な食習慣の結果によるもので健康問題を引き起こす一般的な原因である。地域内にて適切な食べ物と栄養を確保することはCBRプログラムが多くの他の開発部門とともに協力し責任をもって取り組むべきことである。保健部門との連携においてCBRプログラムに提言されるいくつかの活動は以下のとおりである。

  • CBRスタッフは障害のある人とない人双方の中で栄養失調の兆候のある人を把握し、適切な評価や管理のために確実に保健ワーカーへ照会する。
  • 地域にて入手可能な鉄分やビタミンを多く含有する食物(ホウレンソウ、ワサビノキの葉、全粒穀物、パパイヤフルーツなど)を使用して低価格で栄養豊富なレシピを紹介し、栄養のある食べ物を食べることを奨励する。
  • 障害のある子どもたちが十分で適切な食べ物を確実に得られるようにする。障害のある子どもたち、特に摂食障害のある子どもたちはしばしばなおざりにされる。
  • 摂食障害のある人、例えば脳性麻痺により咀嚼や嚥下障害のある子どもたちなどを把握し、可能であれば言語療法士へ照会する。
  • 障害のある人の家族に対し、適切なポジショニングや安全で簡単な食べ方や飲み方などの介助方法について簡単な提案をする。
  • 地域内において栄養に関する取り組みを見つけだし、障害のある人がこれらを確実に利用できるようにする。例:成長状態をチェックし、微量栄養素や補助食品を提供するプログラムに障害のある子どもたちを積極的に取り込む。
  • 授乳を促進し、妊婦を鉄分と葉酸補給のために妊婦管理プログラムに参加するよう促す(下記、母子保健への参加促進参照)。

BOX13 インド

栄養を通して力をつける

インド、バンガロールのサンジビーニ信託は10年以上にわたり女性と子どもの問題に取り組んできた。主な介入の1つは5歳未満の子どもの栄養失調問題への取り組みである。多くの貧困家庭の子どもたちは母乳から離乳食、固形食への移行に伴い、適切な食べ物が入手不可能であることから栄養失調を起こすことがわかっており、信託は栄養サプリメント(高エネルギー高タンパク質のパウダー)を月に1度栄養失調の子どもたちに提供している。ボランティアの人たちは貧しい子どもたちを把握し、サプリメントの準備と配布のためのトレーニングを受けている。母親たちは栄養教育を受け、地域で入手可能な穀類や野菜を用いた安価で栄養価の高い食事の作り方について教わる。サンジビーニはまた、障害のある子どもたちにリハビリテーションを提供している他の機関と協働し、彼らにも栄養サプリメントを提供している。摂食障害など特別な支援の必要な子どもたちは一貫して栄養サプリメントを用い、多大な恩恵を受けている。

アフリーンは9歳、脳性麻痺である。彼女は両親と2人の姉妹とともにバンガロールにあるイルヤスナガーのスラム街に住んでいる。両親は地元の工場で1日70Rsの賃金で働いている。家族はアフリーンが6歳の時、バンガロールへ引っ越してきた。出産時の合併症によりアフリーンは脳性麻痺となった。彼女は流動食のみを与えられたため、栄養失調で寝たきりとなり、発達が遅れ下痢と発作を頻繁に起こした。CBRワーカーは彼女の病状対しいかなる療法も提供することができなかったため、栄養サプリメントを与えたが、アフリーンの健康状態は1年かけて徐々に改善し、体力も強くなった。アフリーンは現在、セラピーと刺激治療を受けるため訓練所に通っている。家族は彼女の回復に大喜びし、母親は他の食べ物も与えることができるようになった。

母子保健への参加促進

妊婦ケア、出産時の技術的なケア、そして産後ケアは母子の健康状態の悪化または障害につながる機能障害のリスクを軽減する。CBRプログラムは、以下のことをすべきである。

  • 地域内で入手可能な妊婦の保健ケアサービスを把握する。例:妊婦ケア。
  • すべての女性に対し妊婦の保健サービスについての情報提供をし、そのサービスの利用を奨励する。
  • 障害のある女性が妊婦の保健ケアサービス利用が困難である場合には、追加の支援を提供する。 例:保健ケアシステム内に差別が存在する場合に擁護する。
  • 女性とその家族に現在または将来的な妊娠に関連して具体的な質問や懸念がある際には遺伝カウンセリングへ照会する。例:障害のある子どもをもつ夫婦が次の子どももまた同じ状態や機能障害になるかどうか質問したい。
  • 障害のある妊婦の利用上の問題点について保健サービスにアドバイスを行う。例:適切なコミュニケーション方法や病院や分娩室をアクセシブルにする方法についての提案。
  • 地域の伝統的な助産師に対するトレーニングプログラムがあるか確かめ、その中に障害や機能障害の早期発見の情報が確実に含まれるようにする。
  • 障害のある子どもをもつ親に対し地方当局へ出生届を提出することを奨励する。

BOX14 モンゴル

妊婦のストレス緩和

モンゴル北西部の村の中には多くの女性に股関節脱臼がみられる村がいくつかある。こうした女性が妊娠した場合、体重増加により股関節への負担がかかり、疼痛や障害が悪化する。モンゴルの国家CBRプログラムはこうした女性たちのために、計画的な妊娠間隔と妊娠後期の適切な休息についてアドバイスを行っている。

清潔な水と衛生設備の促進

水と衛生設備は健康的な生活への改善と障害を可能な限り減らすことに貢献する。CBRプログラムは以下の方法で障害のある人のニーズが確実に配慮されるようにするための手助けができる。

  • 障害のある人と家族に、水の使用や衛生設備の利用の際し直面する障壁について話を聞く。例:障害のある人は水源から遠く離れたところに住んでいたり道が整備されていなかったり、または井戸から水を汲む方法自体が難しかったりすることにより水の利用が困難なことがある。
  • 障害のある人と家族との連携のもとに、地方当局や水および衛生設備の担当組織に障壁について認識させ、障壁を克服する方法の示唆やアイディアを提供する。
  • 地方当局にロビー活動を行い、あるいは地方当局と協働し、既存の設備を改良したり新たな設備を建設する。例:和式トイレの使用が困難である人のために補高便座や手すりを設置する。
  • 地域の人々に対し障害のある人の必要に応じて、援助やサポートを行うよう働きかける。例:障害のある人が水を汲む際に近隣の住民が付き添う。

傷害予防

多くの障害は家庭や職場内、地域内での事故により被る。また障害のある人や子どもたちはたいてい負傷に対しより高いリスクがある。CBRプログラムは彼らの地域において傷害予防面で以下の役割を演じることができる。

  • 地域および家庭内での主な傷害の原因を把握し(例:熱傷、溺死、交通事故)もっとも危険にさらされているグループを特定する(例:子ども)。
  • 地域内における傷害の主な原因とそれらをどう防ぐかについての認識を高める。これには健康増進キャンペーンが含まれる(保健:健康増進参照)。
  • 地方当局、地域団体と協働し、家庭や地域内での傷害発生を減少させるために行動する。 例:盛大なお祭りの際の傷害予防。
  • 家庭内での傷害予防について家族に対し示唆する。例:子どもたちが水や火元近くにいる際の監視、子どもの手の届かないよう毒物をしまう、子どもたちをバルコニーや屋根の端や階段に近づかせない、先の尖ったもので遊ばせない。
  • 従業員や労働者に対し職場内における傷病予防について教育する。例:建設現場において適切な安全装備を身に着ける(靴、ヘルメット、手袋、耳栓)。
  • 学校児童に対し道路の安全について教育する。例:安全な道路の横断方法、自動車内でのシートベルトの着用、自転車やバイクに乗る際のヘルメットの着用。

2次的疾患予防

あらゆる年齢層の障害のある人は2次的疾患の危険にさらされている。CBRプログラムは障害のある人がこれらの症状を発症させる可能性を軽減するため1次予防戦略を奨励できる。以下がCBRプログラムに提案される点である。

  • 障害のある人と家族が、彼らの障害と関連のある一般的に起こりやすい2次的疾患について認識し、熟知しているようにする。例:脊髄損傷や二分脊椎の人は(家族も)尿路感染症の高いリスクがあることについて認識してもらう。
  • 障害のある人と家族が2次的疾患予防のための戦略を策定できるよう支援する。例:運動や良好な栄養、定期健診、衛生管理、自助グループへの参加といった健康的なライフスタイルを取り入れること。
  • 障害のある人に提供された支援機器が2次的疾患のリスクを作り出さないよう確認する。例:不適切な義足のフィッティングによる褥瘡を招く発赤を防ぐ。