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CBRガイドライン・教育コンポーネント

保育と幼児教育

はじめに

幼児期とは出生時から8歳までをいう(13)。保育と幼児教育の広がりは「万人のための教育」の6つのうちの1つである(11)。保育と幼児教育には、幅広い活動と対策が含まれる。保育の多くの側面は、保健コンポーネントで扱っているので、この要素では主として幼児教育を重点的に扱い、早期介入と保育園・幼稚園政策についても盛り込む。

幼児教育は、発達に影響を及ぼすものであるという意味で重要である。人間の脳は、特に、生まれてから最初の3年間に急速に発達する(13)。そして、この時期に適切な刺激が与えられないと、発達が遅れ、時に永久に発達しない。この最初の時期は、言語、社会的能力、思考、身体的技能の健全な発達の基礎となる好機である。

幼児教育は、インクルーシブ社会の種をまく。なぜなら、障害のある子どもと障害のない子どもが、一緒に学び、遊び、成長することができる場だからである。幼児教育は、子どもが基礎教育を修了し、貧困と不利な立場から逃れる方法を見出だす機会を増やす(13)

幼児教育は、一般的に義務教育ではないので、小学校教育よりも柔軟性があり、政府、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)、民間部門、宗教団体などさまざまな関係者と協働する素晴らしい機会をもたらす。

BOX7 ネパール

幼児教育でうまくやっていくこと

ネパールの生活条件の悪い地区では、保育と幼児教育プログラムに参加した子どものうち95パーセント以上が、小学校に進学した。このプログラムに非参加の子どもの場合、進学したのは75パーセントだった。参加した子どもが1年生を留年する割合は、非参加の子どもの7分の1で、1年生の試験でも著しく高い点数を取った(14)

BOX8 インド

チェトナの新しい人生

1980年代にインドのグジャラート州で始まった学齢児童に焦点を当てたCBRプログラムは、小規模なものであった。障害のある子どもは幼児期の学習と生活経験の機会が少ない場合が多い。しかし、この時期は、子どもが世界を理解し、社会的関係を形成し、概念を確立させ、人生のすべてにおいて必要な基礎訓練を受けるという意味で重要であることがわかったため、今日、保育と幼児教育は、グジャラート州の多くのCBRプログラムに不可欠なものとなっている。

チェトナは、グジャラート州の農村地域に住む少女である。CBRスタッフは、チェトナが3歳の時、発達に遅れがあることを発見した。例えば、彼女は首がすわっていなかった。CBRプログラムは、チェトナが村から遠く離れたスクリーニングアセスメントセンターを訪問する手配をした。そこで彼女には重度の難聴、視覚障害があり、これらの障害に関連して理解力に問題があることがわかったため、障害者手帳が発行された。チェトナはいつも、四方を壁で囲まれた家の中か、母親の膝の上にいたので、CBRプログラムと家族は、次のような課題に直面していた。チェトナのニーズは何か。これらのニーズはどこで一番対応できるか。誰が彼女と一緒に課題に取り組むのか。彼らはどのように彼女と課題に取り組むのか。

CBRプログラムは、地域の大工に特別な椅子を作ってもらうように手配した。そしてチェトナは家のベランダに置いたこの椅子に座り始めた。やがて、コミュニティの人々は、チェトナを目にするようになり、家族や隣人と彼女との交流が改善した。彼女は、日常生活技能の訓練を受け、補聴器を与えられ、弱視を克服するために特殊な眼鏡が与えられた。同時に、コミュニケーションのためのトレーニングも受けた。チェトナは今では、食事の時に母親を手伝い、器を洗い、地域の店に買い物に行く。両親はチェトナと意思疎通を図ることができるようになり、良好で愛情のある関係をもてるようになった。チェトナは今では、地域の幼稚園(anganwadi)に通い、より大きなグループの一員となっている。子どもたちは、他と子どもと同じように彼女を受け入れ、独自の方法で意思疎通を図っている。チェトナは、他の子どもと同じ施設を使い、同時にCBRプログラムの支援サービスを受けている。家族は支援サービスにより、社会保障給付を得ることができるようになり、チェトナは他の子どもと同様に国家の教育制度に登録することができた。

目標

障害のあるすべての子どもが人生の最初の段階で最良のスタートを切り、インクルーシブな学習環境において発達時期を通じて支援が受けられる。

CBRの役割

CBRの役割は、障害のある子どものいる家庭を把握し、彼らと密に交流し協働し、子どもの生活におけるすべての活動のための土台を築くことを支援することである。

望ましい成果

  • すべての子どもの生存と健康の可能性が増大する。
  • すべての子どもの身体的、社会的、言語的、認知的技能の可能性を最大限伸ばしている。
  • フォーマルとノンフォーマルの幼児教育がすべての子どもを歓迎し、インクルーシブである。
  • 障害のある子どもと彼らを支援する人々は家族やコミュニティの一員であり、適切な支援を受けている。
  • 子どもたちは一緒に遊ぶことを学び、互いの違いを受け入れ、互いに助け合う。
  • 機能障害の影響が軽減され、障害が補われている。
  • 障害のある子どもが、他の仲間と一緒に小学校教育にスムーズに移行する。

BOX9 エルサルバドル

早いスタートを切る

エルサルバドルのサントトーマスでは、地域のCBRプログラムに参加していたインクルーシブな小学校教育の校長先生に、予定日より3か月早く赤ちゃんが生まれたが、赤ちゃんは酸素が欠乏していた。医師は、校長である母親に、子どもは知的な障害かその他の障害を患うかもしれないと伝えた。地域のCBRプログラムの経験を通じて、彼女は早期教育の重要性を知っていた。そこで、彼女は初期評価と早期介入のために、2年間政府のリハビリ施設に赤ん坊を連れて通った。母親と赤ちゃんは2人とも多くのことを学び、子どもは4歳になると、近所の子どもたちと一緒に地域の保育園に入園した。

主要概念

幼児期

幼児期は人生の基盤である(5)。CBRスタッフは、幼児期に関してさまざまな見解があることを認識しなければならない。それらは地域の伝統、信仰や宗教、文化、家族構成、小学校教育を行う方法などに基づいている。この多様性を認め、尊重することは重要である。

子どもの発達

子どもの発達は、すべての子どもが生活に重要な技能(発達上の重要な段階)を身に付けることを通して行われる学習の過程である。子どもの発達の主たる領域は、以下である。

  • 社会的発達と情緒的発達(例:笑う、アイコンタクトができる)。
  • 認知(学習)発達(例:環境を探検し、簡単な作業を行うために、手や目を使う)。
  • 話すこと、言語能力の発達(例:単語やサインを使った意思疎通)。
  • 身体的発達(例:座る、立つ、歩く、走る、手や指先を使ってものをつまみ上げる、引っ張る)。

発達の重要な段階は、子どもが決まった順番や時間軸で獲得する技能である。例えば、歩行の学習は、9か月から15か月の間にほとんどの子どもが学ぶ重要な段階である。発達の遅れとは、その子どもが年齢にふさわしい段階に到達しない時使われる用語である。上に挙げた発達の領域の1つかそれ以上で起きることがある。もし発達の遅れが幼少期に把握されたなら、発達の遅れを克服する学習の機会と環境を提供するための手段を講じることができる。

CBRスタッフは、障害のある子どもの強みに確実に焦点を当てなければならない。障害のある子どもの発達上の段階を強調しすぎないことは重要である。なぜなら、これらの概念に固執すると、問題がおこりうるからである。

  • 発達の遅れの概念は、普通が何かということが基準になる。したがって、これがレッテルをはること、烙印を押すことに通じる。
  • 障害のある子どもは発達の「正常な」パターンに従う必要はない。しかしながら、彼らが、インクルージョンされ支援され続ける限りは、充実した幸福な人生を送ることができる。
  • 発達の重要な段階は一般的な原則で、現実は、文化・ジェンダー・民族・社会的環境・経済的環境によって多くのバリエーションがある。

子どもの発達は、健康・栄養・保育・教育など多くの要素の影響を受ける。したがって、子どもの発達のアプローチには、多部門の協力が必要である。例えば、栄養と教育を結びつけたプログラムは、それぞれ別に焦点を当てたプログラムより、もっと効果的であるということが証明されている(15)

遊びや活動を取り入れた学習と刺激

幼児は遊びを通して、また、日々の活動に参加することによって、自然に効果的に学習する。遊びはすべての文化や状況において、理解されるものではなく、特に極度の貧困地域において、また、生きぬくための活動が主体の地域では、理解されることは難しい。こういった状況では、遊びは、無意味で役に立たない活動とみなされる場合がある。活動を取り入れた学習は、リソースと時間が限られた状況において、効果的な代替アプローチとなる。つまり、子どもが役に立つあるいは生産的な活動に関わることによって学ぶアプローチである。これらは、手を洗う、服を着る、食べる、家事やその他の仕事を手伝うといったセルフケア活動を含む。刺激とは、子どもの発達を刺激する環境や活動を提供することである。

CBRスタッフは以下の点を理解しておく必要がある。

  • 遊びや活動を取り入れた学習は、幼児、特に障害のある子どもにとって重要である。このような学習は、日常生活の技能を発達させ、機能障害の影響を軽減する。
  • 多くの人は、障害のある子どもが自ら遊びを始めることができないなら、彼らは遊ぶことができないと信じ込んでいる。特に親は、遊びから得られるものを理解していなかったり、過保護になったり、自分の子どもを人目にさらすことを恥じている場合がある。
  • 遊びは、構造が決まったものと決まっていないもの(自由遊び)があり、子どもによって、あるいは大人の支援によって、始めることができる。
  • 重度の障害または重複障害のある子どもにとって、遊びと刺激のある活動は特に重要である。学習発達の兆しが見えないからといって、子どもが何の恩恵も受けていないということにはならない。
  • 親は、子どもに非常に多くの刺激のある遊びを与えすぎてしまうことがある。いわゆる「正常な発達」に到達することと学問的な成功という、過度の社会的なプレッシャーを受けた場合は特にそうである。これは、子どもの遊びの機会を制限し、また、社会的・情緒的発達の妨げになる可能性がある。

年齢相応の活動

年長の障害のある子どもが幼児教育に参加するのは珍しいことではない。これにはさまざまな理由があるだろう。例えば知能障害、あるいは発達の遅れが見られ、技能がゆっくりと発達していたり、家族によって人目を避けたところに隠されていたり過保護に扱われ、早期の学習機会を失っていたり、小学校に行けないか、受け入れてもらえないなどといった理由である。

一般的に、子どもの実年齢を尊重し、ピアグループ環境の中で年齢相応の学習を提供するための方法をみつけることが望ましい。しかし、時には妥協も必要である。指針としては、子どもの利益が一番に考慮されているかどうかである。

選択と柔軟性

子どもも家族もコミュニティも文化も同じものはない。幼稚園や保育園といったフォーマルな環境に適応する子どももいれば、そうではない子どももいる。CBRプログラムは、家族が支援と環境に関して情報に基づいた選択(インフォームドチョイス)ができるように、そして、弾力的にそれに応えることができるように手助けする。幼児教育がインクルーシブで利用しやくすることは、優先課題である。

CBRプログラムは、家族による選択が、恥や過保護に基づいた選択ではなく、子どもの利益がもっとも反映されるように家族と協働する。このような選択は、地域で家族とともに生活する権利などさまざまな子どもの権利を尊重したものでなければならない。

BOX10 メキシコ

幼児教育センター

クリアカン近くのメキシコのある地域では、先住民族の家族が山にある村から降りて来て、1年のうち4か月間を農産物加工場に提供される仮宿舎に住む。CBRプログラムは、それぞれの建物に幼児教育センターを設置することを、工場主と交渉した。そして、1か月に2回、母親が早期介入の勉強会に、障害のある子どもと一緒に参加する許可を得た。年長の子ども(4歳以上)はCBRスタッフからの支援を受けて、工場のデイケアセンターに入った。今では障害のある子どもの家族は、子どもに良いケアを受けさせ、また幼児期の発達を促すための方法を学ぶために、毎年、同じ地域に戻って来る。彼らは村に戻ると、他の家族に学んだ知識を伝えている。

推奨される活動

幼児期のニーズを把握する

ツイントラックのアプローチは一般的にインクルージョンを推進するもっとも優れた方法である。そして、これは保育と幼児教育に適用することができる。「ツイントラック」とは以下のことである。

  1. 制度に焦点を当てる:地域の中の保育と幼児教育に関しての現状を調査し、誰が含まれていて、誰が排除されているか、また、長所と短所を明らかにする。これは、家族、地域リーダー、保健ワーカー、教員、そして、その他の関係者が協働して行う必要がある。
  2. 子どもに焦点を当てる:周縁化あるいは、排除されている子ども、あるいは、さらなる支援を必要としている子どもを発見し支援するために制度を開発する。これは通常、早期発見と称される。

しばしば焦点は「シングルトラック」である。つまり、単に個人のみが対象とされる。結果として、ほんの一握りの子どもだけが恩恵を受けることになり、制度としては、相変わらず排他的である。CBRプログラムは、以下の方法で制度と子どもの両方に焦点を当てることができる。

  • 障害のある子どもが適切なケアを受けられることを保証するために保健ワーカーと連携し協働する(保健コンポーネント参照)。
  • 早期発見プログラムが障害のある子どもとその家族を支援することを保証する。
  • 生まれながらに機能障害のある子ども、あるいは幼児期に機能障害を発症した子どもを出来るだけ早く把握し、家族と緊密に協働する。
  • 機能障害があるということがわかった時点で速やかに対応するために両親を支援する。子どもを保健施設に照会し、面会に同行する。
  • 障害のある子どもに対する建設的なアプローチができるように支援する。障害のある子どもの学習に関する能力と可能性に焦点を当てる。このアプローチにおいては、早期介入は子どもの学習と発達に関する障壁を認識することと、それらを解決するために家族や他部門、地域と協働する。
  • 現在の教育設備が障害のある子どもにとって、利用しやすくインクルーシブであるように、地方当局の政策に影響を与える。

発達の度合いが一様ではない幼児にとって、何が「普通」か、その固定した基準を押し付けないよう注意が必要である。CBRスタッフは、発達段階が年齢相当に到達していない時でも、親や子どもに不安を与えないようにすべきである。時折、健診は、子どもをどのように支援することができるかという方法を模索することよりも、排除を促してしまうことがある。保健ワーカーにCBRトレーニングを受けさせることで、啓発や障害に関する知識を改善し、起こりうる排除を避けることができるだろう。

BOX11 東南アジア

就学前教育に関わる障壁

東南アジアのある国では、5歳以下の子どものための定期健康診断があるが、障害が発見された子どもに対する追加的な支援がなかった。就学前教育の教員は、厳密な決まったカリキュラムがあり、障害のある子どもは余分な時間を必要とする、子どもが進歩しない、あるいは体重が増えない場合、教員は給与のボーナスポイントを失う恐れがある、そして、「健康な」子どもだけが入学でき、障害のある子どもは病気であるとみなされる、という3つの理由から、クラスに障害のある子どもを受け入れることに消極的だった。

家庭での早期の学習を支援する

家族の関わり

保育と幼児教育は家庭から始まる。したがって、家族の関わりは不可欠である。親、特に母親は、幼児期に極めて重要な役割を担う。母親は授乳、刺激や子どもと一緒に遊ぶといった態度や行動によって子どもの発達に影響を及ぼす。父親の存在は、無視されるべきではない。父親の関わりは、重要であり奨励されるべきである。以下のような活動が推奨される。

  • 親、兄弟姉妹、祖父母としての経験から得られた子どもに関する知識を、教員や保健ワーカーと分かち合うことで家族を支援する。家族はCBRスタッフが学ぶことのできるたくさんの情報を提供することができる。
  • 障害のある子どもをケアし建設的に学ぶ機会を提供することができるように家族に支援、教育、トレーニングを提供する。
  • 必要があれば、家族が特殊なトレーニング(例えば、耳の聞こえない子どもとの意思疎通を促すための手話訓練)を受ける手助けをする。あるいは、技能向上のために特殊なサービス(例:作業療法、理学療法、言語聴覚療法)にアクセスできるよう支援する。
  • 家族がもっている個人的かつ詳細な知見とCBRスタッフがもっている子どもの発達と評価の知見を活用し、家族と協力して、障害のある子どもの個別の学習計画を開発する。必要に応じてこれらの計画を教員と分かち合う。
  • 障害のある子どもの親の自助グループを形成する、あるいは、親に現存するグループや組織に参加することを奨励する。時折、親が障害当事者団体の一員であることがある。
  • 家族、コミュニティ、地域のリソースパーソンとの支援ネットワークやつながりを作り出す。
  • 家族の中に存在する可能性のあるジェンダーの問題に対応する。例えば、障害のある女子児童の学習機会を家族が認めるよう促す。

BOX12 ボリビア

息子の教育に父親が関わること

ボリビアのエルアルトでは、CBRプログラムが、地域の学校に障害のある子どものインクルージョンを促した。あるダウン症候群の6歳の少年は最近、地域の学校の幼稚園に通い始めた。少年の父親は、最初から息子が学校に行くことを切望しており、毎日息子の送り迎えをし、クラス担任や校長先生と話した。校長は、父親の姿に感銘を受け、他の子どもの親にも子どもの教育に関与することを促し、インクルーシブ教育への意識を高めるために、父親に親の会で講演してもらった。

家庭に根ざした活動を推進する

家の中に子どもにとって協力的な学習環境を作り出すことは、CBRプログラムの重要な活動である。家族の中へのインクルージョンは、自信と技能を確立し、子どものために早期刺激を促すことを通して推進される。CBRスタッフの活動には以下のようなものが推奨される。

  • 創造的で活発な手段による活動主体の学習に子どもが関われるよう親を説得する。
  • 日常的に家庭や地域環境にあるものが、どのように遊びに使えるか、そして、遊び道具をどのように家庭で作るか示す。重度の障害のある子どもでも、「専門家の作った」遊び道具を必要とするとは限らない。
  • 座位保持装置や移動補助具のような支援機器は地域にある素材を使用して家族で作ることができることを示す。
  • 子どもの機能障害や身体的なニーズばかりに焦点を当てないように気をつける。例えば、身体的な機能障害のある子どもは、移動に関して多くのインプットや訓練や教育を受けるが、社会的技能(例えば、障害のない仲間と一緒に遊ぶことや学習するなどの可能性)も発達させる必要がある。

家族が支援的な学習環境をつくるための実用的なリソースの多くは入手可能である。以下に例を示す。

  • Disabled village children(16)
  • 世界保健機関(WHO:World Health Organization)マニュアル:Training in the community for people with disabilities(17)
  • Let’s communicate: a handbook for people working with children with communication difficulties(18)
  • 服を着る、食べる、排泄する、身体を洗うといった簡単な動作を小さな段階に分けて家族をトレーニングするポルテージシステム。子どもたちが、たとえ多くの重複障害のある子どもでも、進歩と成功を経験することを可能にする(19)

BOX13

教育を自宅で提供する

幼稚園で、障害のある子どもたちのインクルーシブ教育のトレーニングを受けた教員が、3人の重複障害のある子どもが通園していないことに気づいた。教員は、3人の子どもの家に行き、家族と協働することにした。教員は、家庭で教育ができるように遠隔学習パッケージを開発し、今では親が自宅で子どもを教えるためのトレーニングや支援を受けるためにやって来る。子どもたちも時折センターを訪れている。

地域における支援学習

さまざまな種類の幼児教育の機会は、コミュニティの中で見つけることができる。例えば、遊びグループ、デイケアセンター、母と子の会、託児所付きの女性自助グループなどである。それぞれのコミュニティにおける障害のある子どものインクルージョンは、次のような簡単な活動を通して推進することができる。

  • 家族が子どもをコミュニティへ連れ出すことを奨励する(例:宗教や信仰をベースとした社会活動、ショッピング)
  • 子どもが家の外で遊ぶことを家族が認めるように勧める。必要であれば座位保持装置や補助具の手助けを受ける。コミュニティはその開発を手助けする。
  • 障害のある子どもと障害のない子どもが一緒に遊ぶことを奨励する。兄弟姉妹間や近所の子どもたちの相互学習は重要で役に立つことである。
  • 幼稚園や地域の遊び場を含む環境を(スロープやトイレを設置したり、照明を増やしたり、安全性を向上させたり、清潔に保つことによって)アクセシブルで快適にするために地域の関与を促す。

インクルーシブな保育園の開発を支援する

CBRプログラムは、子どもを中心に据えた柔軟性のある学習を支援するために、教育セクター内でのパートナーシップを作り出す必要がある。そして、子どもたちが効率的に学ぶことができることに焦点を当てるべきである。CBRプログラムは、保育園や幼稚園のスタッフが、子どもたちが学ぶ方法やスピードの多様性に対応した学習環境を作り出せるようトレーニングを施すことができる。奨励する活動は、以下のとおりである。

  • 構造化された遊びとインフォーマルな遊びの両方を通した学習。
  • 小グループでの活動。
  • 地域の材料で遊び道具と学習用具を作る。
  • すべての人が利用しやすい環境を作る。例えば、スロープを設置する、トイレを利用しやすくする、視覚障害のある子どものために場所によって色分けする、利便性に関する政府のガイドラインが順守されるよう保証する。
  • 家族やボランティアを教室の支援者として活用すること。これらの支援がクラス全体のためであって、単に障害のある子どものためだけではないよう注意する。
  • どのようにして子どもが参加し学ぶかを観察し、どのように子どもの長所を生かし、達成しうる彼らの生活に関連する学習目標を設定するかを話し合う。

BOX14 ザンジバル

少年の希望の歌

ザンジバルのある幼稚園では、教員は簡単な手話で耳の聞こえない少年と話をする。少年は、自分の指を使ってアラビア数字を数える。そして、絵を指さすことによって、意思疎通を図る。教員は少年がクラスの子どもたちと手話を使って一緒に歌を歌うことができるような動きのある歌を考案した。彼は現在、耳の聞こえない大人との接触がなく、手話は、ザンジバルではあまり開発が進んでいない。しかし、これは出発点である。校長先生は、少年の手話が上達し、多くの社会的技能を学習したと確信している。

文化や環境によっては、既存の幼児教育施設が、幼児の真のニーズに基づいたものではなく、フォーマルで小学校教育にならって作られている。そのような施設は、教員中心の方法論、遊びの機会の欠如、フォーマルな教室のレイアウト、機械的な学習(繰り返しによる暗記学習で、主題を本当に理解した学習ではない)、学力、そして長時間の授業時間といった特徴をもっている。これは障害のある子どもにとってだけではなく、大多数の子どもにとっても不適切である。

教育システムにおける永続的な変化は、明らかに政府の教育省庁の責任である。しかし、CBRスタッフは子どもがもっと効率よく学ぶことができるような幼児教育の環境、教授法、カリキュラムへの転換に向けて働きかけることができる。幼児教育に障害のある子どもをインクルージョンすることを保証するために、CBRは欠かせない。なぜならCBRは、子どもに必要な支援機器や適切なリハビリテーションサービスを利用することを手助けできるからである。CBRはまた、特別な懸念事項に対して専門的な意見を幼児教育に提供することができる。また地域のリソースと人々を活用した簡単な戦略が、あらゆる人々に役に立つことを示すことができる。そうすることにより幼児教育の先生自身も、子ども中心でインクルーシブなアプローチの支持者になるようにエンパワーされる。

BOX15 中国

成功のためにさまざまな選択肢を探し求める

安徽省は5,600万人の人口を抱える中国の貧しい地域の1つである。少し前までは、幼稚園での学習といえば、子どもたちを横に並んでじっと座わらせ、教員から直接、長い授業を聞くということであった。成功または失敗は、子どもの責任として認識されていた。この制度は、多くの幼児が教育を受けることができるという点ですばらしかった。なぜなら、多くの幼稚園には、1,000人以上の子どもがいて、教師は非常に献身的で勤勉だったからである。

試験的なプログラムでは、子どもたちが、積極的に学ぶことができるよう以下の変更を奨励した。定期的な小規模のグループワーク、活動(遊び)を取り入れた学習、地域にある素材を使った補助教材の使用、定期的な教員教育、地域委員会の設立を通した家族、教員、行政、地域社会の緊密な協力を必要とする学校全体のアプローチ、各クラスに学習障害の子どもを2人入れること。

結果は目覚ましいものであった。教育当局は、すべての子どもの教育が改善されたことを認め、この変更を「安直な選択肢」としてではなく、隔離よりも「より良い選択肢」であると認識を変えた。また障害のある子どもたちは、小学校に進学し、引き続き順調に学んでいった。

専門的なサービスが入手、利用できるようになることを保証する

障害のある子どもの多くは、弾力的で子ども主体の幼児教育に早急にインクルージョンすることができる。時には、こういった主流の学校に障害のある子どもをインクルージョンするために、専門家の助けが必要になる。例えば、耳の聞こえない子どもは、手話を学ぶ必要がある。目の見えない子どもは移動の技能と点字を学習する必要がある。そして、その両方に障害のある子どもは、触覚、移動技能、点字を学習する必要がある。CBRスタッフは、障害のある子どもが専門家のサービスを利用すること、また専門家と主流の学校の教育現場が密接な連携を維持することを保証する。

障害のある大人と子どもの関与

保育と幼児教育活動において、ロールモデル、助言者、訓練士、管理者、意思決定者として、障害のある人々が直接的に関与することを奨励することは重要である。「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」の原則は、幼児期にも等しく採用される。すべての推奨される活動は、障害のある人が関わった場合、より重要性を増し効果的である。障害のある年長の子どもは、年下の障害のある子どものニーズに対して、支援や励まし、創造的なアイデアを提供することができる。

BOX16 インド

聴覚障害者のコミュニティを結集する

インドのコインバトールでは、早期介入センターと幼稚園が、聴覚障害のある人のために開設された。センターで働く専門家が調査を実施したが、その地域にはごく少数の聴覚障害のある子どもたちしか発見できなかった。しかし、センターの開設から2か月後、プロジェクトに関わっていた聴覚障害のある2人のCBRスタッフが、独自のネットワークや友人のサークルを使って、5歳以下の6人の重度聴覚障害児を発見した。聴覚障害のある人は、聴覚障害者コミュニティのもっとも新しいメンバーでさえ、どこにいるかを把握している。次の半年間で、プログラムには13人の児童生徒が通うようになった。翌年、さらに多くの聴覚障害の子どもたちが登録された。子どもたちのほとんどは、聴覚障害のある大人から照会された。大人たちは今では、幼稚園に立ち寄りボランティアをすることを楽しんでいる。

トレーニングと啓発を実行する

トレーニングと啓発は多くの異なるグループに必要である。形式と内容に柔軟性があり、開発と実施においては障害のある人々と障害当事者団体が関与することが必要である。社会モデルの視点からの障害と、幼児期からの取り組みに焦点を当てた地域における啓発は不可欠である。CBRスタッフはまた、幼児期に介入するアプローチと活動に関するトレーニングを必要とする。幼児期の教育関係者(教師、サポートスタッフとデイケアセンターの管理者、幼稚園、遊びのグループなど)は障害とインクルージョンについて学ぶ必要がある。連携は、財政的であれ、技術的であれ、支援を提供してくれる人との間で結ぶべきである。地域のNGOや国際的なNGOは、良き支援の源となることが多い。

BOX17 スリランカ

インクルーシブ教育で教師育成をするスポンサーになる

スリランカのハンバントータ県では、学習障害のある幼稚園児が多く把握されている。その地区で利用可能なサービスをマッピングする過程で、幼稚園プログラムを実施している国際的なNGOがあることがわかった。このNGOは、幼稚園に障害のある子どもを入れることに興味を示したが、教員は障害のある子どもの扱いに精通していなかった。CBRプログラムは、スリランカ内のインクルーシブ教育に関するトレーニングを提供しているところを見つけ、NGOの幼稚園教員が参加できるようにスポンサーになった。トレーニングの後、教員とCBRのスタッフは親と子どもに面会し、一緒にインクルーシブ教育のための計画を策定した。成功に導くため親に責任を与えるなど、両親がインクルージョンの過程の一部になるよう多大な努力が払われた。すでに幼稚園に通っていた子どもたちとその親も、障害に関する問題を啓発され、インクルージョンの過程に参加した。

貧困問題に取り組む

貧困状態の中で、家庭や地域が基本的なニーズを満たすために悪戦苦闘している時、子どもたちは生存のための助けとなるか、リソースが乏しいため重荷とみなされるかのどちらかである。貧困による飢餓と病気にあえぐ子どもは、学ぶことも遊ぶことも難しい状況にある。CBRスタッフは、したがって、幼児教育の推進と並んで貧困に対処する必要がある(生計コンポーネント参照)。推奨される活動は次のとおりである。

  • 障害のある子どもはセルフケアや基本的な技能を学ぶのが早いほど、より自立でき、重荷と感じられることも少なくなるということを家族が理解できるよう手助けする。
  • 日々の家族の仕事に合致する活動に焦点を当て、これらの活動を通じて子どもたちがどのように学ぶかを示すことで、彼らが家族の生活の不可欠な一部となるようにする。極度の貧困の中では、家庭、特に母親に対しては、さらなる責任ではなく、さらなる支援が必要であり、したがって、CBRスタッフの姿勢は非常に重要である。
  • 女性と、障害のある子どもの親のための自助グループと、障害当事者団体の発展を促進する(エンパワメントコンポーネント参照)。
  • 政府の補助金や、NGO、寄付団体、地域企業、その他あらゆる支援・資金団体からの支援を利用できるよう手助けする。
  • 幼児教育のプログラムが、柔軟性があり、重度の障害あるいは重複障害のある子どもの家庭を含む貧困家庭のさまざまな状況に確実に対応するよう保証する。

BOX18 モンゴル

教育を提供する移動学校

モンゴルでは、移住者や遊牧民の子どものために、「ゲル」幼稚園という幼児教育がある。この幼稚園は可動式で、遠隔地の地域の要請に応じて1年中稼働している。また、衣類や食事を買う余裕がなかったり、フルタイムの参加のできない子どもの家庭にまで手を差し伸べている。カリキュラムとアプローチは柔軟性があり、パートタイムの出席にも対応している。また、親やコミュニティは、この可動式幼稚園を評価しているため、修理と移動の手助けをする。その結果、幼稚園への出席率は上がり、周縁化されてきた子どもたちの地域の小学校への出席率も上がった。

インクルージョンに対するロビー活動と政策提言

インクルージョンを実現するためには、制度を変える必要がある。しかし、CBRプログラムは単独では教育制度を変えることはできない。CBRスタッフは、パートナーや協力者を特定する必要がある。全国的なあるいは地域の関係者と協力関係を構築すれば、CBRプログラムは幼児施設開設を主張することができる。多くの場合、サービス提供者はインクルーシブな政策、あるいは、法律が存在していることを認識しているが、実行するための手助けや財政支援が与えられていない。CBRプログラムは、分離された施設を作るよりも、現存する施設をインクルーシブにするよう、可能な限りロビー活動をすべきである。

緊急事態、紛争、難民に備える

幼児の健康は、いかなる緊急事態、紛争、あるいは自然災害においても非常に重要である。幼児教育は柔軟性があるため、こういった状況下でも生き残ることができる希少なタイプの教育である。遊びは健康を維持推進することができる。CBRプログラムは、インクルーシブで子どもにやさしい遊びのための場所と機会を作るように手助けをすることができる。これはしばしば、NGO、政府のサービスと同様に国連機関と協力することを意味する(補足:CBRと人道上の危機参照)。