音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

CBRガイドライン・生計コンポーネント

所得創出(自営を含む)

はじめに

ほとんどの低所得国では、フォーマル経済よりもインフォーマル経済の方が生計を立てる機会を多く提供する。これは、教育やその他の資格がないとか、雇用主の消極的な態度のためにフォーマル経済の賃金雇用から排除される障害のある人にとっては特にそうである。

インフォーマル経済では、1人またはグループによる自営がもっとも確実に収入を得る方法である。自営業には、モノ作り(例えば、ポテトチップス、衣類、家具)、サービス提供(例えば、美容、マッサージ、二輪車修理、インターネットカフェの運営)、または商品販売(例えば、商店、レストラン、露店経営)がある。

貧しいコミュニティにおいては、障害のある人が生計を立てるもっとも自然な選択肢である一方、自営業は、かなりの難題を提起する。賃金雇用に比べて個人に要求されるものが異なる。自営で成功するためには、高いレベルの独創力、決断力、粘り強さが必要である。高い起業家スキルを有し、顧客と良い関係を作り、高いビジネス感覚や品質概念をもつことが必要である。これらの資質は適切な研修を通して学ぶことができる。CBRプログラムは、このような研修を促し、必要ならその研修を用意することが必須である。自営で成功するために、障害のある人も家族やコミュニティの支援が必要になることが多い。

一般的に障害のある人のための規定がある労働法はフォーマル経済のみに適用される。インフォーマル経済に適用するのは通常不可能である。インフォーマル経済で多くの人が働く国では、障害のある人の内、ごく一部の人にしかそのような法律の恩恵はない。大多数の人は、特別な規定が無いので、他のみなと同じように、失敗すると後がないため覚悟が必要である。

BOX11 南アフリカ

ムポの新しい‘MODE’

メドゥンサ障害者起業家協会(MODE: Medunsa Organisation for Disabled Entrepreneurs)は、南アフリカのソウェトで障害のある人の起業家研修コースを実施している。このコースの重要な要素は、目標設定、支援ネットワークの特定、批判的考察、多様な見方、問題解決と創造性である。

調査ではMODE卒業生の事業継続率が高いことが示されている。MODE研修の後に始められた事業の多くは、1か月の収入が南アフリカの障害者手当の2倍である。

ムポは、MODEコースの卒業生で、1軒の靴修理事業から始め、2軒に拡大した。彼はまたサンダル作りも始めた。しかし、靴修理事業はタクシーのルートが変わり、通りすがりの人の数が減ったため、1年後に閉鎖しなければならなかった。そんな中、彼がサンダル作りを続けていたが、そのうちシマウマなどの動物の皮で作ったファッショナブルな「エスニック」サンダルの需要があることに気がついた。彼は現在では、1日に40~60足を作り、ボツワナ、ナミビア、スワジランドへ輸出している。また、6人雇っているが、需要に応え切れない。

MODE研修が成功する理由は、以下である。

  • 事業を立ち上げるという研修生による誓約(もし事業を立ち上げなければコースの助成金を払い戻さねばならない)。
  • 研修生に対する初期の適性スクリーニング。
  • ビジネススキルと同様に生活スキルに焦点を当てる。
  • 現在の知識やスキルを基礎にした漸進的学習。
  • コースを通して研修生が、自分自身のビジネスアイデアを細かく調査する。
  • MODEが行う徹底的な調査によって、自分のスキル、教育レベルを研修生が理解する。
  • 研修生の長所に基づいた全人間的で能力を高めるアプローチ。

目標

障害のある人が、自営を通して生計を立て、生活水準を改善し、家族やコミュニティの幸福に貢献する機会をもつことである。

CBRの役割

CBRの役割は、障害のある人やその家族が個人あるいはグループでスキル開発や財政的または物質的なリソースを利用できるよう支援することによって、自営を促進し補助することである。

望ましい成果

  • 障害のある人が、個人として、あるいはグループで行う自分自身で選択した経済的活動を通して収入を得る。
  • 政府および民間が行う主流の小企業開発プログラムは、研修や援助に障害のある人が参加できるように政策および実践を変える。
  • 障害のある人は、起業活動を開始し拡大するのに必要な支援サービスを利用できる。支援サービスとは、基礎的ビジネススキル研修、ビジネス開発サービスと金融サービスなどである。
  • 障害のある人は、経済活動を発展させるため、より高度なビジネススキル開発の機会を利用できる。
  • 障害のある人は、コミュニティに貢献している成功した起業家であり生産的であると認識される。
  • 障害のある人は経済活動の促進と、前向きなロールモデルとしての影響を通じて、インクルーシブな地域社会の開発に貢献する。
  • 障害のある人、特に女性が、自らが稼いだお金を管理する。
  • 障害のある成功した起業家は、他の障害のある人のトレーナーになる。

主要概念

自営の範囲

「自営」は、フォーマル経済、インフォーマル経済の両方で、個人あるいはグループにより所有、運営、管理された経済活動に用いられる用語である。

自営には、活動、複雑性、関係する人数の点から、幅広いさまざまな種類がある。その活動は、地域の市場で販売するために数羽の鶏を飼うことから、輸出品を生産する大規模な作業場の経営まで多岐にわたる。企業の種類の違いは明確ではないが、3つの大きなカテゴリーに分けることは役立つ。

  • 所得創出活動。
  • 中小企業。
  • 自助グループとグループ企業。

どんな規模であろうとも、これらのビジネスには、製造、サービス提供、販売の3種類の内の1つあるいはそれ以上の活動が含まれる。

所得創出活動

所得創出活動あるいは所得創出プログラムは、個人やグループにとって唯一の収入源か、農業のような別の収入源の補足となる小規模活動である。活動はフルタイム、パートタイム、あるいは、季節的で、通常は伝統的な技術、地域の材料、地域の市場に根ざしたものである。これらはしばしば農村部で営まれ、通常はインフォーマル経済の一部である。

女性は多くの場合、所得創出活動の有力な担い手である。なぜなら、世帯の収入を得る必要があるからである。しかし、障害のある女性は、しばしば経済的な生産活動ができないと思われている。CBRプログラムにとって、障害のある女性が自信をつけ、経済的な生産活動を開始し運営し、自分や家族のために収入を稼ぐ方法に焦点を当てることは、重要である。

所得創出生産活動の例には、動物や鶏の飼育、伝統的工芸品、衣類を編むなどがある。

BOX12 カンボジア

ラムのかご編み業

ラムは、カンボジアのシェムリアップ近くで地雷により片方の足を失った。彼女は小規模な自給農業とかご作りを組み合わせている。彼女は1日にかごを5個作ることができ、1週間に1度集めに来る仲買人に売る。かごの売り上げは、季節活動である農業の副収入になる。

所得創出活動としてのサービス提供の例には、携帯電話貸し、洗車、バッテリー充電、喫茶店経営がある。

BOX13 マラウイ

エニファの賑やかな喫茶店

エニファは、マラウイのバラカ地区に住む視覚障害のある43歳の女性である。彼女は結婚していて、24歳と17歳の息子がいる。彼女は41歳のとき、緑内障で失明した。当初、彼女は大変落ち込んだが、CBRのフィールドワーカーに日常生活と移動スキルを教わり、現在ではうまくやっている。彼女は商店の集中する賑やかな地区で繁盛している喫茶店を経営しており、夫は薪と補給品を確保することで手伝っている。喫茶店にはフレンドリーな雰囲気がただよい、お互いに助けあう意識がある。また、人々が座って話ができるコミュニティの集会所にもなっている。エニファはコミュニティで大切にされ尊敬される人物である。喫茶店は、家族でトウモロコシを栽培している3エーカーからの収入を補っている。

収入を生む販売活動の例には、小規模店の経営、中古品の販売、本の販売などがある。

中小企業

中小企業は、所得創出活動よりも大きな規模で運営される。中小企業は複数の人を雇い、そこで働く人々にとって、主要な収入源になっている。(時々「小規模企業」という言葉が使われるが、現実には、小企業と小規模企業の違いはない。)これらの企業は家族全体や複数の家族グループを含んでいることもあるし、従業員がいる場合もある。また、「現代的な」(つまり、伝統的ではない)技術が使われていることもある。サービスとモノには単純なものから複雑なものまであり、時にはそのコミュニティを越えた市場で売られることもある。そのような企業では、通常、良い技術・管理スキルを必要とする。これらはしばしばインフォーマル経済にも見られるが、フォーマル経済とインフォーマル経済の境界線地域を占めていることもある。例えば、インフォーマル経済の家内工業で部品を作り、その部品がフォーマル経済の大工場へ売られていることもある。

製造活動(中小企業に分類される)の例には、金属加工、大工、仕立て、絨毯作り、在宅での衣料品製造、肩掛けバッグとリュックサック作り、セメントブロック作り、キノコ栽培などがある。

BOX14 インド

成功しているベンチャー

総合開発センター(COD: Centre for Overall Development)は、南インドケララの開発非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)で、CBRプログラムを開始し、輸出用の天井ファンを作る工場を立ち上げ、40人の労働者を雇ったが、このうち、半数は障害のある人である。ファンのすべての部品は、電気モーターも含め、最初から地域で調達した原材料が使われている。ファンは高品質で、デリーの会社を通して、アラビア湾岸の国々に輸出されている。このプロジェクトは1つの村で行われているが、立ち上げのためにNGO、地域行政機関、銀行および企業間の広範囲な協力が必要であった。この工場は、労働者自らによって経営され、完璧な市場調査、高いながらも現実的な野心、効果的なネットワークの成功例である。

サービス提供(中小企業レベルの)の例には、自転車修理、テレビ・ラジオ修理、コピーとファックス、料理の屋台、製粉所、コンピューターやインターネットサービスなどがある。

BOX15 カンボジア

サービス提供の可能性を実現する

Digital Divide Data(DDD)は、障害のある人、ない人療法のために研修と雇用を提供するカンボジアにおけるプロジェクトである。その活動は大学図書館のデジタル化のようなアメリカ市場向けの、外注によるコンピューターデータの入力である。DDDは、障害のある人にコンピュータースキルを身につけさせることによって、彼らに国際市場での競争力をつけさせることに成功した。プロジェクトは、野心があり、自分自身を高めようと熱望し、潜在能力がある若者たちを引きつけている。

自助グループとグループ企業

すでに述べたように、インフォーマル経済は、低所得国の障害のある人にとって生計を立てる機会をもっとも提供することができる。しかしながら、インフォーマル経済の自営は年金がなく、その他の保証もない。自営業の人々は生活に何らかの保証を確保する方法を見つける必要がある。そのもっとも良い方法は、グループの会員になることである。自助グループを作ることが、地域社会開発と貧困削減の有力な道具となっている国もある。

「自助グループ」は、共通の目的のために集まる人々のグループに対する一般的な用語である。多くの場合、グループ貯蓄計画に沿って、お金を貯めるのが目的である。貯蓄はグループメンバーの個人が商売を始めたり拡大したり、または、グループがリスクを共有し、個人では不可能な規模の活動を行う共同企業として商売するのを支援するために使われることもある。しかし、グループのもっとも重要な機能は、人々が、共通の目的のために協力したり、社会的つながりを強化したり、地域社会開発を実現することである。

障害のある人は障害のない人のグループに参加することもあるし、自分たちのグループを作ることもある。この選択肢には賛否両論がある。障害のある人の中には、自信をつけたり能力を示したりするため、グループとして自分たちの力を発展させる必要を感じる人もいれば、統合を促すために障害のない人のグループに参加したい人もいるだろう。CBRプログラムは両方の可能性に敏感であり、これらを促す必要がある。(エンパワメント:自助グループ参照)

BOX16 マラウイ

成功した事業

ティティクク障害者グループ(Titikuku Disabled Group)は、マラウイのリロングウェで25人の障害のある人が共同企業を経営するために集まったグループである(Titikukuとは、「我々は自分自身を成長させなければならない」という意味)。地域の市場と自分たちの能力を注意深く検討して、彼らはキノコ栽培を選んだ。なぜか。地域のホテルからの需要があるからであった。栽培を始めるためには、木の枠にビニールシートを張った簡単な温室とキノコの胞子が必要なだけだった。技術は簡単で汚染物質を排出しない。肥料や農薬は必要ない。障害のある人には理想的で、重労働や土を掘り起こす必要もない。すべての作業過程は車いすに乗ったまま行える。キノコは軽くて簡単に自転車で運べる。知識や技術は必要だが、簡単に習得できる。ティティククは生産したものを全部売っても需要に追いつかない。

このようなコミュニティグループに必要な組織体系の種類は、その目的によって決まる。小規模な自助貯蓄グループは全面的に会員同士の信頼により成り立っている。ティティククグループで述べたキノコ栽培のような貯蓄と小規模企業には、インフォーマルな体系が一番良く機能するかもしれない。しかし、もっと複雑で大きな企業では、より多くの収入と財産が問題になるので、例えば財産の盗難から会員を守ることなどを目的とした法律の規制を受けるフォーマルなグループや協同組合の設立が一番良いだろう。企業が大きくなればなるほど、フォーマルな規制が必要になる。

グループがフォーマルかインフォーマルかに関わらず、原則は同じである。つまり、グループは、自助、平等、連帯の原則に沿った共同所有であり民主的に運営される企業でなければならない。健全な経営とは、定例会議の開催、役員の選出、正確に帳簿をつけること、すべての決定を記録することなどである。これらは、たとえ小さなインフォーマルグループであっても、会員同士の能力、自信、信頼を構築する過程で極めて重要なことである。

「協同組合」という言葉は、集合的な企業を指すグループとして、しばしば、時に漠然と、使われる。フォーマルな協同組合とは、会員によって運営され、法律によって規制される商業組合である。障害のある労働者のみの協同組合もあれば、障害のある人とない人の協同組合もある。協同組合を設立しようとする障害のある人は、協同組合の法律に精通し、適切な規則と規律に従う必要がある。

BOX17 フィリピン

みんなにとって良い取引

フィリピンの全国協同組合連合会に所属する12の第一次協同組合は、会員650人のほとんどすべてが障害のある人である。彼らは、身体障害、感覚障害、知的障害のある労働者である。連合会は、協同組合開発庁からフィリピンの障害のある人の第二次協同組合として唯一認証を受けている。その主な商品は、教育省のための学校の机と椅子の製造である。彼らのビジネスのモットーは「我々は同情から製品を買ってほしくありません。より良い取引なのでお買いください」である。

障害のある労働者のグループが関わる経済活動の中には、自営そのものではないものもある。実際に労働者自身によって所有、経営されていない保護作業所(シェルタードワークショップ)もしくは生産工場(プロダクションワークショップ)、および社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)は、自営にあたらない。

推奨される活動

市場の機会を見出す

どんな規模や種類のビジネスが提案されたとしても、個人あるいはグループであろうとも、CBRプログラムにとって市場の正しい調査をすることは極めて重要である。市場分析には3つの主な要素がある。

  1. 満たされていないニーズ、あるいは部分的に満たされているニーズを見出す。
  2. 製造販売に関係する技術を研究する。
  3. 個人やグループの興味や能力に合ったモノやサービスを選ぶ。

満たされていないニーズを見出すということは、すでに明白であることの先を考えることである。キノコを生産しているティティクク障害者グループ(BOX16参照)は、ホテルで需要があっても地域の市場では売られていなかった商品を見出した。天井ファンを生産しているケララのグループ(BOX14参照)は、地域の需要に限定することなく、もっと大きな市場が自分たちのコミュニティを越えて存在していることに気づいた。

キノコ栽培の技術は簡単だが、マラウイでグループが結成されたころは、よく知られていなかった。ティティククは、教会の牧師から関係する技術を学び、リロングウェ大学農学部から研修を受けた。天井ファンの製造技術はもっと複雑だが、CBRプログラムは、この工場が天井ファンを売る会社を通じて必要な製造技術の研修を受けられるよう手配した。

ティティククによって選ばれた商品、つまりキノコは、限られた移動能力のグループにうってつけだった。清潔で、軽くて、重労働が必要無いからである。技術的にはもっと複雑な天井ファンも、障害のある人にとって簡単に作ることができた。

特に農村部において、活動を環境に合わせること

自営の機会は、フォーマル経済、インフォーマル経済を問わず、農村部に比べて都市部で多くなっている。農村部から多くの人が、障害のある人も含めて、より良いサービスと労働の機会を求めて、しばしば町に移住する。農村部と都市部のCBRプログラムは、環境に適切な自営活動を見つける必要がある。特に農村部では、選択肢がより限られていることから、障害のある人が町へ移住することなく家族の暮らしに貢献できるような方法を見つけることが必要である。例えば、農村部では多くの家族が、自分の土地を所有しているか否かに関わらず、鶏、豚、ヤギ、牛などの動物を飼っている。より優れた畜産を営むことは、そのような家族が暮らしを改善するのに良い方法であり、障害のある人は、多くの場合、自宅で動物の世話をするのに主要な責任者となることができる。CBRプログラムは、家庭で生産されたモノの市場を探すことができる。

BOX18 フィリピン

サンディは生産的な生活に向けて人力三輪車を走らせる

サンディはフィリピンのアルバイ州タバコ市の貧しい家庭の生まれである。子どもの頃からサンディは、知的障害のため、家族、特に母親に依存していた。1997年、彼が10歳の時、タバコ市役所のCBRプログラムが初めて彼に接触し、彼の生活が変わり始めた。CBRのおかげで、サンディの母親は、息子の障害や彼の(生活の質(QOL:Quality of Life)を改善するために何ができるかを理解し始めた。多くの困難や差別に直面したが、サンディは小学校を卒業し、国立サン・ロレンツォ高等学校(San Lorenzo National High School)の特別支援教育学級に入学した。学校時代、サンディは簡単な食べ物の料理法や市場への行き方、コンピューターの使い方、ろうそくやその他の手工芸品の作り方を学んだ。しかし、彼は勉強に飽き飽きしてきた。17歳の時、彼は自分で収入を得る機会を探し始めた。

面白いことの好きな10代の若者と同じように、サンディは自転車で走り回るのが好きだった。ついにはこれで収入を得る方法を思いついた。彼は両親に人力三輪車を買ってくれるように頼んだ。両親にはそれを買う余裕はなかったが、サンディはそれを月賦で両親に支払うという条件で買うことを納得させることに成功した。彼は約束を守った。彼は人力三輪車でそれなりの収入を得ることができ、生活必需品と医療費を賄い、家族に収入をもたらした。また、彼の新しい役割によって、コミュニティの考え方が変わり、彼は差別を受けなくなった。代わりに人々は自分たちの活動にサンディを誘った。サンディは「自分には学習障害があるので、自立し、生産的な生活を送り、差別せず障害を受け入れてくれる理解ある家族やコミュニティをもち、そしてもちろん明るい未来像をもつことはとても大事なんです」と述べている。

個人の選択を保証する

人がどんな種類の仕事に就くか選択することは、その人の決断であり、本人の興味、スキル、資質によって決まるべきである。CBRプログラムは以下のことができる。

  • 本人の興味を明らかにする支援をする。
  • 家族から得られる支援を明らかにする。
  • 所得創出のために使うことができる本人のスキルや資質を明らかにする支援をする。
  • もし適切なら、障害のある人や障害のある子の親に、グループによる所得創出活動に参加するよう勧める。
  • 障害のある女性が所得創出活動に従事できるように特別な注意を払って支援する。
  • 成功した障害のある事業主が、他の障害のある人のトレーナーになるよう支援する。

BOX19 アンゴラ

ペドロの起業家精神

ペドロは障害のあるアンゴラの青年で、たくさんのアイディアをもっている。彼は子どもの時のポリオが原因で障害が残ったが、明るく手が器用だった。彼には観賞魚の水槽を作るアイディアをもっていた。水槽を上手に作り、それを上手に売った。しかし、もっと大きな水槽を作り、もっと良い市場を得るには、アンゴラでは入手しにくいポンプとフィルターが必要だった。CBRのプロジェクトチームは彼の起業家精神に気づき、2008年の民間企業と小企業のためのウイラ展示会参加のためのスポンサーになることを決定した。

展示会で自分の製品を発表した後、ペドロは必要としているポンプとフィルターを入手し、水槽を売ってもらえるいくつかの店と連絡を取ることができた。CBRのプロジェクトチームは彼に法律に関する助言をし、経営・会計の研修プログラムに参加する資金を提供した。ペドロは、一旦商売が動き始めたら他の障害のある人のトレーニングや募集をすると約束した。

ロールモデルを見出す

障害のある人には自営に挑戦しようと奮い立たせてくれる積極的なロールモデルが必要である。成功した障害のある起業家は多くのコミュニティに存在する。もし彼らをCBRプログラムのネットワークに組み入れたら、彼らは他の障害のある人を奮い立たせるだけではなく、社会の態度を変えることができる。

障害のある女性を勇気づけ、支援する

所得創出活動は障害のある女性に、家庭の収入を補う方法を提供することができる。しかし、障害のある女性は、ビジネス活動に参加しようとしても障壁に直面することが多い。このような障壁は、家事や育児をこなす責任を負っていること、教育や職業スキルの欠如、女性がするべき事に対する文化的な態度、そしてリソースの欠如から生まれる障壁であることがある。CBRプログラムは障害のある女性が家庭で、またはコミュニティで、所得創出活動を開始し、拡大し、自助グループやグループ企業に参加できるよう、特別な努力を払う必要がある。子どもの世話、基礎ビジネス研修や職業スキルトレーニング、障害のある女性のための自助グループ設立などに、特別な支援が必要なこともある。

地域の行政や主流の組織とパートナーシップを構築する

貧困緩和は、政府や開発機関、CBRプログラムの明白な優先事項である。CBRプログラムは貧困削減に関するプログラム、および経験をもつ地域の行政機関や主流の開発機関とパートナーシップを構築することで、障害のある人が経済状況を改善するための最善の支援ができる。戦略には以下のことが含まれる。

  • 主流の政府・非政府の小企業開発プログラムに対し、それらが提供するサービスや支援に、障害のある人が確実に包容される方針を採用し実践することを促す。
  • 主流の貧困削減プログラムと開発プログラムに対し、障害のある人の包容を促す。

BOX20 インド

積立貯蓄とマイクロクレジット(小規模ローン)で貧困を削減する

マルチドナー(複数の出資者)の機関がインド、アーンドラプラデーシュ州で資金を提供した貧困緩和プロジェクトは、女性の収入およびその管理権限を増大させることによって、彼女らをエンパワーすることに焦点を置いている。その戦略は積立貯蓄とマイクロクレジットに基づいており、障害のある人もプログラムに組み込まれている。同じ州の多くのCBRプログラムがこのプログラムとパートナーシップを構築した。

  • 障害のある人の生計ニーズに注意を向けさせ、障害者が地域の経済開発イニシアティブに参加できるように、障害当事者者団体を促し支援する。

BOX21 中国

成功したロビー活動

中国の黒竜江省では、中国障害者連盟(China Disabled Persons’ Federation(CDPF))が主流のトレーニングセンターやプログラムに障害のある人の参加を義務付ける政策を採用するよう、省政府に働きかけ、成功した。その結果、グリーン証明書(Green Certificate)と呼ばれる主要な農業研修イニシアティブが多くの障害のある人に研修とビジネス開発サービスを提供している。また、リハビリテーション基金(中国の障害者雇用率制度に基づいたもの)から提供された資金で多くの障害のある人が自分のビジネスを始めている。

  • ビジネス開発サービスを提供する主流の機関と協力関係を構築する

BOX22 エチオピア

女性の起業家精神を促す

エチオピアにおける女性のための起業家精神開発プログラムには、障害のある女性も組織的に含まれている。プログラムは、基礎的なビジネススキルトレーニング、ビジネス開発サービス、信用取引の利用機会の提供の他、女性の起業家協会を強化する活動を行っている。障害のある1人の起業家が、ある地域の女性起業家協会の会長になった。

設立資金の利用を容易にする

どんな種類の自営活動を計画しても、設立資金が必要になる。資金の調達には主に4つの方法がある。個人あるいは家族資金、貯蓄、信用取引、補助金である。CBRプログラムは、障害のある人の資金調達スキルの開発と設立資金の利用を支援することができる(生計:金融サービス参照)。

BOX23 ガーナ

エキューアのチョップバー

エキューアはガーナのボレ出身の65歳である。約38年前、彼女は緑内障で失明した。彼女の家族には、他に同じ原因で視覚障害となったとみられる者が6名いるので、失明の家族歴があると言われている。エキューアは結婚しており、2人の娘と4人の息子の計6人の子どもがいるが、現在彼らは成人し、結婚してそれぞれの家族と暮らしている。

失明する前、エキューアは美容師で、夫は食料品の商人だった。エキューアが視力を失い始めたころ、彼女は孤独、怠惰、差別、あきらめ、そして苦痛を経験した。

エキューアは、地域のCBRプログラムのリハビリテーションプロセスを通して、新しい生活を受け入れ、生活に自信を取り戻し、収入活動に再び従事するためのスキルを再構築することができた。しばらくして、エキューアはローカルなレストラン(「チョップバー」)を開き、ケンケ(トウモロコシでできた地域の主食で、魚のフライや唐辛子と一緒に食べる)を売って積極的な社会生活に戻った。店彼女はこの事業を始めるにあたり貸付機関を利用するため、地域の信用組合とつながった。

毎朝、特に村の市場の日には、エキューアのバーで温かいケンケと魚のフライを求めるお客の列を見ることができる。エキューアは家族とコミュニティに対する積極的な貢献者になった。