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CBRガイドライン・生計コンポーネント

金融サービス

はじめに

金融サービスには、貯蓄、貸付、補助金、保険、送金サービスがある。マイクロクレジット(小規模ローン)とは、中でも、小規模融資と顧客の貸付ニーズを指す。一方、マイクロファイナンスは、広範囲の金融サービスを指す。例えば、貯蓄、保険、住宅ローン、送金など、個人や小規模な事業で利用が可能なものである。地域のマイクロファイナンス機関は小規模金融に加えて起業・生活スキルトレーニングのような開発活動を提供することもある。また、保健や栄養、公衆衛生、生活環境を改善すること、子どもの教育の重要性などのテーマについての助言を提供することもある。

家族、宗教団体、隣人、友人、自助グループというコミュニティ内部からのインフォーマルな金融支援は、常に貧しいコミュニティの特徴であり、生き延びるために依然として重要である。よりフォーマルなマイクロファイナンスプロバイダーには、協同組合、村立銀行、貯蓄貸付組合、伝統的な金融業者、商業銀行、マイクロファイナンス機関がある。このようなサービスは、貧しい人々が高利貸しや質屋から逃れるのにも役立つ。高利貸しや質屋は通常金利が高く、最終的に家族をさらなる貧困へ陥れる。貧しい人の多くは、見返り担保が無く保証人もいないので、金融サービスを利用できない。一方、障害のある人の多くは不動産あるいは住んでいる場所に関する正式な書類すら持っていないため、金融サービスが利用できない。CBRは、必要に応じて、働きかけたり、仲介する必要がある。

BOX31 ラオス

所得創出活動を支援するための金融サービス

障害のある人は、所得創出活動を支援する金融サービスの利用が一般的に困難である。これに対応するため、ラオスのサワンナケート県の人里離れた地区で行われたCBRプロジェクトは、障害のある人とそれ以外のコミュニティの人々が共同で問題を解決するための選択肢の1つとして、村立貯蓄基金(Village Saving Funds)を設立するための支援を提供している。

ラオスのセーポーン郡にあるフォクサイ村では、障害のある人と障害のない人からなる村立金融委員会(Village Financial Committee)が設立された。CBRプロジェクトチームは村のために、貯蓄、管理、会計に関する研修を提供した。基金の会員資格は、誰も排除することなくすべての村の住民に開放され、障害のある人もコミュニティにおける主流の意思決定プロセスに加わるようになった。基金の会員は、毎月いくらかの金額を預け、ここから回転貸付が提供される。障害のある人は収入を得る活動を行うために、融資を優先的に受ける。

BOX32 インド

集団貯蓄のために団結する

インド全土にはたくさんの自助グループがあり、集団貯蓄の金額が数百万ルピーに達している。この金融資産があるので、自助グループは貯蓄を担保として使い、多額の融資を銀行から受けて、さらに大きなプロジェクトを行うことや、貧困から逃れることが可能になっている。

ある障害者の自助グループは、会員が12名(男9名、女3名)おり、その内10名はポリオによる障害があり、他には聴覚障害者と学習障害者がそれぞれ1名ずついる。

各会員は、月に30ルピー(約0.66USドル)を貯蓄する。グループ全体では1か月に360ルピー(約8USドル)が集まり、これは銀行に預けられる。グループの会員は、グループから融資を受けることができるが、返済には月に2パーセント(年24パーセント)の利子が含まれ、返済期間は通常6か月以内となっている。

以下は、グループの貯蓄から会員に行われた融資の例である。

  • ある女性は1,000ルピー(約22.2USドル)を、線香を作る材料の購入のために借りた。彼女はこの手工芸で得られる収入で母親を扶養している。
  • 別の女性は、刺繍の材料のため1,000ルピー(約22.2USドル)を借りた。彼女は週に300ルピー(約6.6USドル)を稼ぎ、高齢の母親を扶養している。彼女は刺繍のスキルを政府のトレーニングプログラムで学んだ。
  • グループのある若い男性は、大学の授業料として500ルピー(約11USドル)借りた。彼は教師になるため、経済学と市政学を勉強している。彼は政府から奨学金をもらうことになっているが、奨学金は年末に支払われ、彼はその前にお金が必要だったので、奨学金を受け取ったら、自助グループに返済することにしている。

利子はグループで決定する。この融資で支払われるすべての利子は、グループの収入になるため、個々のメンバーの損失にはならないのである。

目標

障害のある人とその家族は、自身の経済・その他の活動の発展を支え、生活水準を改善するため、平等に金融サービスを利用できる。

CBRの役割

CBRの役割は、障害のある人が利用できる金融サービスを明らかにし、その利用を支援し、促進することである。

望ましい成果

  • 障害のある人は、貧困基準に基づき、政府や民間機関からの補助金、融資、その他金融支援計画を利用できる。
  • 金融サービスを利用することで、障害のある人がニーズを満たしたり、収入を得るために小さな事業を始め、発展させることができる。
  • 障害のある人、特に女性は、自分の金融資産を掌握し、より良く管理することができる。
  • 金融サービスプロバイダーは障害のある人を含めるように規則やサービス、環境を適応させる。

主要概念

金融サービスの種類

金融には主に、貯蓄、貸付、補助金、保険、送金の5つのサービスがある。

貯蓄

貯蓄は自助努力に価値を置く習慣である。たとえ極めて少額でも貯蓄を定期的に行うことは、必死に生き延びようとしている人に、金銭管理を学ぶ実践的な機会を提供する。貯蓄は、金融資本を生み、個人の自己価値観とグループの連帯感を高め、金融サービスを利用するための信用度を確立する。誰も貧しすぎて貯蓄できないなどと考えられるべきではない。また、障害がある事を貯蓄できない理由にすべきではないし、障害のある人は障害を貯蓄しない理由に使うべきではない。

貯蓄は、教育や研修、商業活動に投資することができる。多くの新しい商業活動は、何らかの個人貯蓄を必要とする。貸付機関は、現金でも現物でも貯める能力が証明できない新しい会員に対して、普通は、好感は抱かないだろう。

貸付

貸付とは、決められた期限内に利子も付けて払い戻されるべき融資である。貸付は自助グループや貸付貯蓄協同組合、マイクロファイナンス機関、商業銀行などさまざまな方法で提供される。

補助金

補助金は、現金もしくは道具や設備、動物、農機具のような現物であることがある。これらは、政府のプログラム、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)、財団、地域の協会、弱い立場の人々のグループを助けるために策定されたプログラムから入手できることが多い。

保険

保険にはさまざまな種類がある。例えば、農作物保険、生命保険、健康保険である。時には、金融サービスプロバイダーは、融資を補完するものとして保険を提供する。また障害保険を提供する場合もある。これは、起こり得る障害に関連する経済的苦境を避けるための、重要な予防的メカニズムである。

送金システム

働けない人や自分のコミュニティ外の人からの支援に頼る人にとって、効率的で使いやすい送金システムを利用できることは重要になる。国によっては、銀行と結びついていないインフォーマルなシステムが利用されている。送金システムの利用は事業を始めるために必要になることがある。

金融サービスプロバイダーの種類

金融サービスプロバイダーは、大きく3つに分類できる。専門プロバイダー、インフォーマルプロバイダー、専門でないプロバイダーである。

専門プロバイダー

組織によって異なる金融サービスを提供する。例えば、保険会社は保険を提供し、Western Unionのような送金会社は、送金サービスを提供する。規制を受けている商業銀行は通常、すべての金融サービスを提供するが、郵便貯金銀行はしばしば預金口座だけ提供する。NGOとして法人組織になり得る専門マイクロファイナンス機関、金融会社、あるいは銀行でもしばしば貸付だけ提供しているが、貯蓄や送金、保険サービスの提供も増えてきている。貯蓄貸付協同組合は組合員に貯蓄と貸付のサービスを提供する。

インフォーマルプロバイダー

自己管理グループの中で、もっとも一般的なのは、国によっては「メリーゴーランド」システム、あるいは別名でと呼ばれている回転貸付基金である。このシステムでは、あるグループの人々が自発的に少額のお金を、毎週あるいは毎月、共通の「壺」に支払い、その総額を1回につき1人の会員に貸付けたり、補助金として分配するものである。このシステムとグループは回転型貯蓄信用講(ROSCA :Rotating Savings and Credit Association)としても知られている。これはまた、数多くある自助グループのもっとも一般的な活動の1つである(生計:所得創出(自営を含む)およびエンパワメント:自助グループ参照)。

簡単に貯蓄ができ、特別な支出を賄うために定期的にまとまったお金を受け取ることができるこのような伝統的な施策は、コミュニティレベルでの効率的な銀行機能を果たしている。これらインフォーマルなシステムは、コミュニティ内部でその地域の貯蓄を活用し、保持し、概して信頼で運営されることから、グループの強い連帯や社会資本を構築している。

専門でないプロバイダー

専門でないNGO、宗教団体、障害当事者団体、政府機関は、補助金や融資の形で金融サービスを提供することが多い。専門でない組織は金融サービスの提供が主要業務ではないが、付加的な活動として金融サービスを提供する。

専門でないプロバイダーは以下のことが長所である。

  • 融資は技術やビジネススキルトレーニングと組み合わせて提供されることがある。
  • それらは現金、あるいは現物によることもある。例えば、スキルトレーニングコースのあとに研修生は道具一式、ミシン、車いすのような支援機器を受け取ることがある。

以下が短所である。

  • 融資サービスを運営するために必要な時間と専門的スキルは、しばしば過小評価される。
  • 障害のある顧客の事前審査は寛大であることがあるので、融資を上手に使うことに関心や才能が無い人でも選ばれる。
  • 金利はしばしば補助され、返済の執行はいい加減である。
  • 貸付制度を運営する費用は、結果に比べて不釣り合いに大きい場合がある。特に、返済率が低いため、融資の資本は減っていき、計画が全体的に持続できない可能性がある。

推奨される活動

貯蓄の習慣を促す

貯蓄は特に貧しくて弱い立場の人にとっては、生計を向上させるための金銭的な土台である。貯蓄の習慣を学んでいない人に、借金を勧めてはいけない。貯蓄は人に犠牲の習慣と将来のニーズのために何かを取っておく習慣を教えてくれる。この知識と習慣は、将来のどんな融資においても完済に欠くことのできないものである。同時に、資産を築くことで、主流のマイクロファイナンスサービスを利用しやすくなり、効果的にマイクロクレジットを利用できることにもつながる。

ROSCAのようなインフォーマルな貯蓄グループの会員になると、金融サービスを利用することができる。しかしながら、そのようなグループへの参加は障害のある人が週1回あるいは月1回の定額貯蓄を行う意思と能力があることを意味する。またそのグループは障害のある人を会員として喜んで受け入れる必要がある。これはしばしば難しいことが証明されている。社会全体と同様、これらのグループも障害のある人を排除する傾向があるからである。その結果、障害のある人の中には自分たちのROSCAを作る人たちもいる。

CBRプログラムは、障害のある人とその家族に以下の方法で貯蓄することを教えたり、意欲を起こさせることができる。

  • 障害のある人同士で貯蓄グループを組織するよう促す。
  • 信頼できる機関に個人が銀行口座を開くよう支援する。
  • 障害のある人が自助グループや同様の貯蓄グループの会員になるよう支援する。
  • 管理や金融マネージメントについての会員の能力を育成する。

BOX33 インド

インクルーシブな自助グループは違いをもたらす

インド、デリーの6つのスラム地域で活動しているNGOであるChetanalyaは、障害のある人を含む貧しい人々が自助グループを立ち上げるよう促している。自助グループを通じて生み出された資本の規模や額は、多くの貧しい人々の生活に大きな違いをもたらしている。Chetanalyaは、プログラムのある6つの地域に578の自助グループをもち、その貯蓄は相当量ある。典型的なグループによる1年に渡る貯蓄は、家の改修、借金の返済、光熱費、教育、旅行、結婚、事業、車の修理、医療費、葬式代、人力車購入、祭りの費用、小さな店の開店、銀行口座開設、ガスボンベ・教科書・テレビの購入のために使われた。

このプログラムでは、障害のある人や障害のある子どもの母親は、主流の自助グループに統合され、自分たちの自助グループは作らない。障害のある会員の割合は約6パーセントである。

自己排除に立ち向かうのを支援する

子ども時代に排除と拒絶を繰り返し経験すると、過保護と同様に、自尊心や自信の欠如を招くことがある。これはマイクロクレジットのようなサービスからの自己排除に簡単につながる。別の種類の自己排除としては、障害のある人は慈善を受ける権利があるという一部の障害のある人や家族の期待である。

自己排除の障壁は打ち破るのが困難かもしれないが、この挑戦に立ち向かわなければ障害のある人は他の種類の介入の恩恵も受けられないだろう。障害のある人や家族にとって自己排除に立ち向かうことが、障害のある人や家族にとってもっとも重要な責務である。障害当事者団体とCBRプログラムは丁寧できめこまかなアドバイスと相談によって、彼らがこの責任を果たすのを支援するという重要な役割をもっている。

BOX34 ウガンダ

Ocakの自転車修理店

ウガンダのオカックは子どもの時ポリオになり、そのため重度の移動障害が残り、自信を失った。彼は、家族を養うことができるようになるとは考えていなかった。しかし、CBRプログラムで自転車修理の研修を受けた。研修場所については、経験豊かな自転車修理業者と交渉した。3か月後、オカックは必要なスキルを獲得しただけでなく、基本的な手工具のセットを購入するのに十分な現金を貯めることができた。オカックは現在では、木の下で大変良い商売を行っており、常に客の列ができている。また、4人の研修生(その内2名が障害のある人である)を引き受けていて、スペア部品の在庫ももっている。彼はマイクロファイナンス機関に口座を開くことを計画しており、いずれ恒久的な作業場を建設するための融資を受けたいと望んでいる。

ロールモデルを見出す

障害のある人には、自営に挑戦しようと奮い立たせてくれる積極的なロールモデルが必要である。成功した障害のある起業家は多くのコミュニティに存在する。もし彼らをCBRプログラムのネットワークに組み入れたら、彼らは他の障害のある人を奮い立たせるだけではなく、社会全体の態度、特にマイクロファイナンスコミュニティを変えることができるだろう。

BOX35 中国

ワンはロールモデルになった

中国の山岳地域に住むワンは、事故で視力を失った。これは彼の家族にとっては悲劇だった。なぜなら、彼はもう農民として働くことができず、家族を支えることができないことを意味するからである。しかし、地域のCBRプログラムを通して、移動と自立のためのスキルを教わった。彼はマッサージのトレーニングを受け、近くの町で商売を始めるための融資を受けた。現在、彼は繁盛しているマッサージ店を経営しており、10人の視覚障害のある人を雇っている。家族を支え、双子の娘を教育するのに十分な稼ぎもある。また60人の視覚障害のある人にマッサージのトレーニングを施した。彼の地域では彼は、障害のある人のロールモデルとなっている。

主流の金融サービスの利用を促す

障害のある人は障害のない人と平等の条件で金融サービスを利用できるべきである。金融サービスプロバイダーは、物理的、あるいは文化的な障壁や職員の否定的な態度が原因となり、障害のある人を排除しがちである。CBRプログラムは以下の方法でサービスの利用を促すことができる。

  • 障害のある人が主流の金融サービスを平等に利用できるよう提唱する。
  • 金融サービスプロバイダーを見出し、障害をもつ起業家を潜在的な顧客として紹介する。
  • 金融サービスプロバイダーが障害に敏感になるよう支援し、障害のある人を含む顧客ベースの拡大ができるようにする。
  • 資格をもった障害のある人を雇用するという考え方を金融サービスプロバイダーに促す。
  • 金融サービスプロバイダーが、障害をもつ顧客のニーズをこころにとめるよう促す。多様性に対してより敏感になるようトレーニングされたスタッフに加え、適切な環境整備はすべての顧客に歓迎されるだろう。
  • 障害のある人に金融サービスプロバイダーの利用方法や、サービスや義務に関して何が期待できるかを教育する。
  • 障害のある女性が金融サービスを利用できるよう支援する。障害のある女性は世帯主であることが多く、子どもや高齢の親の世話に責任を負い、家族のニーズがより満たされるよう金銭管理をしなければならない。

BOX36 エチオピア

融資の確保を支援する

エチオピアでは、ILOのプロジェクトのおかげで、小規模企業活動に従事している障害のある女性が、主流のマイクロファイナンス機関であるGasha MFIから貸付を受けることができる。ILOプロジェクトはGashaと交渉し、障害のある女性の貸付の申込みは、障害のない申請者と同じ基準を使って評価し認めることを取り決めた。「ハイリスク」としてみなされているこの顧客グループに対するマイクロファイナンス機関の貸し渋りを打開するために、信用保証基金が設立された。プロジェクトはさらに、この機関の職員に障害啓発の研修を行った。これまでに150人以上の障害のある女性が、この主流のマイクロファイナンス機関から貸付を受けている。