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CBRガイドライン・社会コンポーネント

文化・芸術

はじめに

「文化」という言葉には多くの異なる意味がある。ここではあるグループの集団の暮らし方という意味で使うことにする。したがって、文化には、着るもの、食べ物、言語、価値観や信念、宗教、儀式や慣習など多くのことが含まれる。芸術は、文化と密接に関連していて、絵画、音楽、舞踊、文学、映像、写真などが含まれる。

地域の文化活動や芸術活動に障害のある人が加わったり、参加できるように支援したりすることは必要ないと思っている人がいるようである。創造性、自己表現、精神性といったものは、障害のある人には重要でないと見られることが多く、家族の多くが、障害のある身内を保健医療施設などには連れて行こうとはするが、地域の文化的な催しに連れて行くことが重要であるとは思わないようである。

文化的な生活に参加する機会は、人としての権利であり(下記BOX12参照)個人にとっても、家族、地域や社会全体にとっても有益である。

BOX12

障害者権利条約第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加(2)

  1. 締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、次のことを確保するための全ての適当な措置をとる。
    (a) 障害者が、利用しやすい様式を通じて、文化的な作品を享受する機会を有すること。
    (b) 障害者が、利用しやすい様式を通じて、テレビジョン番組、映画、演劇その他の文化的な活動を享受する機会を有すること。
    (c) 障害者が、文化的な公演又はサービスが行われる場所(例えば、劇場、博物館、映画館、図書館、観光サービス)を利用する機会を有すること。
  2. 締約国は、自己の創造的、芸術的及び知的な潜在能力を開発し、及び活用する機会を有することを可能とするための適当な措置をとる。
  3. 締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法律が、障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保するための全ての適当な措置をとる。
  4. 障害者は、他の者との平等を基礎として、その独自の文化的及び言語的な同一性(手話及び聾文化を含む。)の承認及び支持を受ける権利を有する。

BOX13 コロンビア

芸術を取り入れて、子どものリハビリテーションを楽しくする

コミュニティへの統合をめざす障害児の友(FANDIC:Friends of Children with Disability for their Integration into the Community)は、障害のある子どもと活動するコロンビアのブカラマンガにある財団である。その使命は、CBRを通して障害のある子どもを社会に統合することである。その事業の1つ、障害のある子どものダンス事業の目的は以下である。

  • 身体的・芸術的な能力開発の機会を与える。
  • チームワークや統合を奨励する。
  • 個人、地域、組織や政府などさまざまなレベルで、障害についての意識を高める。

5~21歳の身体ならびに知的障害のある若者12名がダンスグループに参加する。その兄弟姉妹の参加も促して、家族ぐるみで関わり溶け込んでいくよう奨励する。プロのダンサーと契約し、週に1回、子どもたちを教えてもらう。週の残りの日は、ボランティアが子どもたちと練習する。子どもたちは、はじめは簡単なダンスを教えてもらい、上達するにつれてより複雑なダンスに進む。ダンスに加えて、ストレッチや身体を強化する体操も行い、その他の社会活動にも参加する。子どもたちは、いつも愛情と情熱とほめ言葉で励まされ、自分たち自身の能力に自信をつけていく。

FANDICは、ダンスが以下の点で優れた戦略である証明になることに気がついた。

  • 障害のある子どもにとってリハビリテーションを楽しい活動にする。
  • 障害のある子どもの機能を改善する。
  • コミュニケーションの機会や人と交わる機会を創出する。
  • 障害のある子どもと家族やその他の人たちとの関係を改善する。
  • 障害のある人に対する態度が生み出す障壁を打ち破る。

目標

障害のある人が家族や地域の文化的、芸術的な生活に貢献し、参加するようになる。

CBRの役割

CBRプログラムの役割は、関係者とともに、障害のある人たちが文化的、芸術的な活動に参加し、楽しめるようにすることである。

望ましい結果

  • 文化や芸術を通して、障害に対するスティグマや差別に挑み、解決のための努力がなされる。
  • 障害のある人やその家族が幅広い文化的、芸術的な催しや活動に参加する。
  • 主流の団体やグループがその文化的、芸術的なプログラムや活動に障害のある人を含むことを支援する。
  • 障害のある人が、主流の文化的・芸術的な媒体や場所にアクセスできる。
  • 精神的・宗教的指導者やグループが、その活動に障害のある人の参加を受容する。

主要概念

参加の仕方

障害のある人がその家族やコミュニティの文化的、芸術的な生活に受け入れられる方法は、多く存在する。直接的に作品の制作や監督に携わったり、書いたり、演じたりする積極的な参加者にもなれるし、ドラマや映画を観たり、伝統的な衣服を着たりして楽しむ受動的な参加者にもなれる。

参加の効用

文化的、芸術的活動への参加は、人を楽しませるだけでなく、それを楽しむ1人1人に自分が何者であるかを教えてくれる。参加の過程は、参加する個人をエンパワーするものであり、自分自身の声に気づき、他の人たちにその声を聞いてもらうのに役立つ。そして健康上の効用も多くある。障害のある人の中には、文化や芸術に根ざした活動によってのみ自分の思うように、また他と対等な立場で、完全に自身を表現することが出来る人がいるのである。

コミュニティに文化・芸術活動があることは、地域住民の幸福に大きくつながる。これらの活動は、コミュニティ内の、またコミュニティ間の関係を広げ、強めることができ、コミュニティ内の能力を形成し、地域社会の開発や再生を推進することが出来る。地域の文化的、芸術的な活動に障害のある人が含まれていることは、地域住民が障害に対して肯定的な態度であることを適切に示している。

社会変革を推進する手段としての文化と芸術

芸術は、昔から抑圧的で差別的な行為に対して問いかけ立ち向かう、非暴力的な手段であるとみなされてきた。それは、疎外された人たちが声をあげ、デリケートでタブーになっている事柄に光を当てることのできる、極めて限られた安全な手段の1つである。障害のある人は、たびたび芸術を通して主流の障害に関する問題の描かれ方に立ち向かってきた。芸術は、障害のある人にとって世界をインクルーシブに描く手段になり得るのである。

BOX14 バングラデシュ

暗やみ(7)

2003年12月、バングラデシュのダッカにあるドゥルパッドギャラリーでSeeing in the Dark展が成功裏に催された。展覧会は、身体障害者のための社会的援助およびリハビリテーション(SARPV:Social Assistance and Rehabilitation for the Physically Vulnerable)とヘルスリンク・ワールドワイド(Healthlink Worldwide)という団体が協働して提言のためのコミュニケーションプロジェクトの一環として開催したものである。25名の視覚障害者、5名の身体障害者、そして1名の国際的な芸術家からなる作業グループも展覧会に関与した。それは単なるアートの展覧会を超えていて、障害のある人が日常生活で遭遇する障壁をシュミレーションしたものであった。ギャラリーは真っ暗闇で、音と触感によりダッカの生活が再現されているが、そこには人力車や庭、歩道や店もあるのだった。来場者は、視覚障害者ガイドの誘導により歩き回るように促される。一巡すると落書き用の壁があって、来場者はそこに印象や感想、フィードバックを書くように奨められる。この展覧会の成果としては、来場者の障害に関する意識を高めたこと、制作者と来場者との合作によって成果が生まれたこと、そして、バングラデシュ銀行が、視覚障害者にとって紙幣が同じサイズであるため識別が難しいことを受け、何らかの手立てを講じることを約束したことなどである。

障害者による芸術活動

多くの国において障害のある人は、自尊心を高め、障壁を無くす意識を高め、地域の中で連帯していく手段として芸術を活用している。演劇、ダンス、文学や視覚芸術などはみな、人権に基づく障害アプローチを推進するものとして用いられてきた。手話ソングや車いすダンス、その他斬新なものが地域に住む創造力豊かな個人やグループから生まれてきている。精神衛生上の問題を抱える人の中には、執筆や演奏・演技、視覚芸術などが、感情表現や経験を共有する上で強力な手段になり得るのである。

ロールモデル

障害のある芸術家の多くが、国内のみならず国際的にも認められ、活躍するほどに障害に対する意識を高め、勇気を与えるロールモデルになっている。また多くの芸術家がその才能とエネルギーをインクルーシブな地域開発に注いでいる。

BOX15

意識を広める平和大使

2009年12月3日(国際障害者デー)に、国連は、有名なシンガーソングライターのスティビー・ワンダーを、障害のある人に焦点を当てた国連平和大使に任命した。平和大使とは、芸術や学術、文学、スポーツ、芸能の領域でその才能を広く認められている個人で、国連の理念や活動の周知に協力する人たちである。平和大使として公の場所に登場し、国際メディアに取り上げられ、人道的な活動をすることで、国連があらゆるところでどのように人々の生活改善に努力しているか、一般社会の理解と関心を高めている(8)

推奨される活動

社会変革に向けた文化と芸術を推進する

障害に関する提言や啓発キャンペーンは、地域に根ざした文化・芸術的な媒体を通して行う方がより効果的であることが多い。それゆえ、CBRプログラムは、障害に関し、地域の媒体を通して社会を変えていくようにするべきである。CBRプログラムでは以下のことが可能である。

  • アーティストと組んで、演劇やアート、音楽のイベントを催し、そのコミュニティに存在する障害、スティグマや差別に立ち向かう。
  • タブーとされていることに関しては、コメディや漫画、大衆芸術など軽いタッチであまり深刻に迫らない方法で取り上げる。
  • 障害のある人や障害の肯定的な面をドラマや映画、演劇など文化・芸術の媒体を通して伝えていくことを後押しする。

BOX16 マリ

文化的な学びの場に投資する

アマドゥとマリアムは、マリ出身の国際的に著名な大物ミュージシャンである。2人は、障害問題に対してもその才能を発揮して固定観念を打ち破ろうとしている。彼らは、障害のある若者が夢や願望を実現できるように、彼らが技術や才能を磨ける機会をもてるよう、文化的なトレーニングプログラムの実施に力を注いでいる。

家族の参加への支援

障害のある人の家族の多くが、スティグマや差別を恐れて文化的な催しに参加する勇気を失っているということを肝に銘じるべきである。彼らは結婚式場や礼拝の場、レストランや映画館で、当惑あるいは恥ずかしい思いをし、歓迎されないと感じることがあるだろう。CBRプログラムはそういった家族に取り組み、以下のような支援を与えることが大切である。

  • 家族の声を聴き、彼らが不安を言葉にし、そうした不安をもっていることを自覚して立ち向かうように勇気づける。
  • 同じような経験をして同じような思いでいる家族同士をつなげる。
  • そういった家族を地域の障害当事者団体とつないで、これまで抱いていた思い違いを分析し、彼らの自信や期待、向上心を高める。

障害のある人の参加を奨励する

CBRプログラムは、以下のような手段で、障害のある人が参加できるように働きかけることが可能である。

  • 障害のある人を障害当事者団体やグループにつなぎ、文化や芸術に同じような関心をもつ人たちと出会えるようにしたり、自信をもってさまざまな活動に参加できるようにする。
  • 障害のある芸術家の中で、その芸術作品を通してすでに評価されている人を見つけ出し、可能であれば活動の展開・実施に参加、協力してもらう。
  • さまざまな関係者とともに特定の障害アートプロジェクトを立ち上げる。
  • 障害のある人で、芸術に卓越し、無言劇などの新たな芸術の様式を開拓した人や、多くの観客の心を掴んだ芸術様式の開拓をした先駆者を支援し奨励する。
  • ダンスやドラマ、音楽を、障害のある人の補助的な療法として推進し、支援する。

主流の団体やグループと協働する

CBRプログラムには、主流の団体やグループが、その文化・芸術プログラムに障害者を受け入れるために必要な技術や自信を発展させていくために、彼らとともに取り組むという重要な役割がある。CBRプログラムでは以下のことが可能である。

  • さまざまな関係者とともに、障害のある人が溶け込んで受け入れられるように、(例えば公民館、礼拝所、映画館、観光地など)物理的アクセスを確かなものにするための建物の改修、アクセシブルな様式での情報や広報物の作成などの合理的な配慮がなされるようにする。
  • 女性組織との連携を開拓し、障害のある女性が主流の文化的なプログラムにより受け入れられるようにする。
  • インクルーシブな芸術教育を、幼年期の早い段階に、また学校において整備していくことによって、障害のある子どもが早いうちから文化・芸術的な活動に参加し、鑑賞する機会をもつことができるようにする。
  • 障害のある人や障害当事者団体が、障害やインクルージョンについての意識を高めるためのダイバーシティ(多様性)研修を文化・芸術プログラムのスタッフと開発・運営できるように支援する。
  • 文化・芸術プログラム内で見習い制度や雇用の機会を設けることを奨励し、障害のある人が積極的にそうしたプログラムの運営・管理に参加できるようにする。

BOX17 パレスチナ

主流の文化的プログラムへのインクルージョンを奨励する

2000年にパレスチナCBRプログラムで始められたささやかな試みは、障害のある子どもを夏のキャンプに参加させることであった。この試みは大成功して、その後、どの夏のキャンプにも障害のある子どもが参加することが当たり前になった。さらに、これらのキャンプの若手リーダーは、障害のある子どもたちを他の主流プログラムにも年間を通して受け入れるようにした。例えば、人気の高い子ども向けのお話であるシンデレラの主役に障害のある子どもを抜擢した。これは、障害に関して地域の人々の固定観念を打ち破り、意識を高めたばかりでなく、障害のある若者に前向きなロールモデルを示したのである。

精神的、宗教的指導者やグループとの協働

精神的・宗教的指導者は、力強い社会変革の唱道者になり得る反面、否定的な態度を増幅させてしまうことがある。CBRプログラムにとって大切なことは、地域内のすべての宗教の指導者とその信徒に対して彼らの活動に障害のある人を含めることを推進するよう働きかけることである。CBRプログラムでは以下のことが可能である。

  • 指導者の障害に対する意識を高め、宗教的・精神的活動に障害のある人を受け入れることの大切さを理解させる。
  • 指導者が、地域に暮らす障害のある人やその家族が受ける差別的で有害な行為に対して立ち向かうように奨励する。
  • 障害のある人が宗教的・精神的活動やプログラムに参加するために、パーソナルアシスタンスを利用できるようにする。
  • 障害のある人が情報にアクセスできるように、指導者たちに助言や支援をする。例えば、手話通訳つきの祈祷や賛美歌、詠唱、説教の提供、また大活字、音声、点字などを使用した聖句を利用可能にすることなどである。
  • 礼拝所を物理的にアクセスできるようにするため、また、宗教的な慣行を部分的に修正し、障害者に適応したものにするために、指導者とともに取り組む。