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CBRガイドライン概要版&CBRマトリックス使用の手引き

【導入】

CBRガイドラインについて

ガイドラインの背景

世界人口の少なくとも10%は障害を抱えており(WHO世界障害レポート2011にて、15%に修正)、その大多数が開発途上国で貧しい生活を送っていると推定されている。

地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)は当初、WHO(世界保健機関)によって始められ、1978年のプライマリー・ヘルス・ケア国際会議と、その結果発表されたアルマ・アタ宣言を受け、WHOによって推進された。CBRは、開発途上国における、障害のある人々のリハビリテーションサービスへのアクセスを改善する戦略と見なされ、過去30年以上の間にその規模はかなり拡大された。

2003年には、ヘルシンキで開催された「地域に根ざしたリハビリテーション再考のための国際会議」の結果、ILO(国際労働機関)・UNESCO(国連教育科学文化機関)・WHOによるジョイント・ポジション・ペーパーの中で、CBRは、「障害のある人々のリハビリテーション、機会均等化、貧困削減およびソーシャル・インクルージョンのための総合的な地域社会開発戦略」として再び位置づけられた。

CBRは現在90カ国以上で実施されている。本ガイドラインはCBRプログラムを進める方法についての指針を求める世界各地のCBR関係者からの要望に応えるものである。

本ガイドラインは国連障害者権利条約(CRPD)と選択議定書の影響を強く受けている。

ガイドラインの全般的な目的

  • CBRジョイント・ポジション・ペーパーおよび障害者権利条約に則したCBRプログラムの指針の提供
  • 貧困削減を目的とした開発に障害を主流として組み込む、地域に根ざしたインクルーシブな開発(CBID)戦略としてのCBRの促進
  • 障害のある人々と家族の基本的なニーズを満たし、生活の質の向上を図るため、関係者に対する支援
  • 障害のある人々とその家族のエンパワメントを促進するよう、関係者に促すこと

ガイドラインの対象領域

ガイドラインの焦点は、重要な概念を示し、CBRプログラムが目指すべき目標と成果を明らかにし、目標達成のための望ましい活動を提案することである。(ガイドラインを規範とすることを目的とはしていない)

ブックレット1-導入:障害、障害者権利条約、CBRの開発およびCBRマトリックスの概説

運営:CBRプログラムの開発と強化にかかわる運営サイクルの概説

ブックレット2~6-各ブックレットでCBRマトリックスの5つの領域(保健、教育、生計、社会およびエンパワメント)をそれぞれ検討

ブックレット7-補足冊子:これまでCBRプログラムで見過ごされてきた、精神保健、HIV/AIDS、ハンセン病および人道的危機

ガイドライン開発のプロセス

2004年11月、ILO、UNESCOおよびWHOは、障害、開発およびCBRの専門家65名を招き、ガイドラインの開発に着手した。

その結果、CBRマトリックスの原案が作成され、これをもとにガイドラインの領域と構造が決定された。

さらなる開発は諮問委員会とコア・グループの主導で進められ、150名以上がガイドライン作成に貢献した。

ガイドラインは2010年5月19日付で出版されることが承認された。その内容は、2020年にジュネーブのWHO本部暴力・傷害防止・障害部による見直しが開始されるまで有効とされる。

導入コンポーネント

導入

障害

概念の発展

歴史的に、障害は神話や宗教の観点から理解されてきた。障害のある人々は悪魔や霊に取りつかれているとされ、過去の悪行に対する罰と見なされることが多かった。このような見方は、現在も存在している。

19世紀から20世紀:障害(disability)は機能障害(impairment)を伴うと理解されるようになった。このような医学モデルは、障害を個人の問題と見なし、専門家による治療と医療ケアの提供に焦点を絞っている。

1960年代から1970年代:障害の社会モデルなどのさまざまな社会的アプローチが開発された。障害は個人的な問題ではなく、社会的な問題として再定義され、単なる医学的治療ではなく、障壁の撤廃と社会変革を中心とした解決策が重視されるようになった。

このような変化の背景には、障害のある人々自身による運動がある。「私達抜きで私達のことを決めないで」という有名なスローガンは、この運動が与えた影響の大きさを象徴する。障害者団体は、障害の人権モデルへの移行を促進する障害者権利条約の策定において、重要な役割を果たした。

現在の定義

前述のように、様々な観点に立った多様な障害の定義が存在する。最新の定義は以下に由来している。

  • 国際生活機能分類(ICF):障害は「機能障害、活動制限、参加制約の包括用語」で、個人と環境因子(例 物理的環境、態度)および個人因子(例 年齢や性別)との相互作用の結果生じる。
  • 障害者権利条約:障害は形成途上の概念で、「機能障害のある人と態度及び環境に関する障壁との相互作用。

人々の障害体験は極めて多様である。先天的な障害のある人も後天的な障害のある人もすべて、障害のある人々である。障害者権利条約では、障害のある人々を「…長期の身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害のある人」としている。

世界的傾向

障害の一般的な原因は、慢性疾患、傷害、メンタルヘルスの問題、出生異常、栄養不良、HIV/AIDS、その他の伝染性疾患。

開発

貧困と障害

貧困は障害の原因であり、結果でもある。

障害のある人々の生活の質の向上のため、貧困は僕滅されなければならない。保健、教育および生計の機会を障害のある人々にとってアクセス可能とすることによる貧困削減を、CBRプログラムすべてにおいて、主な目的の一つとしなければならない。

ミレニアム開発目標(MDGs)

MDGsは障害について明記していないが、各目標は基本的に障害にかかわるものであり、障害問題を考慮することなく完全に達成することはできない。このため2009年11月、第64回国連総会において、「障害のある人々のためのミレニアム開発目標の実現」に関する決議(A/RES/64/131)が採択された。

障害を含めた開発

インクルーシブ開発とは、すべての人々、特に社会から取り残され差別されてきた人々を含めた開発である。

障害のある人々が、機会の創造に貢献し、開発の恩恵を共有し、意思決定に参加するには、ツイントラック(2本立て)アプローチが必要となる。ツイントラックアプローチは、(i)障害問題が主流の開発活動において積極的に検討され、(ii)障害のある人々に焦点を絞り、対象を絞った活動が、適宜実施されることを確保する。CBRプログラムはこのアプローチに基づく。

開発への地域ベースのアプローチ

開発イニシアティブの多くは、トップダウン方式であり、地域社会の参加なく設計されてきた。現在、開発に不可欠な要素の一つは、開発プロセスの全段階における地域社会の参加だと認められている。世界銀行はコミュニティ主導型開発(CDD)を、世界保健機構は地域に根ざしたイニシアティブ(CBI)を促進している。

人権

人権とは?

世界人権宣言をはじめ、他の国際人権条約でもはっきりと述べられている。

国連障害者権利条約

2006年12月13日、国連総会は障害者権利条約を採択した。

地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)

初期

1978年のアルマ・アタ宣言に引き続き、WHOはCBRを導入した。当初CBRは、プライマリー・ヘルス・ケアと地域社会のリソースを最大限活用したサービス提供策として開始され、プライマリー・ヘルス・ケアとリハビリテーションサービスを特に低所得国の障害のある人々に提供することを目的としていた。初期は、理学療法、福祉機器の提供および医学的・外科的介入が中心であったが、技能訓練や所得創出プログラムによる教育活動や生計の機会を取り入れたものもあった。

1989年にWHOは『障害のある人々のための地域社会における研修(Training in the community for people with disabilities)』というマニュアルを出版した。このマニュアルは現在も重要な文献として低所得国で使用されている。ディビッド・ワーナーも低所得国におけるCBRプログラムの開発に重大な貢献を果たした。

CBRの25年間を振りかえる

2003年5月、WHOが他の国連機関、各国政府、専門機関および障害者団体など国際非政府団体と、ヘルシンキで共同開催した「CBR再考のための国際会議」では、以下がCBRプログラムの焦点とされた。

  • 障害の重要な決定因子かつ結果である貧困を削減する。
  • 地域社会の参加と主体的な取り組み(オーナーシップ)の促進
  • 多部門による連携とその強化
  • プログラムへの障害者団体の参加
  • プログラムの規模の拡大
  • 根拠に基づく実践の促進

CBRジョイント・ポジション・ペーパー

2004年、ILO、UNESCOおよびWHOは、CBRジョイント・ポジション・ペーパーを、ヘルシンキ勧告に合わせて改訂し、CBRを「すべての障害のある人々のリハビリテーション、貧困削減、機会均等化およびソーシャル・インクルージョン(社会的統合)のための総合的な地域社会開発戦略の一つ」と再定義し、「障害のある人々自身とその家族、組織および地域社会、関連のある政府・非政府系の保健・教育・職業訓練・社会福祉およびその他のサービスとが一体となった取り組みにより」CBRプログラムの実施を促進するとしている。

現在のCBR

CBRマトリックス

CBRを広範な多部門的開発戦略へと発展させるため、2004年にCBRプログラムの共通の枠組みとなるCBRマトリックスが開発された(図1)。マトリックスは5領域からなり、CBRが多くの部門に着目することを反映している。5つ目の領域は、障害のある人々とその家族、そして地域社会のエンパワメントにかかわり、障害のある人々による各開発部門へのアクセス確保とその生活の質の向上、そして人権のさらなる享受に不可欠である。

CBRプログラムではマトリックスの全領域・全要素を網羅することは期待されていない。その代わり、マトリックスは、地域のニーズ、優先順位およびリソースに最も良く対応した選択ができるよう設計されている。

図1:CBRマトリックス
図1:CBRマトリックス(図1の内容)

CBRの原則

CBRの原則は、以下の障害者権利条約の原則に基づいている。さらに、当事者活動(エンパワメント領域参照)と持続可能性(運営に関する章1参照)の2つの原則が提案されている。

将来に向けて

CBRガイドラインは、CBRが障害者権利条約実施の実践的戦略であることを実証し、地域に根ざしたインクルーシブ開発を支援するため、今後の方策を示している。

CBRは、障害者権利条約が地域社会レベルで確実に効果を上げるようにする、多部門的なボトムアップ方式の戦略である。障害者権利条約が哲学と政策を提供し、CBRは実践的な戦略となる。

CBRプログラムは障害のある人々と開発イニシアティブを結びつける。CBRガイドラインはインクルーシブであることが必要な開発部門を取り上げ、「すべての人の社会」の実現に貢献する。地域社会の参加は開発に不可欠であり、ガイドラインではCBRプログラムへの地域社会の参加の必要性を強く主張する。

研究と証拠

調査研究、多様な経験、CBRプログラムの評価、そして国際開発分野におけるベストプラクティスを利用して、長い時間をかけて徐々に証拠が蓄積されてきた。

導入コンポーネント 運営

はじめに

CBRプログラムはどれも異なるが、共通した一連の段階がある。これらの段階は運営サイクルと称される。本章では運営サイクルについて解説する。

本章はすべてのCBRプログラムが採用する決まったアプローチを提供するものではない。

本章は新規のCBRプログラムの開発に焦点を絞っているが、既存のプログラムの強化にも役立てられる。

重要な概念

CBRプロジェクトとCBRプログラムとの相違点

CBRプロジェクトは通常小規模で、限られた領域、期間限定が多い。

一方CBRプログラムは、関連のある複数のプロジェクトを調整しながら運営される。通常期間を設定せず、プロジェクトに比べ大規模かつ複雑である。

本章では「プログラム」という用語を両方に使用する。

開始

CBRは通常、省庁あるいは非政府組織など地域社会外の刺激を受けて開始される。マトリックスの各領域を担当するさまざまな関係者と連携し、総合的なプログラムを開発することが不可欠である。

地理的対象範囲

CBRプログラムは、地域レベル、地方レベル、あるいは国家レベルで進めることが考えられる。

CBR運営のしくみ

CBRプログラムにはそれぞれ独自の運営方法があり、一つの全般的な運営の仕組みを提示することはできない。多くの場合、CBRプログラムの運営を支援する委員会が設立され、このような動きが推奨されている。

参加型運営

すべてのCBRプログラムを貫く重要な流れの一つが参加である。多くの場合、CBRプログラムマネージャーが最終決定の責任を負う。しかし、主要関係者全員、特に障害のある人々とその家族が、運営サイクルの全段階に積極的に参加することが重要である。

持続的なCBRプログラム

善意はプログラム開始のきっかけとなるが、持続のためには十分でない。政府主導プログラムや政府支援プログラムは持続性が高い。しかし市民社会団体主導のプログラムはCBRをより適切なものとし、広く地域社会の参加と主体性も確保できる。政府による支援が存在し、地域の要因に敏感なCBRが最も成功してきた。

CBRプログラムの持続性には以下の点が不可欠である。

  • 効果的なリーダーシップ
  • 連携
  • 地域社会の主体性
  • 地域のリソースの利用
  • 文化的要因への配慮
  • 能力開発
  • 財政支援
  • 政治的支援

CBRプログラムのスケールアップ

成功したプログラムの効果を広めることには多数の利点がある。スケールアップには、(i)プログラムの効果の実証、(ii)障害のある人々とその家族による受容、(iii)地域社会による受容、(iv)十分な財源、および(v)明確な法律と政策が必要である。

運営サイクル

CBRプログラムの開発や強化を考える際、運営プロセスを一つのサイクルとして視覚化することが役に立つ。

  1. 状況分析
  2. 企画立案
  3. 実施とモニタリング
  4. 評価

図2 運営サイクル
図2 運営サイクル(図2の内容)

第一段階:状況分析

第一段階の各ステップ

状況分析には以下のステップが含まれる。

  1. 事実および数値の収集
  2. 関係者分析
  3. 問題分析
  4. 目的分析
  5. リソース分析

事実および数値の収集

基本的データの収集では障害のある人々とその生活状況を確認する。例えば、以下の情報収集を行う。

  • 人口 例 障害のある人々の数、年齢、性別、機能障害の種類
  • 生活状況 例 住宅の種類、上下水設備
  • 保健 例 死亡率、死因および疾病の原因、地域保健サービス
  • 教育 例 就学している障害のある子供の人数、識字率
  • 経済 例 収入源、平均日給
  • 政府 例 政策と法律、障害に対する関心のレベル、障害者権利条約の批准・実施状況、アクセシビリティ基準および規制
  • 文化 例 文化的集団、言語、慣習、障害に対する態度
  • 宗教 例 宗教的信念と宗教団体
  • 地理と気候

現地調査には、地方自治体でのインタビュー、インターネット、政府の出版物、書籍や論文の検索によって得られる文書やデータの見直しなどが含まれる。

関係者分析

関係者に関する分析は、CBRプログラムから利益を得られ、プログラムに貢献できる、あるいは影響を与えられる関係者(個人、グループあるいは組織)の特定に有効である。活動のマッピングをするために利用できる手段はさまざまで、スウォット(SWOT)分析はその一つ。

主な関係者の役割と責任

関係者には、障害のある人々とその家族、地域社会の人々(地域社会の指導者、教師などを含む)、市民社会団体(例 非政府組織、宗教団体および女性団体)、障害者団体および政府当局などが含まれる(図3)。CBR職員およびCBRプログラムマネージャーも関係者である。主な役割と責任はCBRガイドラインを参照。

図3 CBR関係者
図3 CBR関係者(図3の内容)

障害のある人々と家族

障害のある人々と家族は、CBRにおいて極めて重要な役割を果たす。

地域社会の人々

CBRは、障害のある人々だけでなく、地域社会のすべての人々に利益をもたらすことができる。

市民社会団体

市民社会団体の役割と責任は、そのレベル(国際レベル、国レベル、地域レベルあるいは地域社会レベル)により異なる。市民社会団体はCBRプログラムすべての推進力である。

障害者団体

障害者団体はCBRプログラムの重要なリソースであり、現在多数の障害者団体がCBRプログラムで大きな役割を果たしている(エンパワメント領域:障害者団体参照)。

政府

障害は、あらゆるレベルの政府と、保健、教育、雇用および社会福祉などすべての政府部門に関係がある。

CBRマネージャー

運営に関する役割と責任は、誰がCBRプログラムの開始と実施に責任を負っているか、また、プログラムが国レベルか、地方レベルか、あるいは地域レベルかなど、地方分権化の程度によって決定される。

CBR職員

CBR職員はCBRの中心であり、障害のある人々とその家族および地域社会のリソースである。

問題分析

CBRプログラムは、地域社会に存在する障害のある人々とその家族の問題を解決するために設けられる。問題分析により、おもな問題の内容と、その原因と影響あるいは結果が明らかになる。

問題分析は、前述のおもな関係者と協力して実施する。課題に関する関係者の意見なくしては、問題の性質、ニーズおよび解決策は明確化されない。ワークショップが有効であるが、弱い立場にある人々が自由に意見を表明できるためには、さまざまな関係者との複数のワークショップを実施しなければならない場合もある。

問題分析には多様な手段が利用できるが一般的には「問題の木」が使われる。CBRガイドライン参照。

目的分析

目的分析では、どのような解決策が可能かを決定するスタート地点を提示する。この分析に役立つツールが「目的の木」で、前述の「問題の木」と似ているが、問題ではなく目的を検討する点が異なっている。

リソース分析

非常に貧しくても、すべての地域社会にはリソースがある。リソース分析の目的は、CBRプログラムが利用できる地域社会のリソースを明らかにすることである。

第二段階:企画立案

第二段階の各ステップ

おもな関係者との共同企画

関係者によるフォーラムの開催は、状況分析、優先順位の決定、プログラム計画の立案、予算準備のための優れた方法である。障害のある人々とその家族が、企画段階から十分に意見を表明できることが重要である。そのためには、有意義な参加を実現できるよう、フォーラムの開催方法を考慮する。

優先順位の決定

第一段階では、CBRプログラムで解決できそうな多種多様なニーズが明らかにされる可能性が高い。しかし残念ながら、リソースは有限であるため、優先順位を設ける必要がある。優先順位の決定では、最もニーズが高い所、最も変革の可能性が高い所、リソースの利用可能性を考慮する。主な関係者の参加は重要である。優先順位の決定には技術と現状認識が必要で、外部のファシリテーターが目標からの逸脱を防ぐ手助けできる。

プログラム計画の準備

ロジカルフレームワーク(ログフレーム)は、CBRプログラムの計画に利用可能な企画ツールである。ログフレームによってプログラムの成功に必要なすべての局面が考慮できる。その目的は以下に答えることである。

  • プログラムで達成したいことは何か?(目標と目的)
  • プログラムではこれをどのようにして達成するか?(成果と活動)
  • プログラムでこれが達成されたことをどのようにして知るのか?(指標)
  • プログラムでこれが達成されたことをどのようにして確認できるのか?(検証の手段)
  • 途中で経験する可能性のある問題は何か?(リスク)

表2:ロジカルフレームワーク

  要約 指標 検証のための情報源 前提条件
目標        
目的        
成果        
活動   必要なリソース 費用  

以下の各ステップを理解することは、ログフレームを使用してCBRプログラム計画を準備する際に重要である。以下のログフレーム用語の一部は、他の組織や資金援助団体などと意味が異なる場合のあることに注意する。

目標の決定

プログラムを通じて長期的に達成したいことは何か、すなわち目標を十分に理解することが重要である。目標はCBRプログラムが意図する最終的な影響を述べたものである。

目的の提示

プログラムの目的では、目標達成に向けて、プログラムを通じてもたらされるべき変化を述べる。プログラムの運営を容易にするため、通常、目的は1つとする。しかし一部のCBRプログラムでは、いくつかの異なる領域/要素に重点的に取り組みたいという考えから、2つ以上の目的を掲げることがある。この場合、別のログフレームが必要となるが、これらのログフレームではすべて同じ目標を共有する(第一段階:問題の分析参照)。

成果の定義

成果とは、CBRプログラムで達成したいと望んでいることである。それは広く活動分野全般に渡る。通常、各ログフレームでは3個から6個の成果があげられる(第一段階:目的の分析参照)。

活動の決定

活動とは、目的と成果を達成するために実施しなければならない作業あるいは介入である。

指標の設定

指標とは、プログラムの成果達成に向けた進捗状況を示す目標で、モニタリングと評価の際に重要である。

指標を設定する際には、SMARTにしなければならないと覚えておく。

  • Specific(具体的に)
  • Measurable(測定可能に)
  • Attainable(達成可能に)
  • Relevant(関連づけて)
  • Timely(タイミングよく)

検証のための情報源の決定

指標設定後は、検証のための情報源を決定する。(報告書、議事録、出席記録、財務諸表、政府統計、調査、インタビュー、研修記録、通信あるいは会話の記録、事例研究、週間・月間・四半期報告書、中間評価あるいは最終評価など)

必要な前提条件についての検討

ログフレームの前提条件を完成させるため、プログラム実施中のリスクと失敗の可能性を検討する。

モニタリングおよび評価計画の準備

すべてのプログラムにはモニタリングと評価のシステムを備えなくてはならない。プログラムが導入されてから、できるだけ早い時期に情報収集する必要があるため、このようなシステムは企画段階から検討される。

必要なリソースの決定

必要なリソースは、プログラム開始時すぐに利用できないこともあるが、その入手方法の考慮は重要である。

予算の作成

予算には、一定期間活動を実施するために、プログラムを通じて調達・消費する予定の資金額を記載する。

第三段階:実施とモニタリング

第三段階の各ステップ

以下のステップは、必ずしも実施順ではない。

詳細な作業計画の作成

実施段階のはじめに、チームと他の関係者の助けを借り、以下の内容の入った詳細な作業計画を作成する。

  • 各活動案を完成させるために必要な具体的な作業
  • 各作業の実施時期。開始日時と終了日時
  • 各作業の完了を支援する担当者

作業計画中のすべての情報を表にまとめることは有用である。一般にガントチャートが使用される。

リソースの動員と管理

財源

資金調達:財源を探すことは、プログラムの新規開発や、既存のプログラムの活動継続に不可欠である。

財務管理:財務管理のための透明性のある制度を確立する。

人材

採用:CBRプログラムマネージャーと職員はできるだけ地域社会から人材を選ぶ。また、障害のある人々やその家族の採用も強力に進める。

リソースが限られている場合、ボランティアの採用も検討する。ボランティアに賃金は支払われないが、報奨金と活動資金を受け取る。

研修:CBRプログラムマネージャーと職員にはCBRマトリックスとCBRガイドラインについての研修が必要である。既存の研修プログラムの更新と強化、あるいは新たな研修計画の開発が必要となる。

活動案の実施

ほとんどの活動は以下の主要な分野に該当する。

意識向上
調整およびネットワークづくり
主流化
サービスの提供
支援活動
能力開発

モニタリング

モニタリングとは?

モニタリングでは、プログラム活動の記録を行う。実施段階全体を通じて情報を定期的に収集・分析する。

モニタリングの各ステップ

指標の設定:指標は第二段階:企画立案で設定する。

情報収集の方法の決定:モニタリング情報の収集方法(検証のための情報源)の決定も、第二段階で行う。

情報の収集と記録:できるだけ単純化した、情報収集・記録の制度を設け、必要な情報のみ収集する。

情報分析:CBRプログラムマネージャーが情報を詳細に検討しなければ、プログラム活動の進捗状況を見ることはできず、潜在的な問題を明らかにすることはできない。

情報の報告と共有:それらによりプログラムの透明性と信頼性が明らかになる。

情報管理:効率的なファイリングシステムによって、モニタリングの際に非常に多くの時間を節約し、誤解を避けることができる。機密情報が収集される場合は、必ず安全な場所に保管する。

活動案の実施

プログラムマネージャーは活動案を熟知し、すべての活動が計画通りに実施されるよう、準備を整える。

意識向上

意識向上活動は、障害に関する情報と知識を主な関係者に提供し、その態度と行動に変化をもたらす。

調整およびネットワークづくり

CBR関係者との良好な関係と連携の構築には、調整・ネットワーク活動が必要である。

主流化

主流化は、障害のある人々の完全参加を可能とし、保健、教育、生計および社会部門などの各開発部門内で、完全参加のための支援を受けられるようにする。主流化には、機会へのアクセスを確保する合理的配慮など具体的な措置が伴う。

サービスの提供

CBRプログラムはそれぞれ、取り組み対象として選択したCBRマトリックスの各部門に応じて、さまざまな種類のサービスを提供する。

支援活動

障害のある人々の平等な機会と権利の達成を確保するために活用できる、多種多様な支援活動がある。

第四段階:評価

評価

評価とは?

評価とは、簡単に言えば価値判断である。プログラムの妥当性、効率性、効果、影響および持続可能性が、評価で検討されなければならない中核要素である。

誰が評価するのか?
いつ評価するか?
評価の各ステップ
評価対象を絞る

表4:評価の構成要素

妥当性 プログラムは障害のある人々とその家族、地域社会のニーズを満たしているか?
効率性 リソース(人材、財源および物的資源)は最善の方法で利用されてきたか?
効果 プログラムは、質、量および時間の点で、成果を上げたか?
影響 より広い目標は達成されたか? プログラムを通じて、障害のある人々と家族の生活はどう変化したか? プログラムは、障害のある人々に対する態度と行動に関して、地域社会にどんな影響を与えたか?
持続可能性 外部支援が縮小、あるいは撤回された場合、プログラムの継続は可能か?

情報収集

第二のステップでは、以下の課題を考慮し、評価のための質問への最良の回答方法を決定する。

  • 誰が情報を提供できるか。
  • どのようにして情報収集できるか。
  • 情報はいつ収集するべきか。

表5:データ収集方法

方法 全般的な目的
アンケート X X 障害のある人々、親、その他の主要な関係者から、多数の指定された課題に関する情報を得ること
個別評価 X X 福祉、保健、日常活動などの現状を評価し、その結果を最初の事例研究報告書の内容と比較すること
調査   X 調査を通じて、態度の変化と生活の質の変化(ベースラインデータと比較するのが理想)を評価すること
文書の見直し X X プログラムの基礎となる政策とプログラムの運営方法(例 政策・規則・手続き・財政および行政管理の見直し)を理解すること
記録の見直し   X 利用者の数と特徴の全体像、進捗状況、介入状況、投入資本と成果の関係、リハビリテーション・ワーカーの仕事量を把握すること
インタビュー X   人々の意見、印象や経験を理解すること、あるいはアンケートへの回答についてさらに詳しく知ること
観察 X X プログラムが実際にどのように運営されるのか、特にその手順と相互作用に関する正確な情報を収集すること
フォーカス・グループ X   ある経験や提案に対する反応など、一つのトピックについて、グループ討議を通じて深く追求し、問題や課題に対する共通理解を得ること