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教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)

第3部 学校用(小・中学校)

校長用

1.特別支援教育を視野に入れた学校経営

リーダーシップを発揮して,特別支援教育を視野に入れた学校経営を行い,全校的な支援体制を確立します。

(1)校長のリーダーシップと学校経営

校長自身の研修の必要性

小・中学校における特別支援教育の全校的な支援体制を確立するに当たって,校長自身がこのことの意義を正確にとらえ,リーダーシップを発揮することが大切です。そのためには,各教育委員会等が実施する研修に参加したり,校長会等での情報交換を活発に行ったりすることによって,常に認識を新たにしていく必要があります。

学校経営計画への明確な位置付け

各学校が特別支援教育に組織(システム)として全校で取り組むためには,校長が作成する学校経営計画(学校経営方針)に特別支援教育についての基本的な考え方や方針を示すことが必要です。そして,その中で,特別な教育的支援を必要とする児童生徒への指導を学級担任任せにするのではなく,校長が先頭に立って,全教職員が協力し合い学校全体としての対応を組織的,計画的に進めるということを明確に打ち出す必要があります。

校長の指導性の発揮

学校における特別支援教育の推進は,校長の指導性の発揮いかんによって大きく変わるものです。校内体制については,校内委員会の設置,特別支援教育コーディネーターの指名,学校内外の人材活用,近隣の盲・聾・養護学校や関係機関との連携等,さまざまな角度からの推進が求められます。また,校内支援体制の構築,校内委員会による児童生徒の実態把握,個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成,支援の実施,評価,改善のプロセスについて,校内全体で取り組めるよう校長がリーダーシップを発揮していくことが大切です。

学校経営上の留意点

学校経営上,校長が念頭におくべき事項には,次のような内容がありますが,教頭や特別支援教育コーディネーターをはじめ校内全体で取り組んでいくこととなります。

  • 教師一人による支援から学校全体での支援への意識の向上(意識改革)
  • 学級担任や障害のある児童生徒本人を組織として支えるために必要な校内支援組織の構築(組織改革)
  • 個々の児童生徒の特性を理解し対応する教員の指導力の向上(資質向上)
  • 各教科・領域の指導計画作成に当たっての配慮事項の検討と具体化(指導改善)
  • すべての児童生徒にとって「分かる」「できる」を実感できる教育環境の整備(教育環境の整備)
  • 特別支援教育についての児童生徒や保護者への理解推進(理解推進)
  • 児童生徒の安全確保と対応方針の確立(安全確保)
  • 外部の専門機関等との連携の推進(地域連携)
(2)校内支援体制の構築

校内の支援体制を確立するに当たっては,系統的な支援を行うための組織と仕組みを構築する必要があります。具体的には,次のような体制の構築を目指します。

  • 校内委員会を設置して,校内全体で支援する体制を整備する。
  • 特別支援教育コーディネーターを指名し,校内の教職員や,校外の専門家・関係機関との連絡調整に当たる仕組みを整備する。
  • 該当学級の学級担任だけでなく,同学年の担当教員,専科担当教員,その他ティームティーチング担当教員,少人数指導担当教員等,学校内外の人材を活用して個別や小集団での指導体制を整備する。
  • 巡回相談員,盲・聾・養護学校の教員など専門知識を有する教員,スクールカウンセラー等心理学の専門家等による支援体制を整備する。
(3)校内就学指導の在り方 ~校内委員会との関連で~

校内には就学指導委員会を組織している学校も多くあります。
特別支援教育の体制整備を進める中で,この組織は特別支援教育の校内委員会の機能に包括される場合が多いと考えられます。組織としての在り方は変わっても,就学前から就学後までの一貫した支援を行うための校内での検討を進めていく場をもつことは,これからも必要なことです。
今後は,特殊学級や盲・聾・養護学校での教育が望ましいかどうかというだけでなく,専門家チームや巡回相談員等の支援を受けながら,どのような支援がどの程度必要なのかを明らかにしながら,保護者とも協力して対応することが大切です。

(4)校内支援体制についての保護者や地域への周知

特別支援教育を推進するために,当該児童生徒自身の自己理解を図るとともに,児童生徒や保護者への正しい理解を広めていくことが重要です。

例えば,次のようなあらゆる機会をとらえて理解の推進を図る必要があります。その際,校長が先頭に立って理解を進める努力を行うことが求められます。

  • 児童生徒向けには,儀式的行事でのあいさつ,全校朝会での講話等。
  • 保護者向けには,学校だよりやPTA総会,研修会等でのあいさつ等。
  • 地域向けには,学校評議員への教育方針や教育状況の説明の中でふれたり,学校保健委員会等での議題に取り上げたりする等。

2.校内委員会の設置

校内における全体的な支援体制を整備するため校内委員会を設置します。

(1)校内委員会の役割の明確化と支援までの手順の確認

校内委員会の役割

  • 学習面や行動面で特別な教育的支援が必要な児童生徒に早期に気付く。
  • 特別な教育的支援が必要な児童生徒の実態把握を行い,学級担任の指導への支援方策を具体化する。
  • 保護者や関係機関と連携して,特別な教育的支援を必要とする個別の教育支援計画を作成する。
  • 校内関係者と連携して,特別な教育的支援を必要とする個別の指導計画を作成する。
  • 特別な教育的支援が必要な児童生徒への指導とその保護者との連携について,全教職員の共通理解を図る。また,そのための校内研修を推進する。
  • 専門家チームに判断を求めるかどうかを検討する。なお,LD,ADHD,高機能自閉症の判断を教員が行うものではないことに十分注意すること。
  • 保護者相談の窓口となるとともに,理解推進の中心となる。

これらの機能を一度にすべて満足させなくとも,徐々に機能を拡充していく方法をとることでこれらの基本的な役割を満たしていくことも考えられます。

支援までの手順

校内における支援を開始するまでには,保護者の理解のもとに,必要に応じて外部の専門家による判断等を踏まえて,実態把握と必要な支援内容を明確にし,校内委員会による教職員の共通理解を図りながら進めていくことが大切です。
実際の支援に至るまでの手順は,児童生徒によっても,また,学校の支援体制によっても違いがありますが,一般的には次のような手順が考えられます。

図 支援に至るまでの一般的な手順

支援に至るまでの一般的な手順の図

図の説明

(2)校内委員会の組織及び構成

校内委員会の設置

校内委員会の設置の仕方には,次のようにさまざまな方法があります。それぞれ利点があり,各学校の実情を考えて設置していくことが大切です。

  1. 新規の委員会としてとらえ,新たに設置する。
  2. 従来ある既存の校内組織に,校内委員会の機能をもたせて拡大する。(活用できる校内組織としては,生徒指導部,学習指導部,教育相談部,校内就学指導委員会,人権尊重教育委員会等,各学校の実情に応じて考えられます。)
  3. 既存のいくつかの校内組織を整理・統合して設置する。

校務分掌上の位置付け

校内組織の設置は小・中学校によっても異なり,学校規模や上記の設置方法等によっても異なることから,ここでは一例を示します。なお,校内委員会の名称には,特別支援教育委員会,校内支援委員会,個別支援委員会等各学校の実態に応じた名称が考えられます。

図 特別支援教育校内委員会の校務分掌上の位置付けの例

特別支援教育校内委員会の校務分掌上の位置付けの例の図式

図の説明

委員会の構成員

各学校の規模や実情によって一律には考えられませんが,一例を示します。例えば,校長,教頭,教務主任,生徒指導主事,通級指導教室担当教員,特殊学級担任,養護教諭,対象の児童生徒の学級担任,学年主任等,その他必要に応じて外部の関係者が考えられます。大切なことは,学校としての支援方針を決め,支援体制を作るために必要な人たちから構成することです。

(3)校内での支援の評価

校内委員会で支援の対象となった児童生徒への支援の状況については,定期的に校内委員会に報告するとともに,校内の教職員が共通理解を図っておくことが大切です。そして,学期ごとや年度ごとなど定期的に支援の内容や方法について評価を行い,必要な見直しを行います。

その際には,保護者の参画を得て,家庭における状況の変化などの意見を参考にすることが大切でしょう。

3.特別支援教育コーディネーターの指名と校務分掌への位置付け

校内の関係者や関係機関との連携調整や保護者の連絡窓口となるコーディネーター的な役割を担う者を校務分掌に明確に位置付けます。

(1)特別支援教育コーディネーターの役割

特別支援教育コーディネーターは,学校内の関係者や外部の関係機関との連絡調整役,保護者に対する相談窓口,担任への支援,校内委員会の運営や推進役といった役割を担っています。具体的には次のような活動が考えられます。

〈校内における役割〉

  • 校内委員会のための情報の収集・準備
  • 担任への支援
  • 校内研修の企画・運営

〈外部の関係機関との連絡調整などの役割〉

  • 関係機関の情報収集・整理
  • 専門機関等への相談をする際の情報収集と連絡調整
  • 専門家チーム,巡回相談員との連携

〈保護者に対する相談窓口〉

(2)指名に当たっての配慮事項

コーディネーターには,学校全体,そして地域の盲・聾・養護学校や関係機関にも目を配ることができ,必要な支援を行うために教職員の力を結集できる力量をもった人材を選ぶようにすることが望ましいといえます。各学校の実情に応じて,教頭,教務主任,生徒指導主事等を指名する場合や養護教諭,教育相談担当者を指名する場合,特殊学級や通級指導教室の担当教員を指名する場合など様々な場合が考えられます。

国立特殊教育総合研究所や各教育委員会等のコーディネーター養成研修に積極的に参加させ,校内でも計画的に準備を始めることが大切です。

(3)校務分掌での位置付け

特別支援教育コーディネーターの校務分掌上の位置付けは,各学校においてコーディネーターが担う役割や校務分掌組織のつくり方によって異なってくることが予想されます。校内委員会の役割の一つとして位置付ける場合のほか,既存の生活指導部や教育相談部等の組織に位置付ける場合等,各学校の実情によりさまざまに考えられます。各学校の校長の判断で,最も実情に即した位置付けをしていくことが求められます。

なお,例えば,平成15年5月の文部科学省初等中等教育局長通知「不登校への対応の在り方」により,各学校には不登校対応のコーディネーター的な役割を担う者を位置付けることが求められていますが,特別支援教育コーディネーターと不登校対応のコーディネーターについては,それぞれの役割が重なり合う場合も考えられることから,相互に連携を図ることが大切です。また,学校の実態等に応じ,双方の役割を担うコーディネーターの指名も考えられるでしょう。

4.校内の教職員の理解推進と専門性の向上 校内の教職員の理解推進や指導力の向上を図るため,研修の推進が求められます。

(1)校内研修の推進

特別な教育的支援を必要とする児童生徒への指導を校内で適切に行うためには,教員の十分な共通理解とLD,ADHD,高機能自閉症への専門的知識や理解が欠かせません。そのために,校内研修を組織的に活用し教員の意識改革や特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対する指導力を高めていくことが求められます。
例えば,次のような研修の例が考えられます。

  • LD,ADHD,高機能自閉症の理解
  • 特別な教育的支援が必要な児童生徒の実態把握
  • 個別の指導計画の作成
  • 指導の実際
  • 関係機関との連携
  • 保護者との連携
  • 校内支援体制の構築等
(2)学校外における研修への参加推進

国立特殊教育総合研究所や教育委員会,教育センターが開催するコーディネーター養成のための研修,LD,ADHD,高機能自閉症の理解を深めるための研修や指導力の向上を図るための研修に積極的に参加させることが大切です。また,関係する学会や団体が開催する研修や大学での公開セミナー等についても,その必要性等に応じて参加を促すことが考えられます。

5.保護者との連携の推進 保護者への理解の推進を図るとともに,保護者と協力して支援する体制づくりが求められます。

(1)保護者への理解推進

保護者に対し,自校における特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応方針等を説明し,理解を得ることは大切です。コーディネーター等が保護者との連絡調整の窓口となる役割を担うこととなりますが,校長はリーダーシップを発揮して保護者の理解の推進を図ることが重要となります。

(2)保護者との協力

保護者が不安に思ったことや心配事を学級担任や学校に自由に相談できるかどうかは学校と保護者との信頼関係の深さにかかっています。しかし,多くの場合「こんなことを相談してもよいものか」「どんなふうに話したらいいか」等なかなか学校に相談できない保護者が多いのが現状ではないでしょうか。また,担任もこんなことを保護者に伝えてもよいのかと躊躇してしまうこともあるでしょう。

しかし,児童生徒の教育的ニーズに応じた指導を進めていくためには,日常的に双方が情報を交換しながら共に協力して子どもに対応することが必要です。そして,学校,保護者双方が協力して児童生徒の支援を行うために,下記のような保護者との協力体制づくりも欠かせません。

図 保護者との協力体制

保護者との協力体制を表す図

図の説明

6.専門機関との連携の推進

広い視野をもって,専門家や医療,福祉等の関係機関との連携を推進していくことが求められます。

(1)巡回相談員や専門家チームとの連携

教育委員会は,LD,ADHD,高機能自閉症に関する専門的な知識や技能を有する者を巡回相談員として委嘱します。巡回相談員の主な役割は次のとおりです。

  • 児童生徒に対する指導内容・方法に関する助言
  • 学校の支援体制に関する助言 等

また,教育委員会には,教育委員会の職員,特殊学級や通級指導教室の担当教員,通常の学級の担当教員,盲・聾・養護学校の教員,心理学の専門家,医師等で構成される専門家チームが置かれます。専門家チームの主な役割は次のとおりです。

  • LD,ADHD,高機能自閉症か否かの判断
  • 児童生徒への望ましい教育的対応について専門的意見等の提示 等

校長は,広い視野の中でリーダーシップを発揮して,教育委員会に設置される巡回相談員や専門家チームからの適切な助言等を受けられるよう連携を進めていくことが大切です。

(2)医療,福祉,その他の関係機関との連携

児童生徒の能力や可能性を最大限に伸ばしていくためには,一人一人の障害の状態や程度等の専門的な判断や個々の障害の特性に基づく適切な指導が必要であることから,個別指導に当たっては,教育,心理,医療等の外部の専門家の導入や緊密な連携が求められます。

また,地域の福祉・医療・労働等との連携も不可欠であり,単一又は複数の市町村を網羅する支援体制との関連で対応を考えていくことも必要です。さらに,企業,地域の人材,保護者等の民間の人材の活用やNPO法人との連携・協力も考慮する必要があります。

さらに,大学との連携を深め,学生ボランティアを活用していくことも有効な方策として考えられます。

(3)盲・聾・養護学校との連携

小・中学校が,障害の状態や特性等に応じた専門的指導を充実させるためには,障害のある児童生徒への専門的な教育を行っている盲・聾・養護学校と連携を