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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

名古屋市障害者スポーツセンターにおける健康維持・体力づくり~現状と方向性~

大河原裕貴

1 はじめに

名古屋市障害者スポーツセンター(以下、障スポ)は、2年後に30周年を迎える日本で2番目に開設された歴史のある施設(身体障害者福祉センターA型)である。障スポには、トレーニングルーム、プール、卓球室、STT室(視覚障害者卓球:サウンドテーブルテニス)、体育室があり、それぞれ利用者の障害に応じたプログラムを提供している。

残念ながら、東海地区内に同じような障害者専用のスポーツ施設がないため、愛知県内(名古屋市外)、さらには隣県からも定期的に利用していただいている。平成20年度の障スポ利用者は、134,357人(1日平均約472人)を数え、年々増加し続けている。

その理由として、できるだけ利用者のニーズに対応し、選択肢(楽しむスポーツから競技スポーツに至るまで)を広げたり、さまざまなプログラムを提供するように心掛けていることが考えられる。

本年度から障スポは、全国の同施設の中でも一番最後に指定管理者制度が導入され、名古屋市より当事業団が指定管理者として委託を受けることとなった。

今回、「健康維持・体力づくり」について、障スポがどのようなプログラムを提供し展開しているのかを障スポの方向性を示した上で、紹介していきたい。

2 障スポにおける方向性

基本とする考え方としては、図1のとおり、A【利用者の方の障害・目的に応じたプログラムの提供】とB【障害者スポーツにおける拠点的施設としての専門性を発揮し、更なる障害者スポーツの振興】の大きく分けて2点である。AとB双方の両立により、図1の右にあるように「生活の質」を高められるようにと考えている。

図1 名古屋市障害者スポーツセンターにおける方向性
図1 名古屋市障害者スポーツセンターにおける方向性拡大図・テキスト

3 障スポが実施しているプログラム(一部)とその効果

障スポでは、日常利用と教室や練習日というプログラムの提供をしている。

まず、日常利用では初来館時に看護師を中心にインテークを行い、スポーツ指導における最低限の医療的な内容や、スポーツに対しての希望を確認させていただいている。その後、トレーニングルームやプールなどへ案内し、現場にいる体育指導員(以下、指導員)に引き継ぐ。指導員はそれを参考に利用者と具体的な目的を話し合い、障害特性を考慮しながら器具の説明や使い方を紹介する。また、できるだけ自発性が出るように、そして受動的ではなく能動的に取り組めるよう導き、自身の目標を持たせるようにしている。

ここで、実際に日常利用でのトレーニングの習慣化に成功した具体例をあげてみたい。

〈症例1〉生活習慣病で糖尿病を罹患し、視覚障害を併発してしまった方のトレーニングルームの活用

最初にストレッチング(柔軟性)やウォームアップをした後、筋力トレーニングを実施。その後、有酸素トレーニングでトレッドミルや自転車エルゴメーターを実施。一通りトレーニングを終えたら、再度クールダウンのためにストレッチングをして終了という流れを紹介している。

注意点は、正しいフォームか?速度に無理はないか?負荷は正しいか?室内の移動は安全が確保されているか?などがあげられる。

視覚障害者の特徴としては、視覚的な情報が得られないため自分の体の動かし方や機械の操作が難しい。そのため口頭で細かく分かりやすい言葉で説明をしたり、刺激を与える場所を触ったり、機械操作のボタンに印をつけたりして自覚してもらい、繰り返すことで覚えていただいている。もちろん触覚や音声などの情報が得られないものについては、その都度、指導員ができるだけ前方より読み上げたりもする。

これらを繰り返すうちに、視覚障害を有する利用者も入室するとバイタルチェックを行った後、ストレッチマットまで移動し、その後、筋力トレーニング器具のある場所に移動。負荷を触って確認し、シートの調整をして自分でメニューをこなしていけるようになる。

この流れができるようになると、晴眼者に頼りきるわけではないので、本人も自信がつく。結果的に運動の習慣化につながり、生活習慣病による異常数値等も改善され、合併症の危険性を自分で回避できるようにもなっていった。さらには、知人や所属している団体などにも自分の行っているトレーニングを紹介し、同じような症状の方を障スポへ連れてきて、アドバイスするようにもなった。

最終的にこの方は、運動することの効果を感じただけではなく、精神的にも自信をつけることに成功。また外出の機会の少なかった方を外に誘い出せるようになり、地域生活の活性化にも貢献できるようになった。その後、水泳やSTTなども楽しまれるようになった。

〈症例2〉「股関節障害者のためのコンディショニングトレーニング」(教室)の紹介

この教室は、定員を設け、週1回合計6回を集中して実施。股関節に関係する情報を提供しつつ、実技を行い、自分に合った方法を見つけてもらうことを目的としている。参加資格は、股関節に障害を有する方で、先天性股関節脱臼、変形性股関節症、リウマチなどを罹患されている方々である。

参加者の大半は「痛みの軽減」が目的であったため、できるだけ改善や予防に繋がるようなプログラムを立てて実施した。1.股関節周囲のからだのつくり 2.トレーニングの基礎 3.ストレッチングの理解と実技 4.筋力トレーニングの理解と実技 5.水の特性の理解 6.水中ウォーキング 7.筋力トレーニング(水中) 8.リラクゼーションとストレッチング(水中) 9.お悩み解決ディスカッション・まとめ(1~4は陸上でのプログラム。5~8はプールでのプログラム)。

参加者の感想は「このトレーニングはやったことがあった」「やろうとしていたことを楽な方法でごまかしていた」「症状に合うようにいろんな方法を教わることができてよかった」「プール(水)の使い方と陸上の使い方が理解できた」「以前の痛みより少し軽減できたみたい、続けてみる」などのうれしい意見を聞くこともできた。

残念ながら、全員に効果的だったかというと疑問は残るが、参加者の意識は改善した。その後、実際にトレーニングルームを利用され、ストレッチングと筋力トレーニングを始め、改善する可能性を自分の力で獲得しようとする姿勢が見られるようになった。

4 他部門・他機関との連携

筆者の所属する当事業団は、付属病院をはじめとする医療部門から自立支援を行う施設等を有し、それぞれの専門性を活かしつつ各部署との連携を図り利用の流れを構築している。その中の一つ「就労支援課」との連携についても紹介したい。

ご存知の方も多いかと思うが、就労支援課は身体に障害をもった方や高次脳機能障害をもった方を対象に、能力や適正にふさわしい仕事に就き、それによって職業的自立と社会参加を図ることを目的として設置されている部署(就労移行支援)である。

対象者はそこに通われている方や訓練修了者、通われる予定で待機されている方々に対し、就労に必要と考える体力づくり・社会参加・余暇時間の有効活用・同障害者(家族)との情報交換の場・さらには生きがい作りを目標にしている。

流れは、ほとんど日常利用の方と変わらないが、違いとしては、本人の承諾を得て医療や訓練内容などの情報を提供してもらい、障スポでの活動の参考資料とさせていただく点である。さらには、現場の担当者同士が直接情報交換を行えるメリットもある。

〈就労支援課からの大まかな流れ〉障スポを紹介→利用希望の確認・情報提供→障スポのガイダンス→本人の希望・目的・目標を決定→各種スポーツやトレーニングの体験・挑戦→トレーニング・スポーツの習慣化→大会出場・生涯スポーツなど。

この流れに沿った利用者(脳血管障害者、左片マヒ、男性)の声である。「若いときはいろんなスポーツや運動を何も意識せずにガムシャラにやっていた。でも病気してから訓練と日常生活を送るのに精一杯になっていた。障スポを紹介してもらったときは半信半疑で義務的な面もあった。しばらく経ってからは、昔とは違ったスポーツの楽しみ方を感じられるようになったし、まだまだ下手だけどスポーツが生きがいになった。ここに来るのも最初は大変だったけど、通ううちに疲れなくなったし、今では普通に来られるようになった。障害者のなかでもこういう施設を知らない人が多いし、障害者になってもスポーツができることをこれからは伝えていきたい」

この方は、自分が実施するだけではなく、サポートする立場の「障害者スポーツ指導員(財団法人日本障害者スポーツ協会の認定)」まで取得され、障害をもったが故に障害者スポーツを知ろうとする努力もされている。今では、大会等で協力していただいたり、参加者からは伝えにくい障害者からの意見を教えていただいたりして私たちとしても非常にありがたい存在である。

5 まとめ

関係者が、名古屋市内の障害者のスポーツに関する調査を行ったところ、運動をしていない障害者の意見を聞くことができた。その理由としては「時間がかかる」「交通手段が無い」「運動をするきっかけが無い」「指導者が近くにいない」「プールに入りたいが、一人で着替えができない」などさまざまな意見があった。早急に解決できる内容から、地域組織との連携が必要なものまであり、障害者スポーツの拡大や定着には、まだまだ時間がかかるものの、さらに発展する余地が残されているかと思われる。

この調査で確認できたのは、多くの方々がからだを動かすことの必要性を感じていることであった。名古屋市全体で考えると、障スポを利用していただいている一握りの利用者しかスポーツに慣れ親しまれていないのが現実である。これからはさらにスポーツの必要性や効果などを伝えていき、スポーツを通じて活性化していけるようにしていきたい。

(おおかわらひろき (社福)名古屋市総合リハビリテーション事業団スポーツ振興部スポーツ事業課主任体育指導員)