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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

列島縦断ネットワーキング【三重】

障がいのある人たちの就労と生活者主体の環境サービス

石谷由里

はじめに

平成12年より、小規模作業所として、三重県鈴鹿市と四日市市を拠点に、障がいのある方の職場づくり・地域づくりの活動をスタートしました。もともとは、障害者授産施設に製品を委託して販売したり、そこでご縁ができた仲間たちと、リサイクルプラザ(廃品回収・フリーマーケット)の活動をしたりするボランティア活動が当法人の始まりです。

生活者・福祉団体・企業・行政等、それぞれが単独で環境や福祉行動を実施することには無理や無駄が生じることもあり、継続や発展が大変な実情もあります。私たちは資金や専門知識もない団体でしたが、地域社会の中で、障がいのある人も安心して働ける職場づくりを目指し、商業施設とのパートナーシップ事業を企画提案しました。それは、生活者のリサイクルに取り組むもので、私たちの団体が、個人・企業・行政等とのパイプ役になることで、生活者主体のネットワークの構築をすすめ、その活動が基礎となり、さまざまな企業とのパートナーシップ事業が生まれ、障がいのある人の職場づくりを行っています。

企業との連携の流れ

1.企業ニーズをヒアリングして、福祉側から企画提案

ショッピングセンターの集客・お客様サービスとして、家庭ごみのリサイクルプラザを当団体主催で行う。

2.共用・一元化できるもの=分かち合えるものの掘り起こし

土地・建物はもちろん、事務所や備品も借りたり共用させていただいてきました。リサイクル工場のプラントや機械設備も善意あふれる企業から無償貸与していただき、工場は、地域スーパーの物流センター内へ設置させていただき、フォークリフトやメンテナンス器械等も共用させてもらっています。

3.それぞれの特性を活かした役割分担

活動場所のショッピングセンターも私たちとご縁ができてから、障がい者を多数雇用してくれるようになりました。その仕事づくりや職場環境、トラブル時相談・労務事務などをサポートさせていただいています。ショッピングセンターからは、バザーショップの販売・管理や健康診断、トラブル時の対応・防災訓練等をご協力いただいています。福祉団体は、寄贈を受けたり、助成金等で設備等を購入するチャンスはありますが、企業の設備投資と比較するととても及びません。

現在までの連携方法は、企業のストックをお借りする方式でした。しかし、経済的基盤ができてきた今は、私共福祉側にて、バリアフリーの施設・設備等を所有し、営業のプロである企業と計画段階からものづくりやサービスづくりの事業を連携・一体化して、無理や無駄のない、安心で豊かな、障がいのある人の職場づくりを考えています。

企業との連携により生まれた事業所

◯商業施設:任意団体の連携

☆みどりの家算所=就労移行支援・就労継続支援B型事業
リサイクルプラザ・下請事業他
☆みどりの家日永=就労移行支援・就労継続支援B型事業
リサイクルプラザ・バザーショップ
障害者雇用サポート事業
施設外就労事業=パン製造関連事業他

◯容器メーカー:スーパー:小規模作業所の連携

☆みどりの家河原田=就労移行支援事業
プラスチック製容器包装ごみのリサイクル
スーパーの障害者雇用企画サポート他

◯リサイクル企業:有志の連携

☆有限会社オレンジ環境プランニング=重度障害者雇用事業所
古紙等選別作業他

図 みどりの家 河原田リサイクルセンター拡大図・テキスト

図 有限会社 オレンジ環境プランニング拡大図・テキスト

図 みどりの家日永 みどりの家算所拡大図・テキスト

ネットワーク企業での雇用事例

当施設から施設外授産を経ての製パン事業所への就職のほか、商業施設内の清掃事業・ショッピングカート回収事業・宅配仕分け作業・スーパー・リサイクル企業等への雇用があります。

最初のころは、障害者を雇用したことがない企業ではぎこちなかった現場も、集客効果や廃棄物費用削減効果等の事業効果が目に見えてきたことで、対等な関係とお互いが成長し合える絆が形成できてきました。

ネットワークの役割と効果
図 ネットワークの役割と効果拡大図・テキスト

今までにないサービスを協働により創出

1.ネットワーク物流

ごみの資源化に最もコストがかかるのが、収集・運搬です。良質な資源を大量なロットで集約できれば、その後は経済活動に乗ります。そこで、ごみを収集運搬するのではなく、生活者物流(生活者による集荷)と、地域内物流の帰り便(宅配・納品・福祉物流の帰り便)を活用し運搬する方法にしました。

2.現在、ごみ処分されているものの資源化

ごみ排出者である生活者が集荷することにより、社会的コストと環境負荷が低減します。さらに楽しく分別・運搬できるよう、アクセスの良い商業施設で、地域通貨(割引・プレゼントに還元できる)を発行しています。休日・終日サービスは私共福祉団体が担います。それまでごみ処分されていた粗大ごみや容器包装ごみまでが、良質な資源として循環できるようになりました。

商業施設は、1日に1,000人単位の集客効果が継続的に出ているリサイクルプラザに協力的で、地域通貨の発行やお客様への割引・プレゼントの実施で、全国から見学者の来訪があり、またメディア取材による宣伝広告もあってイメージアップにつながりました。

生活者は、時間や曜日を気にせず、便利にごみの資源化に参加でき、割引やプレゼントのお得なサービスを受けられるようになりました。集まった資源は、リユースできるものは即バザーショップでの収益になり、ポリ袋やプラスチック製容器等のごみまで、再生加工できるようになりました。宅配等の地域物流では、便利なサービスとして顧客増加につながり、大量の資源をごみの日に出さなくても済むようになりました。行政が回収する家庭ごみは、みどりの家拠点だけで10%以上削減できました。

私たちは、多くの市民の皆さんから励まされたり、ほめられたりしかられたりというコミュニケーションを日常的にとりながら地域で働けることで、障がいのある方の社会性も向上し、皆誇りを持って働いています。こうしてリサイクルプラザは、ネットワーク企業への雇用促進や重度障害者の雇用事業所開設をはじめ、地域社会での就労の場づくりの原点になりました。おかげさまで事業全体として、市民の信認と利益の増大を得られました。ごみとして捨てられていたものの資源化が進み、子どもから大人までの生活者のふれ合いの機会が増え、自然にボランタリーを喚起することができました。それが新たな事業所の開設等、創業機会の活性化にもつながりました。

今後の展開

現在、法制度の壁により、福祉物流の帰り便が活かせない状況がありますが、容器包装リサイクルの法を越えた活動によりサービスが制限される点を改善しつつ、生活者ネットワークを活かし、新たな地域サービス・環境・福祉の向上に役立てたいと考えています。

今後は、公の方策とも一体となり、生活者・企業・福祉団体等が持つストックやパワーを、福祉側がパイプとなって、横串をさすことで、さまざまな生活者主体の地域ネットワークを拡大し、行政サービスのコストダウンのみならず、地域経済の活性化、環境と福祉の向上を目指して励んでまいります。

(いしたにゆり NPO法人みどりの家)