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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

列島縦断ネットワーキング【埼玉】

「サポート手帳」による支援の推進
―親支援などを通じた早期支援体制の構築に向けて―

針山崇

「サポート手帳」とは

これまで発達障害者(児)については、保育園や幼稚園で配慮してもらっていたことが小学校に伝わらなかったり、医療や療育機関からの情報が学校などの関係機関に伝わらず、連携体制がとりにくい状況にありました。また、学校を卒業すると、就労などの関係機関に情報が伝わらないとの課題がありました。

そこで、埼玉県では、発達障害のある方や家族が、ライフステージを通じてよりよい支援が受けられるよう、「サポート手帳」を作成し、今年の3月から市町村を通じて配布をはじめました。

写真 「サポート手帳」と「サポートカード」拡大図・テキスト

「サポート手帳」は、「相談支援ファイル」と「サポートカード」の2つで構成されています。

「相談支援ファイル」は、1.本人の情報、2.乳幼児期の記録、3.就学期の記録、4.成人期の記録、で構成されています。生育歴や相談歴などを記入し、医療、保健、福祉、教育、就労等の関係機関が支援内容等の情報を共有することで、障害の特性について共通理解を深めることができます。

「サポートカード」は、医療機関の受診の際など、さまざまな生活の場面で自分の障害について説明できるよう、自分の障害の特徴やコミュニケーションの取り方やお願いしたいことなどを記入するものです。「相談支援ファイル」の裏表紙のポケットに入れて保管ができるようコンパクトサイズにしています。

2つの機能のある「サポート手帳」
図 2つの機能のある「サポート手帳」拡大図・テキスト

「サポート手帳」作成の検討経過と特徴

「サポート手帳」の作成は、医師、学識経験者、親の会、関係機関で構成する「埼玉県発達障害者支援体制整備検討委員会」において、発達障害者の支援を目的とした手帳形式のものの導入の必要性について意見をいただき、平成20年2月から検討を進めてきました。

平成21年度からは作業部会を設置し、試案の作成、関係団体の意見聴取、普及方法などを具体的に検討してきました。

作業部会で意見交換を進める中で、教育委員会の「教育支援プラン(個別の教育支援計画)」をそのまま盛り込むこととし、福祉部と教育委員会が共同で作成して、普及にも共同で力を入れていくこととなりました。記入項目も成長段階順に組み替え、流れが分かりやすく、どの年代からも利用できるようにしました。A4判のファイル形式としたため、ページを増やしたり、必要に応じて様式外の情報をとじこむこともできます。さらに、パソコンでも入力できるよう、ワード様式を県のホームページからダウンロードできるようにしました。

「サポート手帳」の普及と活用

現在、市町村を通して、発達に気がかりな方も含めて希望者に「サポート手帳」を配布しています。市町村の状況に応じて、障害福祉担当課だけでなく、保健センターや子育て支援担当課、相談支援事業所などにおいても周知や配布をしていただくことをお願いしています。

保護者が子どもの発達障害を受容していない段階で、行政から「サポート手帳」を一方的に渡すことは困難なため、まず、目的や内容を知っていただく必要がありました。そのため、配布を始めるに当たっては、ポスターやリーフレットを作成し、広報にも力を入れました。

「サポートカード」のポスター(右)と各課のリーフレット(左)
写真 「サポートカード」のポスターと各課のリーフレット拡大図・テキスト

特に、「サポートカード」の周知を図るために、県医師会、県歯科医師会の全面的なご協力により、医療機関にポスターを掲示していただいています。医療機関から周知することで、県への問い合わせなども多くあり、その効果を実感しました。

とにかく「サポート手帳」を知ってほしい、利用してほしいと考え、関係者が集まる会議など機会を見つけ、直接担当者が出かけるとともに、利用方法などを説明するため、各種講座等の依頼についても積極的に応えています。

「サポート手帳」は作成して終わりではありません。いかに利用していくかが重要です。発達障害のある方が、多くの機関で支援が受けやすくなるツールとして利用され、より多くの支援のネットワークが築かれることを期待しています。

発達障害の早期支援につなげる親支援への取り組み

発達障害は早期に特性に合った支援を受けることができると、その効果は大きく、将来の社会的自立につながります。そのため、親の早期の気づきを促すことが重要となります。

一方で、発達障害のある子どもを持つ親は、育児がうまくいかない、子どもの行動が周囲に理解してもらえないなど多くのストレスを抱えています。そこで、子育てに不安を感じている子どもとの関わり方や相談先などについて、子どもの年齢に応じて周知を図るリーフレットなどを、今年の7月までに、母子保健・障害者福祉・特別支援教育を担当する3課で、それぞれ作成することとしました。

まず、健康づくり支援課では、赤ちゃんが育てにくいと感じたら相談してほしいと呼びかけるリーフレットを作成し、市町村で母子健康手帳を渡す際に併せて配布を始めています。

私たち障害者福祉推進課では、「ひとりで悩まないで、気軽に相談しながら子育てしましょう!」と題したミニ冊子を、「NPO法人えじそんくらぶ」の協力を得て、子育て応援ブックとして作成しました。子育て家庭の仲間づくりや相談できる場である、市町村の地域子育て支援センターから配布しています。

さらに、特別支援教育課では、就学前の子どもを持つ保護者を対象に、生き生き笑顔の子育てアドバイスとともに、「サポート手帳」や相談先を紹介するリーフレットを作成し配布しています。

また、今年の6月に少子政策課が主催した地域子育て支援センターの職員を対象にした研修会では、えじそんくらぶの高山恵子代表による「親子の特性(発達障害)と環境を理解しQOLを高めるための支援について」の講義を組み入れて開催することができました。その際にも、子育て応援ブックを作成した趣旨を説明し、「サポート手帳」と併せて活用を呼びかけました。

研修会の参加者からは、「支援者として悩んできた点がすっきりした」「子どもの特性と母親を一緒に見つめ、親子のストレスを緩和できるよう関わりたい」「障害という言葉を出さないで関わる大切さを学んだ」など多くの好評の意見をいただくことができました。

発達障害という言葉は親にとってすぐに受け入れられるものではありません。親のストレスや孤立感を軽減し、子どもにとってよりよい成長を促せるよう、発達障害についての理解も深めていただく方法を今後も考え、実施していきたいと思います。

「子どもの発達支援プロジェクトチーム」の設置と今後の取り組みについて

埼玉県の発達障害に対する取り組みは、診療や療育の機関が少なく、専門機関がないなどまだまだ十分ではありません。私たち障害者福祉推進課では、今年6月に、県内で発達障害を診療できる医療機関の公表以降、ペアレントメンターの養成や、保育園・幼稚園などに対する巡回助言の実施など、新たな事業に取り組んでいます。

また、全庁的な取り組みとして、今年の7月末に、庁内の5部局16課を構成員とする「子どもの発達支援プロジェクトチーム」を設置しました。このプロジェクトチームでは、発達に気がかりの子どもも含め、すべての子どもが集団で活動でき、将来、社会に適応した生活が送れるようにするためには、どのような課題があり、県としてどのようなことができるかについて、短期集中で検討を進めています。

大切な幼児期をきちんと対応できる体制を構築することで、小1プロブレムや不登校、ニートなどの問題解決にもつなげていきたいと考えています。

このプロジェクトにおいても、発達障害の早期発見、早期支援は重要な課題と位置付けていますので、この機会を有効に活用して、さらに発達障害に関する支援策の充実、強化を図るべく頑張っていきたいと思います。

(はりやまたかし 埼玉県福祉部障害者福祉推進課長)