音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年4月号

フォーラム2011

We Love コミュニケーション運動

松本正志

去る2010年6月、島根県で行われた財団法人全日本ろうあ連盟主催第58回全国ろうあ者大会で『障害者権利条約「聴覚障害者「情報・コミュニケーション保障」に関わる特別決議』が採決され、『「新しい法制度を求めるパンフ・署名運動」の承認を求める』が採決されました。パンフ普及目標は30万部で、署名目標数は120万筆です。

そして、障害者自立支援法反対運動を中心に行われた聴覚障害者「自立支援法」対策中央本部が聴覚障害者制度改革推進中央本部に改編し、障がい者制度改革推進会議と対応しながら、情報・コミュニケーションに関する法制度を作っていく運動をスタートさせました。

2011年3月10日現在、パンフ普及は約55,000部、署名については約228,000筆で、目標の約20%達成というところです。2011年8月までにそれぞれの目標の100%に達成するよう、全国各地で取り組んでいます。

パンフ普及・署名運動の背景

まず、パンフ普及・署名運動の背景について述べたいと思います。

一つは、障害者権利条約です。その第2条 定義に、『「意思疎通」とは、言語、文字表記、点字、触角を使った意思疎通、拡大文字、…(後略)』、『「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう』と明記されました。

第9条 施設及びサービスの利用可能性では、締約国は、障害者が自立生活し、生活のあらゆる側面に完全に参加することを目的として、輸送機関、情報通信、他の施設やサービスなど利用できるように措置することと明記されています。

また、第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用では、障害者が意思疎通手段を自ら選択し、表現及び意見の自由についての権利を行使するよう、締約国はその措置をすることという内容が記載されています。

二つ目は、自立支援法反対運動です。反対理由は二つで、一つは「応益負担」です。私たちは今まで、利用者負担は無料として手話通訳制度の確立に取り組んできました。手話通訳を依頼するたび、福祉サービス利用料の10%を払わなければならないということは容認できません。手話通訳が必要なのは、ろう者だけでなく、健聴者にも必要であることです。

三つ目は、自立支援法はコミュニケーションの重要性を想定していないことです。たとえば、自分の地域に相談支援事業所があっても、手話ができる職員がいないため利用できない問題があります。

障害者権利条約に記載されている通り、障害者が自由に情報にアクセスでき、自由にコミュニケーションできる環境を政府が整えるべきです。そのために、情報・コミュニケーション保障を求めている訳です。

運動の目的

運動の目的は、情報アクセスやコミュニケーションがいかに重要であるかということを国民に発信し啓発していくことと、情報アクセスやコミュニケーションに関する法的保障を政府に策定させることです。

パンフに「情報・コミュニケーションは生きる権利」というタイトルが書かれています。生きる権利というのは、生まれながら持っている権利と言えるでしょう。コミュニケーション保障がない環境に置かれると、学ぶ権利、知る権利、選ぶ権利が奪われていることになり、そして、本人の発達保障ができない状態になります。コミュニケーション保障とは、音声言語と手話の言葉の翻訳という意味だけではないのです。

ある高齢者ホームの職場の方から報告があった事例です。コミュニケーションができないため、暴れるろうあ者を精神病と判断し、精神科病院に閉じ込めた。しかし、何かのきっかけで、ろう高齢者ホームに入ることができた。ろうあ者集団の中で、手話が通じコミュニケーションが豊かになり、そして表情が明るくなり、生活が豊かになっていきました。自分の言いたいことを伝えられるようになり、そして、要求を出せるようになったということです。

このような事例が他の福祉現場からも多く出されています。従って、情報・コミュニケーションは生きる権利であると政府に認めさせ、国民に理解してもらうことが、とても必要ではないかと思います。

今日までの運動を振り返ってみますと、1.1977年・4本柱国会請願運動の署名7万筆、2.1985年・「アイ・ラブ・パンフ」普及運動の120万部普及、3.1998年・差別法撤廃運動の署名222万筆の運動で差別を解消し、権利を回復してきました。

順番に、1.民法第11条の対象者(金銭管理ができない人)からろう、盲者を外し、銀行でローンが借りられるようになった、2.については、厚生大臣公認手話通訳士認定試験制度が設けられ、手話通訳士が増えた、3.医師法、薬剤師法などから絶対欠格条項(ろう者は医師になってはいけないなど)を削除してきました。

運動の広がり

差別を許さない、生きる権利を勝ち取りたいという要求を実現するためには、ろう者だけでなく、幅広い関係者と手をつなぎ、国民の世論を得て、政府に認めさせることが必要です。

今後の展望ですが、障害者福祉の憲法である障害者基本法に「手話は言語」、「情報・コミュニケーションは基本的権利」という文言を入れるよう、障がい者制度改革推進会議でろうあ連盟の代表である久松構成員のほか、全難聴の新谷構成員、盲ろう者協会の門川構成員が強く、粘り強く要求してきました。

推進会議から出された第二次意見に反映されているにもかかわらず、最初の障害者基本法改正案には「手話」の文言が一つも組み入れられていませんでした。再度、内閣府や民主党関係者に「障害者基本法改正案に手話の文言を入れるべきだ」と強く働きかけています。

内閣が基本法改正案を国会に提出するのは、3月中旬と聞いています。パンフ普及や署名運動の目標達成に奮闘し、その結果をもとに内閣に改めて考えてもらうように取り組んでいます。

障害者基本法に「情報・コミュニケーションは権利である」という趣旨を入れることができたら、情報・コミュニケーション保障法の具体的な作業に入ることができます。

障害者自立支援法に代わる「総合福祉法」(仮称)との関係で、一日も早く改正障害者基本法を策定する必要があります。自由に情報にアクセスでき、自由にコミュニケーションができる社会、インクル―シブな社会を築いていきましょう。

(まつもとまさし 全日本ろうあ連盟理事)


We Love コミュニケーションの要望書
図 We Love コミュニケーションの要望書拡大図・テキスト