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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

知り隊おしえ隊

コミュニケーションボード・カードの普及活動
―横浜の取り組み―

上原ひさ乃・市香織

コミュニケーションボードの普及 ~セイフティーネットプロジェクト横浜のはじまり~

横浜では障害のある人たちの地域生活を推進してきましたが、地域で生活していると、時には迷子になったり、消費者被害といったトラブルに巻き込まれることも起きます。障害のある人たちが地域で安心して暮らすには、医療や交通機関、消防、警察といった機関や地域の方に「障害」を理解してもらい、時には支援してもらう必要性を痛感してきました。このため、地域の機関や住民の皆さんにどのように働きかけていけばよいか、障害のある人や家族、関係者は議論を重ねてきました。

そのような時、明治安田こころの健康財団と全国特別支援学校知的障害教育校長会が作成した知的障害者や自閉症の方のための絵カード集があることを知りました。そこで、この絵カード集を編集した「コミュニケーションボード」(以下、「ボード」・A4サイズ)を作成して、障害のある人が自分の気持ちを伝えたり、ボードを配布しながら地域と接点を作っていこうということで、平成17年7月、「セイフティーネットプロジェクト横浜」(以下、「Sプロ」)が発足することとなりました。横浜市内14の障害福祉関係団体が結集したSプロは、平成17年の「お店用」ボードの作成に始まり「救急用」「災害用(避難場所等に設置)」の作成、また下図で紹介のさまざまな活動に取り組むこととなったのです。

家族の声・お店用コミュニケーションボード

最初に議論されたのが、絵を使う方法でコミュニケーションをとる障害のある人がどれくらいいるのかということでした。「ボードを使うのは難しい」といった意見もたくさん出ました。

しかし、「障害のある子がコンビニに行って、一人でも買い物ができると暮らしに広がりがでるのではないか」といった議論を経て「お店用」ボードづくりは始まりました。また、「迷子になってコンビニで保護された話はよく聞きます。お店には地域の支援者としての役割も期待できるのではないか」、「こんなボードを作りました。お店においてください」という活動をすることで、障害のある人や家族が地域に働きかけるツールとしても使えるのではないかということになりました。

Sプロでは、電子レンジの絵を掲載して「温めてください」という意味を持たせたり、お金の計算ができなくても支払ができるよう硬貨と紙幣の絵も入れました。迷子を想定して名前を記入する欄も作るなどして、最初のボードが生まれたのです。(上原ひさ乃)

お店用コミュニケーションボードとチラシ
お店用コミュニケーションボードとチラシ拡大図・テキスト

救急用コミュニケーションボードとチラシ
救急用コミュニケーションボードとチラシ拡大図・テキスト

災害用コミュニケーションボードとチラシ
災害用コミュニケーションボードとチラシ拡大図・テキスト

セイフティーネットプロジェクト横浜のこれまでの取り組み

平成17年 ・「お店用」コミュニケーションボード・チラシの作成
障害のある人や家族、支援者がお店用のボードとチラシを持って、地域のコンビニエンストア等の店舗を訪問し、自分たちのことを伝え、ボードを置いてもらった。
平成18年 ・「救急用」コミュニケーションボード・チラシの作成
安全管理局および所轄救急隊(62隊)、医療機関等へ配布
平成19年 ・「災害用」コミュニケーションボード・チラシの作成
地域防災拠点、特別避難場所、自治会・町内会会長、民生委員等へ配布
平成20年 ・出前講座の実施
障害のある人や家族、支援者が地域の方たちと知り合い、ボードの意義や災害時の備えについて一緒に考え、取り組めるよう地域からの要請に応じて出前講座を開始した。
・コミュニケーションカードシステムの開発
平成21年 ・「自閉症や知的障害のある方のコミュニケーションに関する研修会」開催
主に学校の先生を対象とし、毎年開催している。

セイフティーネットプロジェクト横浜構成団体(14団体)

横浜市身体障害者団体連合会、横浜市の障害者施策を考える連絡会、横浜市心身障害児者を守る会連盟、横浜障害児を守る連絡協議会、横浜市自閉症児・者親の会、横浜知的障害関連施設協議会、横浜市障害者地域活動ホーム連絡会、横浜市障害者地域作業所連絡会、横浜市グループホーム連絡会、P&A研究会カナガワ、横浜市精神障害者地域生活支援連合会、障害者自立生活アシスタント連絡会、横浜市、横浜市社会福祉協議会

自分たちができることからやろう

作成した「お店用」ボードの普及のため、障害者週間を中心にキャンペーンを実施しました。ボードをお店に郵送することもできましたが、Sプロは、あえて自分たちでお店を訪問し、ボードとチラシを直接手渡すことにしました。この活動には、330の障害団体が参加し、横浜市内約1,600のお店を回りました。参加者からは「店員への声かけは勇気が必要だったが、知的障害のことを知ってもらうきっかけとなり、やる価値はあった」、「運動としてこの取り組みを広げていきたい」等の感想が寄せられました。

家族の声・救急用コミュニケーションボード

『うちの子が救急車に乗った時に困ったこと』という視点で検討を開始しました。「慣れない車に乗り、どこに連れて行かれるか不安になるから、救急車の行き先は病院と分かるようにその絵カードを掲載しよう」、「一人で事故にあった時、身元が分かるように手帳のイラストを入れておこう」等、活発に意見交換をしました。最後まで悩んだのは、救急隊員から「いつから痛いの」と聞かれた時、どのように伝えるかということでした。結局、時計の絵を使うことにしましたが、やはり時間を伝えることは難しいかと思います。

ボードの作成と同時に、消防署員向けに家族が講師となって話をしました。救急隊でボードが実際に使われた事例もあり、今後も働きかけをしていきます。(上原ひさ乃)

ボードからカードへ

ボードは「お店用」など、生活のシーンごとに1枚のボードに数枚の絵カードをプロジェクトチームが選んで編集したものです。しかし暮らしのシーンは無数にあり、障害のある人個々人の必要性に応じて対応できるシステムが必要だと考えるようになりました。

そこで、ホームページ(下図参照)から自分に必要なイラストを1枚、1枚選んで、ダウンロードすることで作成できるコミュニケーションカード(以下、「カード」・名刺サイズ)のシステムを作ることになりました。

コミュニケーションカードの作り方
コミュニケーションカードの作り方拡大図・テキスト
※カードにできるのは、Sプロ作成のボードのほか、「コミュニケーション支援ボード(主催:全国特別支援学校知的障害教育校長会および明治安田こころの健康財団)、「鉄道駅用ボード(作成横浜市)」掲載のイラスト、計約100種類。

家族の声・広がるカード

地域への理解啓発の意味あいが強かったボードですが、実際に絵を使ってコミュニケーションするためには、障害のある人が使いやすいものにしたいと、名刺大のカードを作ることにしました。最近は暮らしの中で絵カードを取り入れる家庭も少しずつ広がっています。これから、障害のある人のコミュニケーションツールの一つとして、地域で認知されていき、自閉症をはじめ障害のある人が地域で暮らしやすくなることを期待しています。(上原ひさ乃)

自分で使えること

さらにボードやカードを、障害のある本人が使えるようになるには、幼少期から慣れることが大切なので、教育機関へ向けて、ボード、カードの意義や使い方の研修も始めました。学校の先生からは「担任の児童を思い浮かべながら、視覚的な支援や生活に生かせる学習方法を考えることができた」、「ボードは校外学習で活用できると思う」等の感想がありました。また、「横浜版学習指導要領‐特別支援学校・個別支援学級・通級指導教室編」にも取り上げられました。

障害のある人も子どもも高齢者も

自閉症や知的障害のある人のコミュニケーションを想定したボードやカードでしたが、明治安田こころの健康財団の調査では、外国の方や高齢の方、子どもとのやりとりに活用した事例も報告されています。また、Sプロにも、「脳梗塞で倒れた家族とのやりとりに役立っているので、主治医にも紹介した」(家族)、「地震が起きてとても不安。余震などでパニックになったら言葉が出ない。ボードとカードがあるととても助かる」(知的障害のある方)等の感想が寄せられています。これからも、障害のある人、家族、関係者の各方面への働きかけは続きます。

(うえはらひさの 横浜障害児を守る連絡協議会、いちかおり 横浜市社会福祉協議会障害者支援センター職員)


【参考】

・セイフティーネットプロジェクト横浜
http://www.yokohamashakyo.jp/siencenter/safetynet/safetynet.html

・(財)明治安田こころの健康財団
http://www.my-kokoro.jp/kokoro/communication_board/

・横浜障害児を守る連絡協議会(主に知的障害のある子どもを持つ親の会連絡会)
http://www.renrakukyo.com/