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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

福祉用具・介護ロボット実用化支援事業を通して

五島清国

1 はじめに

当協会では、平成23~24年度にかけて、厚生労働省老健局から「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業(以下「本事業」)」を受託し、高齢者の介護現場において、真に必要とされる福祉用具・介護ロボット(以下「介護機器等」)の開発に資するため、試作段階にある介護機器等のモニター調査等を行い、もって開発する上での課題を顕在化させ、良質な介護機器等を実用化する上で有効となるスキームの在り方について研究した。

本稿では、本事業の実施結果の概要を報告する(図1及び、図2)。

図1 福祉用具・介護ロボット実用化支援事業実施フロー図
図1 福祉用具・介護ロボット実用化支援事業実施フロー図拡大図・テキスト

図2 主な事業内容

1.試作機のモニター調査(臨床試験)

  • 専門家等による試作機の事前検証の実施
  • 倫理審査の受審
  • 介護施設等でのモニター調査の実施

2.介護施設及び介護ロボットメーカーを対象にした実態調査の実施

3.東北3県において介護機器等の実用化支援に資するモデル的な取組を実施

4.試行的な事業を通じて、課題の洗い出し、実用化支援スキームの確立

2 背景

高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加や介護期間の長期化、さらには介護ニーズがますます増大化するなか、その一方で介護人材の不足が問題として挙げられている。

政府の統計によれば、2007~2025年にかけて、生産年齢(15~64歳)人口が約15%減少し、労働力人口も約5~13%程度減少すると見込まれるなか、必要となる介護職員の数は倍増すると推計されている。

こうした現状の対応方策の一つとして、介護機器等の活用が期待され、平成22年6月に政府が掲げた新成長戦略では、わが国のものづくりの技術を生かした「介護機器(福祉用具)開発・実用化の促進」を図ることとされた。

そのことを受け、平成22年9月17日には、厚生労働省と経済産業省が連携して「介護・福祉ロボット開発・普及支援プロジェクト検討会」が開催された。

検討会での意見交換を踏まえ、厚生労働省と経済産業省が連携し、安全性の高い生活支援ロボット等の研究開発・実用化を促進するため、厚生労働省では、福祉用具・介護ロボット実用化支援スキームの確立を目的とした調査研究を行うこととなった。

このような背景から福祉用具としての介護ロボットに注目が集まるようになった。

3 介護ロボットとは

介護ロボットについて、法律上でその定義が定まっているわけではない。当協会が行なった本事業におけるモニター調査事業の募集の際には、以下の「目的要件」と「技術要件」の両方を満たすものを介護ロボットとして定義した。

ロボットというと鉄腕アトムをイメージし、ヒューマノイド型(人間型ロボット)の印象を持つ方もいるが、今回の実用化支援事業の対象となる介護ロボットは、ロボット技術を活用して、本人の日常生活をサーポトする機器は勿論のこと、介護者の介護負担を軽減するものである。

◆目的要件(以下のいずれかの要件を満たす機器であること)

○心身の機能が低下した高齢者の日常生活上の便宜を図る機器

○高齢者の機能訓練あるいは機能低下予防のための機器

○高齢者の介護負担の軽減のための機器

◆技術要件(以下のいずれかの要件を満たす機器であること)

○経済産業省、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「生活支援ロボット実用化支援プロジェクト」の対象機器

○ロボット※技術を適用して、従来の機器ではできなかった優位性を発揮する機器

(※1.力センサーやビジョンセンサー等により外界や自己の状況を認識し、2.これによって得られた情報を解析し、3.その結果に応じた動作を行う)

○技術革新やメーカー等の製品開発努力等により、新たに開発されるもので、従来の機器では実現できなかった機能を有する機器

つまり、福祉用具のうちロボット技術を適用した用具を本事業では介護ロボットとした。ロボットには多様な種類の機器が含まれるが、タイプ分けをすると、以下に整理することができる(図3)。

図3 介護ロボットの体系整理

区分 タイプ 概要 人との接触の度合い
義肢・装具 利用者が上肢や下肢に装着することで、運動機能を補助するもの 極めて高い(身体に密着し、ともに駆動)
リハビリ支援 利用者のリハビリを支援あるいは高度化するもの 極めて高い(身体に密着し、ともに駆動)
移動・移乗支援 利用者の移動行動(車椅子での移動や、ベッド・車椅子間の移乗など)を支援するもの 高い(身体に一部密着するが、ともに駆動はしない)
日常生活支援 利用者の日常生活行動(排泄、食事、入浴、物体操作など)を支援するもの 中程度(身体との接触や、身体の近傍での駆動あり)
コミュニケーション 利用者と言語あるいは非言語でのコミュニケーションをとることで、メンタルケアや見守りに活用するもの 低い(身体から離れての駆動が主体であり、身体との接触があっても、その際の駆動は限定的)
(事例A―1)ロボットスーツHAL(CYBERDYNE株式会社)
ロボットスーツHAL(ROBOT SUIT HAL(R))の全身タイプがパワーアップされ、装着時の腕力は片腕で大人を楽に持ち上げられるようになりました。従来、限界だった片腕約40キロの腕力を強化することにより片腕約80キロ、両腕で約160キロに倍増。
2010年5月19日に上海万博の日本館にも出展。今後は介護支援をはじめ工場などでの重作業支援、災害現場でのレスキュー活動支援など、幅広い分野へ適用することが期待されています。
出所:介護ロボットの一覧(かながわ福祉サービス振興会)
http://www.kaigo-robot-kanafuku.jp/article/13975190.html
(事例A-2)自立歩行アシスト(トヨタ自動車株式会社)
下肢麻痺などで歩行が不自由な方の自立歩行支援
・脚を前方に振り出す遊脚時は、大腿部姿勢制御センサーと足裏荷重センサーで歩行意図を推定することにより、膝の振り出しをアシスト
・体重を支える立脚時は、確実に体重を保持
出所:プレスリリース(トヨタ自動車株式会社)
http://www2.toyota.co.jp/jp/news/11/11/nt11_040.html
(事例B-1)下肢麻痺者用歩行補助ロボットWPAL(アスカ株式会社)
ウーパルは車いすで生活する身体障害者の行動範囲拡大を目的に開発。モーターを動力源とし歩行を補助します。つえをついたり、手すりをつたったりして歩く際の手の動きで歩行パターンを予測します。それに基づき下半身に装着した駆動部を制御して歩行を補助します。
出所:介護ロボットの一覧(かながわ福祉サービス振興会)
http://www.kaigo-robot-kanafuku.jp/article/13975190.html
(事例B-2)ハイブリッド訓練機(アクティブリンク株式会社)
ハイブリッド訓練機は、拮抗筋に電気刺激を与え体内に抵抗を発生させることで効率的な筋力トレーニングができる機器です。
ロコモティブシンドロームなどの予防への活用が期待されております。
出所:技術紹介(アクティブリンク株式会社)
http://psuf.panasonic.co.jp/alc/technologies/
(事例C-1)ロボティックベッド(パナソニック株式会社)
日常生活に欠かせない介護用品であるベッドと車いすの機能を併せ持つものです。これにより、利用者の操作で安楽な姿勢でベッド/車いすに変形することが出来、ベッドと車いすの移乗時の転落の心配や、介護者の負担を軽減しながら、介護の必要な方の活動範囲を広めることが出来ます。
出所:介護ロボットの一覧(かながわ福祉サービス振興会)
http://www.kaigo-robot-kanafuku.jp/article/13975190.html
(事例C-2)移乗ケアアシスト(トヨタ自動車株式会社)
大きな力を必要とし体力的負担の大きい、移乗のための介護の負担 軽減
  • 体重保持用のアームとアシスト台車を組み合わせたロボット
  • アームのホールド部は体型にフィットしやすい形状とし、きめ細かい制御を可能にする小型制御機能を組み合わせることで、人が抱えるようなソフトな持ち上げ作動を実現
  • 要介護者と介護者双方へのやさしさを工夫
出所:プレスリリース(トヨタ自動車株式会社)
http://www2.toyota.co.jp/jp/news/11/11/nt11_040.html
(事例D-1)食事支援ロボット「マイスプーン」(セコム株式会社)
サイズは、280(幅)×370(奥行き)×250(高さ)ミリ、重さは約6キロで、机にB4サイズの広さがあれば置けるようになっています。
操作モードは、自分で自由にアームを操作して食べ物を選べる「手動モード」、4つに仕切られた専用トレイのどの場所にアームを移動させるかだけ選べる「半自動モード」、ボタンを押すだけで自動的に食べ物をつかんで口元へ持ってくる「自動モード」の3種類が用意されています。 専用のフォークとスプーンで食べ物をつかむことが出来ます 。
出所:介護ロボットの一覧(かながわ福祉サービス振興会)
http://www.kaigo-robot-kanafuku.jp/article/13975190.html
(事例D-2)自動排泄処理装置「マインレット夢」(株式会社エヌウィック)
「マインレット」は、世界初の重介護者向けの温水洗浄による自動排泄処理機です。これは広く普及している温水洗浄便座の機能を寝たきりの人向けに提供するものです。重介護者の排泄処理は、介護スタッフにとって最も負担の大きい作業の一つです。
介護では、一人に1日平均6回のおむつ交換が必要で真夜中の作業も必要です。辛いのは介護スタッフだけではありません。介護される側にも他人に下の世話を頼らざるを得ない恥じらいや負い目が重くのしかかります。この両者の負担を軽減するのがマインレットです。
出所:介護ロボットの一覧(かながわ福祉サービス振興会)
http://www.kaigo-robot-kanafuku.jp/article/13975190.html
(事例E-1)メンタルコミットロボット「パロ」(株式会社知能システム)
国内外での高齢者向け介護施設等での実証実験のデータから、認知機能の改善等、セラピー効果が確認され、また介護者や看護師に対しても、心労の低減が明らかにされています。
様々な刺激に対する反応、朝・昼・夜のリズム、気分にあたる内部状態の3つの要素から、生き物らしい行動を生成。なでられると気持ちが良いという価値観から、なでられた行動が出やすくなるように学習し、飼い主の好みに近づいていきます。また、名前をつけて呼びかけていると学習し反応し始めます。
出所:介護ロボットの一覧(かながわ福祉サービス振興会)
http://www.kaigo-robot-kanafuku.jp/article/13975190.html

4 モニター調査の実施

試作機があり、介護現場等でのモニター調査(実証試験)を希望するメーカーを公募したところ、22件の応募があった。当協会では、高齢者や障害者の置かれている状況や身体機能に詳しい介護現場の関係者をはじめ、医師やPT・OT、工学者からなる評価部会を設置し、応募機器の事前検証を行なった。その内容は、機器の対象者と目的が明確になっているか、またモニター調査で明確にしたい適合条件は何かなど、モニター調査の妥当性等を確認し、最終的には12件をモニター調査の対象として選定した(図4)。

図4 モニター調査事業を行なった機器

No 申請者 機器名称 フェーズ カテゴリー
1 アクティブリンク ハイブリッド訓練システム 3 リハビリ(下肢)
2 産業技術総合研究所 パロ(セラピー用) 3 コミュニケーション
3 CYBERDYNE ロボットスーツHAL R 福祉用 4 リハビリ(下肢)
4 菊池製作所 個人の体型に合った上肢運動機能補助装具 0 リハビリ(上肢)
5 リーフ 歩行訓練ツール 2 リハビリ(歩行訓練)
6 トヨタ自動車 移乗ケアアシスト 2 移乗・移動支援
(ベッド-トイレ)
7 中部デザイン研究所 補聴耳カバーシステム 2 その他
8 岡田製作所 楽々きれっと 3 日常生活支援(排泄)
9 リハロ SAKURA 3 日常生活支援
10 東京工業大学 追従型酸素機器搬送移動車両 1~2 その他
11 ピラニア・ツール トイレでふんばる君 4 日常生活支援
(排泄自立支援)
12 ビューティフルライフ 多機能車いす 4 移乗・移動支援
(車いす)

専門家による事前検証やモニター調査の結果、改善を希望する点として、以下の意見が寄せられた。

(1)安全性に関して

  • 実際の利用場面を想定した危険事象を想定すること
  • 利用者の心身状況を想定した危険事象を想定すること
  • 安全に使用するため、適用者の条件を明確にすること
  • 機器の構造や形態、形状から見た危険性を想定すること
  • 故障や電気が切れた場合の安全性を確保すること
  • 利用者が認知症である場合の危険性を想定すること

(2)有用性に関して

  • 有用な利用場面を想定すること
  • 有用な利用者の身体状況を想定すること
  • 利用が困難な人の身体状況を想定すること
  • 他の手法と比較しその効果を示すこと

(3)実用化に関して

  • 操作のしやすさ
  • 装着やフィッティングのしやすさ
  • 重量やサイズ
  • 価格
  • 調整機能の有無
  • 見た目の抵抗感と本人や家族の理解

5 実用化に向けた課題の整理

利用者をはじめ介護現場のニーズを的確に踏まえた、介護機器等の開発普及を促進するためには、以下に掲げるような事業や取り組みを実施することが求められると整理した(図5)。

図5 福祉用具・介護ロボット実用化支援スキームのフレーム
図5 福祉用具・介護ロボット実用化支援スキームのフレーム 拡大図・テキスト

(1)利用者ニーズと開発者シーズのマッチング

  • 高齢者障害者介護の実態に即した、良質な介護機器等の研究開発を行うためには、実際の利用者及び介護者をはじめ、介護施設等に対するニーズ調査を継続的に実施することが重要である。
  • インターネット等を活用して、ニーズの収集とシーズの提供を恒常的に行う。
  • 介護者と開発者が、膝を交えて意見交換を行う機会を地域ごとに設け、できれば定期的に会を開催することが望ましい。
  • 開発初期の段階から介護現場のニーズを汲み入れられるよう、開発者に対して適切な相談助言が行える体制を整備する。
  • 発研究者が、介護施設等で一定期間研修できる仕組みを検討する。

(2)実証試験の実施にあたって

  • 介護施設等の実環境でモニター調査する場合には、専門家による事前検証を行い、もって、モニター計画策定にあたっての技術的助言指導が行える体制を整備する。
  • 当該機器の利用効果を検証するためのモニター評価手法を開発するとともに、広く一般に公開する。
  • 開発メーカーと介護施設等が連携して、介護機器等の実証試験が行える体制を整備する。
  • 研究を目的として実証試験を行う場合には、倫理審査を実施する。加えて試験する内容については、介護現場の方々をはじめ、福祉用具の有識者と十分に相談することが望ましい。
  • 認知症高齢者を被験者とする場合の取り扱いについて早急に検討する。

(3)多数の試作機が実証可能な環境の整備について

  • 実証試験の受け入れが可能な介護施設等の要件を策定する。
  • モニター調査に協力する人材の養成を行う。
  • モニター調査に必要な費用の助成を行う。
  • モニター調査に関する情報は、介護施設間において共有する。

(4)普及に係わる支援策について

  • モニター調査結果の蓄積と情報の共有化を推進する。
  • 優れた製品に対して「推奨マーク」を付与する仕組みを検討する。
  • 実用化した介護機器等の普及・啓発に努め、適切かつ安全に使用するための研修制度を構築する。
  • 高齢者介護の現場に対して、最新機器の導入事例や利用効果に関する情報提供を積極的に行う。
  • 優れた製品については、国の検討会等へ報告するとともに、公的給付や導入補助等を推進する。
  • 自治体等においてパイロット導入できるような環境整備を進める。

(5)ロボット技術に関する情報の収集・提供等について

  • 自治体等が独自に行なっている福祉用具・介護ロボットにかかわる事業と連携し、情報の共有を図る。
  • 国内の介護ロボット技術に関する情報の収集と提供を行う。
  • 海外における介護機器等の制度及び普及の動向等の実態把握に努める。

6 モニター協力施設等の体制整備

介護にロボット技術の活用を国策として推進しているデンマークでは、日本の市町村にあたるコミューンが企画して、介護施設において積極的に介護ロボットの実証が進められていることが成功のカギである。

これまでの介護ロボットの研究開発の多くは研究開発者がハードを開発し、研究発表などを行なった時点で終了してしまうプロジェクトが多く、実際に介護の現場で本格的なモニター調査(実証試験)を行うまでに至っておらず、その原因の一つとして、開発に協力いただける施設等が少ないことが上げられる。

そこで、今年の2~3月、福祉用具・介護ロボット実証環境整備事業として、介護ロボット等のモニター調査など開発実証試験に積極的に協力いただける介護施設、事業者、医療機関、地方自治体、地域包括支援センターなどの意向確認を行うリストを作成している。

25年度からは、経済産業省で新たに「ロボット介護機器開発・導入促進事業」が開始される予定であり、また、厚生労働省も介護ロボット等に関しても実用化スキーム作りの調査段階から、実際の実用化支援の段階に入ることと思われる。

2年間の本事業の成果が、いよいよ本格的に活用され、介護ロボットを含め新たな福祉用具が次々と実用化されることを期待している。

最後に、本原稿は平成25年3月10日時点で執筆したものである。従って、今後の委員会等による検討によって、記載した内容を変更することがある。なお、本事業の報告書は、当協会のホームページ上に掲載することを予定している。

(ごしまきよくに 公益財団法人テクノエイド協会企画部次長)

http://www.techno-aids.or.jp/