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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

高齢の障害者等に対する支援のあり方
~高齢知的障害者に関する調査結果から~

大村美保

障害者総合支援法の施行後3年を目途として検討することになっている事項のひとつに、高齢の障害者に対する支援のあり方が挙げられる。国立のぞみの園では、厚生労働科学研究費補助金を受けて平成24年度から3か年計画で高齢知的障害者の研究を行なっている。初年度である平成24年度は、全国の自治体(1,735市町村)への調査(以下、市町村調査)および全国の障害者支援施設(2,600事業所)への調査(以下、施設調査)を実施した。本稿では調査結果の一部を紹介しつつ、今後検討が求められる課題について述べたい。

高齢知的障害者と一般統計との比較

65歳以上の療育手帳所持者数は、市町村調査(回収率69.0%)で38,748人が把握され、ここから全国では5万人以上と推計される。個別情報を得た30,462人の年齢分布を一般統計と比較すると、65歳以上の知的障害者は一般統計に比べて加齢に伴う人口の減少率が高い傾向にあった(図1)。高齢知的障害者への支援のあり方は、一般とのこうした違いとその要因も踏まえて検討される必要があるだろう。

図1 横軸年齢以上の者が65歳以上人口に占める割合 一般統計の出典:統計局,人口推計
図1 横軸年齢以上の者が65歳以上人口に占める割合拡大図・テキスト

サービス利用について

65歳以上の障害者のサービス利用については原則として介護保険が優先としつつも、一律に介護保険を優先するのではなく、利用意向を聴き取って適切に判断することを自治体に求めている(平成19年3月28日企画課長・障害福祉課長連名通知)。

市町村調査では、高齢知的障害者に対して障害福祉サービスと介護保険サービスの併給が実際にある自治体は381か所(31.8%)把握され、人口規模が大きいほど併給実施率が高かった(表1)。これは、自治体の規模により併給の判断が異なるということではないだろう。人口規模の大きい自治体の自由記述では、障害担当(部)課と高齢担当(部)課間で併給実施の調整を行うとの回答があり、異なる担当部間での調整の仕組みがある程度定着したことが併給実施率の高さに反映しているものと思われる。一方、人口規模の比較的小さな自治体では、併給の判断が必要となる対象者がそもそも少ないことに加えて、併給を検討しうるだけのサービス資源が十分でないかもしれない。このように、サービス利用は自治体の規模や組織構造から副次的に影響を受ける可能性も示唆されよう。

表1 併給自治体数と併給実施率

  併給実施有の自治体数 併給実施率
~5,000人 11 9.0%
~10,000人 13 8.9%
~30,000人 60 19.9%
~50,000人 59 33.1%
~100,000人 98 45.4%
100,000人以上 140 59.6%

また、知的障害者の場合に要介護状態区分が低く判定されやすい、介護保険サービスを利用する際の自己負担額の増加、障害を理由に介護保険事業所から利用を断られる、等の課題が自治体から寄せられ、《それまで利用してきたサービスの変更が本人にとって益となるのか判断が困難》という意見もあった。通知が求める「適切な判断」、すなわち高齢障害者のケアマネジメントをめぐる自治体の悩みが垣間見える。

障害者支援施設における高齢化

次に、65歳以上の知的障害者は施設調査(回収率58.0%)で8,340人と把握され、ここから全国でおよそ15,000人が障害者支援施設で生活していると推計される。つまり、65歳以上の知的障害者の3分の1は障害者支援施設にいることとなる。障害者支援施設入所者に65歳以上の知的障害者が占める割合は10.2%、50歳以上では32.0%であった。50歳以上の利用者が90%を超える障害者支援施設も50か所確認された。近い将来、入所者のほとんどが65歳以上という施設が珍しくないという時代が来るかもしれない。しかしながら、大多数の障害者支援施設では若年利用者と高齢利用者とが混在しており、高齢対応に特化した一部を除いて高齢化に直面するのはこれからであろう。

障害者支援施設における高齢知的障害者の状態像と運営上の課題

では、高齢の知的障害者の身体面・認知面の機能や生活状態はどうか。施設調査で個別情報を得た65歳以上の知的障害者8,323人の結果から一部を紹介すると、1.半数以上が「屋内での生活は概ね自立しているが介助なしには外出できない(車いす等の使用を含む)」状態で日中も車いすやベッドで過ごす人が23.6%、2.約20%の利用者には認知症様の症状によって日常生活に明確な支障が生じている、3.てんかんの有病率は14.4%でうち40歳以降での初発が10%超、4.知的障害のある後期高齢者では3人に1人が「寝たきり」状態、4人に1人は認知症様症状がある、等であった。こうした「本人の変化」に起因するさまざまな施設運営上の課題を図2に整理した。

図2 利用者の高齢化に係わる障害者支援施設の課題意識
図2 利用者の高齢化に係わる障害者支援施設の課題意識拡大図・テキスト

障害者支援施設は、こうした困難を抱えつつも、介護度が非常に高くなった利用者へも継続して支援を続けている。介護保険適用除外施設であるため介護保険施設へ移行しづらいことや、一般の要介護高齢者と高齢知的障害者とで支援の専門性が異なると感じていることが背景にあると考えられる。

では、障害者支援施設は高齢化にどう対応すべきか。高齢知的障害者へ対応する先進施設を概観すると大きく二つの方向性があり、参考となるだろう。一つは障害者支援施設の機能を強化して高齢化に対応する、もう一つは、法人内あるいは地域で、高齢障害者への対応の機能を分化する方向である。

おわりに

65歳以上の知的障害者は総人口比で0.04%程度と規模は非常に小さいが、的を絞った調査からはその課題の一端が浮かび上がる。こうした積み重ねにより今後求められるであろう、他の障害種別も含めた高齢障害者に関する支援の議論にも貢献しうるものと考える。

(おおむらみほ 国立のぞみの園研究部)