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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年7月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

精神障害者地域生活支援団体の共同連携

伊澤雄一

精神障害の方々の地域生活を支援していくために、法制度にも沿った形で福祉サービス事業を担っている人たちを中心とした団体は、『全国精神障害者地域生活支援協議会』(あみ、旧福祉作業所、グループホーム関係を中心に1997年発足)、旧社会復帰施設系の人たちによる全国精神障害者社会復帰施設協会(全精社協)を源流とした『全国精神障害者社会福祉事業者ネットワーク』(全精福祉ネット、2009年設立)と、2010年に設立された『日本精神保健福祉事業連合』(日精連)という3団体があります。

このような支援団体には成り立ちの違いや、状況、事象に対する評価や行動に微妙な差異があり、ある種、創設の経緯とともに活動の文化や運動の様式の違いも加わり、交わることのない独自の行動をとってきた経緯があります。

この複数存在している精神分野の支援事業関係団体の活動に対して、「分かりにくい」「力の分散だ」という周囲からのご指摘や批評が多く寄せられるということが、ここ数年の経過としてありました。

そうしたなか、3年ほど前から、この3団体に日本精神保健福祉士協会(日本PSW協会)、全国精神障害者就労支援事業所連合会(通称:職親会)も含めた5つの団体が、東日本大震災被災地への支援に関する協議の場を作り、情報交換や具体的な支援の検討と対応を進めるなか、現在の精神保健福祉の課題に対する取り組みも新たに行うという機運も生まれたことにより、当時全国的にも非常に大きな問題となっていた、地域移行・退院支援補助事業削減に対して、反対のための要望行動を関係3団体の連名による要望書提出という形を取りながら進める合意が成立し、実行しました(要望書参照)。

図 要望書拡大図・テキスト

それらの動きも踏まえて、精神障害者地域生活支援の推進と精神障害者福祉の一層の増進という一致点をベースに、3団体に共通する課題が認識された場合には、『精神保健福祉事業団体連絡会』という名称をもって共同連携し、発信力を高めるという合意が成立し、2013年4月に新組織結成のための総会を開催し、規約や役員構成も整えました(写真/福祉新聞記事参照)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

日本精神保健福祉士協会(日本PSW協会)ならびに全国精神障害者就労支援事業所連合会(通称:職親会)には、引き続き、本連絡会のお目付け役としてご一緒いただくことをお願いしています。

新組織である『精神保健福祉事業団体連絡会』は当面、障害福祉サービス事業の担い手として、現状の福祉サービス事業の不備不足を追及していくための論証を確保していく行動、そのために必要な研修会や、各団体の会員のみなさんの想いや要望を把握するためのアンケート調査を行うことを計画しています。

そのひとつの研修会については、本年2月28日~3月1日の2日間、東京都大田区産業プラザPioを会場とし、障害者権利条約の批准と地域生活支援の推進という大きな課題を捉えながら、「これからの精神障がい者の地域生活支援~ソーシャルインクルージョンの実現に向けて」をテーマに据え、合同研修会を開催しました。

ソーシャルインクルージョンは「共生の21世紀」となるための重要なキーワードであり、障害者権利条約の批准はまさに、地球規模におけるソーシャルインクルージョンの実現を目指す日本の参加表明でもあります。しかし、参加することに意義があるのではなく、実際的に実現しなければ意味はありません。その実現に向け、とりわけ精神分野での遅れの著しい、地域移行、職業生活、居住の各領域でどのように取り組むべきかを今回の研修会で取り上げることとしました。

記念講演では、当該精神保健福祉分野で長くご経験を有する寺谷隆子氏にご登壇いただき、「東京都板橋区におけるソーシャルインクルージョンの実践」と題してたっぷりと論説をお伺いすることができました。

行政説明では、「今後の精神保健医療福祉施策の動向について」と題して、厚生労働省精神・障害保健課課長補佐尾崎美弥子氏より、主に精神保健福祉法改正に関する情報提供をいただきました。その後のシンポジウムでは、3団体の代表がそれぞれの活動を背景に「ソーシャルインクルージョンの視点で精神障がい者の地域生活支援を考える」をテーマに、各団体のメインオピニオンを発信しました。

研修2日目は3分科会を開催し、第1分科会では「地域移行支援・地域定着支援の実際」を全国精神障害者地域生活支援協議会がプロデュースし、相談支援活動の活性化と地域移行支援について理解を深めました。第2分科会は「精神障がい者の就労支援・日中活動の諸課題」を全国精神障害者社会福祉事業者ネットワークの企画進行で進め、障害福祉サービス事業の現状と課題を浮かび上がらせました。第3分科会は「グループホーム(一元化)と新制度での居住支援のあり方」とし、日本精神保健福祉事業連合が担当し、地域移行と生活支援の要としての居住支援を、今後どのように展望するのかという視点からの進行となりました。

以上のようなさまざまな企画の中から重要な知見が数多く得られ、これらを基にさらに精査し、次年度の報酬改定への具申や今後の要望行動に活かしていかれればと考えます。

3団体の共同の活動がいよいよ始まりました。しかし、まだまだ戸惑いや迷いも多く存在しています。現状では、あくまでも共通課題への取り組みにおいて足並みを揃えることであり、おのずと各団体の主体性を保持するということです。したがって、足並みの揃わないことには関与しないということも確認しながら、少しずつの共同連携を模索中です。

今後もこの流れを大切にしながら、ひとえに、精神障害者地域生活支援活動の活性化や進化(深化)、そして、精神障害者福祉の増進に結び付くような営みになればと思い努力していく所存です。どうぞ本活動への皆様のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

(いざわゆういち 精神保健福祉事業団体連絡会代表)