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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

福祉用具・介護ロボットの臨床評価
~現状、課題、展望~

粂田哲人

福祉用具の「臨床評価」

福祉用具の評価の目的は二つある。

一つは製品としての安全性を検証することである。日本の工業製品には、国が定める工業標準として日本工業規格(JIS)が制定されており、JISの認証を取得したことで製品の適切な品質を保証されたことになる。JISは日本の工業標準であるが、国際的標準化を行う機関として国際標準化機構(ISO)がある。各国が国内規格を制定する場合、国際規格がすでにある場合には、これに整合させることが義務付けられている。

もう一つは臨床での実用性を検証することである。これがいわゆる「臨床評価」である。ここでいう臨床とは、医療機関などで福祉用具を用いた介入を行う機能訓練の場面や、在宅や介護施設で福祉用具を用いた介入により生活行為の維持・改善を目指す場面などの「現場」、あるいは「現場を重視する立場」を指している。

日本での福祉用具の臨床評価には、従来二つの流れがある。

一つは公益財団法人テクノエイド協会が実施している「福祉用具臨床的評価事業」である。これは「実際の利用者の状態や使用場面を想定する臨床的な側面から、福祉用具の利便性(使い勝手)や安全性等を評価し、認証された福祉用具を情報提供する事業(テクノエイド協会HPより抜粋)」である。

評価の対象となる福祉用具は、介護保険において保険給付の対象となっている車いす、電動車いす(標準形・簡易形・ハンドル形)、特殊寝台、スロープ、入浴補助用具(入浴台、浴室用すのこおよび浴槽用すのこ、浴槽内いす)、入浴用いす、ポータブルトイレ、歩行器・歩行車、エルボークラッチ・多脚つえの種目のうち、工学的安全性についてJIS認証を受けているものである。受審希望事業者は認証センターに評価申し込みを行い、厚生労働省から委託を受けた評価機関(国内に6施設)において評価が行われる。

評価に携わる評価チームは、障害当事者、運動機能や生活機能の観点から評価できる作業療法士(OT)や理学療法士(PT)、工学的側面を理解しユーザビリティ評価のできるエンジニア、3年以上の在宅における適合経験がある相談担当者によって編成される。評価チームが、福祉用具種目ごとにあらかじめ制定されている評価基準に基づいて、所定の項目について評価を行う。

もう一つはリハビリテーションセンターや事業者が独自に行なっている臨床評価である。これも目的は福祉用具臨床的評価事業とほぼ同様である。ただし、評価対象となる用具の種目、評価方法や評価指標、評価チームの編成などは独自に決めている場合や、あるいは福祉用具臨床的評価事業に準拠している場合などさまざまである。福祉用具臨床的評価事業がいわばレディーメイドの評価であるのに対し、こちらはオーダーメイドの評価といえる。

横浜市総合リハビリテーションセンターにおける臨床評価

実際の臨床評価の現場を、私の所属する横浜市総合リハビリテーションセンター(以下、当センター)を例に挙げて説明する。当センターには、福祉用具を専門とするエンジニアが所属しており、従来、企業等から福祉用具の製品や製品化に対する助言を求められることが多く、それに応じて共同開発や臨床評価を実施してきた。特徴的なのは、横浜市の在宅リハビリテーション事業に携わっているため、在宅の現場に詳しいOT、PT、エンジニアが評価チームのメンバーとして参画していることである。内容によっては、言語聴覚士や体育指導員もメンバーとなる。場合により、当センター利用者にもメンバーとしての参加を依頼しており、利用者ニーズを直接反映できるようにしている。

実際の臨床評価場面では、企業・大学が試作、または製品化した福祉用具を臨床的・工学的に評価している。依頼内容に関して、当センターの今までの臨床評価の経験から評価項目を作成し、評価メンバーが実際に福祉用具を用いながら改善点の指摘、利点や欠点などの特徴を整理する。評価にはOTやPT、エンジニア等による「専門職評価」と、実際の福祉用具の利用者による「ユーザー評価」がある。ユーザー評価を行う場合は、当センターが組織している倫理審査委員会を開催し内容を諮る。必要な場合は、利用者の状況を考慮しつつ、動作分析、重心計測、体圧分布測定などの各種装置を用いて定量的評価を実施している。

福祉用具としてのロボットの評価

福祉用具としてのロボットの評価をめぐる近年の動向を見てみる。

2009年、経済産業省所管の独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「生活支援ロボット実用化プロジェクト」が立ち上げられた。これにより、これまで民間企業のみでは難しかった安全に関する認証機関や試験機関、安全基準に関する国際標準などの整備が公的機関の関与により始まった。

2010年6月に政府が掲げた新成長戦略で、「介護機器(福祉用具)開発の促進」を図ることとされたことを踏まえ、同年9月には厚生労働省と経済産業省が連携し、安全性の高い生活支援ロボット等の研究開発・実用化を促進するための「介護・福祉ロボット開発・普及支援プロジェクト検討会」が開催された。

2011年度には、福祉用具や介護ロボット等の実用化の支援に資するスキームを確立することを目的として、厚生労働省の委託によりテクノエイド協会が「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」を開始している。

2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では「ロボット介護機器開発5カ年計画」1)が盛り込まれ、経済産業省と厚生労働省は、「ロボット技術の介護利用における重点分野」を策定している。ここでは、ロボット介護機器の開発・実用化に係る重点分野として、4分野5項目が設定されている(図1)。2014年2月には、さらに1分野3項目が追加された。今回ここで述べる福祉用具としてのロボットは、この8項目で述べられている「介護ロボット」を念頭に置いている。

図1 ロボット介護機器の開発・導入と省庁間の連携(ロボット介護機器開発5ヵ年計画について 経済産業省 厚生労働省)
図1 ロボット介護機器の開発・導入と省庁間の連携拡大図・テキスト

介護ロボットの多くは現在開発段階にあり、臨床での使いやすさや安全性を示す臨床評価のあり方は模索中といっていいだろう。こうした中で「生活支援ロボット実用化プロジェクト」における「ロボット介護機器開発・導入促進事業」では、重点分野のロボット介護機器の介護現場への導入に必要な環境整備のために、安全・性能・倫理の基準作成に取り組んでいる。

この事業の中で、介護ロボットの開発プロセスにおける臨床評価を行う目的が示されている。

実際の臨床評価に関しては、「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」における「専門職によるアドバイス支援(専門職における試用評価)」がその一つの形といえる。これは、開発早期の段階にある介護ロボットについて、高齢者、障害児・者のリハビリテーションや、福祉用具の利活用に関わる専門職が専門的なアドバイスを行うことで、真に必要とされる機能・機器の開発を促すものである。当センターも支援機関として参加し、在宅リハビリテーション事業や機器開発の経験が豊富なOT、PT、エンジニアが評価メンバーとなっている2)。この評価の眼目は、開発の初期段階から臨床に詳しい専門家が加わることで、臨床のニーズに合った実用性の高いロボットの開発を目指すことである。

また、「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」では「介護ロボット等モニター調査事業」も行なっている。これは、「開発中の介護ロボット等について、介護現場において、使い勝手のチェックやニーズの収集など、企業が機器開発上有用となる情報を収集するためのモニター調査を行うことを目的(テクノエイド協会HPより抜粋)」としたものである。これにより、実際の使用環境(主に介護施設)における実用性を評価しようとしている。これも意味合いからは臨床評価といえる。

今後の臨床評価の課題と展望

以上のように、介護ロボットの開発は臨床評価も含めて公的機関の主導で進んでいる。その中で挙がっている課題を、2013年度の「ロボット介護機器開発・導入促進事業」報告書から見てみる。ここでは、1.実験のサポート人材が不足、2.十分な数の評価データの収集が困難、3.安全性や有効性の評価のガイドラインが不在などの課題が挙げられている。

サポート人材については、臨床現場、特に在宅でのリハビリテーションや介護に詳しいOT、PT、エンジニアが評価に十分に加わることが求められている。実際の福祉用具の利用者は、必ずしもリハビリテーションや介護のプロではなく、また現場での困難さや福祉用具の利点や欠点を、機器の開発に役立てられるように開発企業に伝えられる窓口は極めて限られている。一方、開発企業等が利用者の生活の場に入ってニーズ調査を行うのは必ずしも容易ではない。これらに対し、セカンド・ユーザーとして、普段から臨床現場で福祉用具を活用して利用者への介入を行なっているOT、PT、エンジニアは、現場のニーズを的確にとらえること、掘り起こすことに長けている。また、そうして得た現場のニーズを、専門的な視点から分かりやすく整理し、開発に役立てられる情報に加工して開発企業に提供することもできる。

OT、PTの福祉用具の利活用に関する知識・技能の向上には、所属する職能団体も力を入れている。たとえば、OTの職能団体である一般社団法人日本作業療法士協会では、福祉用具に関する専門性の向上等を目的に、福祉用具対策委員会を設置している。同委員会は、協会員向けにインターネットを利用した福祉用具に関する「福祉用具相談支援システム」を開発し普及させている。また、「IT機器レンタル事業説明会」を定期的に開催し、IT機器を用いたコミュニケーション支援と技術向上に注力している。福祉用具の適応評価、利活用のための訓練・指導技術を持つOTは、臨床評価においても今後の活躍が期待されている。

評価データの数については、特に希少性のある筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病者を被検者に選ぶ場合に課題となる。また、そもそも疾病や障害により基礎体力が低下している場合に、評価に伴う負荷を安全面からどの程度まで許容範囲とするかも重要な倫理的課題である。機器の安全性・有効性のガイドラインは、各評価機関によりさまざまであり、今後は機関間の格差を改善して評価レベルを整えていくことが必要である。

また、評価方法としては、開発企業の担当者と、評価に関わるOT、PT、看護師等の医療職やエンジニアが協働することが有効であることが今までの取り組みから示唆されている。今後、そのような人材を確保できる施設が増えていくことが望まれている。

(くめたあきと 横浜市総合リハビリテーションセンター 地域リハビリテーション部 研究開発課 作業療法士)


【参考文献】

1)経済産業省 厚生労働省「ロボット介護機器開発5ヵ年計画について」

2)飯島 浩「試用評価をより有益にするための方法と課題―横浜市総合リハビリテーションセンターにおける福祉用具・介護ロボット実用化支援―厚生労働省老健局振興課 福祉用具・介護ロボット開発の手引き」P42~P45、2014年