特集/教育リハビリテーションの諸問題 ITPAとダウン症候群の黒人の子ども

特集/教育リハビリテーションの諸問題

ITPAとダウン症候群の黒人の子ども

The ITPA and Negro Children with Down’s Syndrome

James M.Caccamo*

Allen C.Yater**

武田 洋訳

 いろいろの人種別のグループの言語機能に関する研究は、最近、先端をゆくものとなってきた。Ryckman(1966)、Weaver夫妻(1967)、Ciarelli(1969)たちはIllinois Test of Psycholinguistic Abilities(ITPA)を用いて、黒人の子どもたちに精神言語能力を調査した。この研究の結果はKirk夫妻(1971)によって要約されている。「しかし、次のことは特筆されてよい、つまり聴覚連続記憶(短時間の聴覚的記憶)については、低および中流クラスの黒人の子どもたちは、そのもっているほかの能力に比べてすぐれており、また白人の標準に比べてもまさっていると。

 聴覚連続記憶での黒人の子どもの優位性は、この優位性が障害をもつ子どもにもみられるのかどうか、ということに関する疑問をひき起こすことになった。ITPAの修正版をダウン症候群を有する黒人の子どもたちに試みることになった。

 結果

 聴覚連続記憶の下位テストとITPAの下位テストの平均のt検定の比較では、統計的になんの有意差も生じなかった。そこで、白人のダウン症候群の子どもたちの手話法の表現についての下位テストでの優位性(McCarthy1965)がみられるために、手話法による表現の下位テストとITPAの下位テストの平均について、t検定が行われた。

 ダウン症候群の黒人の子どもの例では、視覚の欠損を除いてすべてのITPAの下位テストについて、有意差(α=.05)がみられた。その差の方向というのは、手話法による表現という下位テストの施行を、高度な精神言語能力と考えさせるものである。手話法での表現と、視覚の欠損の平均の比較についてのt検定の結果では、有意差では表れなかったが(t=1.73,p>.05)、なんらかの意味があると思われる。

 チャンネルごとの下位テストの結果、次のことが言えると思われる。ダウン症候群を有する黒人の子どもの場合、受容(t=5.07p<.05)、表現(t=4.72,p<.05)、連合(t=9.59,p<.05)が含まれる過程でITPAの得点に有意差がみられた、。

 伝達の各チャンネルの間の相違は、連合(t=1.33)、連続記憶(t=0.46)が含められると、有意差はみられないが、その相違の方向は視運動のチャンネルに優位していることを示している。ダウン症候群を有する白人の子どものグループに、ITPAを用いて、Strunk(1964)は同じような結果を報告している。

 結論

 ダウン症候群の黒人の子どもたちの能力のテストのプロフィールが、ダウン症候群の白人の子どもたちの能力のプロフィール(Strunk 1964、McCarthy 1965)と比べられた。ダウン症候群の黒人の子どもたちが示した、統計上有意差のみられる順位相関(r=.74,p<.05)は、ITPAによってテストした白人の子どもの精神言語能力のプロフィールの相関とは、有意差で異なってはいない。

 Bateman(1964)とRyckman(1966)が調査を行った知的遅滞を伴わず、ダウン症候群のない黒人の子どもと、ここでの例の能力のプロフィールを比べてみると、有意差のある相関はなかった(r=0.4,p>.05、とr=.19,p>.05)。以上から、次のことが結論づけられる。黒人の子どもたちの聴覚連続記憶の領域での有意性(Bateman 1964、Ryckman 1966、Cicarelli 1969)はここでのダウン症候群を有する子どもたちの場合にはみられなかったということである。

 次のようなことも明らかであろう。つまり、ダウン症候群を有する黒人の子どもの特異性が無効になってしまうのは、知的な機能が低くなってしまうことによるもので、人種的な違いが相殺されてしまうのではない、ということである。

参考文献 略

*ミゾーリ州カンサス市カンサス市地区診療所評価部長
**ミゾーリ州セントルイス大学心理判定学部助教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年7月(第7号)15頁~16頁

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