福祉とリハビリテーションの統合化

福祉とリハビリテーションの統合化

──公的扶助対象者のリハビリテーション──

The Integration of Welfare and Rehabilitation Efforts for The Rehabilitation of the Public Assistance Client:An Attainable Goal

Reuben J.Margolin、Ed.D.*and George J.Goldin、Ph.D.**

山下皓三訳***

 公的扶助を受けなければならない人々が増加しているが、この問題は、われわれ国民の経済や道徳の両面から、最重要な問題の一つになりつつある。1963年以来公的扶助の受給者は、800万から1000万人に達しており、しかもなお、増加の傾向にある。ニューヨーク市では、現在歳入の23パーセントが公的福祉計画に使われており、間もなく市民の8人に1人が、「福祉」を受けることになるであろう。この傾向は他地域においても同様である。米国保健教育福祉省で社会リハビリテーション庁長官をしているJohn Twinameは、過去5年間で国の福祉に要する費用が2倍になっていることを報告し、同省の長官であるElliot Richardsonは、会計年度における福祉経費が100億ドルになるかもしれないと予言している。たとえこの警告をわれわれの経済機構に組み入れられた貧しき人々(失業による)、すなわち福祉受給者の側における動機づけの欠如のゆえにしようと、国民の側における実現しそうもない訓練のニードのゆえにしようが、以下の事実は現存するのである。すなわち、基本的には福祉やリハビリテーションにたずさわる専門家の領域に集約される問題であるが、これの解決を叫ぶ事実である。

 米国社会リハビリテーション庁の前長官で、保健、福祉の領域で最も精通した専門家のひとりである故Miss Mary Switzerは、増大する公的福祉の受給者やそれらの対象となる人々が経済的に自立できるように助力することほど、こんにちわれわれの直面する、より緊急で、重要な仕事は存在しないと述べている。Miss Switzerによってじゅうぶんに述べられているように、この仕事は徹底的かつ革新的な、長期にわたる努力と手続きを必要とするものである。

 最近にいたるまでの公的扶助を受けている人の経済的自立を得るための負担は、しばしばその人自身に置かれていたし、かりになんらかの援助がなされるとしても、それは受給者とリハビリテーションないし福祉にたずさわる人々との両者間のかかわりで処理されることが期待されていたのである。しかしながらサービスの交付組織がより複雑になるに従い、単独機関では福祉の対象者が遭遇する多様な問題によく対処することができないことを実感として受けとめるようになっている。クライエントの独立した経済活動に対する障壁を処理するサービスの統合母体を準備するためには、多様な機関の間でのサービスの協調が必要なのである。MargolinとOlshanskyはリハビリテーションが、クライエントの機能と密接する社会制度の力動的な相互作用の結果として起こることを示している。このようにクライエントのリハビリテーションは、関連した地域機関、特に公共の福祉と職業リハビリテーション機関との力動的な相互作用のゆえに生起するのである。

 公的福祉のクライエントに対してのサービスの交付組織を促進するため、過去10年間顕著な努力がはらわれてきたが、公共の福祉と州リハビリテーション機関との密接なサービスの協同を発展させるための試みには、重大な問題や議論が介在したし、さらにその結果は必ずしも期待にかなうものではなかった。しかしそこからは多くのことが教訓となり、進歩がみられた。

 たとえば全国4か所で行われた低所得者用住宅のデモンストレーション・プロジェクトは、各機関が協同したサービス態勢のなかにおいて、貧窮者のリハビリテーションを目的とした。コネチカット州のニューへブン市をはじめ、ミズリー州のセントルイス、オハイオ州のクリーブランド、カルフォルニア州のピッツバーグの4か所で行われたこれらのプロジェクトは、社会的、情緒的、身体的に障害を受けているクライエントが、もはや福祉を必要としなくなるほどの成功をおさめた。New England Rehabilitation Research Institute(施設間プロジェクトの研究を目的とした組織)における研究結果では、リハビリテーション機関の系統的組織化がクライエントの将来にいかに影響を与えているかということを示している。また他の主要な研究結果によれば、福祉受給者は自分たちの未来への期待が否定的(悲観的)なものから肯定的(楽観的)なものへ変わることにより、リハビリテーションも公共福祉という観点から経済的自立へと変化することを示している。また福祉を受けているクライエントが、かれら自身のリハビリテーションのための地域計画に、可能なかぎり最大限に参加することによる効果も実証されている。さらにクライエントが自立できるようにする過程のサイコダイナミックスが独自に研究されたが、この可能にするということは、精神社会的動向を受け入れる無防備の範囲で種々の機会を準備してやることを意味している。

 Griggは、福祉にかかわる省とリハビリテーション機関との密接な協調関係とより効果的な手続きの進展を強調した、14の特別デモンストレーション・プロジェクトを研究したが、そこでは職業リハビリテーションのための福祉受給者の審査に特別の注意がはらわれた。これらのプロジェクトはアーカンサスやフロリダ、アイオワ、ケンタッキー、マサチューセッツ、ミネソタ、ネブラスカ、ニュージャージー、プエルトリコ、テキサス、ワシントン、ウェストバージニア、ウィスコンシンの各州で実施された。この研究は、診断や適性の決定が完全でありさえすれば、リハビリテーションの受け入れと以後の成功に対する可能性がより大であることを示したのである。

 さて一般的な考えとは異なるがWright、Reagles、Butlerらは、ウッド郡やウィスコンシンでの特別デモンストレーション・プロジェクトにおいて、文化的に疎外されていたクライエントも身体的、知的、情緒的に障害を受けた人々と同じく、リハビリテーション・サービスに適していることを知った。さらにこの研究によれば、徹底した面談とフォローアップがリハビリテーションを成功裏に導くのに有益であることも示している。これはNew England Rehabilitation Research Instituteでの四つの協同したサービス・プロジェクトにおけるデータによって実証されており、公的福祉のケースワークに適応できそうである。ただここでは、集団技法の重要性を否定しているのではなく、両者間の効果的な面談関係の重要性を常に考慮すべきことを主張しているのである。

 ところで、公共の援助問題の重要さにかかわる施策として保健教育福祉省は、1971年6月30日までに35,000人の福祉受給者をリハビリテートすることを目標にした(この数はリハビリテーションサービス給付を受けている115,000人の一部にすぎない)が、これは大きすぎる企画として受けとられたものである。しかしながら、リハビリテーション・サービスへのニードという観点からいえば、決して多い人数ではない。それはカリフォルニア1州だけをとりあげてみても、公式に登録され、しかも職業リハビリテーションを受ける能力があると考えられるクライエントが250,000人に達することからもいえることである。New England Rehabilitation Research Instituteで現在行われている研究によると、公的扶助を受けている者で、労働の可能性があると判定されたクライエントのほとんどが、事実、職業リハビリテーションを必要とするほどに、身体的にも、知的にも、障害を受けていることを示している。

 この問題の要求に対処するために、公的扶助の対象となるクライエントを更生させるための総合的施設が、全国にすでに開所され、また建設されつつある。これらの一つにノースイースタン大学によって実施されたものがあり、そこでは概念の領域、諸問題、勧告等各種局面を研究し、以下の五つの基本概念の領域が叙述されている。

 1.クライエントの動機づけ

 2.障害の基準と適性との関連(ケース選択のための基準)

 3.コミュニケーション(諸機関、開業医、階級レベル間の)

 4.福祉とリハビリテーションに有益な組織的な手続き、相互をいかに密接にするかまたは離反させるかという観点から

 5.就労者の態度

 さて前にも触れたところであるが、福祉受給者への動機づけの問題は、クライエントの自立への責任という観点からのみ考えることはできないという認識が徐々になされつつある。これらクライエントの多くは、種々の機会が制約されていたり、パーソナリティーの不適切な発達のゆえに、一般の競争と業績が優先するように志向している社会においては、じゅうぶんに働くことができないであろう。その結果として虚無感や依頼心がかれらの基本的な性格であると考えられるようになってしまうのである。かりにこれらクライエントがじゅうぶんに労働し得ると判定されたとしても、雇用社会の中へふたたびはいることは容易なことではない。普通に雇用される人々は、労働環境でのストレスや苦痛に条件づけられ、習熟するように働きかけられるため、うまく働くことができる。しかしクライエントは、長期間雇用されないでいればいるほど労働習慣の条件づけがなされず、ますます仕事への見通しが不安になるということから、上記の特性は身につかないといえる。そこで失敗が起きないようにするためには、クライエントは、最大限にその能力を発揮できるまで、よい結果をもたらすような経験を得なければならない。この目標を達成する際の鍵となる要素は、リハビリテーションと福祉担当両者が一体となり努力することである。

 StantonとSchwartzの研究やこれ以後になされた多くの同様な研究によれば、クライエントの動機づけは、実質的には助力する人々の間における関係に影響されるということである。したがってリハビリテーションや福祉担当者の関係は、クライエントに積極的な効果をもち得るし、消極的な効果ももち得ることになる。言い換えればこれら両専門家間の健全な関係が、クライエントの動機づけにきわめて重要であるということである。しかしながらこのような関係を固定化しようとしても 各専門家グループはそれぞれの確固たる価値体系を有しているということから、しばしば困難である。すなわち公的福祉担当者は、本質的にはケースワークにより重点をおくというより、むしろ収入の維持を重要視する傾向にあるし、他方リハビリテーション担当者にあっては、クライエントの究極の目標が社会的、経済的に有用な市民として社会に復帰することを大いに志向する傾向にあるからである。ただ両分野における担当者間の公式、特に非公式の相互関係を通して、クライエントの動機づけをするのに多く寄与することのできるのも確かである。

 クライエントを助力するには、根本的にはリハビリテーションおよび福祉担当者が相互の役割を理解するための道すじをもつことである。ただ残念なことは、この関係が全体として普及していないことである。なお相互のプログラムに関しては、互恵的な教育への基本的なニードがあるし、さらにはリハビリテーションと福祉担当者の社会的距離を減じようとのニードもある。またこれら両グループには献身と照会の観念があり、この照会は、両職域間の緊密な協力関係を通じての統一したチャンネル化と照会の方向がないと混乱してしまうであろう。

 かように照会過程は、リハビリテーションやフォローアップの鍵となるべきたいせつな要因となるのである。ケース会議によって、適切な照会形態の基準が設定されている。この照会過程は、クライエントが自分の精神内部のニードや家族、地域社会のニードをみたせるよう、導かなければならない手続きの開始といえる。公的扶助の対象者で社会復帰したクライエントは、当初は援助機関からの助力なしでは地域社会で自活することは困難である。福祉の本来的な援助から除くということと、まったく放ってしまうということとは別の問題である。多くのクライエントは地域社会での心理的打撃に対処することはできないし、かりにそこに迅速な仲介がなされないとしたら、また福祉本来の援助を受ける側になってしまうということもありうるであろう。

 さて地域の人々も、クライエントが社会のなかで自活するのを援助することができる。これらの人々がリハビリテーション関係の組織のために働こうが、福祉関係のために働こうが、かれらの役割の指示と適切な監督を受けることの保証さえ確かならば、さして問題ではないし、地域社会の援助は、リハビリテーションと福祉機関の密接な協調を推進させる上で有効な輪となりうるものである。すなわちこの援助は、リハビリテーションの予防的側面からリハビリテーションの遂行にまで関係しているといえる。これらの価値については、すでに三つの領域、すなわちケースワークへの助力、集団技法の適用、地域の組織において示したところである。しかしながら有効な地域援助も、専門家側の受け入れようとしない態度のためむだになってしまうこともある。Burchは、不利な状況にあるクライエントにサービスを提供する際には、近隣社会の積極的参加がもっとも重要であると強調している。

 ところでノースイースタン大学での会議で討議がなされた3日後に、参会者は、クライエントを扱う上での問題があまりにも複雑で、ただの1機関ではとても効果的にかれらを扱うことはできないということを認めている。多くの機関ではこの過程が複雑になっているが、リハビリテーションと福祉機関の協調は、公的扶助対象のクライエントを社会的、経済的に有益な生活にもどすための基本的な要素を構成しているのである。この一体となった努力がなければ、公的扶助の対象となっているクライエントは、たいていの場合強く動機づけがなされているにもかかわらず、失敗の道程を歩むことになる。そこで専門家の側での協調を通してクライエントのリハビリテーションを育成するため、参会者は以下の勧告をしたのである。

 1.照会はむやみになされるべきではなく、その手続きは両機関の職員間の協議を経てなされるべきである。照会の基準は、クライエントのリハビリテーションに対するレディネスに基づいで特別に設定されるべきである。そして以後のフォローアップの手続きは照会パターンの一部分となるべきである。

 2.公的扶助の担当者は、職業リハビリテーション機関へ照会するため定期的にケースを検討すべきであり、リハビリテーション担当者と話し合ってスケジュールがたてられねばならない。

 3.照会することが決定的になったら、じゅうぶんに時間や労力、経費の浪費をなくすようにじゅうぶんに検討すべきである。

 4.リハビリテーションと福祉担当者は、おのおののケースを客観的に評価するため定期的に会合しなければならない。

 5.医学的検討が適性の決定に一担をになうような場合、それは迅速にしなければならない。医学的検討に対しては意見の一致をみなければならない。

 6.両サービスにはいってくるすべての新しい職員には、当初のオリエンテーションで、リハビリテーションと公共福祉間の関係を強調し、この根本方針に従うよう奨励すべきである。

 7.職員の交互の訓練、すなわち福祉職員がリハビリテーション機関で訓練を受けたり、その逆の訓練がなされなければならない。

 8.公的扶助を受けている若いクライエントに対しては、慢性的な依頼心を育てないためにも徹底した努力が注がれるべきである。

 9.集団技法の使用をより完全に探究すべきである。これらにはグループ・カウンセリングや集団療法、グループダイナミクス訓練、感受性訓練、対抗集団法が含まれる。また公的扶助、福祉担当者に指揮されるグループの可能性も研究されるべきある。

 10.運営費の苦しさにもかかわらず、われわれは機械の再整備、点検をしなければならない。また機関の能率をあげるために組織内部のコミュニケーション・アプローチを発展させなければならない。

 11.おのおのの専門職員は自分の行動を反省し、クライエントの進歩を促進しているのか、妨げとなっているのか考えなければならない。

 要するに公的扶助対象のクライエントのための、リハビリテーションと公共福祉両機関の努力の一体化に関する研究討議によれば、職員の関係や組織の関係、組織だった手続きの領域においては従うべき特別の道順があるということである。要求は確かであり、挑戦は数かぎりなく多い。しかも成功を必ず得なければならないのである。われわれはこのように種々の点で分裂を余儀なくさせていた障害をとくような、創造的なアプローチへ導く理解を深めるように進まなければならない。

Rehabilitation Literature、November,1971より)

参考文献 略

*ノースイースタン大学リハビリテーション・特殊教育学部長、New England Rehabilitation Research and Demonstration Instituteプロジェクト部長

**New England Rehabilitation Research Institute研究部長

***東京教育大学教育学部附属桐が丘養護学校教諭


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年7月(第7号)22頁~26頁

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