オーストラリア、ニュージーランドの義足の印象

オーストラリア、ニュージーランドの義足の印象

明石謙

1.オーストラリアの義足

 オーストラリアの義足について、私の見聞した範囲は見学した諸施設の中でも特にPrince Henry Hospital,A&L Centerおよび学会展示場である。以下学んだことを項目別に述べてみたい。

 a.股関節離断義足

 カナディアン型の義足であるが、North Western大学で開発されたdiagonal socketを普通に使用していることにおどろかされた。われわれが処方しているカナディアン型股離断義足は、患側はもちろん、健側の骨盤もスッポリとプラスチックでおおうため、汗をかきやすい会陰部に不快感が大きい。しかし歩行中にソケットにかかる力の分布をみると、立脚期には、矢状面ではソケットの底部、前腸骨棘部、殿部にかかり、前額面ではソケットの底部、患側の下外側面、健側の大転子から腸骨稜の間にあたる部分で、これらの部分があれば、立脚期には不自由はないことになる。

 だだし遊脚期には、懸吊のため患側の腸骨稜にも何かをとりつけておく必要があるので、バンドを用いる。

 図1に示したように、ソケットの型は健側の腸骨稜―大転子から斜め下に断端末に向かうためにdiagonalの名がついたものらしい。われわれも試作してみたが、ソケットを正中で開くようにするとバンドが長くなりすぎるため、懸吊がふじゅうぶんになっていたが、展示されていたソケットは健側の腸骨稜-大転子の部分を開くようになっており、なるほどと思ったしだいである。

図1 diagonal socket

図1 diagonal socket

 b.膝離断義足

 展示されていたものは膝離断義足のソケットに坐骨支持がついており、四辺形ソケットの形をしていた。膝離断の利点は断端末での体重支持が可能なことであり、下手な手術の結果やむを得ず坐骨支持をソケットにつけることもあるので、けっしてこれはほめられることではない。ただ膝離断義足は膝ブロックを用いると大腿長が長くなりすぎるので蝶番関節を用いるため膝軸の摩擦をつけることができず、歩容は、いわゆる膝インパクトがおこり、あまりよくない。この点はFendel Institute型の摩擦のメカニズムを用いて解決していた。構造はけっして複雑なものではないので、私どもの無策を恥じたしだいである(図2)。

図2 Fendel型の摩擦

図2 Fendel型の摩擦

 c.Air-Cushionソケット

 1968年、Wilsonが発表したもので、軟ソケットをやわらかいプラスチックで作り、これを外側の硬ソケットにはりつけ、その2層のソケットの中間に密閉した空間を作る。立脚期に断端は軟ソケットを通じ空気の圧迫をうけ、遊脚期には陰圧になる空間により、懸吊を助ける。やはり展示されていたもので、先端のあまり太くないサイム切断にこのAir-Cushionソケットを用いた未完成のものがあった。つまり読んではいたが、実物を見るのは、はじめてで興味があったが、よく話していると「実はあまり作っていない」ということで、いわゆるroutineとはなっていないようである。(図3)。

図3 air-cushion socket

図3 air-cushion socket

 d.義足の値段、義肢工の教育、その他

 A&L Centerで聞いた義足の値段を次に示す。

 股離断義足(diagonal socket)   473(A$)

 大腿義足(suction socket)    362

 膝離断義足             398

 下腿義足、コンベンショナルソケット 294

 PTBソケット           197

 注―1A$(オーストラリア・ドル)は360円

「義肢工の教育はTechnical Collegeで3年間行なっているが、実際に役にたつのにはもう少し時間がかかる」―Mr.Johnsはここでウィンクをしてみせた。

 オーストラリアには義足の部分品を作る会社はなく全部輸入品で、A&L CenterではOtto Bock社のものを主として使用している。義足の足部は90%以上SACH足を使用している。このshopで年間約400の義足を作る。

 e.感想

 2、3の新しいものを学んだ以外は、あまり感心せず、きめの細かい義足の処方とか、check upはうけていないようである。義足の製作技術のレベルは一応よいが、医学の他の分野で示される鋭く深いオーストラリア型の義肢学を期待していた点、少しがっかりした。

2.ニュージーランドの義足

 実はWorkshopはWellingtonのThe Disabled Re-establishment Leagueに付属したものしか見ていない。ただ、見学に行くためにバスをおりた所、大腿切断と思われるパイロンを装着した患者が、2本の松葉づえをつき、ひどい歩容でWorkshopの中にはいっていったのを見てオヤオヤと思った。しかしWorkshopに一歩はいったところ、活気にみちており、示される義足の製作技術はかなりよいように見うけられた。古い切断者にPlug fitのソケットを用いているが、直径2~3mmの穴をあけて汗の処理を考えたり、90パーセントSACH足を用いたりせず、単軸足もここでは処方されていた。なお、このWorkshopで作られているKiwi-Kneeは金属による面摩擦膝で2本の太いゴム輪を膝の伸展補助装置に用い、滑車の上を曲率半径の異なるレールが走ることにより、膝軸の可変摩擦も行なわせているというのが私の印象である。

 ものほしそうな顔をしていたら、使用済のものを一つ無償でくださった。現在分解してしらべているところである。なお、バスを降りたときに見た患者は、大腿義足をうけとりに来た患者で、断端にあっていないPylonをつけていたのも、そのためらしい。

 以上、私の見聞したことを述べたが、狭い範囲のことで、あまりこれを一般化して考えることは危険であり、しかも各都道府県によりレベルのマチマチなわが国と比較し、日本との優劣を論ずるつもりは毛頭ない。

岡山大学医学部中央物療部講師


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年10月(第8号)42頁~43頁

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