スウェーデンのシェルタード・ワークショップ

スウェーデンのシェルタード・ワークショップ

Sheltered Workshops in Sweden

John R. Kimberly *

松井亮輔**

 スウェーデンのシェルタード・ワークショップの一般的な特徴について学びたいと願いながらも、ごく限られた時間しか費やせない私にとっては、ストックホルムのスウェーデン国家労働市場委員会(Swedish National Labor Market Board,略称NLMB)の職業リハビリテーション部(Vocational Rehabilitation Division, 略称VRD)と連絡をとっておいたことが大いに幸いした。

 毎年何百人もの訪問者が、この機関の有能でしかも多国語をしゃべれる職員たちから、スウェーデンの労働市場政策やリハビリテーション・プログラムについての説明を受けているのである。この報告書は、「アメリカ合衆国とスウェーデンの障害を持った人々のための組織とサービス」と名づけられたプロジェクトの一環として、この職業リハビリテーション部が、私のために用意してくれたプログラムの成果の一つである。このプロジェクトは、イリノイ大学国際比較研究センターからも部分的な援助を受けたものであった。

シェルタード・ワークショップについて、スウェーデンとアメリカの経験を直接比較することは困難で、両国間にはいくつかの重要な相違があることを認めなくてはならない。たとえば、スウェーデンの人口は約800万人であるが、これはアメリカのほぼ25分の1にあたるし、スウェーデンの生活水準は、多くの面でアメリカと同程度であるとはいうものの、人種的にはスウェーデンはアメリカよりずっと単一民族に近い。また、社会・経済政策上著しい相違が見られるが、これはスウェーデンが「福祉国家」という社会民主主義的ビジョンを掲げていることに由来している。

 ここに提示した情報を集めるのに約5週間というごく限られた時間しか費やせなかったことからも、こうした比較をするにあたっては、いっそう慎重でなくてはならないと思われる。この論文が意図しているのは、読者に、スウェーデンのシェルタード・ワークショップの記述的展望を示すこと、つまり、これらの組織の現在の発達段階をうきぼりにするとともに、それらの運営について現在提起されている諸問題のいくつかについて、理解を深めるのに役だつような展望を示すことである。

 スウェーデンのシェルタード・ワークショップについてのいかなる議論も、それらの発達状況を歴史的に把握し、福祉国家としてのスウェーデンの中で、それらがどのように位置づけられているかについて、少なくとも大まかにせよ理解しなければ、不完全なものでしかないであろう。1943年に社会大臣(Minister of Social Affairs)により政府特別委員会が設けられ、障害者の諸問題を調査し、その解決案を提示すべく任務が託された。

 1946年から1948年の間に発行された五つの報告書に示されているが、この委員会の作業によって、一連の障害者福祉の原則が確立され、それにより今日のよく整った組織網の基礎が築かれたのであった。

 この組織網の中でのシェルタード・ワークショップの役割を理解するうえで、この委員会が行なった作業のうち、次の2点が特に重要である。

 障害者は、あるいは「部分的健常者」とは、「肉体的または精神的欠陥、あるいは社会的障害のために、仕事についたり、それを維持したりするのがほかの人々よりむずかしい」人と定義づけた点と、障害者へのサービスは、すべて国家雇用委員会(State Employment Board)の特別の事務所を通して行うよう提案した点である。この委員会は労働市場政策のあらゆる面にわたって広範囲なかかわりを持っているため、その名称をのちに国家労働市場委員会と改めた。

 これらの二つの点がもたらした意義はきわめて大きい。つまり労働市場用語で障害が定義づけられただけでなく、「社会的障害」も、その定義の中に特に含まれたのである。そのうえ、障害者に対するサービス活動が、労働市場政策全般を管理することをその役割とする機関によって行なわれることになったのである。

 したがって、スウェーデンのシェルタード・ワークショップは、労働市場問題に対する一つの組織的な対応となっていることを、外国からの研究者は認識しておかなくてはならない。そのため、シェルタード・ワークショップの成長と発達は、完全雇用の実現を基本要素とし、人はすべて働いて生活費を稼ぐ権利を持つべきだという原則を根本理念とする政策によって、大きく影響されているのである。この政策を実施する媒体として、政府はいかなる種類の人々も生計費を稼ぐ可能性をうばわれないことを率先して保障すべく責任を負っているのである。

 完全雇用にきわめて積極的に取り組んでいることから、高水準の雇用率を維持できるよう、全国的な規模で一連のプログラムが生まれてきたのである。これらのプログラムは、政府によって開発され、施行されはしたものの、一般的には運営についてはかなりの程度、地方に権限がゆだねられている。したがって、シェルタード・ワークショップの役割を理解するためには、それらが広範囲な国の人的資源政策の一環であることを認識する必要がある。

 また保護雇用(sheltered employment)とシェルタード・ワークショップとが区別されていることも重要である。つまり、ワークショップは保護雇用の一形態にすぎないのである。保護雇用形態にはそれ以外に、失業対策事業、在宅作業、半保護雇用などがあり、それらはすべてBeatrice Rubens著「雇用が困難な人々:ヨーロッパの対策」(The Hard to Employ : European Programs )で紹介されている。シェルタード・ワークショップが保護雇用全体の中で、いったいどのような役割をはたしているのかをみると、1971年6月には、33,000人の保護雇用者のうち、およそ12,000人―全体の40%弱―がシェルタード・ワークショップで雇用されていた。アメリカやその他の国でのプログラムと比較しようとする際には、この重要な区別を心にとめておくべきであろう。

 現在スウェーデンには約255のワークショップがあり、そのうちおよそ35は精神薄弱者のワークショップである。スウェーデンのワークショップは、オランダのそれに比べて規模が小さい。1ワークショップあたりの対象者定員数は平均47人である。1968年の数字によれば、ワークショップの44%は定員数が25人以下であり、定員数100人以上のところは6%にすぎない。このスウェーデンの数字は、Dolnick の報告(注1)によれば、1か月あたり100人以上の対象者にサービスを提供するワークショップが、全体の65%以上もあるオランダのそれよりも、1か月あたりの対象者数が45人以下のワークショップが全体の50%を占め、アメリカのそれにむしろ類似している。

 ワークショップ運営上の適正規模についての問題は、出発点として、スウェーデンとオランダとアメリカでの経験を利用することにより、比較に基づいた検討が可能であろう。

 ワークショップの対象者の障害は種々さまざまである。精神薄弱者のワークショップを除く1968年の数字によれば、ワークショップで働いている対象者の障害別内訳は、肢体不自由28%、精神病33%、アルコール中毒8%、盲3%、社会的不適応3%、その他の身体障害24%となっている。しかし1968年以来、統計を発表するのに、政府は障害状態の定義に新しい分類表をつくり、それによって分類を行なってきた。この分類方式は、国際的に用いられる定義といっそう密接に対応する15の分類からなっている。それを使えば、対象者の障害を他の国々と全体的に比較することが可能であろう。

 アメリカの場合でも同様であるが、スウェーデンのワークショップは、生産方法の技術水準にかなりの差がある。大きなワークショップの中には、高度に自動化された作業場できわめて精巧な機械設備、つまり、多額の資本投資を必要とする機械設備、を使っているところもある。印刷された本のページを切りそろえる裁断機は特に興味深かった。それは、いくつもの操作を前もってプログラムにセットしておくことができる。私がこの機械が使われているのを見かけたのは、ストックホルム郊外の超近代的なワークショップであったが、ここはさまざまな客の注文に応じられるように設計された、たくさんの最新式の印刷設備を備えていた。

 もう一つ感心させられたものとして、何種類もの家具の仕上げが高速度でできる家具用自動ラッカー吹きつけ機があった。これらのワークショップの多くは、成功をおさめている企業組織と数々の点できわめてよく似ているし、それらは障害者を雇用しているということを、ことさらに明示しない名称をつけていることが多い。

 政府の補助金を受けるためには、ワークショップは、1か月あたり一定時間数、有資格の嘱託医をおかなくてはならない。ほかの専門的なサービス、たとえば、リハビリテーション・カウンセリングや心理テストや職能評価やサイキァトリック・ソーシャル・ワークは、ほとんどの場合、ワークショップ内で行なわれるというよりは、むしろ、外部の公的機関で提供されるのである。

 ワークショップへの入所に先だって、対象者は普通、広範囲な検査をうける。各種の職業リハビリテーション、医学的リハビリテーション、社会福祉あるいは精神衛生関係施設で、専門的なサービスを受けることもある。たとえば、現在拡張中の、ストックホルムにある、国立作業能力評価クリニック(National Clinic for the Assessment of Work Capacity )で開発された方法をモデルにした評価サービスは、職業リハビリテーション部(VRD)で受けられる。

 ワークショップの職員は、工場長と何人かの指導員―その人数はそこでサービスを受ける対象者の人数によってきまる―で構成されるのが典型的である。通常、ワークショップの職員は、一般企業から採用されるので、リハビリテーションについては、ほとんど、もしくは全く、教育を受けていない。

 専門的なサービスの場合と同様、就職あっせんサービスは、他の政府機関で行なわれ、原則としてワークショップ自体では、定期的な就職あっせん活動はしていない。一般的にいえば、ワークショップへの対象者の措置は、県労働委員会の地方事務所、つまり職業安定所による一般企業への就職あっせんの可能性がすっかりなくなって、はじめて行なわれるのである。

 ほとんどの職業安定所には、障害者サービスを提供することを基本的な任務とする障害者雇用促進官(disablement resettlement officer)が職員として配置されている。ワークショップにどのケースを委託するかを決めるのは、この促進官である。ワークショップの工場長の多くは、対象者の一般企業への就職を奨励してはいるが、国の統計によれば、実際に一般就職しているのは、年間平均しておよそ2~5%にすぎない。

 賃金は地元の自治体職員が受けとる標準的な賃金率―これは団体協約で決められる―を基礎にして支給される。オランダでみられる割増金制度はスウェーデンにはないが、対象者の賃金を、ワークショップでやっているのと同様の作業を行なっているその地域の労働組合員が受けとる賃金と同じにすることが可能かどうか、検討しようという機運が高まっている。

 しかし、このような制度は主として議論の段階であり、広く実施されているわけではない。社会・経済政策上の問題については、この国で最大の労働組合であるスウェーデン労働組合連合(Swedish Trade Union Confederation)と政府との間に、密接な協力関係があるという伝統と、いくつかの労働組合が保護雇用に関心を深めているということを考え合わせれば、近い将来、保護雇用、特に、ワークショップ分野での、労働組合の役割がさらに徹底的に探求されるようになるとしても驚くにはあたらないであろう。

 国の人的資源計画の中で、シェルタード・ワークショップの役割が考えられているということについては先にふれたが、こうした役割を与えられたことからも予想されるように、政府はワークショップのいろいろな活動に補助金を出している。こうした補助金の基本的な性格は、勅令307号(Royal Ordinance 370)によって確立されたが、これは、1966年6月に法律となり、その後それに修正が加えられている。

 政府から補助を受けようと思えば、ワークショップは有資格の嘱託医を置き、政府が定めた規準に合う資格をもった工場長を雇用し、受け入れ可能な定員数はすべて国家労働市場委員会(NLMB)が自由に対象者を委託できるようにしておくとともに、同委員会が提供する技術専門家と協力して諸計画を作らなくてはならない。これらの資格要件を通して、政府は、ワークショップの日常の運営面に介入しなくとも、その性格や、そこでサービスを受ける対象者の種類に、影響力をおよぼすことができる。

 現在ワークショップが申請できる補助金には、三つのタイプがある。新しい施設を建設する場合、政府は定員1人あたり25平方メートルを限度として、1平方メートルあたり390クローナ(約2万3,400円)を支払う。しかし特別の場合には、この限度は1人あたり40平方メートルまで拡大することができる。しかしながら、いかなる場合でも、ワークショップの定員は国家労働市場委員会(NLMB)からの技術専門家と協議して、施設設置者が決めることになっている。委員会の職員との話し合いを通して、一般的にいってこの補助金は、ワークショップ新築費のほぼ2分の1をカバーしていることがわかった。差額は施設設置者―通常は市または県―によってまかなわれる。しかし管理部門はこの補助金の対象とはならない。既存の建物を借りる場合には、その改造費として、1平方メートルあたり、125クローナ(約7,500円)の補助がでる。

 第二のタイプの補助金は、当初の生産設備の購入に対して支給されるものである。委員会では、この補助金は平均すれば、定員1人あたりおよそ15,000クローナ(約90万円)にのぼると計算していた。が、理論上は、この補助金額には上限はないのである。補助申請は、委員会の技術専門家によって検討され、通常は機械設備購入費の2分の1を補助することになっているが、3分の2まで補助する場合もありうる。現在のところ、この補助金は当初の機械設備購入にだけ適用されており、いったんワークショップが運営を開始してしまえば、機械設備を取りかえたり、設備を買いたしたりしても、補助は受けられないようになっている。

 第三のタイプは、対象者の賃金補助という形をとっている。ワークショップは、対象者の作業時間1,200時間ごとに、5,000クローナ(約30万円)つまり1時間あたり1ドル(約300円)弱の割合で払い戻しを受ける。障害年金とか、なんらかの形でほかから補助を受けている対象者の場合には、1,200時間労働ごとに3,000クローナ(約18万円)が支払われる。労働市場委員会の計算によれば、1970年には対象者の賃金補助という形で、スウェーデンのワークショップ全体に対して、総額900万ドル(約27億円)以上が支払われたことになる。

 スウェーデンのシェルタード・ワークショップの一つの重要な特色は、過去15年間に急速に発達してきたということにある。発達の度合いは、新しい施設の設立を奨励することを意図した政府の政策によって大きく影響されてきた。たとえば、1955年におよそ450人の障害者がワークショップで雇用されていたが、1965年末にはその人数は10倍以上、つまりほぼ5,000人にまで増加したのである。そして1965年から1970年の間に対象者総数は、またもや倍以上になったのである。

 もちろんこうした増加は真空状態から生じたわけではない。職業リハビリテーション部(VRD)自体も、同じ時期に、サービス受給申請者数の急激な増加を経験したのである。たとえば、1960年から1970年の間にサービス申請者は33,486人から87,901人にまで増えた。この人数は、1973年までには10万人以上になるだろうと考えている専門家もいる。

 将来の制度や政策に期待の目を向けながら、スウェーデン人は、この増加に含まれている意味について現在深く考えている。この時期に急激な拡張が行なわれたために、障害者へのサービス分野ならびに労働市場政策の一手段としてのシェルタード・ワークショップの役割が、社会全体にさらに広く認識されるようになったのである。ワークショップの今後の役割については、多くの異なった意見が述べられてはいるが、基本的な考え方には三つの派があるように思われる。

 第1のグループは、ワークショップは本質的には、障害者を「普通の」社会から隔離し、かれらが地域社会で「普通の」役割を果たす可能性を妨げていると主張している。それゆえ、この派の人たちは、現在存在するようなワークショップにかわるものをつくるよう要求している。2番目のグループは、最低10万人の人々に雇用を提供できるところまで、ワークショップをただちに大規模に拡張するよう提唱している。3番目のグループは、ワークショップにとってかわる雇用形態を開拓すると同時に、ワークショップを徐々に拡張することに賛成している。

 一つには、公開討論会でとりあげられてきたいくつかの問題に対処するためもあって、最近政府の特別委員会がつくられ、スウェーデンにおけるワークショップの将来の役割に関する問題を調査することになった。検討される課題の中には、ワークショップ・サービスの最適水準とは何かとか、現在あるワークショップを存続させるための最も効果的な経営管理形態はどういうものか、といった問題が含まれている。この委員会は、ワークショップについて徹底的に研究してきたが、現在は資料を評価し、答申案を起草している最中である。この作業の結果は、ことし公けにされるはずであるが、これが1970年代のワークショップについての政府の政策に強く反映されるであろうことは、疑う余地がない。

 国家労働市場委員会(NLMB)と各地のワークショップとの関係を支配してきた原則は、伝統的に運営については、それぞれの施設の自治にまかせるということであった。つまり委員会自体が施設を運営するのではなく、施設に対して財政的援助や専門的技術を提供するのである。理論的には、どんな個人でも、グループでも、団体でも、ワークショップを設置できはするが、実際には、私立の施設はきわめて少なく、しかもその数はますます減少している。現在は、市または県による設置―後者のほうが望ましい―の方向に向かっており、これは委員会から完全な支持を受けている。

 現在あるワークショップを存続させるために、手続きとか資源をワークショップ間で調整するための方法を開発する必要があるという考えが広まっている。

 特別委員会は資材の共同購入とか、下請け作業の共同受注とか、ワークショップ工場長や指導員の共同訓練といった手段を通して、ワークショップの運営を「合理化」する方法を検討している。県自体がその行政区域内にあるすべてのワークショップの設置主体である場合には、このような共同事業の発達が県内で促進されることは明白である。「合理化」と効率化をすすめる種々の方法は、いったい集中化されたワークショップの運営をどのようなものにするためのものなのかという点については、問題があることもまた明らかである。特別委員会はこうした問題に真正面から取り組んでいる。

 外部の人間である私にとって、スウェーデン方式の職業リハビリテーション、特にシェルタード・ワークショップについて、おそらくいちばん印象的な側面は、この分野にたずさわる人々がすすんで別の方法を捜し求めたり、公けの機関を設けて問題を調査しているという点である。

 アメリカとくらべ、スウェーデンでは、これまで対象者がさまざまなプログラムに対して、どのような反応を示すかという点についての研究は、ほとんど行なわれていなかったが、プログラムの特色や費用については多量の情報が入手できた。この情報が外国からの研究者にも容易に手にはいるようになっているということは、スウェーデン人がきわめてオープンな性格を持っていること、ならびに、障害をもつ人びとに対してできうるかぎりのサービスとプログラムを提供することに非常に深い関心をもっていること、の証しである。

(Rehabilitation Record,March-April,1972から)

(注1)Michael M.Dolnick “Sheltered Workshop Programs in the Netherlands,” Rehabilitation Record,March-April 1971.Dolnick氏は、米国保健教育福祉省リハビリテーション・サービス局リハビリテーション施設部顧問であり、その著書「シェルタード・ワークショップの作業受注の実際」(Contract Procurement Practices of Sheltered Workshops)は、ワークショップ分野の古典的テキストになっている。

*Mr.Kimberly はCornell 大学付属Region Ⅱ Rehabilitation Research Instituteの研究員で、現在はIllinois大学Urbana分校の社会学ならびに労働、産業関係学科の助教授である。
**日本キリスト教奉仕団アガペ授産所更生課長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1973年4月(第10号)2頁~7頁

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