同じ地球のよその国で(4)

同じ地球のよその国で(4)

─身体障害者のための雑誌から─

石坂直行 *

◇ ディズニー・ワールド遊園地

 フロリダにオープンしたディズニー・ワールドは、身体障害者の提案が受け入れられ、その広大な全施設の90パーセントまでは、車いすの身体障害者にもエンジョイできるものとなっている。地元の身体障害者が、建設の段階ごとに工事責任者と話し合い、駐車場、園内交通機関、トイレなどを利用可能なものに作り上げていったのである。

 では身体障害客がここを訪ねるとどういうことになるかを、身体障害者の立場からルポしてみよう。

 まず自動車で駐車場入口に到着すると、「身体障害客は特別駐車場の使用を係員に申出よ」という標識がある。係員に案内される先は、遊園地入口に最も近い所にあるメディカル・パーキング・ロットである。

 それでも入場券売場までは1.6 キロメートルあるが、3種類の交通機関が利用できる。電車がいちばん早いが、車いすのままでは乗降が困難。船に乗るためには、さん橋から掛け渡した踏み板の両端に約10センチの立ち上がりがある。

 だから車いすの人の大部分にとっては、モノレールがいちばん便利だ。モノレール列車の中央部車輌には、通常の乗降口のほかに、車いすの人のための特別に広いドアが設けられてある。駅の職員がこの専用ドアを開けると、車内の座席が同時に折りたたまれ、車いすのための広いスペースが確保される。この係員は、身体障害者の取扱い方をよく知っており、必要な援助をす早く与えられるよう待機していて、身体障害客から喜ばれている。

 切符売場では、園内の種々の施設に入場できるよう、多数の切符を束にしたまま売り、割引にもなっているので普通はこれを買うのだが、その中には、身体障害の種類程度によっては入場困難な施設もあるので、身体障害客は個々の施設の切符を選んで買うように指示されている。

 このため、種々の乗物とアトラクションごとについて、身体障害の度合いに応じた入場可能度を示した詳細なパンフレットが無料で配布されている。このパンフレットは、貸出用の車いすと乳母車の用意されてある売店にも置いてある。身体障害客に手を貸すための専門職員が、通路の段差個所などに配置されているが、その人数は必ずしもじゅうぶんではない。

 園内には現在営業中のホテルが2軒あるが、どちらへもモノレールのプラットホームからエレベーターで楽に行ける。このうちポリネシアン・ホテルは、すべての通路と設備が、車いすの人に完全に利用できるように特別に設計されてある。

 園外だが付近にハワード・ジョンソンのモテルが2軒あり、どちらも車いすの客のための完備した設備とサービスを提供している。

(Paraplegia News,June 1972から)

◇ホーム・ライブラリー・サービス

 ウィスコンシン州のサウス・ミルウォーキー市立図書館では、在宅の身体障害者に特別サービスをしている。身体障害者が家庭から図書館に電話で注文すると、図書、雑誌、新聞、レコードなど図書館のすべての資料を家庭に配達し、用済みの資料を回収して歩く。料金はいっさい無料。

 サービスはFISHというボランタリー・グループが担当している。図書館の建物は、もちろん車いすの人が自由に利用できる構造になっており、市民以外の人にも開放されている。

◇ 新しいモービル石油スタンド

 モービル石油が、アメリカ全土のハイウェイ沿いの最新サービス・ステーションの多くを、車いすの身体障害者に立ち入り可能なように特別に設計している。

 同社協力サービス部長のアルフレッド・ゲタルディグ氏によれば、有料道路と主要ハイウェイ沿線に、1971年以降に建てられるすべてのモービル・トラベル・ステーションには、身体障害者に利用可能なデザインのトイレが設置されてある。ステーションのすべてのドアの幅は、少なくとも81センチで、車いすの通行が容易。

◇ ニューメキシコ州で大学建物チェック

 州教育財政委員会は、州内の八つの公立大学が、身体障害学生に対し完全に利用可能となっているかを調査することになった。これは1972年2月に施行された州法に基づき、車いす使用その他重度の歩行障害の学生が利用可能なように、校舎、寄宿舎、研究所その他の施設に、斜面路、エレベーター、幅広ドア、特別駐車場などが完備しているかを調べるものである。

◇ 車いす用ミニバス運行

 油圧式エレベーターを備え、12人ないし14人の車いすの客が、介助者なしに乗り込み、車いすのまま車内におれる特別バスが、フロリダのパーム・ビーチ郡の交通網に追加された。

 このバスは州の運輸省が購入したもので、将来、老人と身体障害者のための交通機関としての呼出しバスのシステム開発のモデルとするものである。ミニバスには、普通のバスのような座席と立席もある。呼出しサービスのための交信用無線電話を備え、身体障害者が自宅から電話すると迎えに行く。

 資金はすべて連邦政府から出ており、当面は、適当な交通手段が得られないため、医療を受けるのが困難な老人と身体障害者に対する福祉事業とし、成功したら全米に適用を広げるという。

◇ サンフランシスコ高速鉄道

 サンフランシスコ湾高速鉄道網のうち、サンフランシスコ地区の120 キロの区域は、車いすの身体障害者に100 パーセント利用可能となる。これは、同鉄道を身体障害者に利用可能なものとするための1千万ドルの計画によるもので、これには車いすの身体障害者ハロルド・A・ウイルソン氏がコンサルタントとして協力している。高速鉄道システムが身体障害者に完全に利用可能となったのは、世界でも始めてだといわれる。

 区域内の34の駅には、124のエスカレーターのほか、車いすの人のための特別エレベーターを55台設置した。

エレベーターは、歩道と駅の中二階と地下鉄のプラットフォームの各階を結ぶ。

 車いすから通話可能な電話器、低い水飲み台、特別トイレ、車いす用の幅の広いドア、有線テレビの監視装置など完備し、盲人のための配慮もある。

 ウィルソン氏はこう言っている。「利用可能な交通機関の有無は、身体障害者にとって、社会や友人や家族に依存するか、社会の中で自立するかを決定する要素であることが多い。高速鉄道のテスト列車に初めて乗ったときに経験した自由の感覚を、私は決して忘れない」と。

 サンフランシスコ湾高速鉄道の全システムについての身体障害者のための設備の取り付けはほとんど完了し、わずかに若干のエレベーター工事が残っているだけである。

 1972年秋にフレモントからオークランドに至る地区が完成、残りは1972年末から1973年中ごろにかけて完成する。

◇身体障害者住宅建設会社

 ハンディキャップト・ホームズ社という身体障害者用特別設計住宅を建設するアメリカでも初めての専門会社が、サウス・ダコタ州のレイノックスで設立された。代表者のマービン・フラムとリーフ・ネルソンの両氏とも身体障害者で、10人の社員で発足し、サウス・ダコタを基地とし、中北部諸州に仕事を広げ、やがては全米に手を広げる予定で、会社の運営には極力身体障害者を雇っていく方針という。

(以上Paraplegia News,May 1972から)

◇新製品紹介

◎足の冷えに最終的解決

 冬に足が冷えて困る人のために、電熱式の靴中敷きが発明された。電気の安全性の点でメーカーのレドウィン社に照会したところ、フューズも付いており完全に安全との確答を得た。

◎ 電話器アンプのテスト記録

 電話で話しながら字を書くことは、片手が不自由な人にとっては不可能な仕事だ。

 その解決法はだれでも知っているとおり、電話のアンプリファイヤーを使うことで両手を開放することだ。しかしこの装置はかなり高価なのが難であったので、今回の新製品のスピーク・ル・フォーン、マーク2型は、その小型簡便なことと、9,3 ポンド(8,036 円、送料共)という魅力的な価格。

 このアンプを電話器の横に置き、その上に電話器をのせる。スイッチは自動点に作動する。アンプとコードでつながったマイクロフォン兼スピーカーに向かって、普通の話し方で話せばよい。先方の声の大きさは調節できる。トランジスターと9ボルト電池使用。アンプをテープレコーダーに接続して会話を録音することも可能。スピーカーはコードを延ばしてどんな所へでも持ってこれる。磁石付きなので金属面に吸い着けさせられるし、付属のフックで壁掛け式にもできる。声量を調節できるので、難聴者に広く愛用されているという。

(訳注、メーカーに照会したところ、本品は日本製とのこと)

(以上The Magic Carpet,Winter 1971から)

*「ヨーロッパ車いすひとり旅」著者。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1973年4月(第10号)32頁~33頁

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