特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会 手指機能指数FQについて

特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会

手指機能指数FQについて

福田忠夫*

1. はじめに

 Rehabilitationの世界はその概念のもとに参集した医学、教育、職業、福祉行政など各分野の人々の共同作業の場であるが、そこで仕事をする者にとって、専門領域の異なる人との共通語が一つでも多く欲しいことは周知のとおりである。知能テストにおけるIQ(Intelligence Quotient)が長年にわたるその限界と効用についての批判に耐えながら、社会一般の共通語として役立っていることに注目しよう。

 われわれは、治療訓練の現場的必要から出発して、昭和41年より、手指機能指数Finger Function Quotient(FQ)という概念を設定して、手指機能の評価手段として器具の開発、体系化、因子分析、指数化を進めてきたが、その経過を紹介する。FQはIQの使い易さ性、普遍性に着目して同様の効用を手指機能について期待したものである。

 Rehabilitationにおける障害の評価を考える場合、対象となる人間の心身の機能関係を総合的にとらえ、体系づけることは心身相関の機序、身体部位の運動学的連鎖、発達や年齢、動機づけなどの心理機制、価値観や社会的条件などにまで考え及ぶとき、とうてい至難のことであろう。

 そこで実際上の機能評価の方法は目的別に発展してきたようだ。たとえばMcBrideは、労災や他の補償のために障害を数量化し点数により評価することを提案し、physical impairmentとfunctional defecienciesの側面に分け、細項目ごとの評価点数のtotalから総合 評価する方法をとっているし、有名なICDのTOWER(Testing Orientation,Work & Evaluation in Rehabilitation)法は作業見本法による職業評価法であるし、オーストラリアのシドニー市にあるSpastic CentreのCentre Industriesで採用しているMODAPTS(MODular Arrangement of Predetermind Time Standards)法はMOD-unitという特別の時間単位を設定してmovement activities,terminal activitiesなど身体部位、動作を分析し、記号化して、職業として可能な作業動作を発見し、組み合わせて、障害者個人の作業工程をみつける職業評価法である。

 そうした中でmotor function testに属するROM-testやmuscle test、そしてcognitive function testに属する知能検査などは目的性の上で基礎的評価手段といえるだろう。それゆえに、一目的に限定されることがなく、治療訓練での過程で、あるいは社会保障の有力な資料として利用範囲は広いといえる。

 FQも組織的な基礎的評価手段の一つであろうとしているが、各検査系列での位置づけは図1の概念図に示すように、刺激の感受-反応経路に対し、sensory & perceptual test,intelligence test,refiective motoric test,motor aptitude test,ROM-test,muscle test、などが、それぞれ主として検索しようとしている対象領域が あるわけだが、FQはmotor function test系列に属し、運動器そのものの検査である。ROM-test,muscle-testのすぐ上部に隣接する位置にある。ただし、持続的で調節的な目的遂行意志を必要とし、一方、高次中枢神経活動や高次の知覚機能が関与してくる諸適性検査よりは、はるか低位にあると考えられる「単位的な目的動作」すなわち、単純な基本的作業機能の指数化に目標を置いている。

図1 手指機能の人間工学的システム(今田)

図1 手指機能の人間工学的システム(今田)

 これらの検査の機能解剖学的要素の関係を今田による図2にみると、黒で示す部分は検査の主目的となる部分で、それ以外は主目的でないpartsであるが、機能連鎖の関係上、測定量に含まれてしまうことを示す。たとえば 、知能検 査にcognitive functionの性質上、感覚、知覚の関与は重要な部分を占めてしまう。また この図は、量の比率をどんぶり勘定で示唆したもので、計量できるものでないことはもちろんである。

図2 人間工学的システムと各種テストの関係 (今田)

図2 人間工学的システムと各種テストの関係 (今田)

2. テスト構成

 人間の手の動作は240種ほどもあるといわれているが、検査目 的に対応してよく組織化されていると同時に、実用性のあるtest-batteryを作成するためには、構成上の発想と条件づけに工夫が必要である。

 まず検査の測定側面を3機能に絞る。第1は動作的機能(kinetic function)で、pinch,gripのような手指の部分的基本的機能で代表的なものを選ぶ。第2は、補助手機能(assist hand function)で、目的動作:作業における非利手の役割の重要性を認め、その主要な役割である支持固定(support & fixation)に代表させたもので、これは研究スタッフのPT・OTらの臨床経験から主張され検査構成上の主要な機能側面として独立させたものであるが、これは1971年長尾の「手指動作の研究」でgrip pinchについでpushという動作のweightの大きさを発見したこととよく符合す るものである。第3は調節的機能(controllable function)で、動作の力、方向、速度の調節をはかる機能側面である。この3機能の総合として、FQの性質と水準が決定される。

 次に検査の種類を10種に下位検査の評定カテゴリーを10段階にし、徹底した10進法により、percentage(%)に慣れている一般の人が、機能水準のimageをつかみやすいようにする。

  次に、評価基準の設定は上肢障害母集団の中や、健常者の平均には置かない。最高の評点水準を健常母集団の最も不器用な人たち(精神薄弱者を除く)に置く。いかに不器用とはいえ、ALDや日常の作業を十分に果たしていると考えられるからである。統計的には標本集 団の95パーセンタイル順位の器用さ水準におく、残る5%は被検者が十分動機づけられなかったり、検査誤差分と考え除くものとする。

 次に検査の作業量は重度障害者でも1時間内に終了し、疲労などの条件変化を防ぐ。

 次に機能連鎖で無理であるが、できるだけ1下位検査は1機能の測定に対応するよう工夫する。このことについて、因子分析結果によると、たとえば、回外検査(supination test)、格子模様検査(drawing line test)は片手だけで可能な検査であるが、その能率には、補助手の関与因子が大きなweightをもっている。すなわち、補助手により姿勢や道具が作業に最も効果的に安定するらしいことはきわめて示唆的である。

 次に高次のfeed-backを含む精神機能や多種の知覚機能が関与することをできるだけ少なくするよう、作業動作の単純化、直線化をはかる。

 以上の基本的条件が決められた。がこれらは一般に理解され、納得のいく普遍性をもたなければ意味がなくなることから、医師、PT、OT、心理などの各staffによる幾度もの検討会が開かれた。

3. 検査 器具と方法(図3 略)

A. 動作的機能検査 kinetic function test

 1)指腹つまみ検査 pulp pinching test

 重さ50gの2個のつまみボッチを交互につまみ上げては落す。15秒ずつ2回試行し上位点をとる。粗点はカウンターに表示される。

 2)側面つまみ検査 lateral pinching test

 いわゆるkey graspともいわれ、母指と示指でホッチキス型のつまみ板をつまんで放す動作。つまみ板は、1kgと2kgのバネの力で常に開いており、10秒間の動作数がカウントされる。

 3)回外検査 supination test

 ボルトナット(直径11cm)の締め作業で回外、回内運動により40回転されるまでの秒数を粗点とする。肘関節を90゜に屈曲固定させるため遊動式肘固定台も併せて作成した。

 4)フィンガー・ローリング検査 finger rolling test

 小さなspherical graspの状態の指先だけで対象を外回転させる機能で、比較的弱くて微力な力の配分を要する場合に用いられる。直径20mmのボルトナット締めで形は回外検査に似ている。粗点のとり方も同じである。

 5)グリップ検査 grip test

 血圧計用定気球を連続プレスする急速反復作業で、プレスごとの圧力を同位にし、かつ0~1.000ccまで測定できるよう、小型の容量 測定器に接続したもの、10秒間に指針に示された排気量(cc)を粗点とする。

B. 補助手機能検査 assist hand function test

 目的動作における補助手の機能はその補助に必要な力やその方向、タイミング、持続時間が、利き手の作業状況からの要請によりfeed-backされる ものでなければならない。この場合は利き手の作業に力学的に関連し合う支持固定でなければならない。

 6)掌面固定検査 palm fixation test(図4参照)

 補助手の主要機能の一つと考えられる手掌による平面固定(push)の作業を選んだ。

 補助手を押え台に置き利き手でハンドルを回すと押え台は水平方向に移動しようとするのを、重力の方向に荷重をかけるが、力量指示目盛の指針が中心指標よりできるだけ外れぬように力を加え続ける。利き手のハンドル回転は十分に楽であるが、押え台の移動力は漸次増大していくので、押える力は漸次強くしていかなければならない。荷重が移動力を制止し切れなくなってしまったとき、移動距離に限界をきめてブザーが鳴るようにしてある。その時点での力指示目盛により、補助手の荷重力、すなわち固定力が0~10kgの範囲で示され粗点となる。移動方向は切替装置で前後、左右、補助手の右左、など切り替えできる。

図4

図4

図5

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C. 調節的機能検査 controllable function test

 単純作業を通じて低次の動作のfeed-back機能をみようとする。

 7)間隔維持検査 lifting control test(図5参照)

 空間での運動バランス、必要な高さで動作位置を維持する機能をみようとする。重量知覚の学習効果を防ぐため50g、100g、200gと3種の錘のついた ボッチをつまみ上げて、上下に一定の許容範囲のある溝を平行移動させるその高さに保たれているときだけ移動できる。3種のつまみの往復を2回行い、2回終了までの時間を粗点とする。

 8)タイミング検査 transfer timing test

 与えられた作業速度とリズムに動作を適合させていく機能をみようとする。二拍子のリズムを用い、速度階を変化させる。

 円型台に順次に置かれるコマを一定距離にある台と同面積の穴までメトロノームに示されたテンポで運んで落す。等差級数の速度刻みをメトロノームの拍音とこれに同調させたサインランプの点滅装置をつけて、聴力障害の合併者に備えた、速度階の最上階を下限閾として粗点にする。

 9)格子模様検査 drawing line test

 動作方向を一定に維持する調節機能をみよう とするもので 、平面で方向追跡を静止目標に対して行う。軌跡の記録、簡便さ、数量化 ができる方法として、フェルトペンで紙上の所定の点間をfree-handで結び、格子模様を 作る。採点盤を合わせて正確交点の合計の1/2を粗点とする、8方向についてprofileを描いて方向の調節障害の状況を可視的に概観できる。

 10)両手強調検査 hands co-ordination test

 ただ一つの複合検査で、両手指を同条件に動かし、片手が不能の場合、作業全体とし て不能に近くなる作業が望ましくひも結びを選んだ。回転盤に等間隔でついている20本のひもを一回結びで結ぶ時間が粗点である。ただし3分経過した場合はX=20×180/NX:推 定値、N:結び数)による。

4. FQの算出の考え方

 検査の使いやすさから10種の下位検査の 各々を10段階の評点カテゴリーにしてあり、粗点を換算式により評点化する1検査10評点満点で、全体で100点満点となる。カテゴリーは、健常者の95パーセンタイル順位で低位 水準を基準評点10とし、重度障害者の粗点分布を勘案して、便宜上、等差級数的に尺度化した。しかし、評点の計は「FQ´」と準称して、FQは近似の値になるが、因子分析による機能因子の因子得点率の合計を指すことにした。

 FQは概念上、個人の手指動作の残存能力のかなりな程度を包括している指数と考えられるが、検査上は左右両手の評点中の高い方を基礎に算出する。そのほかに左FQ、右FQと称して一方ずつの機能を示すと考え、前者はリハビリテーションの前後の比較に有効であり、後者は治療訓練中の評価に有用なようである。

 因子分析は上肢がひとつのkinetic chainであるという観点から、基本的動作を機能的面から考えて分析してみようというわけで、セントロイド法により行った。その結果10種の検査から8種の因子が抽出され、研究スタッフにより因子解釈を行った。テスト動作の詳細な観察と因子の各テストへの影響度に基づいてFQ検査の8因子の名称と基準構成率は、次のとおりである。

 1. 手指筋の耐久性 endurance of muscle-power 14%

 2. 目と手の協調性 eye-finger co-ordination 13%

 3. 上肢関節自由度の保持 degrees of freedom of kinetic-chain 12%

 4. 指のフィードバック feed-back 11%

 5. 指相互の分離運動 separate activities of fingers 9%

 6. アーチ・メーキング palmar arch-making 8%

 7. 補助手の関与 concern with aissist-hand 8%

 8. リズムの生成と伝達 rhythm-making and its transmission

 以上のうち、上肢関節の自由度とは上肢三大関節の協同運動の速さなどを意味する。指のfeed-back因子は初め、指先の速さの因子と推定したが、物をつかむときの感触など、対象への作用の関係を調整する何らかの秩序と考える方が妥当なようだが、明瞭には確定しきれない因子である。arch-making因子は母指筋を掌側に動かして、手掌も力に曲げさせてアーチ型を作ることをいう。リズムの生成と伝達因子は、作業する際に与えられた速度に合わせる場合も、自発的にする場合も、動作のリズムをつかみ身体運動の上に表出できる機能である8因子が、各検査にどのように寄与しているかを示すのは図6である。これによると、例えば、回外検査とフィンガー・ローリング検査はナットの直径が大小異なるだけの形態をしているが、関与している因子は極めて異なっていることに気づく。指の分離運動は共通であるが、他は回外はリズム因子に、フィンガー・ローリングはfeed-dack因子と手指筋の耐久性に大きく依存している似て非なる両検査というわけである。

図6 因子の基準寄与率

 図6 因子の基準寄与率

 FQ標準化の標本集団は満15才以上の者で、障害群は四肢マヒのCP100名、平均年齢27才、統制群として健常男子100名、平均年齢37才、健常女子100名、平均年齢29才、男女平均33才、参考群として片マヒCP30名、老人施設に入所中の高齢健常者20名、脳卒中後遺症を主とする片マヒ者の50名について採集した。

 障害群はマヒ筋の状況の多様さから性差の考慮は意味が薄く、また障害をspastic,athetoid,ataxic,rigidityなどのtype別に検討することは、実例上難しいことから四肢マヒに限定した。これは損傷や劣弱があると、その部位の機能因子の少なさが相互に強調されて表出されるが、健常群はほとんど最上階のカテゴリーに集中して、検査間の相関が一様に低いのは、ちょっとした「コツ」の発見の速さや、体調、興味、疲れの違いなどで絶対値が小差の範囲で簡単に逆転してしまう。このような両群の反応の背景の質的差異が注目される。

5. ま と め

 Rehabilitationにおける手指の障害を単位的な目的動作の水準でとらえ、総合的機能指数FQの概念を得て、数量による評価目として作成を試みた。8種の機能因子を発見し、健常者との比率においてプロフィルで図示することにした。身体障害の程度の判定、障害保障の程度の判定、手指機能訓練プログラムの決定、能動義手も含む作業療法結果の評価、手の手術効果の評価、職能評価の基礎的情報提供等に有効な利用ができるのでないかと考えられる。

 FQはIQとの相関は0.05で低く、また格子模様検査を東北大学の川口の実験によると、正常児の5才~17才までについて粗点で38点より90点まで発達に高い比例で上昇することを確かめており、FQ全体についても発達的側面での研究の必要性を強く示唆している。

 本検査開発にあたり、ご助言を賜った前東北大学医学部玉置教授、同文学部心理学教室の各位に厚く御礼申し上げる。

 さらに本研究開発にご協力いただいた神奈川県さがみ緑風園、栃木県氏家更生園、東京都町田荘、三島学園大学、秋田県立太平療育園、宮城県立整肢拓桃園、宮城県民生部関係職員、竹井機器工業株式会社、および宮城県拓杏園の職員の方々に深く謝意を表する。

 最後に本研究の発表に紙上の機会をいただいた財団法人日本障害者リハビリテーション協会に衷心より御礼申し上げる。

関係文献 略

*宮城県拓杏園心理判定員


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年1月(第13号)2頁~7頁

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