特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会 脳性マヒ者の症例研究

特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会

脳性マヒ者の症例研究

タワー法組み合わせ作業、手指機能指数、知能指数の関連性について

前口益之進*

1. 群馬県におけるタワー法及び手指機能検査導入の背景

 身体障害者、特に脳性マヒ者の、リハビリテーションにたずさわる者の共通の悩みとして大きく横たわるものに、職業評価がある。

 本県、更生相談所においてもその例にもれず、極論すれば、試行錯誤的な判定をくり返し今日にいたっているものであると言える。このような共通的な悩みを吐露する意味において、本稿の論述との関係は乏しいが、あえてその導入の背景について述べたい。

 昭和44年4月、身体障害者更生相談所と更生指導所が併設され、身体障害者福祉センター発足を契機に、健常者向きに形成されている職業社会に、障害者がどうあれば、この社会に適応するかの課題にとりくみ、まず、職能評価にどう対処すべきか、と探究し続け、45年5月関東ブロック更生相談所長会議において、職能評価の実情把握を行い、また各種検査器具の導入を試みる等、準備を進めてきたところであったが、47年に至り、タワー法伝達講習受講により、ワーク・サンプル・アプローチを検討したところ、幸い見合う予算もつき、今後どう評価し、どのように評価結果を結びつけるかなどの、問題点解明の要はあるが、本格的にワーク・サンプルにより実際にやらせてみる“システム”の移行へと態勢を整えているものである。

 一方、手指機能の評価については、チェックリスト的なものを作り、残存機能の位置づけについて検討中のところ、厚生省新医療技術研究により、宮城県拓杏園において、その機能を数的に評価し、きわめて信頼度の高い手指機能検査器具を開発したことを聞き及び、本県ではいち早くこれを導入し、リハビリテーション情報源として、実用に供している。

2. 検査意図と論述要旨

 IQとの相関がきわめて低い手指機能検査のFQ数値と、IQ数値を情報源として、実際に作業を実施すれば、高機能、高知能=作業適性良と評価されるであろうかと考え(作業適性の要因はもっと複雑多岐にわたるものと否定しながらも)、タワー法組み合わせ作業8種を実施したところ、14例の検査ではデータ不足できめつけはできないが、一応タワー法5段階評価は、FQの高低に比例的に優劣のバラツキを見受けることができる。しかし、当該作業に必要な機能に障害が直撃すれば、やはり、評価結果不適当もあり、FQとIQと作業評価の組み合わせでは説明のつかない点もあり得る。評価結果はデータ不足と、前記理由により、数表的思考のみでは問題点もあり、症例ケースをあげ、3種の評価結果の関連性について、FQプロフィルと観察を加味し、究明所見を述べたい。

3. 検査期間等

 1) 検査期間 昭和48年2月1日~48年8月31日。

 2) 検査対象 群馬県立身体障害者福祉センター入所者34名中、脳性マヒ者14名(痙直性13名、失調+痙性1名)

 3) 検査者 群馬県立身体障害者福祉センター職員11名

4. 知能分布

 検査対象者の知能指数分布状況は下表のとおりである。

IQ 40~49 50~59 60~69 70~79 80~89 90~
人員 1 6 2 2 1 2

5. タワー法検査科目

 タワー法の検査項目は下表のとおりである。

区分 検査名 数量
No.1 用紙の枚数を数え記録する 36組
No.2~1 番号順による12枚の紙ぞろえ 160組
No.2~2 6色の紙ぞろえ 100セット
No.4~1 ボタンの計量 100ケース
No.4~2 大、中、小、ボルト、ナットの分類 各100個
No.5 ポーカーチップの詰めあわせ 100個
No.6 ワッシャーのぴんとおし 100本
No.7 ブックカバーのひもとじ 100冊

6. FQ、タワー法測定結果

 FQ、タワー法の測定結果を一覧表にすると、表のとおりとなる。

F,Qタワー法測定結果一覧表
氏名 IQ

FQ

FQ 評定 No.1 No.
2~1
No.
2~2
No.
4~1
No.
4~2
No.5 No.6 No.7
58 69 5 69 速度

89 26 57 57 速度
平均 平均
52 49 44 58 速度
72 78 77 78 速度
平均
57 73 72 73 速度
平均 平均 平均 平均
50 77 74 77 速度
66 82 68 82 速度 平均
平均 平均 平均
54 53 31 53 速度
79 40 55 55 速度
52 36 41 41 速度
93 0 0 0 速度
90以上 75 35 75 速度 平均
平均 平均 平均 平均
44 80 77 80 速度
67 76 70 76 速度 平均
平均

 ※手指機能検査評点及び因子得点率表は省略

7. FQ、階層別タワー法比較

 FQ階層別にタワー法(組み合わせ作業)を比較して、その個別内訳をみると、表のとおりとなる。

FQ階層別タワー法(組み合わせ作業)比較及び個別内訳状況

(速度)

FQ

 科目
評定
No.1 No.2~1 No.2~2 No.4~1 No.4~2 No.5 No.6 No.7
0~49                
平均上                
平 均                
平均下                
2 2 2 2 2 2 2 2
50~59                
平均上                
平 均                
平均下 2           2  
2 4 4 4 4 4 2 4
60~69                
平均上                
平 均                
平均下                
1 1 1 1 1 1 1 1
70~79 1              
平均上     1          
平 均 2              
平均下 2   2   1   5  
  5 2 5 4 5   5
80~89                
平均上                
平 均 1              
平均下 1              
  2 2 2 2 2 2 2

(質)

FQ

 科目
評定

No.1 No.2~1 No.2~2 No.4~1 No.4~2 No.5 No.6 No.7
0~49                
平均上                
平 均                
平均下 1              
1 2 2 2 2 2 2 2
50~59 1              
平均上 1              
平 均       1     1  
平均下 1 1 2 2 1 2 1 1
1 3 2 1 3 2 2 3
60~69                
平均上                
平 均                
平均下 1         1    
  1 1 1 1   1 1
70~79                
平均上 1         1    
平 均 3 1     1   3 2
平均下 1 1 3   3 1 1 3
  3 2 5 1 3 1  
80~89                
平均上 1              
平 均         1   1 1
平均下       1 1 1   1
1 2 2 1   1 1  

  説明

 FQ 40以下…IQ52.93 足指使用者と、低知能低機能者であり、タワー法評価は、速度、質ともに劣に集中する。
 FQ 50代…IQ89.52.54.79 タワー法による評価は、速度において、わずかにバラツキが見られてくる。質においては、さらにバラツキが見られる。
 速度…平均下12.5% 劣87.5% 質…優及び平均上3.1% 平均6.2% 平均下34.4% 劣53.2%
 FQ 60代…IQ58 この結果については表において、説明困難、目下、解明中。
 FQ 70代…IQ72.57.50.109.67 速度、質ともにFQ50代に比し、バラツキがさらに強くなる。速度…優及び平均上2.5% 平均5.0% 平均下2.5% 劣65.0% 質…平均上5.0% 平均25.0% 平均下32.5% 劣37.5%
 FQ 80代…IQ44.66被検者の1人FQ82.IQ66となると紙数え、分類、ワッシャー組み合わせ、ブックカバーのひも通しなどに平均値圏内の評価がみられるが、車いすのハンデがこのケースにみられた。
 速度…平均6.2% 平均下6.2% 劣67.6% 質…平均上6.2% 平均18.8% 平均下25.0% 劣50.0%

8. 測定結果プロフィル

 測定結果プロフィルはつぎの図のとおりである。

 タワー法評価段階

 優………確実な資質改良の要がない。

 平均上…相当な資質、ほとんどの場合高く評価される特徴がある。適当、改良の余地がない。

 平均……たいていの場合適当、仕事の場面、性質によって、ある程度の助力が必要になるかもしれない。

 平均下…作業に対して介助を必要としている。

 劣………満足な適応をするには強力な介助が必要とされる。

測定結果プロフィル

測定結果プロフィル

9. 測定結果プロフィルの説明

 No.1 用紙の枚数数え

 G、Lにおいて、速度、質ともに平均的によい。この2例をみるとIQ66程度でも可能性ある作業と認められる。機能は質にも関連しており手指機能はページめくり、転記に質の差が認められる。

 No.2~1 番号順用紙ぞろえ

 IQ、FQともに関係なく、G、Lとも に劣及びFに集中している。Gは車いすのハンデ、Lは両手協調等動作性に致命的なものが あり、速度を落としている。IQの高いLに間違いが少なかった。

 No.2~2 6色紙ぞろえ

 番号順に紙ぞろえをするのと同様なテストであり、同様な結果がでている、IQの差は間違い3:11と表れている。Lは動作性があまり要求されない検査では速度評価が上がっている 。

 No.4~1 ボタンの計量

 目と手の協調、ピンチ等FQの検査結果因子はいずれもGが高い。しかし速度性に劣ることはIQに原因するものと判断することが可能である。

 No.4~2 大小中ボルトナットの分類

 手指機能のよいGが51分、劣るLが18分である。片手機能で可能な作業であることと、観察による判断力等IQの寄与する面が大きいものと考えられる。

 No.5 ポーカーチップの詰めあわせ

 Gはチップを無造作に詰め非能率的であり、Lは片手できれいに詰め能率的であった。ピンチ両手協調の差をIQで補い速度差を縮めている。

 No.6 ワッシャーのピンとおし

 片手作業で65分は下に位置づけされるが、事実上G、Lともに劣にある。両手協調、補助手の関与がG、Lともに劣っている、単純作業であり、誤りは少なかった。結果はFQ数値に比例している。

 No.7 ブックカバーのひもとじ

 両手協調作業であり、No.6よりさらに巧緻性を必要とする。特に片手機能は不利が認められる。単純作業でもあり、誤りは少ない。結果はFQ数値に比例している。

10. 結論

 初めてのタワー法評価及び手 指機能検査の実施であり、テスト結果の組み合わせは分析理論づけにはほど遠いものであったが、手指機能の階層数値に対し、比例的にタワー法評価のバラツキがみられたことは、多少なりとも関連性を認めることができたものと考えられる。

 きわめて単純と言える作業においても知能と機能の充足の割合が異なり、このバランスの崩れたところに職能不適の大きな要因があるものと思われる。しかし、タワー法評価のバラツキも傾向としては受けとめられるが、さらに評価結果不適応解明のためのケースプロフィルを作り、種々検討したところ、ある程度の説明は可能であったが、やはり脳性マヒ特有の障害の壁は破ることができなかった。

 被検者14名で、データ不足の一語につきるが、今後各所で当該検査等を実施し、研修の累積によって、よりよい判定、評価等の開発を念願し、その試金石としてあえて論述したものである。

参考文献 略

*群馬県身体障害者更生相談所職能判定員


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年1月(第13号)8頁~10頁

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