特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会 作業能力評価法としてのモダプツ法の位置づけ

特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会

作業能力評価法としてのモダプツ法の位置づけ

松井亮輔*

はじめに

 わが国における身体障害者の作業能力評価法としては、ワークサンプル方式によるタワー法をはじめ、種々の方法が試みられてはいるが、身体障害者の残存能力を定量的に表現しうる評価法はいまだ確立されてはいない。

 ここに紹介するモダプツ法(正確にはMODAPTSを応用した作業評価法というべきであろう)は、オーストラリアのPTS協会(Australian Association for Predetermined Time Standards & Research)が、アメリカの工業界で発達した作業動作時間測定法であるMTM(Methods Time Measurement)にさらに改良を加えてつくりあげた極めて簡便な測定法MODAPTS(Modular Arrangement of Predetermined Time Standards)を基礎として、シドニーのCentre Industriesで開発された評価法である。

 後で詳述するように、MODAPTSは身体部位の動きで動作を表す方式を採用しているため、身体機能の測定には特に好都合である。また、MODAPTSによって分析した作業のプロフィルと、MODAPTSを応用したテスト器具によって測定した個々の身体障害者のプロフィルを照し合わせることにより、一人ひとりに適した作業を選択することが可能であるばかりでなく、機能訓練の必要な身体部位とか、作業方法、機械設備、冶工具、作業補助具等の改善も必要な領域についても具体的なデータを得ることが可能である。

 1. MODAPTSの基礎理論

 図1に示されているように、MODAPTSでは動作を移動動作(Movement Classes)、終局動作(Terminal Classes)および移動、終局いずれにも含まれない動作、の三つに分類している。各動作に記された数字はそれを行うのに要するMOD(Moduleの略)値を表している。MODは人間の動作の最小単位を意味しており、1MODは0.129秒に相当する。MOD値は0、1、2、3、4、5、17、30の8種類だけである。

図1 MODAPTS基本図

図1 MODAPTS基本図

 288もの時間値を持つMTMの場合、コースを終了するのに最低3週間は必要であるのに対し、図1の 基本図が完全に理解できればよいMODAPTSの場合には、3日もあれば一応基礎理論をマス ターすることができるといわれている。したがって、MODAPTSは他の方法にくらべ、作業 の標準時間を求めるのに極めてハンディな方法であり、だれにでも容易に習得することが可能であろう。

 (1) 移動動作と終局動作

 指、手、腕のメカニズムによって行われる動作は空間的な動き、つまり、「移動動作」と対象物に接近した際起こる動作、つまり、空間的な動きのおわりになされる「終局動作」の2種類からなり、これらは通常単独では起こらないで、一対となって行われる。例えば、机の上にある鉛筆をとりあげてノートに字を書こうとする場合を考えると、次のようになる。

 ①鉛筆に手をのばし (移動動作)

 ②鉛筆をつかみ (終局動作)

 ③ノートの上に運び (移動動作)

 ④ノートに鉛筆の先をつける (終局動作)

 このように、移動動作と終局動作は一対となっているのである。

 (2) 移動動作

 MTM等では各動作の距りを測定して時間値を決めていたのに対し、MODAPTSではその動作を行うのに用 いられる身体部位によって時間値を決定する。つまり、指で行われる動作と手で行われる動作とでは、使用される身体部位が異なるので、それぞれ異なる時間値を与えるのである。

 移動動作の種類とその時間値は次のとおりである。

 指  M1

 手  M2

 前腕 M3

 上腕 M4

 肩  M5

(注) MはMoveの略称。M1は1MODの移動動作を意味している。

 (3) 終局動作

 終局動作には次の2種類がある。

 ①ある物に手をのばした後、それをつかむ動作で、これをG(Getの略称)と呼ぶ。

 ②ある物を移動させた後、それを目的の場所におく動作で、これをP(Putの略称)と呼ぶ。

 これらの終局動作は、動作を行うにあたって必要とする「注意力」(Conscious Control)の程度によって、さらに2種類、つまり「注意力をあまり要しない動作」(Low Conscious Control)と「注意力を要する動作」(High Conscious Control)に分けることができる。例えば、机の上にある鉛筆をつかむ場合と虫ピンをつかむ場合とでは、必要とする注意力が異なり、その結果、時間値も違ってくるからである。

 終局動作の中、注意力をあまり要しないのは、G0、G1、P0であり、注意力を要するのはG3、P2、P5である。

 (4) 移動動作および終局動作以外の動作

 指、手、腕、肩を使って行われる、以上の動作に加え、MODAPTSには下記の10個の時間値がもうけられている。

 ①物を運ぶ場合の重さの要素 L1(4kgふえるごとに1MOD加算する)

 ②視線の移動と焦点合わせ E2

 ③物のつかみ直し R2

 ④制限時間内の判断と決定 D3

 ⑤足によるペダル操作(1回あたり) F3(ただしかかとが床について いることが条件)

 ⑥圧す動作 A4

 ⑦手または腕のクランク運動(1回転あたり) C4

 ⑧歩行(1歩あたり) W5

 ⑨体を曲げて、再び起こすこと B17

 ⑩いすに腰かけて、再び立つこと S30

 2. MODAPTSを応用した作業評価法としてのモダプツ法

 Centre Industriesでは、前述したMODAPTSで規定する諸動作の大部分を測定できるような評価法を開発した。これは厳密にいえば、作業能力の中、特に身体機能の測定を目的としたものである。「障害者職業更生研究会」(後に「日本モダプツ協会」と改称。会長横溝克己早稲田大学理工学部教授)では、昭和46年度神奈川県の補助を受けて、Centre Industriesのこの評価法にさらに改良を加え、次に説明するようなテスト・バッテリーおよび評価表を試作した。

 (1) モダプツ法テスト・バッテリー

 ①指の動作テスト(M1G0M1G0=2MODの動作)

 指の移動動作(2.5cmの距りを6秒間で何往復できるか)と回転動作(2.5cmだけ回転する小さなツマミを6秒間で左右に何回転できるか)を測定するためのテストで、移動動作テストにはFinger Move Board、回転動作テストにはRotary Finger Move Boxという器具が用いられ、いずれも動作回数はElectric Counter Timer(以下ECTという)で自動的に記録される。

 ②手の動作テスト(M2G0M2G0= 4MODの動作)

 手の移動動作(5cmの距りを6秒間で何往復できるか)、回転動作(5cmだけ 回転する大きなツマミを6秒間で左右に何回転できるか)等を測定するためのテストで、Hand Move Board、Rotary Hand Move Box等が用いられる。動作回数はETC等で記録される。

 ③前腕の動作テスト(M3G0M3G0=6MODの動作)

 ④上腕の動作テスト(M4G0M4G0=8MOD の動作)

 ⑤肩の動作テスト(M5G0M5G0=10MODの動作)

 ③~⑤のテストには、写真1(略)のような16個のスイッチボタンがあるMove Boardが用いられ、このBoardの指定された番号のボタン二つを6秒間で交互に何回押すことができるかを測定する。動作回数の記録はETCで 行う。

 ⑥手のつかみ動作テスト(M3G1M3P0=7MODの動作)

 ⑦両手同時動作テスト(M3G1M3P0=7MODの動作)

 ⑧上腕を使った手のつかみ動作テスト(M4G1M4P0=9MODの動作)

 ⑨はめこみ動作テスト(M3G1M3P2=9MODの動作)

 ⑩形合わせ動作テスト(M3G1M3P5=12MODの動作)

 ⑪つかみ直し動作テスト(M2G1R2P0=5MODの動作)

 ⑥~⑪のテストでは、各種のペグボード等を用い、所要時間の測定はストップウォッチで行われる。

 ⑫集合目的物の中からのつかみ動作テスト(M3G3M3P0=9MODの動作)

 これはたくさんの部品の中から指示された数だけの部品一つずつ取り出すのに要する時間を測定するためのテストで、部品としてはワッシャー、ネジ等が用いられる。

 ⑬選別動作テスト(M2E2D3M2G0=9MODの動作)

 これはシュートから出てきた製品を種類別に分類したり、合格品と不合格品を選別したりする動作を測定するためのテストである。

 ⑭その他の動作テスト

 前述した諸テストのほか、足のペダル操作(F3)、歩行(W5)、レバー操作、握力等を測定するためのテストもある。

 (2) モダプツ法評価表

 (1)で説明した各身体部位による動作テストの測定結果については、「MODAPTSによる作業能力評価表」に記入する。この評価表は10ページよりなり、前半では、表1のように、実際の測定値を記録し、後半では、表2のように、作業能力のプロフィルがかけるようになっている。

表1 データ記入用紙
拡大図

表1 データ記入用紙

表2 プロフィル記入用紙
拡大図

表2 プロフィル記入用紙

 各動作テストは、10回ずつくり返して行うことになっているが、表1で「選択」とあるのは、10回の測定値の中、ばらつきが特に大きなものを除外した後、得た平均値のことである。「標準」はMODAPTSによって導き出されたものである。例えば、M1G0M1G0の基準時間は2MODであるが、これを秒になおすと0.258秒となる。この値で6秒を割ると23という「標準」が得られる。

 したがって、「標準」で「選択」を割った値に100をかければ、標準値に対して何「 %」ぐらいの動作能力があるかを見ることができるわけである。

 (3) 測定事例

 これまでモダプツ法によって測定を行った事例の中、ここでは脳性マヒ者(以下CPという)2例の(M1G0M1G0)から(M5G0M5G0)までの動作テスト結果について紹介しておきたい。

 CPの場合、一般的には①M1、M2の動作が標準にくらべ、極めて低い(標準の20~30%のレベル に集中する)、②M3~M5の動作についてはほぼ標準値に近い測定値が出ることが多い、 ③M1の動作がM2で、M3の動作がM5で、といったように、体の先端部の動作が体のより中心に近い身体部位によって代替されることが少なくない、といった傾向が見られる。このことは体の先端部の機能障害が大きい場合には、その他の身体部位である程度までその機能を代替できる、ということを示している。

  (事例1) A(男)、25才、CPによる体幹機能 障害、障害等級1種1級。

 図2からわかるように、M1、M2の動作では標準にくらべ、50%前後の数値もあるが、M3~M5については標準をかなり上まわっている。この程度の機能があれば、手先の巧緻性を要求される作業も訓練によって可能と思われる。Aは現在電 子機器のハンダづけ作業がこなせるようになっている。

図2 モダプツ方による測定事例
拡大図

図2 モダプツ方による測定事例

  (事例2) B(女)、34才、CPによる 四肢機能障害、障害等級2種4級。

 図2のAとくらべ、M1~M5の動作は全体的に劣るが 、M4、M5はほぼ標準に達している。したがって、この身体部位を活用すれば、手先の機能障害をある程度までカバーすることができると思われる。現にBはボール盤による加工 作業に従事しているが、この作業で主に使われるのはM5G1M5P2の動作であり、このボール盤作業に限っていえば、Bは標準作業量のほぼ50%近くの生産性をあげている。

3. 今後の課題

 すでに繰り返しふれたように、モダプツ法は身体部位による動作テストを主としたものであり、いわゆる「作業能力」を総合的に評価できるだけの条件はそなえてはいない。総合的な評価法をつくるためには、対象者の理解能力、心理的諸傾向、作業意欲、作業耐性、体力等といった面についても把握できるようなテスト、バッテリーを工夫する必要がある。Centre Industriesでは対象者を数週間から数か月間実際の作業の場に入れた後、はじめて評価を行い、それに基づいて職場配置を決める。そして、この評価は1回きりのものではなく、一定期間ごとに継続して行う、といわれている。このことは「作業能力」評価のあり方を考える上で、示唆されるところが少なくない。「日本モダプツ協会」では、第1回のモダプツ法講習会を11月下旬に行い、昭和49年2月と3月には、それぞれ第2回、第3回講習会を実施することになっている。この課程を修了した人びとがそれぞれの場で、スタンダードな評価器具を用い、種々の身体障害者についてのデータを収集できるようになれば、モダプツ法による測定にともなう諸問題が明らかになり、それによって、さらに信頼度の高い測定器具の開発が可能となるであろう。

参考文献 略

*アガペ授産所更生課長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年1月(第13号)11頁~15頁

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