特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会 肢体不自由者の職業能力評価に関する研究

特集/第1回障害者職業リハビリテーション研究会

肢体不自由者の職業能力評価に関する研究

―─TOWER法と適性検査の連関について―─

岩崎貞徳* 倉川大助**

Ⅰ はじめに

 肢体不自由児者の職業リハビリテーションにおいては、まず適正な評価がなされなければならないが、対象者の重度化傾向の中で、なお試行錯誤が繰り返されているのが現状である。

 その中にあって、米国のI.C.D.Rehabilitation and Research Centerで開発されたタワー法は、我が国の現状を大きく前進せしめ得る優れた 評価法の一つであると思っている。

 今回、広島県の特別事業として委託を受け、日本版をつくるための一ステップとして、タワー法の一部と労働省編一般職業適性検査を同時に実施して、原型日本語版の有効性をみようとした。これは広島県へ報告したものの概要である。

Ⅱ 対象者

 非肢体不自由者65名、肢体不自由者158名に実施、そのうち有効総数、非肢 体不自由者60名、肢体不自由者142名、計202名であった(以下、有効総数で報告、表1 参照)。

表1 機関別、病類別人数 
協力施設(学校)名 脳性マヒ ポリオ 脳卒中 外傷 リウマチ 骨関節
結核
化膿性
疾患
先股脱 その他
頭部 脊髄 切断 実数
宇品授産所 6 12   2 1 1         2 3     1 2       1 2 6 12 27 16.0 19.0
6 2       1   1   1 4 15 22.4
太陽の町黒瀬園     1 1         2 3   1   1     1 1     1 1 5 8 6.7 5.6
        1 1 1         3 4.5
広島県立身体障害者
更生指導所
4 8     4 5 2 2 2 2 1 1         2 2     2 3 17 23 22.7 16.2
4   1               1 6 9.0
広島養護学校 1 5 2 2                                     3 7 4.0 4.9
4                     4 6.0
岡山県立岡南荘 1 2   2 5 14 1 2 1 4 4 5 2 5     1 2       2 15 38 20.0 26.8
1 2 9 1 3 1 3   1   2 23 34.3
岡山県立身体障害者
更生指導所
  2                                       1   3   2.1
2                   1 3 4.5
あけぼの寮 20 32 1 1     1 1   1                     1 1 23 36 30.7 25.4
12       1             13 19.4
実数 32 61 4 8 10 20 4 5 5 10 7 10 2 6 1 2 4 5   1 6 14 75 142 100.1 100.0
29 4 10 1 5 3 4 1 1 1 8 67 100.1
43.7 43.0 5.3 5.6 13.3 14.1 5.3 3.5 6.7 7.0 9.3 7.0 2.7 4.2 1.3 1.4 5.3 3.5 1.5 0.7 8.0 9.9 99.9 99.9  
43.3 6.0 14.9 1.5 7.5 4.5 6.0 1.5 1.5 11.9 100.1

 機関によって病類別人数に特徴があり、岡南荘では脳卒中、そして宇品授産場、 広島県立身体障害者更生指導所、広島養護学校及びあけぼの寮では脳性マヒの被験者が最も多く、全体として、脳性マヒ、脳卒中後遺症の被験者が多い(合わせて約60%、表2参照)。

表2 病類別、障害部位別人数及びその百分率
  脳性マヒ ポリオ 脳卒中 外傷 リウマチ 骨関節
結核
化膿性疾患 先股脱 その他
頭部 脊髄 切断
体幹 3 4               1           1         1 1 4 7 2.8 4.9
1       1     1       3 2.1
四肢体幹 1 2 1 1     1 1                             3 4 2.1 2.8
1                     1 0.7
両下肢体幹                                                     1   1   0.7
                    1 1 0.7
四肢 21 32      1 1 2 2 2 3        3                1 3 27 44 19.0 31.0
11       1   3       2 17 12.0
両上肢   3                       1 1 2                     1 6 0.7 4.2
3         1 1         5 3.5
両下肢 3 9 2 5 1 2     3 6 3 4     1 1 4 5     2 6 19 38 13.4 26.8
6 3 1   3 1     1   4 19 13.4
右片マヒ 2 7     3 8                             1 1 6 16 4.2 11.3
5   5                 10 7.0
左片マヒ 2 4     3 7   1                             5 12 3.5 8.5
2   4 1               7 4.9
右上肢         1 1         1 1 1 1                 3 3 2.1 2.1
                         
左上肢                                         1 1 1 1 0.7 0.7
                         
右下肢       1             1 2                     1 3 0.7 2.1
  1       1           2 1.4
左下肢     1 1 1 1         1 1               1     3 4 2.1 2.8
                  1   1 0.7
その他             1 1     1 1                   1 2 3 1.4 2.1
                    1 1 0.7
32 61 4 8 10 20 4 5 5 10 7 10 2 6 1 2 4 5   1 6 14 75 142 52.9 100
29 4 10 1 5 3 4 1 1 1 8 67 47.1
22.5 43.0 2.8 5.6 7.0 14.1 2.8 3.5 3.5 7.0 4.9 7.0 1.4 4.2 0.7 1.4 2.8 3.5   0.7 4.2 9.9 52.9 100    
20.4 2.8 7.0 0.7 3.5 2.1 2.8 0.7 0.7 0.7 5.6 47.1  

 疾病と障害部位の関係では、脳性マヒで四肢障害、脳卒中に片マヒの被験者が多いのが目だつ。

Ⅲ 検査及び検査期間

 被験者全員に次の検査を実施した。

 1.労働省編一般職業適性検査

 2.タワー法のうち「組み合わせ作業」と「電気配線」

 検査期間 昭和47年9月~昭和48年4月

Ⅳ 実施方法

 1. 労働省編一般職業適性検査

 労働省編一般職業適性検査実施手引き(改訂版、1969)にしたがって実施した(ただし、下肢障害者は立位で作業すべきものも坐位で行った。)

 2. タワー法「組み合わせ作業」、「電気配線」

 タワー法の実施は、本来、被験者が自分で教示用紙を読み、不明な点を検査者に質問して、作業内容を理解した上で、作業にとりかかるのであるが、今回は時間の制約上、検査者が口頭で説明し、必要なデモンストレーションを加えて実施した。また、検査は、やはり時間的制約から、「遂行速度」の標準において、「劣」の段階に入った時点で打ち切りとした。

 「組み合わせ作業」、「電気配線」の作業内容と作業量は以下のとおりである。

(1)組み合わせ作業

①ページ数の計算……紙の束、36組

②番号と色による紙ぞろえ

1)ページぞろえ……160組

2)色による紙ぞろえ……100組

③1)折りたたみ (a)1/4折り (b)1/3折り……各50枚

 2)帯封とのりづけ (a)1/4折り (b)1/3折り……各50枚

④計量と分類

1)計量(ボタン)……100個

2)分類(ボルト、ナット)……600個

⑤数の計算(3色のポーカーチップを9枚ずつケースにつめる)……50ケース

⑥ワッシャーの組み合わせ(ワッシャーを10枚ずつピンでとめる)……ピンの数100個

⑦ページの挿入、ひも通し、ひも結び(ブックカバーにページを挿入し、ひもを通してちょう結びする)……100組

⑧帯封(10枚1そろいの紙の束を数え、アート紙で帯封する)……100組

(2)電気配線

①10本の電線の色の識別と分類

②10本の被覆電線の取り付け

③10本の被覆電線の検査(②の作業をチェックする)

④被覆電線の結束

⑤電線のハンダづけ……20本

Ⅴ 結 果

1. 労働省編一般 職業適性検査

 (1)適性得点     

表3 得点の平均
     適性能
被験者
知能 言語 数理 書記 空間 形態 共応 指先 手腕
非肢体不自由者 97 97 106 90 90 87 85 92 89
肢体不自由者 38 46 58 37 52 47 14 -14 -3

図1 労働省編一般職業適性検査結果(平均得点)

図1 労働省編一般職業適性検査結果(平均得点)

 図1に示してある、職業群別所要最低得点は、ある種の職業群に必要な最低基準(2段階 に分かれている)を示す。非肢体不自由者の得点が、おおむね中間的であるのに対して、肢 体不自由者の場合、所要最低得点に及ばない。病類別では、脳性マヒ、脳卒中後遺症、頭部外傷などの成績が悪く、特に「運動共応」、「指先の器用さ」、「手腕の器用さ」が劣るのが目だつ。

 (2)職業適性検査、各適性能間の相関

表4 各適性能間の相関係数(全)
G知能                
V言語能力 0.96              
N数理能力 0.88 0.86            
Q書記的知覚 0.88 0.87 0.82          
S空間判断力 0.89 0.82 0.78 0.77        
P形態知覚 0.82 0.79 0.75 0.86 0.86      
K運動共応 0.79 0.88 0.75 0.83 0.75 0.71    
F指先の器用さ 0.72 0.74 0.71 0.75 0.68 0.73 0.77  
M手腕の器用さ 0.71 0.67 0.63 0.76 0.65 0.70 0.81 0.85

 各適性能間の相関は極めて高い。その中で「指先の器用さ」、「手腕の器用さ」と他の適性能との相関が多少低くなっている。

式

2. タワー法

 タワー法では、作業を「質の標準」と「遂行速度」の二つの基準にしたがって採点し、それぞれ5段階に評定するしくみになっている。両者の評定が異なる場合は、低い段階に評定された方を採用して当該検査の評定とする。

 肢体不自由者は、「組み合わせ作業」において、No.1を除いて、ほとんどの作業で「 劣」に集中する。No.2―1、3、5、7、8においては80%、No.2―2、4―1、2において60%、No.6において45%の者が「劣」であった。電気配線においては、No.1、No.3の作業に散らばりがみられるが、No.2、No.4、No.5において「劣」に集中する。非肢体不自由者は、「組み合わせ作業」では、No.1(80%)、No.2―2(43%)において優に集中するが、他の作業においては、「平均以上」、「平均」、「平均以下」の3段階に約70~90%の人が集まっている。また「電気配線」では、No.4、No.5に散らばりがみられ、No.1(77%)、No.2(58%)、No.3(90%)においては「優」に集まっている。

Ⅵ タワー法と労働省編一般職業適性検査の結果の比較

 労働省編一般職業適性検査の結果、「知能」、「言語能力」、「数理能力」、「書記的知覚」、「空間判断力」及び「形態知覚」などの適性能群は相互に強い相関をもっているので、「知能」の得点で代表させた。そして「運動共応」、「指先の器用さ」および「手腕の器用さ」も相互には高い相関をもっているが、肢体不自由者については、はなはだ特徴的に低い得点なので、それぞれ別々にとりあげた。

 これら4適性能とタワー法の各検査の結果との連関係数は表5のとおりであり、相当に強い連関があるといえる。

式

表5 労働省編一般職業適性検査およびTOWER法の連関係数一覧表
職適      
身体状況
TOWER 組み合わせ作業 電気配線
No.1 No.2-1 No.2-2 No.3-1-a No.3-1-b No.3-2-a No.3-2-b No.4-1 No.4-2 No.5 No.6 No.7 No.8 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5
知能 0.61 0.59 0.52 0.69 0.59 0.61 0.60 0.57 0.54 0.57 0.59 0.61 0.63 0.52 0.56 0.42 0.64 0.49
非・肢体不自由者 0.60 0.50 0.46 0.59 0.64 0.52 0.57 0.65 0.44 0.47 0.48 0.59 0.50 0.43 0.55 0.45 0.51 0.45
肢体不自由者 0.44 0.56 0.49 0.59 0.57 0.52 0.59 0.48 0.49 0.68 0.36 0.53 0.50 0.45 0.36 0.31 0.64 0.36
運動共応 0.39 0.58 0.59 0.69 0.59 0.57 0.56 0.53 0.57 0.51 0.47 0.64 0.57 0.69 0.53 0.42 0.58 0.55
非・肢体不自由者 0.41 0.45 0.47 0.57 0.52 0.48 0.53 0.56 0.58 0.46 0.34 0.57 0.55 0.37 0.41 0.39 0.44 0.53
肢体不自由者 0.32 0.54 0.58 0.65 0.57 0.40 0.43 0.37 0.46 0.52 0.42 0.56 0.38 0.26 0.46 0.30 0.50 0.42
指先の器用さ 0.43 0.64 0.64 0.61 0.72 0.60 0.62 0.51 0.58 0.69 0.46 0.72 0.63 0.47 0.57 0.42 0.63 0.52
非・肢体不自由者 0.42 0.52 0.52 0.59 0.62 0.51 0.50 0.55 0.51 0.51 0.34 0.53 0.54 0.38 0.52 0.37 0.51 0.38
肢体不自由者 0.30 0.48 0.62 0.51 0.49 0.72 0.43 0.36 0.74 0.64 0.39 0.65 0.42 0.26 0.47 0.22 0.65 0.46
手腕の器用さ 0.45 0.61 0.53 0.71 0.59 0.60 0.58 0.58 0.59 0.61 0.57 0.68 0.54 0.44 0.55 0.40 0.63 0.54
非・肢体不自由者 0.38 0.50 0.44 0.59 0.53 0.53 0.48 0.59 0.41 0.52 0.44 0.60 0.35 0.46 0.51 0.26 0.45 0.53
肢体不自由者 0.44 0.59 0.55 0.73 0.58 0.61 0.60 0.50 0.65 0.66 0.62 0.62 0.51 0.31 0.53 0.32 0.56 0.53
検査項目 数の計算 ページぞろえ 色による紙ぞろえ 折りたたみ、1/4折り 折りたたみ、1/3折り 帯封とのりづけ1/4折り 帯封とのりづけ1/3折り 計量 分類 数の計算と容器への詰めこみ ワッシャーの組み合わせ 挿入、ひも通し、ひも結び アート紙の帯封 色の識別と分類 十本の被覆電線のとりつけ 十本の被覆電線と検査 被覆電線の結束 電線のハンダづけ

 また、妥当性についても、「妥当性がある」と結論してよいようである。

Ⅶ むすび

 以上のことから、タワー法の評価基準が米国で創られたものでありながら、少なくとも2職種については、そのまま我が国で適用してよいということを妥当性の面から実証することができたと思っている。

 もちろん、14職種のうちの2職種をもって他のすべてを律することはできないが、将来の研究に希望をもたせ、研究手順を飛躍的に前進させたことは事実であろう。

 労働省編一般職業適性検査については、まだ検討すべき点が残っているとも聞くが、現に非肢体不自由者や軽度障害者に対しては相当の有用性をもって活用されている(当然他のテストとバッテリーを組まれることもあるが)ことからしても、今回、タワー法が同検査と相当に高い関連性をもち、かつ、かなりな妥当性をもった検査法であると実証できたことは、なによりであったと思っている。申すまでもないが、このことはタワー法が無用の長物であり、労働省編一般職業適性検査でもってすべてがカバーできるということではない。むしろ、現実性をはじめ多くの特性をもったタワー法が客観的でもあるとして、その優劣性を示すものであろう。ともあれ、それぞれの検査法の特性を十分に生かして適切に適用していくことこそが大切である。

 将来更に検討を進め、我が国のワーク・サンプルによるいわゆる日本版の実現に努めたい。

 最後に、本研究の期間中、心よく協力いただいた各機関に対して厚く御礼申しあげるとともに、あけぼの寮あげての協力と研究班の一員として笠井玲子指導員(48.8.31退職)のなみなみならぬ努力があったことを付記する。

*広島県立あけぼの寮副所長
**広島県立あけぼの寮指導員


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年1月(第13号)16頁~20頁

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