シンポジウム/肢体不自由児者―特に脳性マヒの職業的能力開発について 職業能力開発と行動療法

シンポジウム/肢体不自由児者―特に脳性マヒの職業的能力開発について

<その2>

職業能力開発と行動療法

西川実弥*

1. はじめに

 リハビリテーション・センターなどでの、脳性マヒ障害者の職業リハビリテーションに対する具体的な取り組みの過程において、我々が、しばしば遭遇する問題点の一つとしてあげられるのは、ある仕事の遂行上、比較的良好な身体的可能性が期待されるのにもかかわらず、必ずしも、実際の結果は期待通りでない場合がある。このような例のほとんどは、平たく言えば、仕事への意欲の不足と言われるものであったり、仕事をすることそのものの意味の把握が不十分であったり、仕事を続行する精神的耐性に欠けていたり、適切な作業態度や、職業場面で必要とされる諸習慣が身についていなかったりする点に、その原因が求められることが多い。すなわち、職業場面で発揮される諸行動(Work Behaviors)のほどほどの発達や習得が十分なことによって、職業リハビリテーションの達成を妨げていることが、予想以上に多いものである。

 職業内諸行動は、職業の達成上、重要な要因の一つであるが、Gellmanは、この点 に関連して、次のように記述している。

 職業場面で示される諸行動、すなわち、作業態度、意欲、興味、職業観、作業遂行のパターン等は、その人特有の職業面性格(Work Personality)の諸要因となるものであり、職業面性格は、発達と成長過程における習得によって形成される。

 職業面性格は、その人の属する文化特有のモデルを要求するのであるが、ちなみに言えば、職業リハビリテーションにおける評価とは、このような意味における、職業面性格の当面の形成度と、その形成のための指導計画(Treatment Program)に関する情報が含まれていなければならない(Gellman.W.1968)。

 種々の、職業内諸行動の習得のための訓練や指導プログラムには、通常、言語的段階のものと、体験的段階のものとが含まれ、前者は、言語的教示や、カウンセリングに類するものであり、後者は、種々の作業体験の利用、すなわち、作業式適応訓練(Work Adjustment Trainingまたは、Work Conditioning)であるが、この両者の併用によっておこなわれるのが、効果的である。一般に、脳性マヒ障害者の指導や訓練には、通常のリハビリテーションとしてのモデルよりも、より一層手のこんだ、多様な手段を要することが多い。いわゆるRehabilitationではなく、Habilitationとしてのモデルが強調されるのもこの一例である。もとより、職業リハビリテーションの分野においても、この例外ではなく、色々の効果的な手段が、探索される必要があろう。

 脳性マヒ障害者や、重複障害者を対象とした、訓練や指導プログラムのレパートリーの一つとして、ここ数年来、臨床心理学の一技法としての行動療法的技法の応用が試みられ、かなりの成果をあげている。行動療法的技法のリハビリテーション分野への応用は、もちろん、我が国ではほとんどその例を見ないのであるが、米国のこの分野では、その本来的な分野である心理学的治療のみならず、理学療法や作業療法、あるいは、言語治療等の、いわゆる、医学的リハビリテーション分野においても、数多くの応用例の報告もかなりみられるが(Fordyce,W.E.1971,Fordyce,W.E.et,al.1971,Kolderie,M.1971,Rice,H.et,al.1968,Trombly, C.1966.Trotter,A.&Inman,D.1972)、本稿では、紙数の関係もあり、職業リハビリテーション分野での応用に関し、そのごく一端を概観する。

2. リハビリテーションと行動療法

 行動療法とは、周知のとおり、心理学における現代学習理論にもとづいて、人間の行動の変容を目的とした各種技法の総称であって、実証可能な理論にもとづく新しい型の心理療法の一種とみることができる。この立場は、従来の伝統的な精神分析理論による精神力動論や技法に全く対立的であり、行動変容を学習の結果であるとする。

 現代の行動療法に含まれている諸技法のうち、リハビリテーション分野で、よく応用されている技法は、オペラント条件づけ技法を中心として、社会的模倣学習技法(モデリング)、逆制止療法(系統的脱感作法など)等である。

 リハビリテーションにおける心理学のかかわり方に関しては、第2次世界大戦後、全米心理学会により、1958年に第1回の専門会議が開かれ(Wright,B.A.1959)、第2回目は、1970年に開かれているが(Neff,W.S.1971)、後者における目立った特徴は、リハビリテーションにおける行動療法的視点の登場と、この技法の応用に関するものであろう。

 Fordyceは、この会議において、リハビリテーションのプロセスに、行動療法的視点よりの考察を加え、理論的概観をおこなっているが(Fordyde,W.E.1971)、彼によれば、リハビリテーション分野における、行動療法的技法の適応は、およそ、次の三局面が考えられる。

(ⅰ).突然の障害の発生にともなう、いわゆる、「危機的事態」の処置と、リハビリテーション・プログラムへの導入。

(ⅱ).「障害×不適切行動」の 消去。

(ⅲ).「障害×適切行動」の形成。

 これらの課題のうち、(ⅲ)は、リハビリテーシ ョンのプロセス全般にわたって、すべての対象者が、何らかの形で関連すると言えるが、とりわけ、脳性マヒ障害者を対象にした職業リハビリテーションのプロセスでは、望ましい行動を新しく形成してゆくことは、その中心的な課題と言えるであろう。すなわち、適切な作業態度、その人の潜在性が、十分発揮された作業能力、職場やその周辺の社会的場面に含まれる対人的技能、あるいは、職業技能の習得等々、職業リハビリテーションのプロセスに含まれる課題のほとんどすべてがこれに該当すると言える。

3. 職業リハビリテーションにおける応用

(ⅰ) オペラント条件づけ技法

 オペラント条件づけ技法は、言うまでもなく、Skinnerの学習理論にもとづくもので、人間のオペラント行動(Operant-operate on the environment,自発性というような意味)を、強化(Reinforcement)の理論に従って、好ましい方向に変容させようとするこころみである(Skinner,B.F.1965)。

 次の表は、強化の形と、それによる行動の変化を要約的に示したものである。

  強化因の投与 強化因の撤去
行動の増加 正の強化(Positive reinforcement) 負の強化(Negative reinforcement)
行動の生起後、快刺激を与える 行動の生起後、嫌悪刺激を撤去する。
行動の減少 罰事態(Punishment) 罰事態(Punishment)
行動の生起後、嫌悪刺激を与える。 行動の生起後、快刺激を撤去する。

 Minneapolis Rehabilitation Centerの行動療法チームのCushingは、センターの種々のクライエントに対して、作業能率の改善や適切な身づくろい習慣の形成に、オペラント条件づけ技法を利用して効果をあげている(Cushing,M.1967)。このこころみは、いずれも、カウンセリングの一方法としてとりあげたもので、目標行動の生起時に、コーヒー休みの時間を与えるとか、あるいは、センター内に存在している、クライエントの好む活動(例えば、所内のメッセンジャーとか、受付の手伝いなど)等を強化因としてあたえることなど の、いわゆる、常態強化因(Natural Reinforcer)を有効に使って、比較的短い期間で、目 標行動の形成に成功したことより、対象により、また運用により、いわゆる、話し合い形式(Talk Type)のカウンセリングより、効果的であったことを報告している。

 Meyersonらは、四肢痙性マヒの青年の、タイプライティング技能の学習に対する、動機づけへの応用について報告している(Meyerson,L.et,at.1968)。行動療法的指導を試みる前のクライエントは、タイプライターの操作に熱意のある行動が少なく、指導員の関心をひくための、作業時における不適切な行動や訴えが多かったもので、それらの不適切行動は、また実際上、指導員がそのつど関心を示したことによって、強化され、タイプの技能習得が妨害されていたものである。

 このクライエントに対する行動変容プログラムは、まず彼を静かな部屋におくこと、関心をひくための行動や訴えは、指導員が黙殺すること(すなわち、正の 強化をしない)、そして、熱心に30分間の練習が続けられたときにのみ、強化因として、指導員とのおしゃべり時間が5分間与えられること等であった。

 プログラムの進展にともなって、同時間内にタイプすべき行数の割当を徐々に増加させ、達成後、同様の強化因が与えられたのであるが、このような形式での12回の実施により、このクライエントのタイプライティングの速度は、30分間の作業で、5行から12行まで増加し、誤りもほとんどみられなくなった。

 以上の2例にみられるような、比較的簡易な応用例の報告は多いが、大ていの場合、いわゆる、シェイピング(Shaping)の技法が、有効に利用される場合が多い。

 シェイピング技法は、Skinnerの学習理論では、中心的技法とも言えるが、ある程度、 複雑な行動の形成には、単一な強化では達成できないので、最終目標行動を一連のSmall Stepsに分け、まず最初は最終の目標行動に類似した、低次の行動を強化して形成し、順次、一連のSmall Stepsに対して、同様の手続きで形成しながら、漸進的に、目標行動の形成に接近してゆく方法である。

 オペラント条件づけ技法では、強化因の選定や与え方は、大変重要な部分を占めるが、トークン・システム(Token System)と呼ばれる特別の方法があ る。適切な行動の生起時に、即時的にトークンと呼ばれる、代用貨幣、あるいは点数札等が、そのつど与えられる。そして、トークンは、後刻、現物の強化因、すなわち、品物や食物等と引き換えられたり、あるいは、好みの活動や休養が与えられたりするが、不適切な行動の生起時には、トークンを返還しなければならない場合もある。

 この方法は、Ayllon等が、精神的障害者のリハビリテーションに、系統化して使用して以来、一般的に応用されるようになった(Ayllon,T.,Azvin,N.1968)。

 Zimmermanらは、脳性マヒ障害者等の重 複障害者を対象に、Sheltered Workshopにおける作業能力の向上のための集団的訓練に、 トークン・システムを有効に利用しているが(Zimmerman,J.et,al.1969)、同様のこころみが、Trybusらによっても報告されている(Trybus,R.,Lacks,P.1972)。

 Trybusらは、St.Louis Jewish Employment and Vocational ServiceにおけるBehavioral Training Unitという研究的試みの中において、精神遅滞を示すクライエントたちに、軽易な作業場面を利用して、生産能力の向上を目ざした動機づけをおこなった。同時に、彼らの試みは、作業中の様々な不適切行動、すなわち、席を立つ、雑談をする、他の邪魔になる等の行動の消去とそれに代わる適切行動の形成についてもおこなわれているが、ここでは、それらの一端を簡単に引用する。

 図1は、対象となったクライエントのうちの2名について、トークン・システムによる作業場面での生産量の推移を示したものである。基準線(Base line)は、その行動が、手を加えない自然の状態で生起する、ある一定期間あるいは、一定時間内の平均量であって、行動変容プログラムの効果の評価にはぜひ必要とされるものである。

図1

図1 (オペラント条件付けプログラム)

 オペラント条件づけプログラムの運用において、望ましい行動の生起とそれに対する強化の随伴関係の反転操作(Reversal of Contingency)や、強化因を一時的に撤去をする操作(Withdrawal of reinforcement)は、その強化関係が適切行動の増加に確実に作用しているかどうか、を検証するための常用的な方法である。

 また、図2は、作業場面での不適切行動の著しい1人のクライエントに関し、不適切行動の消去を試みた結果である。

図2

図2(オペラント条件付けプログラム)

 クライエントの不適切行動の生起は、その生起時に指導員が示す注意や関心が、その行動に対する社会的強化因(Social reinforcer)となっていることが分析されたので、指導員は、クライエントのその行動を無視することに意を用い、同時に、一定時間の適切行動の持続時に、関心を示すという強化関係によって、短時日の間に不適切行動は著しく減少しているが、この傾向は、プログラムの終了後も、長期にわたって持続された。

 職業リハビリテーションにおける、オペラント条件づけ技法の、若干の応用例について略述してきたが、一般的に言って、オペラント条件づけ技法の効果的な運用には、系統的な計画が必要である。Fordyceらは、医学的リハビリテーション場面における、オペラント条件づけ技法の応用に際し、必要とされる考え方と手続きについて記述している(Fordyce,W.E.et,al.1971)が、目標行動に関する分析の相違点は除外するとして、他は、職業リハビリテーション場面にも、大変参考的であると思われるので、以下要約的に紹介する。

A.諸原則

a.目標行動を定める。増加せしめたり、減少せしめたりする行動は何か。

b.行動の変容

(ア) 行動は、正の強化因(快刺 激)の投与により増加し、撤去により減少する。

(イ) 望ましい行動の形成は、シェイピング法(漸進的接近法、あるいは、分化学習法とも言う)によって始めるのがよい。

(ウ) 特殊な条件に依存して強化された行動は、特殊な条件の中でのみ起こりやすい(刺激のコントロールが必要)。

c.強化因

(ア) ほとんどの強化因は、学習により獲得されたものであり、また、どの対象にでも共通であるとは限らない。

(イ) 刺激は、それが実際の作用するときのみ、強化因であり得る。それの投与や撤去により行動は増減しなければならない。

(ウ) 出現の頻度や強度の高い行動は、それの低い行動の強化因になる--Premackの原則(Premack,D.1959)。

(エ) 強化因を選定する近道は、その人の日常行動をよく観察することである。

(オ) 称賛すること、何らかの型で関心を示すこと、休憩を与えること等は、有効な強化因の一つであり、指導面で、指導者のコントロール下に容易に、また確実におくことができる。

(カ) もし、指導者のコントロールにまかせない強化因であれば、使用しないこと。

(キ) 常態場面(Natural Environment)での強化因を活用すること、またできれば、クライエントに選択させる。

d.強化因の投与法

(ア) 強化因の投与は、行動の生起に対し、即時的であるほど効果的である。

(イ) 始めは、生起した行動に毎回強化をする(連続強化)。

(ウ) 形成された行動の維持には、強化の割合を減少させる(間歇強化)。

(エ) 必要に応じて、トークン・システムや点数システムを利用すること。その利点は、

① より即時的強化ができる。

② プログラムの中断がさけられる。

B.手続きの実際

a.目標行動の設定

b.記録

(ア) 基準線の設定

(イ) 行動生起の割合、頻度/単位時間

(ウ) もし可能であれば、クライエントにも記録させる。

c.評価

(ア) 強化因の選定

(イ) 強化因のコントロールの可否

(ウ) 強化スケジュールの設定

①連続強化→間歇強化

②強化割合の減少率

(エ) 諸結果の評価

(オ) グランドマ(Grandma)の法則(始めがだめでもまたやりなおせ)、行動変容が生起しなければ、強化因か 、強化スケジュールを変更してやりなおす。

(ⅱ) モデリング法(または、模倣学習法)

 新しい行動の形成には、シェイピング法のようなオペラント条件づけ法は、たしかに重要な技法であるが、それが唯一の方法ではない。

 他の行動の遂行を観察し、模倣することによって類似の行動が獲得されることは、古くからよく知られた事実であるが、これを、社会的学習の問題としてとりあげたのは、MillerとDollardであるが(Miller,N.E.,Dollard,J.1941)、Banduraは、刺激となるモデルを観察することによって、その行動が学習される過程をモデリングと呼び、モデルの特性と学習の関係を実証的に研究している(Bandura,A.1966)。その条件における、よく知られた事実の一つとして、モデルの行動を強化することによって、それを観察している観察者に強化を及ぼすことができるという、代理的強化(vicarious reinforcement)の概念を提起している。モデリングは、モデルを観察することによって学習が成立する過程であるから、観察学習とも呼ばれるが、学習される行動や、対象によっては、シェイピング法より効率的である場合もある。

 リハビリテーションの分野においては、例えば、リハビリテーションへの導入期において、クライエントに適切なモデリングを与えることにより、リハビリテーションへの動機づけをおこなうことを、Fordyceは示唆している(Fordyce,W.E.1971)。また、Sheltered Workshop等において、種々の作業技能や、作業行動の習得には、いわゆる、職場内訓練(On-the-Job-Training)の形式によることは、一種のモデリングに該当するものと考えられる。

 Krumboltzは、心理学的カウンセリングのプロセスに対して、行動療法的技法の適用について、理論的な考察をこころみたひとりであるが(Krumboltz,J.D.1970)、モデリング技法を、その重要な技法の一つにあげている。すなわち、クライエントに対して、適応的行動のモデルを観察させる手続きをおこなうことによって、その適応行動の学習をさせる。例えば、適切な問題解決活動をおこなっている人々の録音テープを提示し観察させるとか、あるいは、モデルをプログラム学習形式の指導書にして提示するのも有効であろう。また適切な伝記なども、一種のモデルとして有効なことを、彼は示唆している。同様の手続きによる指導法は、Krumboltzの指摘する心理学的カウンセリングの分野に限らず、我々の志向する職業リ ハビリテーションでのカウンセリングや指導法にも、示唆を与えてくれるものである。

 しかしながら、極めて重要な点は、このように、種々計画されたモデリングによって学習された行動が、実際に遂行されるかどうかは、その行動に対する強化の関係が重要な役割を持つものであろう(Hilgard,E.R.,Bower,G.H.1966)。

 したがって、人間の新しい行動の形 成のため実際的な観点から、最もよいプログラムとして考えられることは、モデリングによる観察学習と、オペラント条件づけ技法との適切な組み合わせをおこなうことであろう。すなわち、モデリングによって、望ましい行動のパターンに類似の反応が生起する確率を増大させることを試みる。その行動が生起すれば、例えば、シェイピング法により、最終目標行動に、順次分化的に条件づけ、そして、生起率を高めることができる。

 目標行動が、例えば、作業技能のようなものであれば、その行動を実際に練習させることは有効であろう。また、社会的場面を含まれるような行動であれば、模擬的体験によるリハーサル(あるいは、従来から利用されている、ロールプレイング)をおこない、その際には、例えば、ビデオテープ記録等を利用した、強化的なフィードバックをこころみることは、重要な点であろう。

4. おわりに

 行動療法は、極めて歴史の浅い領域である。とりわけ、リハビリテーション分野での応用については、この感が深い。

 我が国のリハビリテーション分野における、この技法の応用による報告は皆無のように思われるが、比較的盛んに利用されている米国の状況を概観しても、リハビリテーション分野に特有の課題への適用の構成は、多く、今後に残されているように思える。また、Trybusらの指摘によれば、リハビリテーション分野での研究的な報告には、しばしば、目標行動を設定する基準線が不適切であったり、被験者の行動をコントロールするための、強化の随伴関係の変化が、系統性に欠けていたり、行動の観察に客観性が欠けていたり、あるいはまた、形成された行動の維持についてのフォローアップに関する報告が足りなかったりする(Trybus R.J.,Lack,P.B.1972)。

 これは、リハビリテーション分野における、行動療法的技法の応用における未熟性 を物語るものでもあり、また、行動療法的技法においては、その手続きにおける操作性や、数量的客観性を重視強調するが、この点、伝統的な精神力動論的手法に馴れた人々には、その考え方の転換が難しいことにもよるであろうと推察される。

 このように、リハビリテーション分野における行動療法的こころみは、十分成熟しているとは言ええないし、モデリング技法のように、その効果は疑う余地はないとしても、学習理論的には、十分解明されていない技法もある。

 それでありながら、なお、行動療法に含まれる諸技法には、リハビリテーションの種々の局面への有効な利用の可能性を裏づける報告も少なくない。

 我々が、本稿で対象とした、脳性マヒ障害者の職業リハビリテーションにおいて、諸能力の向上を目ざすこころみにおいては、決して多くの手段に恵まれているとは言えない理由からも、行動療法という新しい技法を、そのレパートリーの一つとして加え、その応用に関する探索をこころみることは、決して意味のないことではないであろう。

参考文献 略

*大阪府立身体障害者福祉センター指導課長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年1月(第13号)29頁~34頁

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