スウェーデンのコミュニティーにおける重度障害者の住居対策

スウェーデンのコミュニティーにおける重度障害者の住居対策

Integrated Living for the Severely Handicapped in Sweden

Dr.Sven-Olof Brattgard, Mr. Folke Carlsson and Mr. Arne Sandin *

奥野英子**

The Fokus Societyとその目的

 1960年代は、重度障害児および重度障害をもつティーンエイジャーのリハビリテーション・教育施設において、多大なる進歩が見られた10年であった。しかしながら、身体障害をもつ若者を対象にした住宅サービスには、ほとんど力が入れられなかった。現在に至るまで、これらの若者の多くは、親が彼らの世話をできない場合にはいつでも、慢性病者のためのナーシングホームや施設において、孤独と無為の生活を余儀なくされている。彼らが自分自身で家事をするなどということは、全く考えも及ばないという風潮であった。

 1964年にThe Fokus Societyがスウェーデンで設立された。その目的とするところは、若い歩行障害者(身体の移動、身辺衛生管理、衣服の着脱、買物、料理などに関して、補助具や介助者の助けを、一部的にまたは全面的に必要とする者)に対して住居、サービス、援護(ケア)を提供し、一般の人びとと同じ条件のもとで、個人としての住宅に住めるようにし、ナーシングホームや療養所での孤独と無為の生活を強いられず、また両親の家に住み続けて肩身の狭い思いをさせないようにすることである。

 The Fokus Societyがまず考えたことは、一般の賃貸住宅のなかで若い障害者用のアパートを確保することであった。障害者ができるだけ自立できるような設計でなければならない。住宅ユニットは単身者用とともに世帯用も用意するが、単身者用のアパートに重点が置かれた。介助員は24時間いつでもサービスに応じられる態勢にする。個々の部屋から共同使用スペースに直接行けるものとする。スウェーデン全国の障害者ならだれでも入居資格をもつものとする。

 アパートは一般の住居地域の中心地に位置するものとし、非障害者もそのアパートに住める構造にする。就職の場もあり適切な教育プログラムもそろっているコミュニティーにアパートを建設することにより、障害者の就職がより容易になるであろう。

 The Fokus Societyは就労を奨励しており、居住者が労働市場での公共資源を利用できるような可能性を与えている。Fokusは障害者をその全体的立場で援助することを使命としているので、居住者が不必要な制約なしにその人生を生きられることが望ましいと考える。

 この目的にそって、Fokusは基本的原則を次のように設定している。

● 障害者は、現在彼がどこに住んでいようとも、自分の住居を選択する権利を有する。

● 障害者は一般の住居環境に住むことを許され、一般の人々と同じ条件でその住居を使用できるものとする。

● 障害者は介助サービス(personal service)をいつでも気がねなしに利用できるものとする。

● 障害者は職場を選び、就職し、それを維持しつづけるために必要なすべての援助を与えられるものとする。

● 障害者は意義ある何かに従事する機会を与えられるものとする。

目標:重度障害者-無視されてきた小集団

 Fokusが主に対象としているグループは、重度運動機能障害をもつ若者たちから成り立ち、衣服の着脱、トイレへいくこと、料理、買物などの日常生活動作(ADL)のために、補助具や人的介助を必要とする小集団である。

 Gunnar IngheとInga-Maj Juhlinがスウェーデン全国を網羅する調査(1968年)を実施し、その結果、16才から40才までの重度障害者でFokusがつくろうとしているようなタイプのアパートを必要としている者は約千名いることが明らかにされた。また、いわゆる「ボーダーライン」にいる人々の数も約千名であった。この調査によって、農村地区に重度障害者がたくさんおり、都市部においてはあまり表面化していないことがわかった。

 この現象の理由は、一般の若者は魅力の多い都市や町に流出していくが、重度障害をもつ若者にはそれができないからである。重度障害者の大多数は、彼らの世話をしてくれる親や親せきと生活せざるをえない状況にあったり、またもしそれが不可能ならば、療護施設(nursing institution)で生活している。Fokusアパートで生活することが可能と推測される若者の約20パーセントは施設援護(ケア)を受けている。親といっしょに生活している者の多くは、非近代的で不便なアパートにおいて生活している。

The Fokus Societyの組織

 Fokusは本部と、各地区における実行委員会から成り立つ全国的組織である。本部は主に、財政、政府当局との連携、建築プロジェクトの企画、一般的相談事業などに責任を有する。本部レベルにおけるスポンサーは、公式団体および障害者事業に関係している各種団体などである。

 Fokusは1965年4月3日に行われた「赤い羽根募金」から約1千百万クローナの運営資金が集められた。ラジオ、テレビ、ライオンズクラブなどの参加により、すばらしい成果が収められた。初期段階ではこの資金によって事業を進め、徐々にコミュニティーが、重度障害者に住宅とサービスを実施するに必要な財政的責任を引き受けてくれるような方向にもっていくつもりである。

 Fokusはその実際的事業のほとんどを、地区実行委員会(local executive committee)において実施している。地区実行委員会は、政府諸機関、障害者団体、The Fokus Society本部、そしてアパート居住者によって構成される。典型的な実行委員会には、地方における社会・医療・福祉・職業機関の代表者、障害者の代表およびFokus本部の代表がメンバーになっている。地方当局と連絡を密にとりながら、地区実行委員会は職員の配置、プログラムのスーパービジョン、一般的カウンセリングなどを実施する。

プログラム企画と住居設計

 すでに説明した1968年の調査は、The Fokus Societyの後援により実施された。スウェーデンにおける重度障害者を対象にしたこの調査によって、全般的な事業の企画と、もっとも優先的に実施すべき地区が選び出された。まず初めに集められた資金をもとに、スウェーデン全国に散在する14の地区で事業に着手することになった。この14地区はその時点でのニードの約3分の1に相当した。

 住居および近接環境の設計指針は、建築家、リハビリテーション専門家、関係エンジニア(暖房、換気、衛生、電気部門)および障害者、で構成される特別機動班(special task force)によってまとめられた。この機動班は障害者の個々のニードに最大限応じられるような住居ユニットの設計に力を入れた。また、緊急事態が生じた場合に使う部屋、衣服の管理室、洗濯室など、共同使用施設の設計にも注意が向けられた。このプロジェクトには、障害者が利用できる緊急信号システムの設計も含まれた。

 機動班は、概念的計画の第一案を1967年の春に提出した。この提案は次の年に最終案へと検討を加えられ、そのタイトルは「重度障害者のためのFokus住宅ユニットの諸原則」となった。この要綱は各種のFokusユニットを企画する上での基本となった。この要綱はドイツ語と英語で出版された。

 まず事業の開始点としてのこの要綱に基づき、柔軟性のある台所やバスルームの設計が始められた。キャビネット、作業台などの室内設備は、指定業者によってFokusの指定した寸法どうりのものが製作された。例えば、ドイツのハンブルグ職業リハビリテーションセンター(Berufsforderungswerk Hamburg)で製作されたものもある。Fokusは製造過程における品質管理をするばかりでなく、製造業者に対して最新の情報(使用経験による)を定期的に流している。

 アパートの入居者の選考はFokusが行う。また、地区実行委員会は介助員が十分に配置されているかどうかを監督する。Fokus設計の基本的原則は、各入居者がそれぞれ個室をもつ、ということである。たとえ台所設備などが備わっていても、多目的に使う一室のみのアパートは、障害者の住宅問題の長期的見地からの解決策にはなりえない。すべてのユニットは、最初から重度障害者を対象に設計されている。Fokus企画グループが最後に出した勧告があくまで尊重された。

 Fokusには単身者用アパートとともに世帯用のアパートもある。以下の図はゲーテボルグに近いMolndalにあるアパートの間取り図である。一般的に言って、どの地区の間取り図も、構造細部においては多少の差異はあるが、ほとんど同じといってよいであろう。住居設計のうち、特に単身者用のものは、<万能部屋>(平面図参照)がある。この場合の理論的根拠は、居住者を常に行動の中心点と考え、彼がベッドにいようと台所にいようと、ソファーやアームチェアにすわっていようと、その位置からすべての物に手が届くように設計されている。すべての室内設備は取りはずし可能であり、居住者が自分にぴったり合う住居にできるということである。

台所の間取り図

(間取り図の説明)
Fokus アパート、1K型式、48㎡。単身用のこの型式は万能部屋として設計されている。
Fokus アパート、2K型式、76㎡。この型式は柔軟性のある設備になっている。台所およびバスルーム設備は入居者のニードに合わせることができる。引き戸はスペースをとらないし、車イス使用者には開閉しやすい。
Fokus アパート、3K型式、96㎡。世帯用のこの型式は、友人や家族との生活に適している。

万能部屋平面図

 台所、ベッドルームなどにおけるすべての室内設備は、高さの調節ができる。居住者が車イス使用者であろうと松葉づえを使っていようと、彼の手に届く範囲にすべてが配置され、住み心地は最高になっているわけである。

 住み心地を良くするために、各種の技術的工夫がすべての部屋になされている。電気操作は移動可能な小ボックスに収められており、ベッドのとなり、台所、車イスになど、どこにでも取り付けられる。もし車イスに取り付ければ、障害者が部屋のなかのどこに動こうとも電気類をなんでも操作できる。スイッチを入れれば、ドアの開閉、介助員を呼ぶこと、電話をかけること、ライトの点滅などができる。すべての部屋から内部通話装置によって、勤務中の介助員と連絡がとれる。また、内部通話装置のほかに、普通の電話も各部屋に備わっている。

 Fokusのすべての住居は共同使用スペースに隣接している。この共同使用施設は、障害者、非障害者にかかわらず、すべての居住者が利用できる。テレビのあるレクリエーション室、仲間と一緒に夕食を食べたい人のための台所が設置されている共用ダイニングルームなどがある。そのほか、身体的訓練のための部屋がいくつかあり、それぞれの部屋に、個々の能力に応じた設備が整えられている。また、各種道具を備えた工芸室もある。

 ほとんどのFokusユニットに付属施設として、衛生部(hygienic department)があり、そこには重度障害者のための配慮がなされたバス設備がある。多くの場合、サウナも付いている。普通、適切に設計された衣服管理室というのもあり、そこには、洗濯機、ドライヤー、しわ伸ばし機などが設置されている。室内用の車イスを格納するガレージの建設計画が進められている。当然、車の駐車場は必要不可欠である。地方によっては、電気カーヒーターを備えたカーポートの付いたガレージもある。

 介助員は事務所、勤務室または職員控室で待機している。

 Fokusはできるだけ地域の中心街に位置するように努力がなされている。それにより、居住者はコミュニティーの活動に参加しやすいし、人間関係をつちかうにもよいし、買物にも便利である。

フル・ケア・サービス-その範囲と組織

 重度障害者が自分の障害に適した住居に住めることと同時に、十分に機能を発揮する介助員のサービスを受けられるということも、非常に重要なことである。Fokusユニットに住む障害をもった入居者は、公立のホームヘルパー・プログラムよりももっと密度の濃いサービスを受けられる。

 多くの障害者、特に重度障害者は、一日の生活に合わせて24時間サービスを必要とする。もっとも顕著なニードは、衣服の着脱、身辺の衛生管理、食事、買物である。また、自分の住居に住む障害者は、掃除、ベッドメーキング、洗濯などに関しても、援助を必要とする。これらの作業があまり重労働でないとしたら、ホームヘルパーやその他のサービス機関ででもしてくれるであろう。しかしながら、重度障害者は複数の介助員を必要とするとともに、24時間サービスを必要とするので、この点においてFokusのプログラムは、従来のホームナーシングとは違うのである。だから我々は、このプログラムをフル・ケア・サービスと銘打っているのである。

 この種のサービスのニードを評価するスターティングポイントは、障害者が独力でなにをできるか、それをするためにはどれ位の時間がかかるか、である。サービスのニードをできるだけ少なくし、障害者が他人の援助にできるだけ頼らないですむようにさせるために、あらゆる限りの技術面での配慮が施されなければならない。

 障害者に対するサービスという点では、地区ごとに多少の差異があり、それぞれの独自性を尊重している。それは、郡協議会や市当局がもっている哲学(根本的考え方)の相違に由来しているのである。各地区に共通の基本的理論は、障害者がいわゆるサマリス人(苦しんでいる人の真の友という意味)のホームで、ふんだんに援助の手を受けられることである。郡協議会や市当局のサービスは、長くてもせいぜい一日4時間しか受けられない。Fokusがサービス対象にしている重度障害者にとっては、4時間だけのサービスでは十分ではないのである。ほとんどの重度障害者は、まちまちの時間にいつでも、介助員のサービスを必要としている。そのニードを満たすためにFokusユニットは、四六時中いつでも、勤務態勢にいる職員を雇用している。

 そのシステムにより、トイレに行きたい、寝るために服を脱ぎたい、寝返りや体位を変えたいなど、重度障害者が必要なときにはいつでも、介助員のサービスが受けられる。体重の重い人を持ち上げなければならないなど、二人の介助員が必要な場合には、Fokus職員がホームヘルパーを手伝う。また、ホームヘルパー・プログラムは週末に人材を確保するのが難しいが、そんなときに、Fokusの職員がその穴埋めをしてくれる。

 Fokusがフル・ケア・サービスを実施することになった理由がいくつかある。フル・ケア・サービスとは、介助員派遣システムであり、一定時間内にサービスを受けられると同時に、その時間帯の合間にも勤務中の職員が待機しているので、突発的な場合にも援助を求められる、ということである。何にも増して重要なことは、居住者自身がこのようなサービス体系を望んでいることである。障害者は、彼の住居を直接的に管理してくれ、彼の癖を知っており、どこに衣服が置いてあるか、彼が何を食べたいかなどがすぐにわかる人を必要とする。だからといって、微にいり細にいった、目新しい援助をする必要はない。

 もう一つの理由は、いわゆる<施設収容主義>によって、病院やナーシングホームなどの狭い世界で生活させる従来の考え方に対する反対運動の一つとして、外部から働きに来る職員のサービスに基づいたシステムということである。

 第3番目の理由は、このシステムは障害者に自分自身で(人間としての社会的)責任を遂行させるということである。彼は自分が何時間のサービスを受けられ、その時間数をどのように適切に配分すべきか決定する。

 フル・ケア・サービスを実施する上で一番重要なことは、介助職員の態度である。Fokusの職員は心を常に開き、それと同時に、障害者を患者として扱うような態度を決して出してはならない。障害者が自立する権利、個人的なことを自分で管理する権利、を尊重する態度をとらなければならない。

 重度障害者にとって重要な意味をもつ機能は車での送迎サービス(ride service)である。障害者がコミュニティーの各種活動に参加するためにも、また、人と交際するためにも、十分に機能を発揮する送迎サービスが必要なのである。この車による送迎サービスは間もなく実施される予定である。

7地区からの経過報告

 The Fokus Society本部との協力により、重度障害者に適した柔軟性のある住居が13地区で計画されている。The Fokus Societyの方針として、住宅地域を決定する前にまず建設業者(builder-developer)と連絡を取り、Fokusの仕様に合う構造になっているか、または障害者が住みやすい構造になるかを確認した上で、15~25室の賃貸契約を結ぶ。また、趣味活動、身体訓練、職員宿舎等のためのスペースも借りる。

 1971年現在、プログラムが実施されて1年以上たつ地区は7つある。したがってFokusでは、この時期に経過報告をまとめるのが適切と考え、それを「重度障害者の住宅とサービス」というタイトルの小冊子にまとめた。

 Fokusアパートは政府所有物としての金利で抵当にはいっている。それにより、入居者にとっては公平な基本家賃が保障されている。障害をもつ入居者のために改造するに要する余分な経費をカバーするために、政府は一部屋につき15,000クローナ(日本円で約90万円、1クローナは60~65円)まで補助金を出している。全体的に見て、この金額は単身者用住居には十分であるが、重度障害者用の部屋は普通のユニットより大きいので、多少少なすぎる。したがって、足りない経費は家賃に組み入れなければならない。アパートのなかの共同使用施設の賃貸料金は、別途に定めた計算方法によって、入居者全員で負担する。

 個々の入居者には、その人に必要な補助具類が室内に設備されるが、これは医療サービス当局(通常は郡協議会)の判定に基づいて行われ、その経費は政府補助金でまかなわれる。

 7つの地区には総計141戸あり、これらを大きさによって分類すると以下の通りとなる。

1K型式 76戸(54パーセント)
2K型式 40戸(28パーセント)
3K型式 25戸(18パーセント)

1K型式の住居の床面積は43~48㎡である。2K型式の部屋は55~79㎡、3K型式は80~96㎡である。

 141戸には総計174名が入居しており、そのうち151名が障害者である。上表でもわかる通り、全戸数の半分以上は、床面積43~48㎡の1K型式である。7地区におけるすべてのアパートに、ラウンジ、趣味活動室、特別設備を備えた洗濯室、バスルーム、訓練室、職員勤務室、職員控室などの共同使用施設が付帯している。床面積1㎡当たりの年間経費は80~116クローナの間である。共同使用施設の経費は全経費の約30パーセントをしめ、その経費は家賃に加算される。この調査から判断すると、障害者のための設備が十分に整った、水準の高いアパートとしては、1㎡当たりの家賃は、一般の家賃と比べても、大して高くはなっていない。しかし、市当局が負担する住宅補助金と、入居者による負担金を足しても、実際の賃貸料金に満たない。1971年現在、The Fokus Societyが賃貸料金の36パーセント、市当局が46パーセント、入居者が18パーセントを出していることになる。

 フル・ケア・サービスは通常、障害をもつ入居者が一日または一週につき一定時間数、市当局から派遣されるホームヘルパー・サービスを受けるように組織されている。このように限られた時間数では、重度障害者のニードを満たすことはできない。ホーム・サマリタンやホーム・ナースのプログラムは、Fokusで雇っている職員による24時間勤務態勢にある重要なサービスによって、強化されている。フル・ケア・プログラムの全体経費は――市当局が運営しようとFokusが運営しようと――障害者1名につき年間12,000~18,200クローナになる。1971年度の平均値は16,200クローナであった。ほとんどの障害者はその経済状況によって、公的ホームヘルプの負担金が免除されているので、The Fokus Societyのサービスに対しても負担金はない。

 フル・ケア・サービスの経費の負担は、Fokusが56パーセント、市当局が15パーセント、郡協議会が25パーセント、中央政府が4パーセント、となっている。郡協議会はホームナーシングに貢献しており、中央政府は市当局のホームヘルパー・プログラムを財政補助している。

 Fokusアパートの一戸に対する、住居とサービスの総経費の平均値は、障害者1名につき年間22,600クローナとなる。この数字は、同地区におけるクリニックで治療を受けている慢性病者や老人ホームにいる人の公的経費とほとんど同じである。慢性病者クリニックでの一床当たりの経費は42,000クローナから60,000クローナの間、老人ホームの一床当たりの経費は19,400クローナから30,700クローナの間である。このような数字を比較する場合には、施設の種類によりケアの質や住居環境において大きなちがいがあることを考慮しなければならない。

入居者の前歴

 Fukusアパートへ入居する前の障害者の状況を分析してみたら、彼らの34パーセントの者は近隣地区に住んでいた者であり、残りの66パーセントは他の地区からやってきている。彼らの48パーセントは親といっしょに生活していて、24パーセントは施設、ナーシングホーム、慢性病者クリニックなどで生活していた。

 Fokusで生活するようになってから障害者は、仕事や勉強に以前よりも参加するようになった。しかしながら、Fokusプログラムが開始されて間もないために、職場をさがすまでに多少時間がかかっている。それでも全体の45パーセントの者は、Fokusに移り住んでから1年以内に、就職したり教育を受けるようになった。

 Fokus住宅によって、より多くの障害者が障害者どうしや非障害者と家庭を持つようになり、入居者の36パーセントは同棲したり結婚した。

 障害をもつ入居者のうち77パーセントは車イスを使用している。半数以上は衣服の着脱に、3分の1は毎日の衛生管理(洗顔、歯みがき、トイレ、入浴など)に介助を必要としている。全体の約5分の1(18パーセント)は夜中に体位の交換が必要であり、介助を必要としている。

 このように、Fokusアパートに住む障害者は、重度障害者という部類に属し、四六時中機能するフル・ケア・サービスに全く依存している。Fokusプログラムによって、彼らは安全な状態において、より活動的で自立した生活が可能となった。また、障害者は自分の好きな地区を選べるのである。もはや地区的な境界線にしばられることはない。一般の人と同じように自分の住居を自分で決定でき、介助員のサービスも保障されている。その結果、就職、教育、余暇活動についても新しい機会が与えられる。

 Fokusの入居者となることによって障害者は、特別な恩恵をひきだせる。Fokusアパートに住むことにより、もっと一般的な住居へ移行するためのリハビリテーション過程の一ステップとすることができる。

 The Fokus Societyの事業は全国的規模で実施されているので、入居者は一地区のFokusアパートから他の地区のアパートに移ることも可能である。それによって、友人や親せきの近くに住めるようになったり、就職の機会の多い地域に近づける。また、休暇期間中には、他の地区のFokusアパートに住む障害者と一時的に部屋を交換することもできるわけである。交換し合った者は、目新しい、いわば「ホリデー・リゾート」でいつもと同じ福祉サービスが受けられる。入居者はまた、週末などにお客を泊まらせることもでき、その人も同様のサービスを受けられるようになっている。

コミュニティー問題としての重度障害者

 FokusのプログラムやFokusが後援した調査によって、常時ケアを必要とする重度障害者は今まで無視されてきた小集団であることが判明した。彼らのほとんどは先天的障害者であり、そのために、教育も十分に受けられず、学校卒業後は障害年金によって生活せざるを得ない者が多い。

 スウェーデンでは毎年、約40名程の障害者が、Fokusシステムによるサービス付き住居を必要とする状況に入っていくものと予想される。従来は、彼らの問題は政治団体からなんの注目もされずに、ナーシングホームや慢性病者クリニックに入れることにより、急性ケースとして扱われる傾向があった。Fokusは、重度障害者に住居とケアを与えるプログラムがそんなに高価につくわけではないということを、証明した。彼らはもはや、親の家に住み続けたり、施設の入所者としてとじこめられる必要はない。またこれらの障害者は、自分自身のホームを持つ権利に値いする。Fokusの解決策は重度障害者に新生面を開くばかりでなく、コミュニティーにとっても有利な解決策であろう。

 コミュニティーは、ここで問題に取り上げている重度障害者の正当な要求を満たす責任を遂行し、彼らが自分自身のホームと呼べる住居と保障されたサービスを提供しなければならない。

Rehabilitation in Australia, April 1973 から)

*スウェーデンのゲーテボルグにあるThe Fokus Society 職員。
**日本肢体不自由児協会書記。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年10月(第15号)17頁~24頁

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