スカンジナビアにおける統合教育

スカンジナビアにおける統合教育

The Integration of Handicapped Children in Scandinavian Schools

武田洋*

 この論文は、Elizabeth M. Andersonが1970年に、スウェーデン、ノルウェー、デンマークを4週間にわたって訪問し、とくにこの3か国の統合教育の政策を、関係機関の視察と関係者との話しあいに基づいて報告したものである。原文は、The Disabled Schoolchild(Methuen & Co. Ltd, 1973)の第9章、254~287ページに収録されている。ここでは、原文の重要でないと思われる箇所は要約紹介し、わが国の事情と異なりすぎて理解しにくい部分はさらに説明を加えた。上記3か国は、障害児を居住地域の普通学校に通学させ、その中で特別の教育的配慮をすることに積極的にとりくんでおり、統合教育が話題にのぼってきているわが国の教育界にも、かなりの示唆を与えるものと思われる。とくに、人口密度に極端なばらつきのある3か国での努力は、規模が異なるとはいえ、わが国の事情に相通ずるものがあり、同じ回り道を通らずに、障害児の教育、福祉をすすめる上で重要な参考資料になるものと思われる。三沢義一「北欧の特殊教育」(辻村泰男監修『欧米と日本の特殊教育』第6章、慶応通信、昭和48年刊所収論文)を併せ読まれたい。

 

○ 特殊教育の現状と再編計画

1. スウェーデン

(1) 現行制度

 スウェーデンでは、教育に関する管理とその責任は、中央教育委員会(National Board of Education)と地方教育委員会が分担している。1962年のEducationAct以来、7歳から16歳までの子どもを就学させる、義務教育学校(grundskola)での9年間が義務制となった。低学年が1~3学年、中学年が4~6学年、高学年が7~9学年と三つの部門に分かれている。義務教育学校は学区ごとに設置され、1学区には、上記三つの部門をもつ総合中等学校に加え、低学年か中学年、あるいは両方の部門のある場合がふつうである。各学区はひとりの校長の管理下にあり、「校長区」と呼ばれている。「特殊教育校長」もいるが、普通学区に特殊学級が含まれ、特殊学級の方が主な特殊教育の担い手となっている。

表1 スウェーデンの障害児

障 害

1000人中の比率 総 数
精 神 薄 弱 10.0

15,000

て ん か ん 10.0

15,000

脳 性 マ ヒ 1.7 2,500
ポ リ オ 0.6

800

0.4 600
ろ う 0.7 1,050
心 臓 病 4.0 6,000
ぜ ん そ く 10.0 15,000
事 故 7.0 10,500
そ の 他 2.0 3,000
  69,450

 スウェーデンの普通学校には1967~8年の調べでは、ほぼ90万人の子どもが就学し、3,720の特殊学級には38,120人が在籍しており、それとほぼ同数(1965~6年調べで29,300人)が普通学級で配慮された教育を受けている。特殊学級の3分の2の子どもたちが学習遅滞児学級におり、その他学校生活をおくるには未発達な子どもの「未熟児学級」、不適応児のための「観察学級」、弱視、難聴、運動障害のそれぞれの学級に在籍している。

 普通学校で教育を受けるのが困難な子どものために、「特殊学校」があるが、その在学数は急速に減少してきており、とくに普通学校への統合が進んでいる肢体不自由児の場合、この傾向が著しい。スウェーデンにおける障害児教育で最も重要なことは、中央教育委員会のことばによれば、「インテグレーション、個別化、柔軟性」などと表現されている。同委員会によると、このことは、両親と子どもが多様な教育的措置から選択することができ、個々の子どもの発達に何が最も必要かを発見できるように、できる限り流動性のある制度をつくることだとされている。その制度のうち、肢体不自由児の主な三つの教育の場は次のとおりである。

① 普通学校の普通学級で治療教育を受ける場合。その学級には必要な技術的な援助、つまり登下校の輸送、個人的な介助などが用意されている。

② 普通学校の運動障害の特殊学級に入る場合。そこには、治療教育、個人的な介助、治療設備などがある。子どもが家庭から通学する場合と、ホステルから通学する場合とがある。

③ 重度運動障害児施設で学校教育と治療を受ける場合。必要があれば下宿設備を利用できる。1970年2月の段階で、105の特殊学級に666人の「運動障害児」(つまり肢体不自由児)が在籍し、その学級の半分弱が障害児のための特殊な機関におかれ、半数以上が普通学校にあった。普通学校1校が1~5の特殊学級を有していた。この666人の子どもたちの約65%が脳性マヒ児で、386人ほどが寄宿舎生であり、ストックホルム、ウプサラ、ゲーテボルグにある肢体不自由児のための特殊センターに住んでいた。かなりの数の肢体不自由児が、その他の障害のための特殊学級に在籍していることが指摘されていた。

(2) 再編計画

現在、肢体不自由児のための特殊教育の機関を分散させる措置が進行中である。中央教育委員会は、七つの地方の医療と教育のためのセンターを設立しようとしている。最大のものがストックホルム(人口80万)、最小のものがウメア(5万3千)に設立される。現在の肢体不自由児の唯一の特殊学校は、義務教育終了後の高等学校、補習学校、職業学校を含んだものとなり、義務教育段階の生徒のうち85%の進学がみこまれている。これはストックホルムにでき、学校とは分離した寄宿舎を有することとなる。他方、各地区には肢体不自由児学級が設置され、必要があれば遠隔地の子どものためにホステルが備えられる。医療は地区の小児科医が利用され、理学療法士、作業療法士を備え、観察と評価のための設備を有した特殊センターが利用される。中央教育委員会は各地区委員会の求めに応じてのみ活動することになる。

2. ノルウェー

(1) 現行制度

 ノルウェーは人口350万であるが、地域により人口密度の偏りが著しく、地方段階を基盤として特殊教育の用意を整えるのがむずかしいとされている。

 現在、1959年の「初等教育法」により、義務教育年限を7年から9年に移行中である。特殊学校は国によって直接運営されているが、普通学校における特殊教育は地方教育委員会の責任となる。もう一つの場合は、国による社会あるいは医療、またはその両部門をもつセンターで行い、教育は地方当局による(重度肢体不自由児が多い)場合とがある。

(2) 再編計画

 再編成の主な目的の一つは、この混乱した援助形態を単純化することで、障害児についての新しい二つの概念で特殊教育を行うことを定着させることである。それは第1に普通学校で特殊教育を行うこと、第2に普通学校外で特殊教育を行うことである。そのほかに、特殊教育の地方分散ということも大きなねらいである。第1については、地方自治体が特殊教育の大部分に責任をもち、特殊学校(盲、聾、精神薄弱、社会不適応)のみ国が責任をもつが、それはかなり縮小される。

 新制度の下では、各地区に委員会又は評議会が設けられ、特殊教育の計画を立て、医療、社会、教育の協力を保障する責任をもつことになる。地方での特殊教育は二つの段階で扱われることになる。一つはいくつかの自治体の共同という形であり、もう一つは州全体としてである。

(3) 地方ガイダンスセンター

 ノルウェーでの、新しく興味の深いものは、自治体どうしの組合立特殊教育施設であろう。地方ガイダンスセンターというのが構想されていて、1時間の交通半径(人口に基づかない)内に設置し、自治体の枠を越えて援助活動をする。センターには、学校心理学者、ソーシャルワーカー、理学療法士、言語訓練士、いろいろな障害児に接したことのある3~5人の助言教師(そのうち最低1人は就学前教師)などを含む常勤職員を有することになる。これらの職員は、センターから普通学校、特殊学級へと訓練や助言をするために出てゆく。

 センター自体ではごく短い期間の観察や評価を除いては、ほとんど処置はしない。小児科医や他の専門医がセンターに協力する。このセンターの活動を成功させるための問題点は、専門的な訓練を受けた教師、心理学者、訓練士がすべて短期間それぞれの都市のもち場からひき抜かれ、不承不承やってくるため、職員問題が残ることである。小さいセンターを補うため、オスロ、ベンゲン、トロンハイム、トロムソ、スタバンゲルなどにやや大きいセンターが設置される。

 近年、特殊教育中央委員会(Norwegian Council for Special Education)の委員長と委員が地方を回り、この計画について意見を求め、地区自身の計画作成を指示した。いくつかの先導的試行が行われ、ハウスゲズンド(人口1万8千)を基盤とし、心理学者の指導の下に設立されたセンターが最も発展している。

 この計画の実施はノルウェー実験委員会(Norwegian State Council of Experiment)により行われているものの一つで、委員会は「どのような地域社会であろうと、障害者を地域社会に統合する」ことに関心が高く、以下の広い目的を公にしている。

① 障害のある子ども、青年、成人に、家庭のある近隣社会の中で、できる限り通常の環境とのつながりで特殊教育をする。

② すべての地方の社会、保健所、学校などの協力、統合をし、障害をもつ人の福祉、治療、教育をする。

③ 障害児を登録し、できるだけ早く治療する。

④ 障害をもつ人への直接的な援助計画を分担する。

⑤ 職員を激励し、障害者にできる限りの最善の診断と治療、教育を行うことを促すような、地方の教育―心理のセンターをつくる。

⑥障害者の治療、教育、訓練に新しい方法を生みだす。

 これらの計画は1969年から実施に移され、障害児を地方の普通学校に統合することが強調された。これらの子どもたちは、大部分精神薄弱児、視覚障害児、情緒障害児であった。1970年にハウスゲズンドセンターの常勤の専門職員は4人の心理学者、6人の専門教師、2人のソーシャルワーカーであった。心理学者の責任ある報告を以下にかかげる。

私たちの初年度の主な目的は、普通学校の教師に、教室における仕事の遂行にさらに巧みになってもらうこと、障害児に特別の注意を払い、特別の計画を作りあげてもらうこと、管理すること、学校や社会の中で、より積極的で必要とされる方向で、障害者に対する態度を変えさせることであった。私たちは私たちの計画を、数年間継続する複雑な社会心理学的過程と考えている。

3. デンマーク

スウェーデンのように、デンマークは(1974年から)7歳~16歳の子どもに9年間の義務教育を行うことになっており、特殊教育の主な変化は、国の特殊教育の寄宿学校はあっても、地方教育委員会が特殊教育を行うべきだとされた点である。特殊教育の視学官は次のように述べている(Jorgensen,1970)。

 特殊教育の最も重要な事柄は、子どもが通常の学校教育を受けるための障害をできるだけとり除くことである。子どもたちの教育を受ける機会は、再編成されるべき順序に並べると次のようになる。

(ア) 特別の指導と適切な目的を有する普通学級に入る。

(イ) 普通学校の特殊学級に入る。必要があれば重度障害児のための初等教育センターの学級に入る。

(ウ) 特殊学校に入る。必要があれば特殊教育寄宿学校に入る。

 デンマークの特殊教育の目的は、このように障害児を一般の教育態勢に統合することにある。義務教育段階の調査によれば、全部で38万8千の生徒のうち388人が肢体不自由児であり、1000人に1人ということになる。これらの子どもたちは表2に示す配慮を受けていることになる。 

表2 デンマークにおける肢体不自由児の教育措置、1966年

教育措置

子どもの数

普 通 学 級 255 51.3
普通学級と補助教育 49
普通学校の特殊学級 88 16.5
ESN児の特殊学級 10 1.9
肢体不自由児の寄宿学校 150 28.1
家 庭 教 育 7 1.3
不      明 5 0.9
564

100.0

 デンマークの最も興味ある組織体は特殊教育センターの存在である。これは「教師と子どもが十分に統合されるように、学校の自然な一部として」設立し、「障害児のグループを小さいものとする」というもので、11~12か所のセンターが計画され、少なくとも5万人の学齢児のいる地域には作られるべきであるとされている。

 肢体不自由児の最初の特殊学級は1961年にHerningに設立され、これらのセンターのうちで最も古い。1968年までに、総数130人の子どものいるセンターに、20のこういう学級が作られた。この教育センターの学級に入学してくる子どもたちは、学校心理学者と、家庭、医療の専門家、子どもの地域の学校との討論を経てすいせんされる。

 肢体不自由児学級は、「脳性マヒ学級」と呼ばれる場合も多い。しかし他の障害をもつ子どもたちも在籍してはいる。この学級では、人数が6人を越えるべきでないこと、「教育は普通学級に子どもを移すことを目的とする」こと、もしできれば入級中も少しは普通学級で授業を受けることなどが推奨されている。この学級の教師は1年コースの特殊教育教員養成過程を経ていることが望ましく、一定期間の経験の後普通学級に移っていくよう勧められる。移った場合、彼らは特殊教育の管理補助員とみなされる。整形外科病院の医療相談員が常時相談員としてセンターに協力し、さらにセンターでは理学療法と言語治療が行われ、学校心理学者が評価と判別に携わり、熟練した障害種別ごとの教育顧問をおいて、特定の部分の責任をもつ。国の側にもそれぞれの障害について、計6人の相談員によって協力を受けながら管理する1人の特殊教育の視学官がいる。

○ 問題別計画

1 通学問題

 一般に、この3か国では、子どもが自宅で生活し、普通学校に通学できるように、高額の通学費用を用意している。最も悪い条件は、費用よりも距離というのがこれらの国々の実情である。

 タクシー通学がノルウェーとスウェーデンではよく用いられる手段であるが、特殊学級数が多いところにはスクールバスがある。ある地域では地方の地域社会が小型バスを所有し、必要な者はだれでも予約でき、障害児の通学に備えている。デンマークでは、大部分の特殊教育のセンターが何台かのスクールバスとタクシーの路線を計画運行している。

 普通学校の肢体不自由児は、必要があれば送迎される資格が与えられ、費用は家庭のある地域社会が負担する。費用が1人1日1.50ポンドを越える場合、国(2年をすぎると州)が地域社会に寄付するという形をとっている。

2 教育センター

 スウェーデンでは、1966年に計画作成委員会が「国全体にわたる教育活動のためのセンターが、いろいろの障害および年齢の障害児と専門家集団のいる特殊学校の近くに設置されなければならない」と勧告した。センターは以下の四つの主な仕事をすべきだとされている。

① いろいろな指導法の妥当性を検査、評価する。

② 普通学校と特殊学校の教師に役立つ指導法の公開のための設備を設立する。

③ 普通学校の子どもたちに指導法を応用する。

④ 新しい指導法を開発する。

 最初のこういうセンターはゲーテボルグ肢体不自由児の学校に設立された。所長は元特殊学校の校長である。前章の1で述べた活動のほかに、所長が学校訪問をして歩き、教室場面の子どもを観察し、学級担任、両親、理学療法士らと特殊な設備や備品などについて論じあう。そのため実際的な援助が速やかに用意できるようになっている。

 同様なセンターはデンマークにもある。前章の3で述べたほかに、センターは学校心理学者を通じて普通学校で障害児を指導する教師と連絡を保つことも行っている。また刊行部をもち教科書を多彩にする仕事もしている。閉回路テレビを含めた電気的な備品を管理する技官もいる。センターの支出は地域社会が負担するが、通常経費を大きく上まわるような場合は特別の補助が下付される。

3 介助

 スウェーデンでは、普通学校の障害児は自動的に介助を受けられるようになっている。自治体は子ども、両親、担任教師、学校心理学者などの要望があるような人を州から借りうける。そういう人を募集する方法は極めて多岐にわたっていて、終日介助する場合、子どもの日程表に合わせてパートとなる場合などで違ってくる。一般には、校長が担任教師や医師などとの話しあいの結果、どういう種類の介助者でどのぐらいの時間必要かを決める。また両親も介助者を選ぶ際に意見を述べることがたいせつであることが強調されている。

 スウェーデンでは、この件についての作業班が①指導の面の介助、②身辺の介助、の区別をしている。普通学級の障害児が各1人の介助者をもつ権利があり、8~10人の特殊学級の場合、学級で①と②の各1人ずつの介助者をもてる資格があるが、実際は②の面の常勤介助者のみをつける傾向がある。ノルウェーとデンマークでは、二つの学級で1人の介助者しかつけない場合もある。

4 教師への助言活動

 普通学級や特殊学級で障害児を指導する教師は特殊学校の教師以上に援助を求めている。3か国ともに、この面では国と地方レベルで助言や相談のための職員を増員する試みをしている。

 スウェーデンでは、地域のセンターが肢体不自由児のための常勤の相談員をおくべきだとされているが、実際はまだ3か所におかれているだけである。ストックホルムの場合、2人が肢体不自由児、読みの障害児、不適応児のための助言活動をしていて、相談員として半分の時間、残りの時間は特殊学級連合の長として勤務している。もう1人は残った地区の相談員となっている。地方では様子が異なり、マルモでは肢体不自由児学級の連合の長が、肢体不自由児のいる普通学校を週5時間訪問することになっており、他方で特殊教育のセンターの職員が、特別の時間のわり当てなしに、助言を求められてときどき呼び出される。ある所では、肢体不自由教育に経験のある就学前担当の教師が、巡回助言者としてあてられている。

5 学校診療所

 普通学校で学習に障害をもつ子どもは、学校診療所を利用できるようになっている。
 この学校診療所の典型的な例は、アルンダの学校のものであろう。ここは1~9学年制の800人の生徒のいる義務教育学校で、スウェーデンの中央部の村にある。1年生全員に、読み、書き、数の集団テストが行われ、行動問題もあわせて調べられる。その結果問題のある者はその問題の分析のため特別テストが行われる。校長と両親にこの問題が報告され、校医が意見を求められる。次に、診療所での週2~5時間の個人又は小グループ単位の授業を含めた、これらの子どもひとりひとりについての、特別の援助計画が、関係するすべての教師の会議によって決められる。たとえば、子どもが自分の得意な教科に自信を失わず、さらに自信を増すような指導を保障することによって、診療所に行って問題のある領域にとりくんでみたくなるという動機づけの配慮などが行われる。

 この診療所は校舎と分離して建てられ、事務室、テストルーム、二つの教室がある。さらに各障害による学習問題の改善のための機器が備えられている。この診療所の長は、この地区の特殊教育の指導助言者で非常勤である。代わりに経験のある教師が常勤している。

 診療所方式は小規模の学校でも採用されている。たとえば、1~6学年200人程度、通学圏が2~3マイル、職員10人ぐらいの学校で、1~3年には医療所方式がとられ、4~6年にはESN学級(イギリス式の学習遅滞児学級で原因によらず結果として学力の低い者の学級)が二つおかれている。この学校では、重度の両マヒ児が、読み、書き、数で週4時間診療所を利用している例がある。

6 巡回訓練士

 特殊学級には、理学療法の部門のある所が多いが、ないところもあり、ある地域では家庭で訓練を受けることが進み、理学療法士の巡回訓練が発達してきた。

 ストックホルムでは、障害児課の仕事の主なものとして、登録されているすべての子どもが、自由に理学療法が受けられるようにするというのがある。1968年に約1000人の障害児(者)が登録されていたが、655人がこの方式の理学療法を受けていた。この課では、理学療法士の長を任命し、この人が経験の少ない人に助言をし、また子どもの家庭を訪問する熟練者との交渉の責任をとる。課としても5人の巡回訓練士を雇っている。幼稚園教師もいっしょに家庭を訪問し、訓練士といっしょに遊具を選び手配などする。

 両親もこの制度を好んでいるようであり、アテトーゼの重度児で聴力損失もある子どもの親は、自分の子どもが難聴児学級に通学し、何の治療も効果がないので、週3回家庭に訓練士に来てもらっている。訓練士の方からも、家庭の実態を見、家庭の場面で、訓練ができ進歩の状況を評価できる利点が認められている。

 都市部では巡回訓練士は比較的設けやすいが、要望のより高いのは地方である。ジョンクポピング区では30万人が広い地域に分散しているような所であるが、そこでも普通学校の障害児数が増加しており、リハビリテーション診療所(地区全体の評価センター兼就学前障害児療育センター)が、巡回訓練の拡大を試みてきた。3人の常勤と1人の非常勤の理学療法士を雇い、センターから100マイルもある子どもたちにも訓練や助言を行っている。しかし、一般には家庭が私的に理学療法士と契約していて、センター職員の仕事は未熟な療法士への指導助言と、地方学校訪問などが主である。デンマークでは、理学療法士の数の不足と、その人たちの経験不足から、家庭で何らかの訓練ができるよう、理学療法士が母親を教育し、保健婦を増員して母親の指導助言に当たるという方向に力が注がれている。

7 両親に対する援助と助言の促進

 障害児が寄宿制の機関でなく、地域の学校に通学するようになれば、両親に対する援助や助言の必要が増加する。この問題についての対処のし方には、完全に異なった方法がストックホルムとデンマークでとられているので、両者を説明し、この問題を考える際の一助としたい。

(1) ストックホルムの障害児(者)部局によるもの

 ストックホルムでは1953年以来、市の児童福祉委員会が、以前のばらばらの活動を再編成するためセンターを設立した。現在21歳以下の約1,100人の障害児が登録され、約30%が7~11歳である。センターには5人のソーシャルワーカーがおり、4人が地区を分担している。障害児の四つの保育学校があり、三つがセンター外にある。教師と助教員に加え、2人の理学療法士がそこをベースにしている。常勤の心理学者と非常勤の言語訓練士、小児科医が加わり、教育措置のための判別を行う。現在、教師の現職教育も計画している。活動状況を知るため、事例を紹介してみる。

 現在7歳のアテトーゼの肢体不自由児で、2年間Peto法を修正した方法で訓練を受けてきた。この子は言語がなく、歩行できず、やっと座れる程度で、手もほとんどきかないぐらいである。しかし知的には高く、母親は将来普通学校へ行かせるつもりでいた。入学する前に、ソーシャルワーカーは学校に親子で何度か訪問するように準備し、校長と相談し常勤の介助者をつけるようにした。他方この子の理学療法士は担任の教師、センターの所長と学級経営や収容力、その他の特殊な援助について話しあうことになり、部局の心理学者が学校心理学者とテスト結果と予想される問題を論じあうことになった。ここに登場した人々はこの子の学校在学中、追跡的に親子を支えることになっている。

(2) デンマークの親子への援助の新しい形

 指導助言活動の全く異なった方法が、デンマークのリングコピング地区に現在確立されている。これはとくに保健婦と地域のチームによって、障害児とその家族に、改善されたより包括的な長期間の援助を与えることを目的にしている。

① 保健婦の役割

 家族に対する援助と、追跡的に障害児とその家族を把握するのが保健婦の重要な役割で、必要なときだけ他の専門家を要請する。この役割を担わされる理由は、彼女が医師とともに子どもを障害児として登録するかどうかを決める役にしばしばなること、母親が親しく接触する最初の専門家であること、母親が将来、健康、福祉、教育問題を扱うとき、中立的な第3者として信頼されること、医学的知識をもち、子どもの世話、学校生活の不安など、長期にわたる問題を母親と話しあう機会と時間をもちやすいこと、家族を他の専門家に紹介するための教育も受けていることなどである。さらに理学療法士の訓練計画の遂行のため母親を援助することもできる。彼女は子どもの就学前と学校生活を通じ、家族に長期的に援助できるのである。保健婦は、一部には事例研究などを含む現職教育により、さらに地域専門家チームの援助によりこの役割への期待にこたえている。

② 州のチーム

 州のチームの主な機能は、保健婦や地域の専門家で解決できない障害児とその家族のどんなにむずかしい問題をも、事例研究的に検討することである。チームは専門家の核ともいえる人たちを集めている。それは、医務技官、他の医療専門家、子どものかかりつけの医師、リハビリテーション診療所の代表者、法律家、主任学校心理学者、保育行政官、ソーシャルワーカー、保健婦、母親の援助会(Mother's Aid Association)の代表で構成されている。子どもの学校長や校医は必要に応じて呼び出される。州はそのチームに属するソーシャルワーカーと保健婦の分担区域により、三つに分けられている。チームは直接家族に接触する保健婦に強い支持を与えることが多い。そのことは、母親を特定の問題で援助すべきチームの会議でしばしば決められている。チームのもう一つの機能は、就学前学校を増設させたりする圧力団体としての機能であり、また情宣活動やこの分野での新しい発展をとり入れることに厳しい責任をとる。

○ 普通学校における特殊学級

 以下、3か国における普通学校の特殊学級について、現状と問題を述べるが、実例は普通学校の運動障害児と脳損傷児の学級のある12校からと、難聴児、言語障害児、精神薄弱児学級の各1学級、ESNスクールの3つの脳損傷児学級からとったものである。

1 特殊学級の現状

(1) 一般的なしくみ

 3か国の特殊学級の現状は、以下に列挙する諸点に要約できる。

 ① 特殊学級のおかれている学校は、デンマークの1~10学年を有する1,000人以上の生徒の学校から、中部スウェーデンの200人ほどの小規模校におよぶ。

 ② 1校内の特殊学級数は6学級(生徒数38人)から1学級(6人)といろいろで、小さいものは重度脳性マヒ児の4人の学級で、ふつうこれらの学級の生徒数は6~8人である。

 ③ 学級内の子どもの障害は大部分中・重度脳性マヒ児であるが、脊椎破裂や筋ジストロフィー児もわずかにいる。

 ④ 学級の呼称は“help”学級、“CP”学級というものだったり、単に数字や文字で示したりいろいろである。

 ⑤ 年齢範囲はいろいろだが、1学年のみは入門期として別グループにしているところが圧倒的に多い。

(2) 設備

 ① 特殊学級を数多く備えている学校は、普通学校であっても小さい特殊学校をかかえているような設計が多くみられる。スロープ、幅広いドアや廊下、特別の便所、必要があればエレベーターを備えている。教室も目的別に作られていて、便所が隣にあり、理学療法室、言語治療室、肢体不自由児と普通児の両方が利用する保健室、さらに木工室、金属加工室、家庭科室などもある。遊戯室もあるが、通常は自治体にも開放している。

 ② スウェーデンのある大きな学校の三つの特殊学級は、現在普通学校に隣接する小規模の特殊学校として移転することになっている。新しい校舎にはエレベーターが設けられ、1階に肢体不自由児用の教室が作られている。特殊学校の子どもたちが、他の階の教室や図書館に行っている間に、普通校の子どもたちが言語訓練室や、木工室、金属加工室、保健室などを利用する。共同の職員室が2階におかれる。この地区の特殊学校の指導原理は、肢体不自由児と普通児とをできるだけ接触させることにある。

 ③  デンマークでも同じ原理が大きい学校に適用された。その学校は特殊教育のセンター内にあり、1~10学年約2,000人規模の学校で、5学級以上の特殊学級を合併する予定である。ここでは、中央部から四方に広がるような建物を有し、この四方につき出た建物に特殊学級を含むすべての学級がそれぞれ設置されている。さらに、遊戯室、休けい室などの肢体不自由児用の部屋が設けられていて、特殊学級も含め、それらの部屋には便所が設けられる予定である。中央部には、特別療法室やプール、さらにプールのそばに水治訓練のための小プールが作られる。ここにエレベーターを設けることになっている。

(3) 備品

 一般に、特殊学級には、特別製作の備品や最新の教材が十分に備えられている。職員はこれらの備品について容易に助言を得ることができるようになっている。とくにスウェーデンでは次のように言えるであろう。つまり、特殊学級において障害児に役に立つ教育は、少なくとも特殊学校における教育と同じぐらい包括的で進んでいるものである。

(4) 職員

 スウェーデンでは、特殊学級には一般的に十分な職員がおかれているといってよい。たとえば、ストックホルムのある学校では、6人の教師が五つの特殊学級を担当している。それぞれの学級に2人の補助がついている。この学校には2人の理学療法士がおり、1人の常勤、1人の非常勤、計2人ずつの作業療法士と言語訓練士がいる。一般には特殊学級には1人ずつの補助がつき、その補助教員は普通学級の障害児のためにも時間をさいて出向く場合もある。

 正規の学校職員の中で、スウェーデンに特有なものは、school hostessの職で、その仕事は年少の子どもをくつろいだ気分にさせ、細かいことを手伝い、子どもが助力を求めうる教師以外の職員といえる。すべてにおかれているわけではないが、肢体不自由児学級で、彼女らの存在が大いに役に立つといわれている。

 スウェーデンにおいては、訓練を受けた教師と非医療職の不足があり、とり残された感のある特殊学校が助言活動の方に力を入れはじめている。特殊学級の教師の間には、特殊学校に在学する子どもが減少するにつれ、特殊学校の経験のある教師に対し、助言を求める機運が高まり、特殊学校の教師には巡回相談員(travelling consultant)としての役割が期待されている。

(5) 特殊学級と普通学級の教師の関係

 校長の大部分が特殊学級に非常に熱心で、またその教育活動にも関心が高いが、一方で特殊学級の教師の自由な活動を見守ってきたという一般的な事情から、よい職員関係の条件として以下のことが考えられている。

① 必ずしも経験がなくともよいが、肢体不自由教育に関心の高い校長であること。

② 職員室は特殊学級と普通学級担当者の共用であること。

③ 特殊学級担当者が普通学級担当者に、自分のやっていることをすすんで知らせること。

④ 両方の担当者が相互のり入れできる時間表を作り、それができる職員数の比率であること。

普通児が特殊学級の教師を知り、自分たちの担任が特殊学級で教えていることを知れば、子どもたちは障害児を対等な存在として受け入れるものと考えられている。

(6) 子どもどうしの統合

 肢体不自由児が普通児といっしょにすごす時間の量、質ともに重要である。これは特殊学級の教師が、この目的がどうすれば具体的に達成できるかを考える度合いによる。ある学校ではコの字型のつき出た部分に特殊学級があるにもかかわらず、4学級の30人の子どものうち、40%は昨年中に普通学級に参加していた。普通学級からも、休けい時間などに遊具を利用しに来ていた。上級学年になるといくつかの教科の授業を受けに、普通学級に出向くのは通常のことである。年齢で参加させることを考えるよりも、肢体不自由児の何らかのすぐれていることで参加させる方がたいせつである。失敗する例は、何の準備もなしに普通学級に終日座らせたりする場合に多い。

 教室場面以外にも、遊び場であるいは食事時に統合は起こる。この統合の度合いの一つは、障害児が遊び場や、重度障害児のための居間で、遊びの仲間に加えられているかどうかの程度にあるようだ。いくつかの学校では、休けい時間に普通児が障害児を遊び場につれ出しに出かける。このことは、特殊学級担当者が障害児を普通学級の子どもと担当者に知らせるために、困難を除いてきたその努力を反映している。

(7) 生徒、教師、両親に障害児を知らせる活動

 この3か国では、実際行われている以上の啓蒙活動の必要性が認識されている。健康な人の障害児についての認識が、かなりの程度まで障害児の教科学習の成功や社会的適応に影響を及ぼしてきた。普通学級における注意深い準備が、障害児をからかうこと、社会的孤立を少なくすることに大いに貢献することがわかっている。しかし、この重要な領域での研究は少ないため、以下、例をかかげることにする。

① 子どもたちへの啓蒙

 中部スウェーデンのある町のすべての学校で、脳性マヒということばが嘲笑に用いられていた。脳性マヒ児学級のある教師が、医学的な説明の簡単なフィルムと、脳性マヒ児の動作を説明するテープとを、すべての学校に送り、それによってこれまでの子どもたちの態度が変わったと報告している。

 もう一つのよくみられる例は、肢体不自由児、難聴、言語障害のどの学級でも、子どもたちの補助具を普通学級にもっていって、その補助具がどのように障害児を助けるかを説明する。あるいは訓練場面を見せて説明する。この方が、普通児に特殊学級の子どもに話しかけるよう説きつけるよりも、より効果的であるといわれている。

 3人のスウェーデンの教師の研究では、対象が少なかったので統計的に処理できなかったが、結論として、普通児は前もって準備されないと、障害児を受け入れることはひどく困難であるとしている。

② 両親への啓蒙

 普通児の両親への啓蒙は、社会教育的にも、自分の子どもに正しい態度を形成するためにも重要であるといわれている。

 ある学校では、校長が新入生の親に対し、校舎を案内しながら、障害児のための設備や備品を説明し、その結果、自然な方法で特殊学級についての理解を得ている。別の例では特殊学校や病院の専門家が、両親の会合で説明のため招かれている。

③ 教師の啓蒙

 小児科医が学校に出向いて話す場合、特殊学校教師が出向く場合、スウェーデンの中央教育委員会のように、大部分の学校に小冊子を配り、学級の障害児にどのように援助するかを啓蒙している場合など、多くの方法が用いられている。とくにスウェーデンでは、障害児父母の会(Association of Parents of Handicapped Children)に支えられているせいもあるが、普通学校や学級に障害児を入れる方向に、教師が積極的な姿勢をもつことを奨励する世間の風潮ができてきている。

2 特殊学級の主な問題

 特殊学級が、従来特殊学校が果たしてきた役割を代わって担うようになるにつれて、二つの問題が生じてくるように思われる。

 第1点は、通学上の問題である。特殊学校の場合には、遠隔地に家庭のある子どもは寄宿舎に住む態勢をとっていた。しかし特殊学級を主たる肢体不自由教育の担い手とする目的には、家庭、地域社会、普通学校に障害児を適応させるということが主な地位を占めているため、家庭から通学することが原則となる。そこで、子どもたちには30分から1時間ぐらいかけて通学しなければならない者もでてきた。

 たとえば、ストックホルムの場合、中学年段階の特殊学級は市の南部に一つあるだけだが、市の北部郊外から通学している子どもは2時間もかかる。その結果、子どもが疲労すること、自分の家の近所の子どもたちを知らないし、放課後友だちの所に遊びに行く時間がとれない、タクシー利用が増加したため、地域社会や自治体の経費の負担が大きいという3点の問題をひき起こしている。この問題は特殊学級制度を維持発展させる限り、減少させることはできてもなくすことはできない問題であろう。

 第2点として、多くの特殊学級の担当教師が、特殊教育の専門教育を受けていないか、あるいは不十分にしか受けていないことがあげられる。3か国とも、特殊学級が3学級あれば、その担当教師のうち1人ぐらいしか適切な教育を受けていないといってよい。この解決のため、特殊学級担当教師への助言活動がすすめられているが、特殊学校のある年輩の教師は、障害児に関係する全国の教師から、日に2~3回電話がくるということであった。そのため、特殊学校や特殊学級の経験の豊富な教師に、助言活動のため普通学校を訪問する時間を大幅に与えることが望まれている。

3 学校における「普通教育」の側との関係

(1) 子どもどうしの関係

 極端な場合、特殊学級とはいっても、子どもたちは普通児とは異なった時間から始まり、入口が別で、食堂も別、教室も離れているため、普通児とまじわる機会が全くないというものもあった。このような場合は、管理上の配置と、障害児と普通児の垣根を越えて同じ学校で教育するという二つの面で失敗している。

 しかし、一般には、最も受け入れ状態の悪いのは、精神薄弱と運動機能障害を併せもつ脳損傷児の場合であるが、大部分の肢体不自由児に関しては、社会的に孤立する例はほとんどないように思われる。とくにこれら3か国では、障害児の問題について、よく知られているという理由にもよる。

(2) 特殊教育と普通教育の担当教師の関係

 ある学校では、特殊学級と普通学級の担当教師どうしの関係がうまくいかないので、特殊学級に学校としての地位を与えたという例や、普通学級の教師が障害児の受け入れをきらった例など、いくつかのうまくいかない例がある。教師間の問題が生じないためには、教員室を別にし互いに互いの子どもたちに関与しないことであるが、それでは特殊学級を設けた意味がない。問題を生ずる原因は、特殊学級の校内での不適当な場所、特殊学級の教師のやろうとしていることを、普通学級の教師がよく知らないこと、特殊学級の教師が、一見特権的地位にいるように感じられること(わずかに労働時間が短いこと、少人数の学級の担当であること、設備や備品が容易に入手できること)などが結びついたものと考えられる。こういう誤解などに基づく原因を考慮すれば、解決の方向は明らかとなってくる。

4 普通学級における障害児
―事例から―

 かなり重度な障害児であっても、その統合は、適切に準備されれば成功するものと思われる。以下事例を通じて、このことを示してみたい。

(1) 事例1、Bengt(男、脳性マヒ、運動機能障害、重度)

 この11歳のアテトーゼ型の少年は、今は十分普通学級に統合されている。その学校には1~6年までの子どもがおり、また脳性マヒ児のための四つの特殊学級がある。彼は極端に姿勢の安定性がなく、介助なしでは歩行ができない。腕と顔の筋に著しい不随意運動があり、彼の話は、はじめて会う人にはほとんど理解できない。しかし、知的な反応は正常範囲に入る。

 入学以来、4年間特殊学級に在籍した後、普通学級に移され、その学級が体育のときだけ機能訓練を受けに特殊学級に戻る。彼には、特製の机と補助具、授業と休み時間に介助してくれる介助員が与えられている。休み時間は特殊学級ですごす。級友たちが休み時間に彼の世話をするが、介助者が背後に控えていてくれることを少年が望んでいると、介助者は感じている。

 最初、彼は普通学級を疲れる所だと感じていたが、現在それは問題ではなくなっている。学力が学級のトップクラスであることもあり、重度障害や異常な運動と外見にもかかわらず、学級に受け入れられているだけでなく、大変人気があるという事実も目立ってきた。

 普通学級への入級の際は、注意深く準備がすすめられた。この問題に関する二つの学級の担任の間で、徹底的に話しあわれた。普通学級の担任の方は、はじめ不安であったが、今では自信にあふれている。次に、本人自身が賛成したのち、特殊学級担任は新しい学級の説明をし、彼と父親が外で待っている間、普通学級担任が彼の障害を学級の子どもたちに説明した。介助者を彼に紹介し、介助者の質問を求めた。教室では、歓迎されていると感じられるふんい気が作られ、結果として障害児をばかにするというような問題は起きなかった。

(2) 事例2、Michael(男、脳性マヒ、運動機能障害、重度)

 彼は、知能は高いが重度身体障害者である。手はほとんど動かせず、衣服の着脱や食事が独力ではできない。独歩できるが、のろく不安定である。4歳でアメリカの幼稚園に入り、5歳でスウェーデンに戻った。地域の小学校長は彼の入学を拒否し、結局肢体不自由特殊学校の数少ない通学児の1人として入学を許可された。

 この学校では、彼は服を破かれたり、顔にばんそうこうをつけたり、ひっかき傷をつけたりして帰ってくるし、夜うなされたり、また学校の話はけっしてしないという子どもになった。後に、過活動の子どもが彼をあざけり、精神薄弱児が彼をなぐったりすることが判明した。そこで普通学級に移ることが決められ、その後母親は以前の問題が全くなくなったと報告している。彼自身も、普通学校でばかにされることはないかという質問に「ない、どうして彼らはそんなことをしなければならないの?」と答えた。また母親は、学校の種類による功罪を指摘するに至っている。

 Michaelは義務教育の最後の2年間を普通学級ですごす結果になった。そして現在、タクシーで地方高等学校に通っている。彼が普通学級に移ったころは、週に35時間介助者がついていたが、その後25時間に削減され、担任とMichaelは介助者がなくてもやっていけるという結論に達した。設備の方は、特製の机とテープレコーダー、さらに試験のときに音がもれない小部屋を教室の中に作ってもらった。宿題は特製のタイプライターを用いて行い、授業中筆記を要することは、学校の秘書が応援に来るが、たいてい級友がカーボン紙を用いて作ってくれた。介助者が不要であることを決めるのは級友たちであった。学校看護婦が用便介助をしている間に、級友が昼食の用意をし、食事の介助もするのである。

 高等学校に入ると、彼のために作られたエレベーターがあり、不安は全くなかったようである。通学する前に、母親はすべての職員に会い、統合教育の問題について話しあった。さらにその後、起こる可能性のある問題について、教科の先生とつぎつぎに話しあった。

 これらの事例は、数多く報告されており、重度の障害児も、学業、社会両面で、多くの異なった種類の普通学級で成功できる証拠を提出してくれる。しかし、極めて注意深い計画と、すぐれた知識をもった職員たちの十分に体系化された働きを必要とする。ある子どもたち、とくに脳性マヒ児にとっては、最初の段階では特殊学級に入れることが欠くことのできない条件といってよい。

参考文献 略

*秋田大学教育学部講師。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年10月(第15号)25頁~36頁

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