言語機能とその検査について

言語機能とその検査について

木村滋*

まえがき

 脳性マヒ児、精神薄弱児ともに言語問題がクローズアップされるようになってきた。この分野は関係者の努力に比して、なかなかみるべき成果があがっていないと言ってよいかと思われる。
 そこで、中枢神経系にかかわる言語の機能についての基礎理論と、言語障害の解釈に立脚した検査について整理した文献を紹介する必要があると考えた。
 文末に提示した文献の関連部分について、言語機能という概念を追求したいという訳者のねらいを含めて再編したものである。日夜言語問題にとりくんでいる方々の直面する課題と関連させて参考にされることを希望する。

 伝達のための言語や記号体系を子どもが使いこなす度合いを我々は評価することができる。ここでは、そうした評価の原則や手順について考えてみたい。そして特別な障害をもつ者の知能や性格の心理学的な測定に関する文献は数が多いので、深く立ち入らないが(Burgemeister, 1962.Taylor, 1961など)、言語測定や、言語記号の理解とその公式化およびその使用能力の評価の手順はどの程度まで進みつつあるかをさぐってみたい。

 言語機能を考えるとき、これまでの理論を参考にすることが有益と思われるので、それをさがしてみると理論の根底を示すモデルがある。これにはオズグッド(C.E.Osgood & M.S.Miron(eds.)、1963)とウェップマン、ジョーンズ、ボック、ヴァン・ペルト(Wepman, Jones, Bock and Van Pelt, 1960)などがあり、彼らは言語機能の過程を図式化し、それを言語機能の一般的概念として展開している。この図式化は言語評価や記号使用上の損傷、その治療と指導計画の枠組を提供するのに有効なものと思われる。ここではこれらのモデルを最初に、次には複合モデルをとり上げてみよう。

1.オズグッドのモデル

 オズグッドの図式は言語の媒介・統合モデルであり、主に表面化しない刺激が作り出す反応をとり上げ、目に見える刺激と反応の間に、目に見えない刺激が作り出す反応が介在するという考え方から成り立っている。それは一般にはS-r-s-Rの二段階をもつ形で表される。つまり、rは表面に表れない反応であり、表示の過程(図1参照)である。それはその人自身にとってはS(表面に表れる刺激)のもつ意味として役立つものである。Sは表面に表れたR(反応)と結びついた自己刺激である。図1は言語行動の中の二つの次元、すなわち言語過程とレベルを示している。

図1.オズグッドの言語行動のモデル

図1.オズグッドの言語行動のモデル

 言語過程:これは復号化(記号解読)と連合および記号化のモデルの第一の次元であり、復号化は言語の知覚であり、記号化は考え方を表現するために言語を使用することであり、連合は表示のレベルで介入してくる過程であり、復号化に伴う表現行為の結果としてのもう一つの過程である。

 レベルの構成:
図1のモデルの中の二番目の次元。人間の神経組織を三つのレベルに分け、そのうちのいずれかの一つの媒介する過程を示す。最下位の投射のレベルは、感覚器と筋肉の変化が神経組織の「網の目」を経由して脳に結びつける段階を示す。たとえば、口の中に粉末の食べものを入れる→つばが出る→飲みこむ、という一連の反応を引き出すことである。

 図1の真ん中は統合レベルで、神経系統の中で一定の事象が起こり、そして消えていく一つの関係のことである。たとえば、人が話をするときに唇や舌や喉頭、横隔膜がひとりでに反応を起こして動くことがあるし、頭と目が一つの物体に集中するのであるが、これは言語に対してはこのレベルではこのようなかかわり方をするという例である。

 統合は外的な事象あるいは反応と思われる事象が、想起によって比較的長くしばしば起こるときに成り立つ。この場合、一たび中心的な統合の型が生ずれば、それは大変強烈で完全なものとなる。これは閉鎖的な機能であって、たとえば、よく見慣れた物の姿や形の一部を完全に、そしてほぼ自動的に再認することである。外的な事象というのは、別の事柄と共に起こったり、比較的長い時間帯で起こることは少ないので、中心的なパターンは「まとまり」(set)の形をとり、想起というよりもむしろ予測といえそうである。ことばの文法のように体系的な面は、一面では予測的な機構に依存しているらしい。「少年は……の方へ走って行った」という文では、点線の部分に「丘」という語を予測できる。だからその場合の統合は想起であろう。しかし「丘」でなくとも「通り」や「谷」とか、ほかの知っている語でも正しいわけである。それで中心的なパターンは単に予測といえるだろう。

 三番目の表示的、認知的レベルでは、意味に関する概念ができあがる。すべて意味のある言語活動は相当程度まで認知に依存しており、この表示のレベルでの活動の一例は概念形成である。

2.ウェップマンの失語症のモデル

 ウェップマンと彼の同僚たち(1960)は中枢神経の内部の働きのレベルを設定して図式化している。オズグッドとは反対に、内的および外的なフィードバック、伝送の経路を考慮に入れている。彼は反射、知覚の概念の三つのレベルを設定している。反射のレベルはオズグッドの投射レベルに類似しており、基本となる感覚運動反応を媒介する。膝頭の反射や、反射的な目のまばたきはその例である。知覚のレベルは反響的な、模倣的な、そしてもともと意味の無い言語活動を媒介する。シンボル活動の最高度のもの─概念形成─はオズグッドのモデルの表示レベルと同じである。

 言語機能の過程:伝送および統合の過程のことである。伝送は受容→表示、別のいい方では復号化→記号化のパターンで、そのプロセスは、たとえば、目から入った文字は口から音声となって出ていくもの、耳から入った音声は口から音声となって出ていくとういうように、視覚─口頭、聴覚─口頭のように対応している。ウェップマンは、こうした対応は反射のレベルおよび知覚のレベルでのみ働くとしており、中枢神経の中を通って記憶庫には何らかの痕跡を残すけれども、その人にとっては意味をもたない機能とみなしている(1960 P.327)。概念のレベルは、入力刺激は、記憶庫と統合のプロセスにかかわりがあり、そのかかわり方以上の理解などへの引き金となる。彼によれば、我々のいろいろな感覚に対応する言語障害を失語症とよび、失語症は、「刺激が入力としての感覚がなくなった後で統合プロセスが分裂したもの」と述べている(P.328)。


図2.ウェップマンの中枢神経系の機能レベルの模式図
図2.ウェップマンの中枢神経系の機能レベルの模式図
 

 第二番目の言語過程である統合は、多分記憶の痕跡が中枢神経系の内部に残らない場合の反射を除けば、独立した自発的な刺激-反応(オペラント)といえる。受容(入力)刺激は中枢神経系を経て運動反応へという過程をもつが、知覚のレベルでは受容された信号はそれなりの出力のパターンに直し、それを以前に学習したパターンの解読と記号化に役立てる。また、概念レベルでは統合過程が最も重要な役割をはたし、受容された刺激は過去の連合と結合し、その刺激に意味を与える。

 記憶庫:知覚したものが中枢神経系を横切り、刺激痕跡となって蓄えられ、概念化のレベルでの連合も蓄える構造である。知覚と概念の二つのレベルでの痕跡はより高い方のレベルでは有意、低いレベルでは無意味という差異がある。図2に示しているように記憶庫は知覚と概念化のレベルのあらゆる場所と連絡している。記憶庫と失語症についていうならば、ウェップマンはすべての失語症とは以前に学習したことばの組み立て方の能力がなくなっているのがその症状の特徴であり、一つの記憶欠損であるとしている(1960)。

 フィードバック:内的および外的なフィードバックがあり、前者は行動が表現されないうちに、その行動は修正され、抑制され、除去されること、後者は反応がその人自身や他人の反応を見て受け入れた情報によって抑制され訂正されることである。

3.複合言語モデル

 オズグッドとウェップマンの二つのモデルは多くの点で類似しており、その違いは用語にあるようである。しかし、前者は正常な言語機能を扱い、後者は失語症に言及している。図式に表れた違いは主として後者の記憶庫、フィードバック、入力と出力などである。一見すると、後者のモデルは学習障害児の評価と治療に有効のように思われるが、もう少し検討を要するのである。これは失語症ではないが聴覚失認症(基本的な音声の認識はできないがシンボル機能はある症状)の場合、つまり外傷性の失語症(言語発達完了以後に外傷により生じた失語症)にあてはまる。しかし、もっとひどい聴覚受容の問題児には不適である。すなわち、聴覚記号の知覚が不能な子どもは、ことばの概念形成もできないし、音声言語表現もできない。また、これらの二つのモデルは言語発達の途中にある子どもにとって適切であるかというと、そうではないという臨床経験者や治療に当たる障害児担当の教師が多い。それは言語の記憶やフィードバックの説明が不十分であったり、完全に無視されたり、よくても単なる示唆程度の説明しかないからである。

図3.複合モデル

図3.複合モデル



 我々が当面関心があるのは学習の「発達上の障害」であるから、それにふさわしいモデルを用いればよい。厳密に発達のみのモデルを使うわけにもいかない。だから、正常な言語機能の最も重要な相がわかり、同時に各種の機能障害がみられるような図式を求めればよい。図3はこれを満たす複合モデルである。このモデルは前記の二つのモデルのいくつかの特徴的な部分を組み込んだものだが、(1)言語過程、(2)言語機能のレベル、(3)記憶、(4)フィードバック、(5)伝達の経路の五つの次元をもっている。

 言語過程:復号化-連合-記号化のプロセス。有意でも無意味でも刺激が言語の働きにとって必要ならば、復号化はそうした刺激を受容し、知覚することである。連合とは、そのような刺激が有意か否かを判断し、操作する能力である。有意の連合能力には、類推、類似、弁別という活動が必要となる。無意味な連合は、たとえば本を読んでいても、ただ文字を読んでいるだけで、意味がわからない場合にみられる。意味もなく、視覚記号と聴覚記号を連合させているにすぎない。記号化というのは音声言語による会話のように意味のあるものであろうと、無意味の音の連続であろうと、ただ言語記号に表すことである。

 言語機能のレベル:人間が言語を用いる際の投射、統合、表示という機能を述べたもの。投射は反射のレベル。統合とは言語記号の連続体を保持し、自動的習慣の連鎖を作ること、および模倣の介在がある。喃語期にあって、オウム返しに発する子どもの音声に何の意味もない段階から、統合能力は活動し始める。一般に系列的な言語行動という場合、それには無意味な音声や動作、さらには複雑な文、語の連続の受容や表現も含まれる。表示とは言語機能が最高に組織化された段階である。そこには聴覚的記号、視覚的記号、あるいは他の記号の意味を必要とする活動がみられる。人が一つの出来事にその人なりの方法で反応しているのは、つまりは表示の段階で活動しているのである。

 記憶:模倣と記憶は、言語の記述でよりも、学習上の障害の説明上ぜひ必要なものとしている。

 フィードバック:内的フィードバックは人がある出来事に対して反応するが、その反応があらわになる以前に、それなりの反応パターンができている。この反応パターンの一部が、比較の結果あるいは訂正のためフィードバックされることをいう。外的フィードバックは自分の反応を見たり、聴いたり、感じたりすること、つまり視覚、聴覚、筋肉運動の知覚や触覚を通じてなされるフィードバックである。あらわな反応にかかわりのある体系に戻ってくる情報に誤りがあるときに、その反応は訂正される。内的というのは行動に表れない反応によるという意味であり、外的というのは行動に表れた反応に関するという意味である。

 フィードバックは出力情報の逆流とその情報の点検、精査を伴う。十分な点検とは単に聞くより心を入れて聴くとか、単に見るよりも熟視することが要求される。また、子どもが一つ一つの語に慣れているのに読み方が誤っており、それを顧みないとき、それはつたないフィードバックといえる。このようなときは、自己の反応の検査とか誤りに気づくということもない。この治療には、自分の発する語に心を入れて聴くという「能動的」精査の訓練が必要である。

 伝達の経路:言語刺激→感覚運動の経路のことで、成人の失語症の場合、ウェップマンによれば、四つの非概念的要素がある。(1)朗読の能力、(2)聴覚受容後にそれを書く能力、(3)聴覚刺激をくり返す能力、(4)印刷物の書写能力がそれである。伝達の経路は、たとえば耳→口、耳→運動、耳→口、目→運動、皮膚(触覚)→運動など数多くある。カークとマッカーシー(1961)によると、臨床家や教師に最も興味のある入力-出力(受容-生出)の様式は耳→口、目→筋肉の経路である。

 複合モデルの実例

 一人の人間が観察した物の名前を書くとか、口で言ってみなさいといわれた語を模倣するとき、このモデルに即して考えるとどうなるかを見てみよう。リンゴそのものが与える視覚的(目への)刺激に対して「リンゴ」と書く反応をみると、図4にみられるように、リンゴ自体は神経系に関係ない(非神経系の)事象で人間にとっては外的に存在する物である。リンゴそのものから物理的刺激は光線の反射の形で受容される。だから、投射のレベルでは「感覚信号」といわれる。その感覚信号は記憶庫にある過去の経験の中の類似のものと連合し、その両方とも統合レベルに起こるすべての感覚の興奮の中に統合される。その感覚興奮はその人が沢山のリンゴを見た後でつくられた一つのパターンを形づくると思われる。目の前にあるリンゴの様子は過去に見たリンゴのすべてに連合するのである。これらの感覚的な対応物はそのリンゴによって直接にかつ確実に活性を帯びてくる。

図4.リンゴの様子を見て「リンゴ」という語を書く反応

図4.リンゴの様子を見て「リンゴ」という語を書く反応

 表示のレベルでは、その人は「リンゴ」の意味に感覚的に統合する(反応する)。そして、リンゴの意味(概念)は以前に学習した運動の統合から出る自己刺激に対して反応する。「リンゴ」そのもの(すなわち記号対象または意義体)の理解というのは、その感覚刺激に対する内的反応であり、リンゴという意味が復号(解読)される点である。この内的反応(これはrmとする)は記号化第一段階、すなわち自己刺激(これはsmとする)を生じさせるのである。

 自己刺激は(記号化のプロセスを通じて)統合のレベルでは記憶庫の中に運動の対応物を誘発させ、その対応物は書くことにつながる条件反射に連合している。「リンゴ」という文字を書こうとすると、書くこととかみ合っている自動的な一連の運動要素を引き出す。そして、こうした運動の要素は繰り返し学習されたものであるし、それらを媒介している統合は予測的であり、想起的なものである。書くという反射は図4では投射のレベルにあり、事実、書くという活動もこの点でなされる。書くという活動の結果、紙の上に-「リンゴ」-という文字があり、これ自体非神経系の事象である。

 統合と表示の両レベルでは、記号化の結果(図5のrとsm)の一部は必要な場合は修正や訂正のためにその系の中をフィードバックする。外的フィードバックは書いた文字を検査し、誤りを訂正したときに起こる。

 複合モデルのもう一つの例を図5を用いて上げてみる。それは、ある人がもう一人のいう語を模倣する際に起こる活動である。模倣の反応は意味のない単なるオウム返しとみなされるので、非神経系の刺激は語や音節である。それは音波の形で耳に達する。これは投射のレベルであり、それは統合のレベルで解釈される。その音波の形の感覚刺激が(意味がなくとも)なじみ深いものであると、その解釈は可能である。感覚信号と連合した感覚的反応物は運動へつながる自動的な、連続的な模倣のパターンを引き出すのに役立つのである。運動そのものは、この場合は発声であるが投射のレベルで起こる。発声の結果は語であり、音節である。話しことばはつかの間のものであり、書きことばのように一定の空間を占めるものではないが、ひとたび発せられると、それはやはり非神経系の事象である。前例のようにフィードバックは統合と非神経のレベルで起こるのである。

図5.模倣反応

図5.模倣反応

 

 次に以上のようなモデルは、学習上の障害をもつ者に関しては、どんな形で利用されてきたかをみてみよう。その一つに検査(評価)がある。表1は言語の組織のレベルと伝達の経路の具体的な面をとり上げた例であり、これまでの説明の不十分な点を補うものとして役に立つと思われる。表1の各項目は種々の検査でも使用されたものであり、これからも検査のために供されるものであろう。

 同種の検査用の分析はミロン(Osgood & Miron, 1964)も行っている。ミロンは成人の失語症の検査項目の分類の基準にオズグッドの言語機能に関するモデルだけを用いている。ミロンと表1の大きな違いは、表1には言語過程の項目がないことである。言語過程の項目を除いたのは実用的見地からであり、治療という点では言語過程よりも言語のレベルと伝達経路の方がより重要だからである。表1の項目には、最初に調音があるが、これは聴覚および視覚入力→音声出力となる伝達の経路をもった言語の統合レベルの能力をみるのによい。また、3のaの聴覚受容は聴覚経路のみに用い、4のeは聴覚と音声の経路を要するものであり、17のaは目と手の反応をみるものである。

 いずれにしても表1と図3(複合モデル)は教育的観点から引き出された評価に供するものである。その二つを比較すると理論的な枠組がより明確になるだろう。

表1 心理言語的な検査の分析

テスト項目

レベルa)

経路b)

1.調音テスト

 a模倣

聴覚/音声d)

 b絵や文によるテスト

(視覚)音声c)

2.周辺的言語機構 (運動能力)テスト

 a自発的運動 運動
 b刺激受容後 触覚/運動

3.心理言語的能力のイリノイ・テスト(改訂版)

 a聴覚受容 聴覚
 b視覚受容 視覚
 c聴覚連合 聴覚/音声
 d視覚連合 視覚
 e言語表現 音声
 f手による表現 運動
 g視覚による系列記憶 視覚
 h聴覚による系列記憶 聴覚/音声
 i文法的区分 ⅠP 聴覚/音声
 j聴覚的区分 ⅠF 聴覚/音声
 k視覚的区分 視覚
 l音の混合 ⅠE 聴覚/音声
4.ヒューストンの言語発達テスト・第二部
 a自己確認(self identity) 聴覚/音声
 b語い 音声
 c身体の部分 聴覚
聴覚/音声
 d身振り 聴覚/運動
 e聴覚判断 聴覚/音声
 f伝達的行動 音声
 g時間的内容 ⅠP 音声
 h統語上の複雑さ ⅠP 音声
 i文の長さ 音声
 j陳述 聴覚
 k連続的に数を数える ⅠE 音声
 l物の数を数える (視覚) 音声
 m繰り返し:言語パターン 聴覚/音声
 n繰り返し:旋律パターン 聴覚/音声
 o幾何学的模様 視覚/運動
 p線画をかく 運動
 q話をしながら線画をかく 音声
 r線画についての話をする 音声
5.話しことばの発達:両親の報告のみ
6.言語音の識別テスト
 aウェップマン 聴覚
 bテンプリン(Templin) 聴覚
 c絵画テスト 聴覚(視覚)c)
7.絵画、語いテスト 聴覚(視覚)
8.絵物語による言語テスト
 a生産的スケール 運動
 b統語的スケール ⅠP 運動
 c抽象-具体のスケール 運動
9.朗読レベルのテスト 視覚(音声)d)
10.朗読理解テスト 視覚/音声
11.黙読テスト 視覚(聴覚)
12.聴き方テスト

聴覚
13.スペリング・テスト
 a口頭によるスペリング ⅠP (聴覚)音声
 b綴りを書くこと ⅠP 視覚/運動
14.算数計算テスト
 a口頭による暗算 R(Ⅰ) 聴覚/音声
 bペーパーテスト R(Ⅰ) 視覚/運動
15.Bender・ゲシュタルト・テスト 視覚/運動
16.Benton視覚保持テスト 視覚/運動
17.Frostigテスト
 a目─手の対応 (視覚)運動
 b図─地 視覚(運動)
 c形の恒常 視覚
 d空間における位置 視覚
 e空間関係 視覚

レベルa):

R=表示 I=統合 IP=生産的統合  IE=想起的統合 II=模倣的統合

経路b):

聴覚=聴覚器 運動=運動器官 触覚=触感覚 音声=音声器官

( )c)=レベルや経路の中の二次的重要性

/d)=各経路の中で同等に重視するもの

 以上は心理言語的な分析を複合モデルに対応した形で述べた例であるが、この分析は学習上の問題の治療に適した言語ならびに非言語的な諸能力に関する広範囲な、しかも多量の情報を得ることを目的としている。この種の理論的モデルに関連づけをして、たとえば言語の投射レベルと復号過程では感覚器の鋭敏さの減退の問題を扱うことができる。表1の諸項目を用いた機能検査や評価は全面的なそれの第一歩にすぎないので、次の段階では音声表出の特別な検査(たとえば、どもり、口がい破裂などの音声障害等の検査)が学習障害に対してばかりでなくなされる。こうしたものは調音、流暢さ、音節の発音、歯並びのような周辺的な言語機構の細部にわたる情報を得るためになされるのである。

 学習上の障害はしばしば調音と一般的な理解の問題となる。一般に調音テストは視覚的刺激(絵、ときには語)を提示し、絵の中の物の名前や語を読むようにさせる。言語に反応させる場合、検査者が引き出したい一定の音や音素も含まれる。そして、この種の作業には最小の視覚的な解読(復号化)を必要とし、事実上、視覚的な解読は子どもが模倣すべき語をいうことによって除かれてしまい運動反応を要求する。それは一定の音を出すことであり、統合レベルに位置づけられる。言語モデルの点からいえば、調音の仕方を学習することは、投射と統合のレベルでの聴覚的解読過程そのものと、統合レベルでの十分な運動-記号化の対応物を作りあげること、そして投射レベルでの調音筋肉の制御の仕方にかかっているのである。そこで、調音上の障害をみるには、調音の結果とその筋肉の運動技能も評価することが必要なのである。

 表1に示された経路の感覚器官であるが、次の方法はそれについても正式な形にとらわれない仕方でその機能を検査するのに役立つかもしれない。またそれを拡大し、自分自身で検査を行うのに何らかの示唆を与えるものと思われる。

 聴覚機能:他の機能も同時に検査できるが主として聴覚機能の検査をする。

1.聴覚により復号化の検査

a周囲の騒音を再認する

b品詞-名詞、動詞、形容詞、陳述ほか

c一つ~四つの指示に従う

d色の名前を再認する

e読んでもらった物語を理解する

2.聴覚連合の検査

a音とその出所を照合させる

b言語音の弁別-語と無意味音節

3.聴覚的区分

a不完全な語の認知

b聴取した音の断片を語になるように組み合わす

c単純な類推

 視覚機能の検査

1.視覚的復号化

a物と絵の認知

b二つ~四つの断片にした一枚の絵の認知

c色の認知

2.視覚的連合の検査

a色、物、絵を照合させる

b物と絵の照合

c地図上の形(二次元、三次元形式)と絵を照合させる

3.視覚的区分

a不完全な絵の認知

b不完全な文字、数字、語の認知

 触覚→運動感覚の機能の検査

1.片手に持った物に触れるだけで認知する

2.手触りだけで形のあるものをみがく

3.手の甲や背中に描かれた簡単な図形や文字、語などを認知する

 音声機能の検査

1.語、句、文を使う

2.適切な文法を使う-語尾変化、時制など

3.適切な文構造を使う-語を除く、語順の置きかえ、代入など

4.論理的な流れの筋を述べる

5.年齢に適した長さの文

 運動機能の検査

1.検査者の動作を模倣する

2.日常の動作-髪をとかす、歯をみがく、バッティングなどのパントマイム

3.幾何学的模様の模写

4.人の形を描く

5.自分の名前、文字、数字、語を書く

記憶の機能の検査

1.連続または非連続の数列の繰り返し

2.一連の物を見た後それを想起する

 系列化の機能の検査

1.タップ(軽打)、ピッチ(音の高低)の想起

2.一連の物、絵、形の連続的想起

3.一連の互いに関係のない語、文の想起と一連の互いに関係のある語の想起

 
 次に検査の実際に即した観点の一例として視覚的発達をあげてみる

1.目→手の整合:不確かな場合は書く能力に結びつく。

2.図-地の識別困難はまずい語認知に結びつく。

3.形の恒常性の認知の困難は印刷の大きさ、タイプ、色が変わると文字や語の認知の困難に結びつくようである。

4.文字や語を入れかえたり、逆にしたりする子どもは空間の中の位置を知覚する能力が十分でないと思われる。

5.空間関係の分析能力の不足は、語の中の文字の置きかえに結びついているので、聴覚知覚の困難につながる。

 Frostig(Maslow, Frostig, et al., 1964)のこれらの観点は、読み、スペリングまたは書き方における問題をにもっている子どもの観察から得たものである。

 以上は言語機能に関する情報の一般的な分類をモデルを通して概観し、その機能の検査については特に学習上の障害を意識した形でアプローチを試みた。しかし、扱われた内容が英語国民のものである点が我々にとって、もどかしく感じることはいなめない。言語機能の障害の治療の方法は、それに関するすべての学問分野のチームによるアプローチを要するかもしれない。しかも、それは共通の理論的枠組の上に成立つものであり、更に検討を必要とするものであるだろう。

 出典:Patricia I.Myers & Donald D.Hammil, Method for Learning Disorders, Chap.2より再編

参考文献 略

*秋田大学教育学部講師


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1975年4月(第17号)9頁~16頁

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