軽度および重度教育遅滞児教育の併合

軽度および重度教育遅滞児教育の併合

Merging their Education

 本稿は、軽度および重度障害児教育併合の試みについて記されたものである──この形態は、将来においてより一般的になると思われる。

Robert Nicholls*

山下皓三**

 軽度および重度教育遅滞児(Educationally Subnormal Children)教育の併合については多くの異議が出されているが、これまでの分離教育を正当化するに足る具体的論拠もまだ提出されていない。他方これら子どもの教育を全学校生活を通して併合し、その結果を評価しようとの試みもほとんどなされていないところから、本教育方法に内在する要因を分析することも価値あることであると考える。

 TesdaleおよびBennett House両校は、現在単一の学校として機能しており、広範囲な年齢のしかも多様な障害を含む軽度・重度教育遅滞児を教育しているが、包括的指導計画が最終的発展を遂げるまでには、両校において多くの諸段階が経過した(本論文で明確さを期すため使用した用語、教育遅滞児は、実際場面ではほとんど使われず、個々の子どもはかれらの教育ニードに従って評価され、適切な指導グループに組み入れられている)。

 さてこれら両カテゴリーの障害を対象とした学校を併合するというこの異例なでき事は、Berkshireの衛生官であるD.E.Cullington博士の、かれらも他の障害児と同様な教育の機会をもつべきである、との考えに従うもので、かれはBerkshireの教育長T.W.D.Whitfieldに対して、軽度教育遅滞児を対象としたTesdaleの校長の外に、Bennett Houseの校長になることについて保健行政当局に口添えを依頼したのである。その後これが承認され、当時別個に機能していた両校が一人の学校長のもとに機能するようになり、Bennett Houseは教育科学省管轄下の特殊学校と同様に機能するよう試みられた。

 すなわち有資格教師が任命され、勤務条件もTesdaleのそれに基づくものであった。ここに管理の併合が確立し、教育に関するアドバイザーがあらゆる段階での助力を得るために招かれ、両校とも次第にそれぞれの内部的発展を遂げるようになった。特別の学習障害児を教育するための特別クラスも開かれ、後には保育部門が設置され、続いて幼児評価クラスが二つ創設された。さらに多様な、広範な年齢の障害児を対象とした部門も開始されたが、これらすべてのクラスは現在も設置されている。

連携の発展

 両校は、現在も2マイル離れて町の両端に位置しているが、密接な協同と統合の必要が説かれ、教育計画や活動が軽度のみならず、重度障害児にも導入された。連携活動も教育研究会を含めて2校間に早期に確立し、相手校への訪問も2台のスクール・マイクロバスでひんぱんに行われた。保護者間には、Friends of Schools小委員会を有するオックスフォードシェア州南西部精神障害者協会(South West Oxfordshire Society for the Mentally Handicapped)に発展させるほどの緊密な関係がつくられ、数年の間にスタッフ、保護者、有志および協同関係にある地域の成人訓練センター等により社会、教育、それに基金を集める委員会も設立された。特に保護者は両校間の連携強化のために貢献し、両校にかかわる計画の発展に積極的な助力をし、しかも教育設備、例えば2台のマイクロバス、水治訓練の設備を備えた温水プール等購入のための資金を調達したのである。なお設備備品への助力は現在も継続している。

諸問題

 本計画の主たる目的は、教師が軽度および重度障害児を指導することにより、各々の子どもが利益を得ることができるように、より真の統合を達成し、スタッフ、設備、建物、といった資源をプールし、さらに指導技術等によって、両校に在籍する子どもたちの教育的ニードに適切に応じることであった。この併合した学校組織は、1970年の教育(障害児)法以前の種々な制約にもかかわらず、概して成功であることを示した。そして訓練センターの教育科学省への早急な移管の必要性にこたえ、しかも重度障害児が個々のニードに基づく指導法を有する刺激的学校環境に置かれるならば、教育的、社会的に顕著に改善され得ることを強調したのである。

 他方軽度および重度教育遅滞児を対象とした両校が、地理的、管理的に分離されていることにより、子どもの完全な教育的・社会的ニードに十分にこたえ得なかったことも事実である。例えば、Bennett Houseでの技芸室は、年長児が少数であるため十分に機能し得なかったし、同様の理由で社会一般で行われているゲームを計画することも不可能であった。一つの環境で生活しなければならない年長児の問題は、同様に年少児にも存在したのである。

 このような状況のもとでは、Clarke(1966)の批評、「イギリスの上級訓練センターには、環境の豊かさと訓練方法における変化の無さとの間に著しい差がみられる。すなわち高すぎる学習閾であり、あまりにもかけ離れた学習段階であり、そして正常児とは異なり重度遅滞児には学習の抑圧を持たせるべきでない、といった現代的ではあるが感傷的な信念等である」にこたえることも不可能であった。

 ところで障害児に教育権を付与した1970年の教育(障害児)法の施行は、本実験の理論的成果を達成する時期が到来したことを示すものである。経験的には異なるタイプの障害児教育併合の障害は、ほとんど人為的なもので、教育的に分離すべきであるとの論拠を支持するものではなかった。当時のレポート、Living with Handicap(1970)は、「初級訓練センターでは、重度重複障害に明らかな特別のニードとは別に、知的障害とか学習および指導内容・方法といった点から主たるニードが生起している」と述べ、従って、「現在の障害児学校は可能なかぎり広範囲な障害と年齢の者を扱い、個々の障害に対する教育的および特別のニードに適切にかない得るよう配慮されねばならない」と、結論づけている。

 さて著者らは、過去6年間で得た洞察にたって、両校の校名を残しながらも、2校を同一の校長のもとに併合し、その結果Bennett Houseは2~10歳の多種な障害児を対象とした小学校となり、幼児評価の部門と広範な年齢の重複障害部門を組み入れたのである。他方Tesdaleは、10~16歳の多様な障害生徒を対象とする中学校になったが、8~12歳の特別に障害を有する子どもの特別クラスは存続させた。

目標と組織的変更

 このように教育思想とアプローチの基本的変更を成功させるためには、明確な目標が必要であり、以下に記す諸目標が、未来のなすべき務めを支える基礎として作成された。すなわち、

・可能なかぎり子どもの生活を正常なそれに合致させること

・子どもの能力のかぎり教育すること

・在校中および卒業後においても、可能なかぎり社会への参加をはかること

・生活を楽しませること

等である。

 さて両校の統合は、子どもに益する組織的変更を可能にさせたが、それを以下に記してみよう。

 (1) 小・中学校とも、初期の段階ではあらゆる障害の子どもがクラスに混在していたが、これでは年長の重度教育遅滞児の教育的・社会的ニードに適切にこたえていないことが次第に明らかになってきた。これは中学校の特殊化の増大と、年長児の能力、興味の分離化によるもので、小学校段階では子どもの混成を継続させるが、Tesdaleでは指導目標によって重度児をグループにし(ただし食事や遊びといった他の活動は混成)より軽い重度教育遅滞児と軽度なそれを同じクラスに組み入れることに決定した。この再編成がなされてからすべての年長児は、かれらの障害に応じて教育的発達を遂げ、社会的にもより成熟することができたのである。

 (2) 軽度および重度の卒業生に対するプログラムも、成人訓練センターとの密接な関係のもとに発展させることができ、作業経験の導入も可能であった。

 (3) 子どもを両校間に運ぶ連携輸送により、温水プールをはじめ相手校の設備をひんぱんに利用することができ、より経済的操作が可能になった。

 (4) 専門家、例えば言語訓練士および助手、ろう学校教師、心理学者、医療コンサルタント、ソーシャルワーカー、保健婦らによるサービスを、より有効に組織化し、利用することが可能であった。

 (5) ある期間の、また問題によるスタッフの交換といったことが、両校各々の中で、および両校間で十分に展開できるようになった。

 (6) スタッフ会議および現職教育が合同で行われることにより、障害児教育に関する問題について教師により理解と広い視野をもたせることになった。

 (7) 高価な教育設備備品の不必要な重複を避けることができた。

計画の推進に伴う実際的ニード

 本計画を推進する過程で、スタッフ、設備および組織的指導をいかにすべきか、といった実際的ニードが生起してきた。概してそれまでの個別指導を拡大、改善し、また一連の指導技術を発展させるためにはより多くのスタッフと設備が必要であり、特に年長児の重複学級では助手が、聴力障害児には特別のスタッフと設備が、そして一般的に重度障害児に無視されてきた言語機能を担当すべき言語療法士(現在は言語療法助手が配属されている)らが必要とされたのである。さらに前記したごとく、重度情緒障害児および過活動児にとっては、かれらのニードに特別の配慮が考慮される必要があり、しかも同様の理由で重複障害部門が初等および中等部門に分離することも必要であった。また、軽度および重度教育遅滞児の統合と同じく、広範な年齢グループを収容し得るよう意図された建物へのニードも存在したのである。

様々な問い

 学校組織に関しては多くの問いが投げかけられている。

──軽度教育遅滞児の教育に何か問題が出ませんか。

 このことは個別のプログラムが作成され、子どもたちが適切水準で、変化に富んだ、ふさわしい活動を与えられるならば生起しないものである。

──広範な障害に対して、個別プログラムをいかにして用意し得ますか。

 これに答えるには、子どもの障害や他のニードにかなうためいかなる点から始めたら妥当か、といった包括的指導計画をもった個別プログラムが用意されなければならない。これらプログラムのねらいは、多様な障害を有する子どもがかれらの学習困難を組織だった、しかも構造化、個別化された仕方で克服できるよう助力することにある。しかも特別の困難さがどこに存在するかを明確にするため、子どもの学習問題が簡略に記録されている教育プロフィールを修正し、適切な指導技術の発見に刺激となるものでなければならない。

 このプログラムには、運動および視──運動活動を伴う空間の定位、ボディーイメージ、および形態知覚の訓練が含まれており、さらに特別プログラムでは聴覚弁別、言語および読みと数以前の諸活動が中心になっている。

 子どもは発達するに従いより進んだ課程に移るが、このこともまた慎重に記録されるし、最終学年においては、これが子どもの能力や可能な未来にかなった卒業後のプログラムともなるのである。

 さて導入プログラムが軽度および重度教育遅滞児のニードに適合した場合でも以下に記す諸点が銘記されるべきである。

 (a) 教育は可能なかぎり早期に始めるべきである。

 (b) プログラムは慎重に計画され、明確な目標をもつべきである。

 (c) 環境は安全で、組織だったものでなければならず、しかも可能なかぎり色鮮やかで、変化に富み、励ましを与えるものになるようよう配慮されることが大切である。

 (d) 子どもは積極的に動機づけられ、成功を得、成就感を経験しなければならない。

 (e)「自己信頼」を重要視し、社会経験や地域社会の統合に連続させることが必要である。

 (f)すべての活動が子どものニードにかなうよう個別化されねばならない。

 (g)初級の感覚訓練は必要の生じた時点で実施すべきである。

 (h)すべての教材は、各要素に分解される過程に従って慎重に構成されるべきである。

 (i) 指導は多様な感覚器官を通してなされなければならない。

 (j)言語および語いの発達、触──筋肉運動感覚法(触れることと運動)、および物体による(次元の)認知が強調されるべきである。

 (k)社会化、およびスタッフとの人間関係の発達を、効果的な学習プロセスへ至る必須のものとして意図すべきである。

──軽度教育遅滞児は、社会的側面においても問題を有していますか。

 かれらの仲間に対する社会的態度は改善され、学校内での自己訓練により高い水準に達したと言える。もちろん特殊学校に在籍すべきでなく、条件がかなうならば普通学校が適していると思われる子どももいるが、かれらの中には環境の変化に対する適応に困難さがみられている。このことは特殊学校が、文化的にはく奪された子どもや、先天的な学習遅滞児よりは、むしろ重大な学習困難を有する子どもを入学させるべきことを示している。

──軽度教育遅滞児は、重度障害児の影響で悪い習慣や常習的な癖を自然に身につけてしまいませんか。

 一般的には無いと言えるが、かりにあっても一時的なものである。これについての最善の防護手段は、子どもを常に積極的に、自信をもたせるようにすることである。そうすることで常習的な癖といったものは消失する。子どもはどのような障害を有していようとも常に一般的能力にあこがれるものであり、より重度の障害児は、成長した多くの子どもの示す態度や基準を受け入れやすいものである。

──両障害を混成して指導することで、学校の水準が低下しませんか。

 低下といったことは生起しない。重度障害児を教育し、生活を正常にしようとの挑戦は、スタッフの理解を深め、指導基準を発展させるものであり、この教育方法の生み出す寛大な態度により全体的な学校の見通しはより高いものとなる。

──軽度障害児の親は、自分の子どもがダウン症候群児や他の重度児と一緒に教育されることに憤慨したり、反対したりしませんか。

 ある保護者には反対がみられるが、多分旧制度の特殊学校に入学することに反対した人数よりも少ないであろう。従ってスタッフと同様に保護者もこの教育法について十分に指導を受け、納得することが必要である。また地域社会との密接な連携を確立し、これを維持することおよび地域における他の学校との密接な関係を作ることが必須である。

──本計画は成功と言えますか。

 概しておおよその目標は実現し得たと言うことができる。ただ適切なスタッフの配置、重度教育遅滞児の校外統合の増大といった問題は、依然として残っているが、軽度および重度教育遅滞児教育の併合ということが分離教育よりも一層有益で、価値あるものであることを示している。ところでBennett HouseとTesdaleは、新しくオックスフォードシェア州に統合されているが、現在実行性のあるところとしてはバークシェア州に同様な特殊学校が、本論文の先例に従っているところである。(SpecialEducation,June1975から)

参考文献 略

*TesdaleおよびBennett House (Abington, Oxfordshire) の校長。

**東京教育大学附属桐が丘養護学校教諭。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年4月(第21号)16頁~19頁

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