ホッヘック・リハビリテーション・センターにおける「自由時間モデル」(抄)

ホッヘック・リハビリテーション・センターにおける「自由時間モデル」(抄)

Freizeitsmodell als Lebenshilfe im Rehabilitations programm

(Rehabilitationszentrum Hochegg der Pensionsversicheringsanstalt der Angestelten)

Dr.E.Hefner*

 飯原久弥**

(1)

 ホッヘック・センターは被用者年金保険者のリハビリテーションセンターであるが、ここでは、障害年金受給者が、医療面の指導と文化生活面の指導を受けており、ことに、「自由時間モデル」(Freizeitsmodell)が、リハビリテーションに重要な役割を果たしている。すなわち、ホッヘック・センターでは、障害のある人々が、どのようなリハビリテーションを受ければ、社会生活に活躍できるようになるかを重点として、同センターの「自由時間モデル」を設定している。

 ホッヘック・センターでは、患者すなわち障害をもつ人々が社会人として人間関係をもつよう、グループを通じて行われる。この場合、レクリエーションが大切であるが、その方法の一つは、スポーツとゲームであり、こうした運動の時間を通じて、各人が潜在能力を見い出すこととなる。また、音楽を奏でるかあるいは鑑賞することによって、リズム、メロディ、感覚調和を通じて日常生活を豊かにすることも「自由時間モデル」の重要な部分とされている。

 他方、現代社会では、とかく思考創作を必要とする行為が少なめがちなので、手織物とか陶器類をセンターで創作することも大切な日課とされている。こうしたホッヘック・センターでの職業前指導は、やがて、障害をもつ人々がセンターを退所後、社会生活を営むためにも役に立つものである。従って、同センターでの医学的管理に加えて、障害をもつ人々の創作的な機能を高めていくことが、社会的リハビリテーションと考えられている。

 とりまとめて言えることは、ホッヘック・センターの中での「自由時間モデル」は、障害のある人々が、年金保険を受けることによってその生活の安定に役立つとともに、退所後、社会生活に潜在能力を発揮できるようになることを期待しているのである。

 ホッヘック・センターで約1年間のリハビリテーションを受けた人々が、退所後、社会生活をしてみた結果では、同センターでは医師とその他の管理チームと、被用者年金協会の運営者が意見一致していることは、医学的リハビリテーションと心理的リハビリテーションと社会的リハビリテーションの三面的な行為が必要ということである。

(2)

 ホッヘック・センターの患者が、柔軟な体操をして身体をリラックスしながら相互に対話することは、「自由時間モデル」のうちの一つとなっている。

 もとより、対話の時間にはセンターのスタッフのうち、スピーチセラピストのチームが、時々指導に当たるが、団らんを通じてのリハビリテーションは貴重と考えられている。ホッヘック・センターでは、リラックスした会話を通じて、その人間性を豊かにすることが有意義と考えられているからである。また、新しい患者がホッヘック・センターを訪れると、まずセンターの管理部門及び治療部門のスタッフが仲間として、グループ・ダイナミックな人間関係を形成するように努める。

 そうして、「自由時間モデル」の団らんということは、相互に啓発し合って、自立心を向上し合うこととなる。この中で、口ずさむLied(歌曲)から、やがて音楽を創作し、また、体験談の結晶がやがて文芸作品を作り出すことにもなろう。

 こうした意味からも、ホッヘック・センターが、社会的リハビリテーションの役割を担うこととなろう。

(3)

 ホッヘック・センターでは、患者がリラックスした状態で、上肢、下肢、体幹などの機能訓練を専門スタッフによるプランにもとづいて、スポーツと遊戯を行うことが、「自由時間モデル」の重点の一つとなっており、専門医の指導を受けつつ、自らの機能向上につとめている。ホッヘック・センターでは、スポーツの教師による体操というカリキュラムを受けると同様に、「自由時間モデル」におけるリラックスしたスポーツと遊戯の中で、一つにはそれぞれの身体能力に応じた保健と、二つには明るさと、三つは仲間と協力し合うという「社会性」ということを日々体験することによって、リハビリテーションを受けるわけである。

(4)

 ホッヘック・センターでの「自由時間モデル」のうち、音楽の演奏と鑑賞ということは、患者の日常生活を豊かなものにするものとして評価されている。この場合、古典にしても近代音楽にしても、また民謡にしても各人各人が、それぞれの趣味に応じて選ぶわけであるが、ホッヘック・センターでは少なくとも年齢別にクラスを分けて、プログラムを作成している。 

 ホッヘック・センターでは、絵画、彫刻もリハビリテーションに大きな役割をもつものとして、「自由時間モデル」の重要な部分となっている。この分野ではことに、患者の創造性を伸ばすように努められている。こうしたプロセスを経て、社会生活での豊かな個性が期待されているのである。

 ホッヘック・センターで、「自由時間モデル」に、織物、陶芸などが行われているが、これは、各人、自主的な思慮を加えながら、創作活動を行うことにリハビリテーションの意義を見い出しているのである。

 これは、現代の機械文明が尊重される反面、文化面で、患者の心を豊かにするという意味をもっているのである。このようにして、ホッヘック・センターにおける「自由時間モデル」を通じて、医師をはじめとするセンターのスタッフは、一面において患者に対する指導者であるとともに、他面には協力者である。そうして、ホッヘック・センターを退所した人々の社会復帰後のカウンセリングも必要であって、広義の社会的リハビリテーションを行う余地が多い。

 いずれにしても、ホッヘック・センターの運用に当たる被用者年金保険協会が、センターにおける上記の各項目に述べたような「自由時間モデル」を通じてのリハビリテーションに深い理解を示して、被保険者の社会復帰に努めていることは注目されてよい。

参考文献 略

*オーストリア,ホッヘック・リハビリテーション・センター医療管理部長

**日本肢体不自由児協会常務理事


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年4月(第21号)26頁~27頁

menu