スコットランドの特殊教育

スコットランドの特殊教育

Special Education in Scotland

柳本雄次*

 本報告は、Robert Hughesスコットランド国務次官に、特殊教育の教員養成の施策について、本誌で提言したことのあるStephen Jacksonがその後の実情を追求しようとインタビューした概略である。

 ―─我々は、過去50年間、社会的不適応児に比べ、数も少なく社会的問題も少ない精神薄弱児の教師を養成してきたのに、不適応児の教師を養成しないのは、なぜか。

 最近になって、この面で改善がみられ、そのニードも確かに急増している。特殊教育の免許状を授与する従来の特殊教育の4か月課程では、社会的不適応に関する指導も一部なされたが、現在では5大学に特殊教育の1年課程がおかれ、この種の講習を受講し、その課程の第3学期に社会的不適応を選択科目で履修できる機会が拡充されている。近い将来、社会的不適応などの特定な障害に関する10週間単位の履修が追加されるだろう。2~3の大学で年間27名の定員が認可されており、現在、その教師数は77名である。これを倍増できれば、養成のニードを満足できると思う。

――これまでの改善は実際わずかにすぎない。現在、特殊教育の1年課程で取り扱われる社会的不適応の履修もわずかである。社会的不適応児の出現率を考えると、国務次官が示唆している施策をもってしても不十分であろう。精神薄弱児にはかなり十分な養成を行っているが、社会的不適応児がどの位いるか一度も実態を解明してこなかった。研究者によると、その数は一般に考えられているよりはるかに多い。ワイト島調査は、精神薄弱児の1~2%に比べ、ひかえめに推測しても5~6%に及ぶと示唆している。こうした不適応非行問題の多くは、情緒障害児を教育する教員養成に重点をおけば、解消するであろう。

 確かに、この種の児童の指導に当たる教師の養成に対するニードは高い。その実現が望まれる。しかし、社会的不適応の明確な定義や確実性のある統計、分析は容易ではない。非行に関するパック委員会が何かしらの結論に到達できるか、わからない。

――ワイト島調査は、不適応について明確な定義を規定していると思う。その定義には何ら問題とするところはない。

 我々は、確かに教員養成を拡充するため、人材を多く求める必要がある。

――スコットランドで「訓練可能」と呼ばれる子供は他の諸国、例えば、アメリカ、カナダ、イングランド、北欧諸国では、養成を受けた教師のサービスが必要であるとみなされている。スコットランドでは、そうではない。スコットランド教育省が従来、こうした子供を過小評価しているのではないか。将来、これらの子供に資格ある教師を配置するプランについて何か明言できるか。

 メルヴィル委員会は、訓練可能児は教育可能と考えるべきであると勧告し、これを政府も認めている。昨年、1974年障害児(スコットランド)法を可決することができた。それは選挙のため、早期に施行の運びとなろう。訓練可能という言葉はスコットランドでは使用を廃止され、メルヴィル委員会の他の勧告で、これらの児童は、登録された十分な資格ある教師によって指導されるべきであると明記されており、これを政府及び教育省も承認している。地方当局が訓練センターに教師を採用すべきではないという理由は何もない。1971年には訓練センターにわずか5名の登録された教師がいたが、1975年には17名になる。それは、一つの改善である。しかし、重度精神薄弱児のニードを考えた新たな1学期課程が設置される予定で、その指導者のための新たな養成措置を考察中である。早い時期にその指導者とプランを討議する意向である。私の知る限りでは、世界でこの種の国立課程を設置した国はないので、スコットランドがおそらく先取りをなすものと思う。

――現在、この種の児童を公的に教育可能と言明している。我々には、ずっと以前に教育可能であることがわかっていた。そのことは1945年、教育(スコットランド)法に暗に認識されていたが、教師が積極的にその指導に当たることもなく、それを促す措置もとられなかった。スコットランド全体で1971年では5名、現在では17名という国務次官の引用した数字も資格ある教員の積極的とりくみのとぼしいことを示している。将来、資格ある教師がそのセンターの主要な職員になるとは思われない。提案された養成課程が新設されても、訓練センターの職員の多数は、1年課程で養成された助手であろうと予想される。

 資格ある教師を訓練センターに早急に確保できるか否かは、教師の供給全般にかかっている。

――その助手の養成を現在検討中の委員会は、メルヴィル委員会が2年課程を勧告しているにもかかわらず、1年課程を勧告している。重度精神薄弱児の教師問題の困難性、教師が知っておくべき児童の発達特性、教育計画、教育方法等の知識、技能を考慮するとき、普通レベルの17歳の女子に1年課程の養成を行い、その困難な職務に耐えることを期待するのは、無理だと思わないか。

 彼女たちが、それに耐えるか否かはわからないが、耐えられることを期待する。

――私の要求しているのは、この分野に教師を配属する具体的なプランである。あなたはこの面の小さな動きに言及されているが、ほとんど効果をあげていない。

 法的責任のある地方当局に、センターに教師を配属するよう奨励している。

――グラスゴーでは、この職に1名の教師が従事しているが、パートである。

 教師の供給全般が改善され、地方当局がこれ以上にこの問題を重視することを期待する。地方当局には、その法的責任が課せられている。

――しかし、地方当局には1945年以来この法的責任があったが、当局は教師をセンターに採用してこなかったし、そのような奨励も受けなかった。私には、そのことが既に他のいろいろな面で過小評価されている子供の過小評価につながると思われる。彼らは、第3階級の市民として扱われている。

 その指摘は正しい。その改善に努力している。

――スコットランドの西部地区で私の得た印象では、障害児教育が、平均的な教師にほとんど魅力のないものと受けとられている。特殊学校の教師は50名以上も不足し、その多くが養成を受けていない。この状態を改善するプランがあるか。

 特殊学校の職員基準を、地位の向上と関連させて考慮してきた。これが、実現されれば、改善も見込める。特殊教育が、スコットランド西部地区で人気のない理由には、教師が全般的に不足している状況がある。地方当局は、特殊学校に配置できるだけの職員を確保できないことを認めている。新設される1年課程の定員は100名以上に及ぶので資格ある教師を特殊学校に確保できるようになろう。また、特殊学校に勤務する職員の給与の引き上げを導入したい希望もある。これはいろいろな理由で、現在まで実施できないでいるが。

――障害児を教育することの有益性を認めさせ、大学生にその教育の魅力を感じさせるもっとほかの策はないか。

 特殊学校で50名以上の教師が不足している。率直に申して、その年齢別構成はわからないが、年齢が高いから優秀な教師ではないといえない。教師にその職に就くように説得するのは困難であると思われる。しかし、ここ2~3年特殊学校の教師数は、増加の傾向にある。

――特殊教育は、他の諸国―イングランド、米国、カナダ―では、学士取得者を対象としている。スコットランドでは、今年からやっと4か月課程が開設されるほどで、あまり重要視していないが、その理由はなにか。将来、学士取得者に対象を限定する考えがあるか。

 現在のところ、学士課程のプランはない。この分野をどの程度まで専門化できるか明白でない。障害児をもっと普通学校に統合させようという動きもあり、教師の養成を、普通学校から分離するほど専門化すべきであるとは確言できない。

――普通学校に障害児を統合することで、この種の児童を教育するため、高度な資格を持った教師が不要になるとは思わない。障害児は、普通学校には在籍しても、やはり特殊教育を必要とする。将来、特殊教育に上級の課程を設ける可能性はないか。

 はっきり、肯定することもできないが、否定するつもりはない。

――特殊教育界には、施策全般を積極的に改善させていく指導者が欠けていると思う。

 そのような人物は学位を所有しなければならないか。

――必ずしも学位を必要としないが、それと同等レベルの思考力がなければならない。NCSE(全国特殊教育協議会)の努力にもかかわらず、教師の多くが、障害児のニードや、特殊学校についてほとんど知識を持たずに養成を修了している。このことは、特に1年課程の卒業生についていえる。すべての教員養成課程に、障害児教育に関する学科を取り入れるべきであると考えないか。

 スコットランドのほとんどの教育系大学では、学生に訓練センターや特殊学校を見学する機会を設けるなど、この点を考慮している。内容についても軽く触れられていると思うが、アバディーン、エジンバラ、ダンディ、ハミルトン、カレンダーパーク、ノートルダムの6大学では、すでにこうした措置がとられている。

――地方当局は普通学校で障害児にサービスを提供する努力もせずに、やたらと彼らを特殊学校に送る傾向があるとの批判がある。できるだけ多くの障害児を普通学校へ統合するのではなく、特殊学校へ措置するのは、教育省の方針なのか。

 できる限り、子供は普通学校に就学させる方針を取り、その旨の通達も出している。決して、普通学校への統合よりも、特殊学校への分離を考えていない。マッカン委員会報告の示唆するように、普通学校と特殊学校の協調が望まれ、そうなれば、施設の共同利用も可能となる。新設計画には、この見地からも検討を加え、親の統合に関する意見も考慮する必要がある。

――教育省が、特殊教育の問題の大きさを知らないでは、適切な施策を計画することができないであろう。どの位多くの子供が、特殊教育を受けているというより、その機会を待っているか、いえるか。

 特殊教育か、それとも社会的不適応についてか。というのは、この二つは全く異なる問題だから。知る限りでは、学期終了まで待機せねばならない子供を確認したものを除いて、特殊教育のニードについて確固とした資料はない。しかし不適応児の教育の場がないのは、別の問題である。その不適応を測定する方法も多種多様で、通学制か寄宿制かという施設の形態にも異論がある。明らかにその教育の場は不足しており、地方当局に、そのための施策を促している。もちろん、実態はさまざまで、地域によっては、不適応児の学校に欠員のある所もある。

――不適応児を除けば、特殊教育の機会を待機している子供はいないと考えるか。私は、機会を拡充してもなお、10年以上にわたり、たえず待機リストに1万名を数える英国の状態を憂慮している。教育の場が拡充されても、それは即座に満員に達し、また新たな子供が発見されて、特殊教育を要求している。

 特殊教育を必要とする子供を発見する手続きに問題があるようだが、親からも教師からも、ほとんど苦情の訴えを聞いていない。

――今日、特殊教育で最も緊急を要する課題は何か。

 それは、不適応児の通園施設か学校での指導であろう。それと、就学前児のための施設の拡充である。これは、現在、最大の課題にして、最も実現が遅れているものの一つである。

――訓練センターの子供の教育を緊急を要する課題と考えないのか。私は、同センターの職員の養成が行われていないという点で、これをあげるが。

 確かに、それは、第一に十分な施設、設備があるかの問題であり、そして、センターに養成を受けた職員をいかに確保するかの問題である。これについては、検討中である。

――1965年の教員規則では、精神薄弱児学級に採用される教師は、特別な免許状を取得すべきことが明記されている。わが国では、本規則が、遵守されていない事実があるが、それについて何か意見は。

 教師の50~60%が特殊教育の免許状を取得しており、その数は増加している。本規則を厳格に適用しようとすれば、特殊学校に教師を配置できなくなる。学校教育法の施行規則で、特別な免許状を取得していない教師の臨時採用が規定されている。

――NCSEを有力な圧力団体と考えるか。より多くの情報、助言を歓迎するか。

 教育省が、NCSEと接触しているのを了解しており、圧力団体と、具体的成果を勝ち取らねばという感情なしで、共通基盤に立った討論をすることを歓迎する。また、現場からの助言、意見は喜んで摂取したい。

――特殊学校卒業生のため、雇用の機会を増大させるプランはないか。

 卒業生の雇用は、主として、労働省の問題である。ウォーノック委員会は、この問題を討議しており、さらに、雇用の機会だけでなく、生活、教育面について、定期的に検討する内閣の下部委員会もある。マッカン委員会の報告によると、特殊学校卒業生の50%が、卒業後、就労している。スコットランドには、イングランド・ウェールズのアルフ・モリス氏のような障害者問題担当大臣(Minister for the disabled)は、置かれていないが、私は、他の職務とあわせ、その活動もしている。

――スコットランドでも、障害者問題担当大臣を置くべきだと思うか。

 障害者問題担当以外に責任のない大臣は、現在の人口程度では必要ないと思う。しかし、これに類した会議や、事務的な委員会を持っている。我我は、障害者の持つ問題、教育の分野に限らない統合のニード―卒業後も、統合は劣らず重要である―に、精通している。

――教育省は、障害種別のうち、自閉症、読書困難の領域に対して、何かプランがあるか。地方当局は、明確な施策を持たないようであるが。

 それは、この二つの領域に関し、究明すべきことが多々あるためであろう。多くのケースで診断にも疑問があり、どれほど特別な施策が必要か、決定できないこともある。省の方針として、独立の学校や施設を設けることは、考えていない。意思伝達できる子供の中に、自閉的な子供を入れることがよいと一般にされているが、エジンバラやグラスゴーには、自閉的な子供だけの治療施設が多く、他の地域では、児童相談所に収容し、そこで、特別な指導を与えている。読書困難児については、障害の一種別として、この語を用いることに、専門家の中にも議論があり、精密な診断の必要性も認められている。これは、治療教育サービスの対象とする方が適切で、治療施設を増加させていきたい。

――ウォーノック委員会の行った障害児教育の調査結果から、どんな変化を期待するか。

 具体的なものは、思い浮かばない。同委員会は、8~9か月活動してきて、最近まで確証を得る段階に至っていない。

――ところで、同委員会が設立されたことを不満に思った人もいる。そうした不安に関して何か意見はないか。

 調査は、先の内閣のもとで着手され、継続されてきた。ときに、委員会の設置は、引き延ばしの口実とみられる。しかし、障害児教育については究明すべきことが山積みしており、専門家の報告を得なければ、現状を改善できない。

――普通学校における教育遅滞児の教育は、編成とカリキュラムの両者に多くの問題を呈している。治療教育担当者は、この面に特に責任ある視学官は、だれか知りたがっている。

 治療及び特殊教育視学官の全般的責任は、視学官主任にある。また、ギャラー氏を長とする治療教育の特別チームがあって、この分野の活動を調整している。同チームは、教育遅滞児を特に問題として、治療教育が、小学校で実施される方法を調査している。治療教育を、中学校で実施する場合の問題の多くは、特殊教科の指導と関連したことがらで、その解決は、指導法の中に見い出すことができよう。

(Special Education, June 1975から)

*東京教育大学附属桐が丘養護学校教諭


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年4月(第21号)28頁~32頁

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