公立学校における重度障害児のための作業療法

公立学校における重度障害児のための作業療法

Occupational Therapy for the Severely Handicapped in the Public Schools

Robert M.Anderson, John G. Greer, Susan M. McFadden

木村 玲子

 過去20年の間、就学の機会は、学校当局が特権として拒否することができる権利であるという考え方に対して、一般市民の意識が次第に変化していくのに対応し、改めていく法廷の判決が多くなされてきた。障害者サービスのノーマリゼーション化の傾向と、行政的措置の統合化へのすう勢と関連して、この変化は作業療法という専門職にとって重大な意味をもたらしてきた。これらの意味は公立学校において明白になってきている。

 公立学校は、従来在宅していたり、私立学校や施設で訓練を受けていたりした数千の重度精神遅滞児と重複障害児のための教育プログラムの準備を現在要求されているし、まもなく要請されてくるだろう。いかなる障害があろうとすべての子どもの「教育権」についての認識の高まり、及び子どもの教育と訓練のための財政的援助の増加に対する公約がある。

 これはもちろん様々な補助的なサービスを含むであろう。例えば、テネシー州の障害者のための計画・サービス発展管理政策(the Policies Governing the Development of Programs and Services for the Handicapped, 1974)では次のように述べている。「もし、児童生徒が彼らに用意された教育プログラムから十分な恩恵を受けられるならば、適切な治療上の注意を必要とする身体障害をもつような者に対して、理学・作業療法が準備されるべきである。」と(p.38)。多くの重度・最重度の遅滞児及び重複障害児が学校で作業療法を必要とすると考えられるのに、ほとんどの学校は現在このようなプログラムを持っていない。もし持っていたとしても、学校の現在のスタッフでは予想される多くの新しい生徒を扱うのに不適当であろう。この論文は、この挑戦に実際にかなうことができるようなプログラムの発展と特性にその焦点をあててみようとするものである。

作業療法の役割の変化

作業療法の定義

 はじめ作業療法士は病院(公・私立)で、後には診療施設(公私・立)で働いていた(Walker, 1970)。作業療法とは、「損傷からの回復に貢献したり、促進したりという明確な目的に向かって、医師により指示され、作業療法士により指導される精神的、身体的な何らかの活動」と定義される(Wellisch, 1949, p.33)。

 作業療法の最近の定義は、「健康の促進・維持、障害の予防、行動の評価、身体的又は心理的障害をもつ患者の治療又は訓練等のために、選ばれた活動へ人間の反応を向けていくという技術・科学」であるとなっている(Meyers, 1969, p.2)。この定義は米国作業療法協会(the American Occupational Therapy Association)によって採択されているものであるが、医学的監督を言及していない。その定義は学校で働く作業療法士にとって関連をもつ3領域の資格能力を明確にしている。これらの能力とは、1)行動を評価する能力、2)身体的又は心理的障害をもつ患者を扱う能力、3)障害を予防する能力である。これらの能力については、この論文の他の項で個々に論じる。

 作業療法のプログラムは公立学校で実行されるので、作業療法士と特殊教育者との役割の共通部分と異質部分について疑問がわくであろう。これらの役割を論ずるにあたり、Nelson(1974)は、特殊教育者の長所は教材の適合と教育方法の個別化にあるが、これに対し作業療法士はその子どもの正常発達への接近に第一義的にかかわっていると表明している。作業療法士の生理学についての研究と身体の異常な状態についての研究は、環境から生起するせいかもしれない限界から、本来の限界を選り分けていくのに役立つ。従って公立学校の管理者は、この2人の専門家の協力的な関係を認めねばならないのであって、競争又は重複するものとしてそれぞれの任務を見てはならないのである。

 Wendt, Sprague, Marquis(1975)によって述べられているLydellの事例は、食事・衣服の着脱・移動について全面介助の子どものための公立学校での実際的アプローチを説明している。作業療法士、言語治療士、学級担任及び電子工学学生の連携した努力により、Lydellはより十分に意志交換でき、社会化でき、生活に適応できた。

 Lydellの事例において作業療法士のもともとの役割は、彼の発語筋肉・食事のパターン・頭部のコントロール・座位を評価することであった。治療はこれら問題領域の改善のために計画された。後に、療法士はLydellの手の技能を評価して意志交換盤(Communication board)を作った。もし学校で一緒に働いているこれら専門家の尽力がなかったなら、この10歳の少年はおそらく全面介助のままでいたであろう。

指示つきの委託:問題

 ほんの1942年にまでさかのぼれば、最近の作業療法が公立学校へ進出した一つの要因は、作業療法士の役割の定義における最近の変遷にあるかもしれない。が、限定すれば、この変遷は学校内の作業療法士の任務が作業療法の初期の定義に明記されているような医師からの指示つきの委託を必要としているのか、いないのかという問題について論争をひきおこしてきた。多くの場合、学校に直接雇用されていたり、又は請け負わされたその任務が教育組織の一部分とみなされる作業療法士は、医師の指示つきの委託よりも学校の規定に従う。AOTA(米国作業療法協会)の1972年改訂版の条例は、今日では広義に解釈されうるので、作業療法士が様々なところからの委託を受けるかもしれない程である。第14条1項は、「登録した会員は、資格のある医師から、そして作業療法のサービスを求めている他の人々からの委託を受ける。会員は協力が必要とされる場合に資格のある専門家と協力すべきである。」と述べている。

 作業療法のサービスに関する医師からの委託の問題は、免許法との関連で一層複雑になってきている。ニューヨーク州は、AOTA条例がサービスを求めるだれからも委託がありうると述べている事実にもかかわらず、医師の委託を必要とする免許法を今日用いている。

 委託の問題は完全に解決されていないのは明らかであり、実際にはその問題は、より多くの、そして複雑な医学的問題をもつ重度障害者が公立学校計画へ吸収されるにつれて強まるであろう。

免許制度とプログラムの責務

 作業療法士の免許制度とプログラムの責務の問題は、定義、役割、委託の問題と密接なつながりをもっている。州の教育委員会は公立学校の雇員の免許基準を保持している。AOTAの基準にかなうことを求められている作業療法士のための別枠の免許カテゴリーをもっている州もあれば、作業療法士が教師の免許基準にかなうことを必要としている州もある。ワシントン州(Reed, 1972)は、教育職員準免許状として作業療法士の免状を認めた。

 作業療法士の雇用を考えている各州及び(又は)各学区は、免許制度の問題を論じなければならないだろう。作業療法士が教員免許状をもたねばならないという要求は、明らかに問題になるし、多くの人はこれが療法士の専門能力の実証という問題の理想的な解決には決してならないと考えている。作業療法士は自分の名前の後に“O.T.R”という頭文字を用いるために、AOTAによって施行される試験に通らなければならないし、さらにその協会の中で自分の会員としての地位を維持していかねばならない。ほとんどの作業療法士はAOTAの試験に合格したことで自分には専門の資格があると思い、多くの者は教員免許についての付加的要求を就職には無関係な又は不必要な邪魔ものとして見ている。

 公立学校で働くための作業療法士の免許制度は責務への動きにおいて特に重要である。保健の責務を求める要請に拍車をかけられて、1972年に社会保障法修正(the Social Security Amendments, P. L. 92-603)で、専門基準再検討機構(PSRO)の設置、及び技能検定試験を通して、一定の保健職員の資格を定めるためのプログラムを用意した。教育や他の専門職と同様に公立学校に働く作業療法士は、担当する生徒の行動上の顕著な変化によって自己の明記された目的を達成することに責務をもつであろう。

療法士の基本的能力

測定と評価

 Banus(1971)は評価の目的について次のように述べている。「(1)欠損、発達遅滞、機能障害等のような行動上の単一又は複数領域における問題あるいはその特質を明らかにするか、診断すること、(2)その子の治療プログラムが展開されうる子どものパフォーマンスの基準線を確立すること。」作業療法士によって行われたいくつかの評価の実例は以下のようなものを含んでいる。ゲゼルの発達尺度、デンバー発達スクリーニング検査、衣服の着脱・食事・書字・排泄の技能の評価、筋緊張と可動域の評価、反射検査、立体認知検査、南カリフォルニア感覚統合検査。

訓練

 機能に関する作業療法のプログラムは、腕、手、頭、舌又は口の望ましい動きを促進する計画的な活動を通して遂行される。これらの活動は協応動作パターンを発達させるよう計画されている。例えば、子どもを相手に協力して働いている療法士と学級担任は、左右の確立と眼球運動のパターンの確立においてそれぞれの独自の技能の必要性を認め、有効な作業習慣を発達させる責任を分担しているであろう。

 作業療法における訓練は、子どもの機能又は行為の獲得や改善のために個々人が療法士の監督下で行う課題から成る。訓練目的は、子どもの現在の機能レベルを基にして、その子どもの生活経験を拡大したり、確実なものにしたりするよう指導される。作業療法士が学校で子どものために系統立てて説くかもしれないいくつかの訓練目的は以下のものを含む。利き手の発達、補装具をつけて手を伸ばす・握る・はなすことの発達、微細な運動協応の改善、上肢の運動可動域の拡張。おもちゃ、遊戯、食事・着脱・調理のようなADLは、治療目的を達成するための道具となる。行動変容の原理はしばしば訓練の他のアプローチと共に用いられる。

 重度精神遅滞児のために作業療法士は、1)子どもの発達要求に基づいた訓練の準備、2)運動のコントロールの達成の補助、もしくは3)職業前経験の準備をするだろう。Banus(1971)は職業前経験を次のように述べている。すなわち、「この領域は子どもの雇用可能性を評価するために計画された生産性における子どもの発達的能力のすべてを利用する。療法士は学校又は社会の場と、子どもが特別なパフォーマンス基準をみたさねばならない労働の場との間をつなぐものとして役立つような職業前の、又は労働の場における発達・行動及び作業の必要事項についての知識を活用する。」

予防

 作業療法における予防は、両親が自分たちの子どものために、環境に刺激される諸活動と発達的経験とを教えられる時におこる。より進んだ問題の予防は、作業療法士が子どもに対して機能的な座位を訓練する時に、又はより進んだ可動域の損失を防ぐために筋を伸展する時に成し遂げられる。予防領域で作業療法士は、就学前児の日常の発達的評価を通じて潜在的な欠陥の所在の確認に力を借すことができる。

 定義のあいまいさの故に、そして作業療法士、理学療法士、栄養士、看護婦、特殊教育者の間の技能の重複の故に、作業療法士の技能又は能力に関してしばしば混乱がおこる。Banusは作業療法士の役割をこのように概説している。すなわち、「我々の最大の長所は、早期の神経運動、心理社会面、及び視知覚―運動の発達・機能不全についての知識にあると信ずる。この背景の故に、我々は予防、リハビリテーション、又はリハビリテーションの立場から子どもたちを相手に働くことができる。」と。

管理上の考察

巡回プログラム又はリソースプログラム

 主流化の傾向は巡回作業療法士又は指導作業療法士(resource occupational therapist)というアイディアを育くむのに役立った。巡回することによって、作業療法士は普通学級にいる子どもを訪れたり治療したりできるし、障害児を相手に毎日働いている普通学級の教師、又は病院や在宅児の訪問教師にアドバイスできる。

 親指と小指がないという以外は全く正常に生まれたRobertの場合を考えてみよう。5歳で彼は近所の仲間と幼稚園に入園した。公立学校での数か月の後、彼の担任は指導作業療法士をよんでこう言った。「あなたはRobertが特殊学級におかれるよう取り計らねばなりませんよ。あの子は、はさみで切ることもできないし、鉛筆やクレヨンを握れないし、ズボンのチャックをあげることも、ホックをはずすこともできないのですから。」

 指導作業療法士がその学級にRobertを訪ねると、まもなく問題は解決した。指の大きさが合わないために、Robertが上下に動かせてもコントロールできなかったはさみは、フォーム・ラバー(foam rubber)と接着用テープとではさみの持ち手の穴がつめられた。これにより、Robertの小さな指は穴にぴったりと合うようになった。また鉛筆とクレヨンはマスキング・テープ(masking tape)で巻くことにより太くされた。このように処置したその原則は粗大から微細な運動技能の活動へと子どもに作業させることを含んでいたのである。ズボンでは先端のところでヴァックルがホックと取り換えられた。またRobertが1本の指でチャックをおろせるように小さな環がチャックのおろすところにつけられた。こうした工夫を通じて、Robertは仲間と一緒に学級に残ることができ、自分の能力に合った教育を受けることができた。

 公立学校の指導作業療法士は、普通学校と特殊学校の教師の現職教育に情報を提供し、障害児のカリキュラム編成に助力し、児童生徒の教育措置問題にも援助し、さらに通学輸送及び建築上の障害について助言することができる。

コンサルタントとしての作業療法士

 コンサルタントとして作業療法士は様々な方法で役に立つことができる。知覚-運動のプログラムを組む際のコンサルタントとして作業療法士を雇っている学校もある(Erhant, 1971; Walker, 1973)。セント・ヨセフ(ミズリー州)公立学校区は、学習障害児を判別し、その治療を勧告するように、専任の作業療法士と契約を結んでいる。プリンス・ジャージ郡公立学校(メリーランド州)は、全日現任訓練を実施するために、そして現任訓練として用いるビデオ・テープを作製するために作業療法のコンサルタントを雇った。さらに、作業療法のコンサルタントは学校設計の際の建築構造に助言を与える。というのは、机、いす、トイレット施設、噴水式水飲み場、出入口、遊び場等の建築物が、障害児に安全と快適さとを保証するよう改造されるためである。

 コンサルタントとしての作業療法士の事例として、Scottが学級担任に与えた問題が役立つ。写真1(略)はScottが「学習する」時にすわる車いすでの様子である。彼がこの姿勢で書いたり、読んだり、食べたり、又は何かしようとした時の欲求不満を想像してごらんなさい。又、彼を教えようとしている時の教師の欲求不満を想像してごらんなさい。

 写真2(略)は特別に設計された挿入物を入れた車いすの中にScottが見える。いすがぴったりとして、Scottは取り付けられた台で書いたり食べたりできるような外観を呈しているし、彼の身体はきちんとまっすぐになっている。いすの挿入物は作業療法士が設計し、引退した大工が作ったものであった。

 ある公立学校の作業療法のコンサルタントが、障害児が適切に配置されているかを確かめるため特殊学級めぐりをして、学年のはじめの数週間を費すことが知られている。

財政上の考慮

 1965年の初等・中等教育法第Ⅲと第Ⅳの章には、障害児に使うための基金に関しての陳述が含まれている。これら法の広義の解釈は、作業療法士のサービスの経費を考慮に入れるべきであろう。例えばテネシー州では、障害者のための計画・サービス発展管理政策(the Policies Governing the Development of Programs and Services for the Handicapped, 1974年4月)には作業療法のサービスの規定が含まれており、従ってこの法律に基づいて経費が支出されるべきであるとしている。

施設と設備

 公立学校での作業療法部門の計画において、次のような要素が考慮されるべきである。すなわち、学校及び学校の全体的組織の規模、診断的カテゴリーすなわち対象児の障害の型、学校での子どもの年齢範囲、作業療法士の担当する児童生徒の予定数である。

 「作業療法部門の計画のための指針」(Guidelines for Planning Occupational Therapy Departments, 1971)という手引きでの空間利用のための次のような示唆が公立学校のプログラムに役立つであろう。

 1)「静かな」部屋――特殊な装置と車いすを備えつけるため、微細な運動技能を訓練するため、個別テストをするため。

 2)「雑音のする」部屋――職業前評価と作業の適応のため、粗大運動技能のため、又は体力を発達させるための段階的な活動のため。

 3)台所、居間、寝室、浴室がある日常生活諸動作をする部屋。

 4)事務室と倉庫――コンサルタントとして、又は全体的な学校組織への指導的役割としての作業療法士の部屋は、事務室に小規模な訓練・検査室を加えた程度に制限される。

 設備は、利用できる施設によって、そして作業療法士が指導方式をとるか、学校専任であるかによって非常に違ってくるだろう。指導方式の作業療法士は、検査道具と実演説明のためのわずかな品目を入れた折りかばんでどうにかやっていけるであろう。

 かなり活発に実施されている学校専任の作業療法士のプログラムは、テスト、マット付きのおもちゃ、振動するもの、副木をする道具、バックル、うまく食べたり書いたりできるための備品、机、いす、鉛筆、クレヨン、ゲームの備えを含んでいる。

 作業療法部門の設置に必要な設備や経費は、プログラムの内容と範囲によって低くて700ドル、高くて7,000ドルの費用が見込まれる。

結び

 重度障害児のための公立学校のサービスを規定する現在の国の法規は、作業療法という職業と明らかにかかわっている。この論文は公立学校の作業療法のプログラムの発展を論じ、次のような結論を引き出すものである。

 1)多くの学校は作業療法のプログラムをもっておらず、現在の作業療法士の供給では予想される重度障害児急増の難局に応ずるには不十分であろう。

 2)公立学校の作業療法士の役割は、重度障害児を相手に働く特殊教育者及び他の実践者との役割を補充するよう定義される必要があるだろう。

 3)学校専任の作業療法士が医師から指示つきの委託を受けねばならないのかどうかの問題は完全には解決されていない。我々の判断では、作業療法士に様々な機関からの委託を受けさせるというAOTAの規則の広義の解釈が望ましいだけではなく、公立学校でかなり実際的でもあると言える。

 4)AOTAが成功裏に実施している試験合格に付加しての作業療法士免許制度に関連した重要な問題はおそらく非現実的である。責務への動きと能力に基づいた訓練プログラムへの予想された強調点とは、作業療法士の専門的な養成に関連した問題を解決する助けになるかもしれない。

 5)全般的にみて、作業療法士はすでに重度障害児相手の仕事に必要な能力を習得している。実際に作業療法士は、歴史的には様々な臨床場面でこのような子供を相手に働いてきた。

 6)教育委員会と公立学校の管理者は、①治療機関の組織化、②様々な財政上の考慮、③施設と設備の利用と有効性、を含む様々な問題について決定を行わなければならない。

 7)公立学校での作業療法のプログラムの発展と実行とによって多くの問題が生ずるであろう。けれども、これらの問題はどれも打ち勝てないものではない。実際、1942年のような初期から幾つかの成功したプログラムがある。作業療法プログラムの質的向上は、重度及び最重度の障害者のための全体的な連続サービスに有意義な貢献をしている。

Educating Severely and Profoundly Retanded, 1976から)

参考文献 略

筑波大学大学院生


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1978年7月(第28号)13頁~18頁

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