特集/第7回 アジア・太平洋地域リハビリテーション会議 職業分科会報告

特集/第7回 アジア・太平洋地域リハビリテーション会議

職業分科会報告

小川 孟*

 職業に関する分科会は二つ用意されていた。一つは「職業リハビリテーション」(Vocational Rehabilitation)であり、もう一つは「産業リハビリテーション」(Industrial Rehabilitation)である。産業リハビリテーションという用語はわが国ではあまりなじみがなく、強いて考えれば一般企業における雇用の問題を扱うのかと思ったが、発表論文のテーマや内容は、職業リハビリテーション、産業リハビリテーションの双方とも明確な区別はなく、参加者の中にも筆者と同じ疑問を持つ者が少なくなかった。やむを得ず、提出されたテーマから興味のあるものを選び、同時進行となっている分科会の二者択一という方法をとった。

 上記の二分科会で発表されたものは次のとおりであるが、筆者が出席したのは○印をつけたものである。

1.職業リハビリテーション分科会

4月11月(月)

4:00~5:00

○「職業リハビリテーション─評価、訓練および転職のための組織的アプローチ」

Dr.Robert Don シンガポール

 

4月12日(火)

2:00~3:30

○「職業リハビリテーション─特定障害者のための職業紹介」

Mr.John K.C.Sung ホンコン

4:00~5:30

「階段のない家」

Mrs.Curie C.Rubio フィリピン

「障害者のための雇用創出─社会における態度の変化」

Mr.H.W.Brown ILO

 

4月13日(水)

11:00~12:30

「再転職のための援助と適応」

Dr.S.Govindarajoo マレーシア

2:00~3:30 
4:00~5:30

まとめと勧告作成

 

2.産業リハビリテーション分科会

4月11日(月)

4:00~5:30

「障害者の雇用:挑戦と報償」

Mr.Chong Hong Chong マレーシア

 

4月12日(火)

2:00~3:30

「農村地域における障害者のリハビリテーション」

Mrs.Nama V.Bhat インド

4:00~5:30

○「身体障害者の就職への準備」

Mr.Lee Chong Theen マレーシア

 

4月13日(水)

11:00~12:30

○「地方住民が求める地元ニーズの解決」

Mr.R.G.Hampton アメリ力

2:00~3:30
4:00~5:30

まとめと勧告作成

 以上の二分科会での発表から得た印象の一つはアジア・太平洋地域の中では農村地域における障害者問題が大きな課題であることと同時に、職業の面から考えると労働集約の典型である農業と障害者の就労という困難な問題である。インドの発表によれば、障害者の80%は農村地帯の住人であるため、地域開発のプログラムが進まない限り、障害者の対策には手が及ばないのが実情のようである。ILOなどによる職業リハビリテーションの技術援助も限られた範囲であり、発表の中で語られるものの多くは、問題の提起と対策の計画にとどまり、具体化に必要な専門職、資金、就職の機会などについての見通しについては明るい材料を見出し得ない情況であった。

 もう一つ印象に残ったものは、雇用主に対する障害者雇用促進の対策がいくつかの国で進められていることである。マレーシアでは税制上障害者を雇用した事業主に対して一定の減免措置を行っている。しかし、大規模な企業が少なく、自営業または家族血縁による事業が比較的多い国の雇用促進は、わが国の現状からは測り知れない難しさがあると思われる。

 何よりも大きく、かつ基本的な問題は、全般的な失業者対策と障害者の職業リハビリテーションとの関係を納税者に理解させることにあるようである。農村地帯から限られ都市および周辺の産業に転職することを目ざして流入する失業者─もちろんその大部分は健常者であり若年者が多い─を抱える中で、障害者の職業問題を論じることの難しさは理解できるような気がする。

 同じアジア・太平洋地域の国々の中でも、それぞれ気候、風土、産業など異なる面は多い。それらは直接、間接に職業の上にも就労実態の違いとなって現われている。したがって、一つの国の法制度が他の国にも当てはまるというわけにはいかない。しかし、30年前のわが国を振り返って見ると、アジアの国々、特にアセアン諸国が当面している問題のいくつかは、かつてわが国が抱えていたものと共通していることに気が付く。

 わが国の職業リハビリテーションそれ自体も、その多くを欧米に学びながら、現在一応の骨格はでき上がったといってよいが、その内容にはこれからの部分も少なくない。しかし、これまでの経験が発展途上の国々に役立つものであれば、わが国の専門家がこれらの国々に対していろいろな機会を通じてお手伝いをするのがこれからの大きな役割であることを痛感させられた。

*国立職業リハビリテーションセンター職業指導部長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1983年7月(第43号)18頁~19頁

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