特集/第15回リハビリテーション世界会議 第5日

特集/第15回リハビリテーション世界会議

第5日

五味重春*

 第15回リハビリテーション世界会議の最終日は、Aホールにおいて、午前9時から開催された。開会式当日に比較すれば、参加者は幾分少ないようであったが、約2千人収容の会場は、概ね満員となった。

 前半は、総会の報告演説があり、後半は閉会式が整然と行なわれた。

 総会報告はMr.Henry Murdoch(アイルランド、リハビリテーション局議長兼財政管理部長)の司会の下に3人の演者が発表した。

 第1の演者は、ニュージーランド障害者協会会長のMr.Byron Buick-Constableで、統合について報告した。その要旨は、次の如くである。

 『障害者の統合と平等参加について、必要な手段を講ずることから話題を進める。

 統合に関するまとめを発表するにあたり、情報、意識、理解を思い起こすことが、必要と考える。統合を進めるには、社会の様々の側面から見ていかねばならない。地域、教育、雇用、レジャー等に携る人々が、統合の進め手である。

 我々は機能の回復について討議してきたが、重要なことは、障害者自らがリハビリテートしようとする気を起こさせるよう援助することである。リハビリが行なわれ、平等の権利が与えられるなら、次は統合が難しい課題となる。私の疑問は、施設収容なのか、小さな住宅なのかであり、これに対する態度は各々が決めることである。さらに質問したいことは、統合に関して教育の場が重要ならば、特殊教育なのか、すべて平等の普通教育なのかということである。

 また雇用が統合への道ならば、種々の能力、障害を考慮することは、保護雇用といえないか。もし社会が家庭のような状況であれば、無条件で統合が存在するかもしれない。

 障害はどのような形式であろうと、常に存在し、障害は広く普及した人間的な状況であるといえる。

 団体組織を造って統合を進めるか、逆に分離主義を進めることになりはしないか。障害者とサービス団体に、団結の精神を造ることは、短期間では出来ない。都市、地方を問わず地域に根ざしたリハビリは、統合の方法なのか。地域の関係者が含まれていれば、その一例ともいえる。

 障害者の社会統合への解決策はあり得る。RIの80年代憲章や、国連の障害者に対する世界行動計画の助けにより、取り組んで行こう。』

 第2の報告者は、アジア太平洋地域のRI副会長であるCharlotte Floro教授である。

 彼女は、態度の変容について報告し、その概要は、次の如くである。

『障害をもつ人々は、その原因にまつわる伝説、偏見などから長い間同情されてきた。それらを一掃するには、今後まだ長い過程を要すると思われる。

 態度を理解するには、障害者を社会のパートナーとして統合して行く目的で検討することである。人の態度は、言葉、感情、動作などの要素から成り立ち、態度と信念とは関連し、感情は態度に呼応していると考えられていた。

 単に感情や信念の変容ではなく、人々の態度を変えるには、変容に有効な技術を利用し、適切な方法を探求しなければならない。態度の要素である感情と思考を変えると、大きな影響力となり、行動が根底から揺れ動く効果がある。さらに障害者に対する態度を改善するためには、国や政府の態度を変革することである。障害者を価値ある市民としてみている社会では、肯定的態度を示し、進んで建設的態度をとる。障害者の利益に対し無関心や否定的態度であるなら、その社会の人々は殆ど否定的態度・行動を示す。

 基本的態度の変容は、よりよい生活状況に至る前提となるのか、または生活状況改善が、そのような態度に達するために必要なのか。限定的な態度は、完全参加と平等に対する障壁であり、否定的態度の原因でもある。

 RIは全世界に80年代憲章を配布し、行動計画作製に適切な指導を行なってきた。この指導書は、どのような影響を及ぼしたか。社会環境を変える手段として、意識をたかめる運動などが行なわれた。これらのことが変容のきっかけを造るために、どのように役立ったか会場にいる参加者が責任を感じているであろう。』

 第3の報告者は、Goodwill国際部長のMr.Robert Ransomで、コミュニケーションについて発表した。『今日の生活において、コミュニケーション(以不Cと略す)ほど普及しているものはない。新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、映画などを通して、そのメディアは強力な影響力をもち、世界の文化を理解する方法である。我々は障害をもつ人々が、どのようにしてお互いに社会との関係をつけて行くのかCの役割を追究してきた。

 一般の意識を高めるキャンペーンは、社会環境を変化させる助けとなったことを確信している。

 態度の変容を目的として、一般の人々の意識を向上させるのに、Cの技術がどのように利用できるのか分からなかった。多くの国々がメディアを通して情報を提供しようと努力していることが分かった。

 障害者に関するCの目的は、社会の一員としての完全参加と平等を支持する環境づくりをすることにある。Cの目的は、RIの80年代憲章に述べられている。

 この会議において、Cの検討中に明らかになったことは、次の如くである。すなわち障害は、社会的、経済的、政治的問題として認識されねばならない点であった。

 すべての国で、障害者に対する子供の態度を育てることが、重要な影響をもつことを認識しなければならない。子供に否定的、疎外的態度が形成されるのを防止する助けとなる。1982年国連のセミナー「障害をもつ人々に関するCの向上」に基づいてガイドラインが造られた。このガイドラインの趣旨は、できるだけ肯定的な社会参加を進める手段を示すことにある。』

 以上3人の演者による発表は、約90分にわたり、テープ記録のなかから要約した。

 閉会式の行事は、第15回世界リハビリ会議会長のMr.Col.Joaoの司会で、次の式次により行なわれた。

 1.表彰

 RI会長賞。故ケスラー博士記念賞。映画賞(このなかで東京都補装具研究所出品のがんばれヒロくんが受賞した)。展示賞。

 2.次期会長挨拶。(オーストリー)

 3.ポルトガル政府代表挨拶。

 予定以外に、中国(新しく参加)代表挨拶と記念品贈呈があった。次期開催は、東京(日本)決定と公表され、和気藹藹の裡に幕を閉じた。

感想

 6月4日(月)開会式に始まった世界会議は、人口約1千百万人の小国ポルトガルの努力により、開催された。英文抄録は第3日目に入手できるという手違いもあったが、主催国の努力と親切な接遇に感謝したい。

 会議の主なテーマは、障害者と社会の統合のための情報、認識、理解という哲学的話題であった。分科会においても主題を受けた話題が多く、医学的トピックスは例年より少ない感じを受けた。またリハ施設見学も計画されていなかったのは残念であった。とにかくポルトガル関係者に、よく頑張りましたねと深謝したい。

*埼玉県障害者リハビリテーション・センター


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1984年7月(第46号)15頁~16頁

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