特集/第15回リハビリテーション世界会議 職業セミナーと職業委員会

特集/第15回リハビリテーション世界会議

委員会報告

職業セミナーと職業委員会

小川 孟

■職業セミナー

 第15回リハビリテーション世界会議に先立ってRI職業委員会(委員長レオナード・ワイツマン、米国)は、5月29、30日の2日間にわたってリスボン市ペンタホテルで職業セミナーを開催した。

 23か国から86名が参加したが、これは従来に比較して盛況であるとのことであった。用意された包括的テーマは、第1日が「発展途上国のリハビリテーション」、第2日が「低経済状況下における障害者雇用」であるが、プログラムの詳細は別表のとおりである。

 途上国の問題が中心となるのはここ数年この種の会合に共通した傾向であり、工業化が進められている一部の国を除いては、途上国の問題すなわち農村地域の障害者問題である。たとえば、フィリピン、レバノン、アフリカ、ポルトガル、マラウイなどからの発表によれば、職業リハビリテーションというよりは、農村地域における衛生知識の普及から始まる障害発生の予防リハビリテーションを必要とする障害者の量的把握、専門従事者の養成などが当面の課題であり、一般労働者の失業問題が深刻化している経済的、社会的状況下において、これらの課題に対処する手段を模索している関係者の苦悩がうかがえる。したがって、OECDからの報告に見られる“若年障害者の統合教育と職業リハビリテーションとの関係”とか、“障害程度の分類問題”、あるいはイギリスからの“職業的重度障害者の定義について”などは、わが国を含めた工業化の進んだ国の人びとにとっては興味ある問題であるが、途上国の人びとが直面している問題とは距離があり過ぎるという感じは否めなかった。

 こうしたなかでフィリピン、マニラ大学のペリクェット教授は、世界の障害者の大部分は発展途上国に住んでおり、その約2%しかリハビリテーションサービスを受けていない事実を指摘し、先進国の協力が必要であるとしながらも、途上国の教育の遅れ、経済的危機という現実を認識した上での技術援助でなければ、良い結果は得られないと警告したのは印象に残る。また、米国の障害者雇用大統領委員会のポスナー氏は、エチオピアの400人雇用の障害者工場やケニアの障害者家族の訓練をする委員会、中国の上海にある障害者のマイコンチップ工場など、途上国の実情を紹介し、それぞれの国の発展段階に応じて障害者雇用が進んでいることを評価した。しかし国によってはリハビリテーションプログラムは期間が長く、当然国の経済的負担が増大することになるという理由から、政治的に反対があってリハビリテーションの充実が進まないところもあることを指摘した。

 低経済状況下における障害者雇用に関しては、ILOの丹羽勇氏から新たに採択された「障害者の職業リハビリテーションと雇用に関する条約」(第159号)と同じく勧告(第168号)が紹介され、1955年の勧告第99号いらいの変化した社会的、経済的環境のもとでの各国の対応の必要性が強調された。また、OECDのフィッシュ氏は、統合教育、障害の認識、若年障害者を持つ家族、ライフ・スキルと自立生活、保護雇用、職業準備、雇用促進などの問題について報告した。そのほかには、米国のラミ・ラビー氏が自ら全盲という障害を持ちながら会社の人事管理の専門家の立場から障害者雇用の発想の転換を強く求めて感銘を与えた。

■職業委員会

 職業セミナーに引き続いて5月31日、ペンタホテルでRI職業委員会が開かれた。出席者は15人ほどで、前日までのセミナーと違い、いわゆるビジネス・ミーティングへの関心の低さが痛感された。もっともこれには関心の程度とは別に、旅費負担の問題のあることが委員会でも話題になった。ちなみに、職業委員会の名簿の上では、49か国から86人が委員となっている。

 委員会はワイツマン委員長のあいさつで開会され、各委員の紹介、1983年10月21日米国ピッツバーグで開かれた前回委員会の議事録承認、業務報告などが形どおり行なわれた。議題としては、続いて6月1日から開催されるRI総会への委員会報告、第15回リハビリテーション世界会議第3日目の職業委員会と教育委員会の合同ワークショップ、経済問題と失業に関するRIの調査結果に対する職業委員会の対応などが協議されたが、新聞の見出し風にいえば、委員長交代―アメリカからデンマークへ、というのがトップ記事となるであろう。すなわちこれから1988年の第16回リハビリテーション世界会議東京大会まではデンマークのニールセン氏が委員長をつとめることになった。

 最後に来年の委員会開催地について、ケニアはどうかという案が出たが、ヨーロッパからはともかく、アジアの東端の国からは色よい返事はできなかった。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1984年7月(第46号)17頁~18頁

menu