特集/第15回リハビリテーション世界会議 医学ワークショップおよび委員会について

特集/第15回リハビリテーション世界会議

委員会報告

医学ワークショップおよび委員会について

岩倉博光*

 大会第3日の6月6日、医学委員会によるワークショップが朝9時から開催された。

 参加者はおよそ50名、そのうち15名は世界各国から集まったmedical commissionの委員である。医師以外にも理学療法士が僅かであるが参加していた。ワークショップは午前の部が9時から12時30分まで、午後の部は14時から17時まで続き、ワークショップ終了後に約1時間医学委員会が開かれた。

 ワークショップのプログラムを順にのべると、午前の座長は西ドイツのJochheim教授が当った。最初の演題はプエルトリコのFlax氏が、障害者のリハビリテーションにおける家族の役割の重要性を説き、障害者だけでなく、その家族を教育してリハビリテーションへの動機づけを行なうことは、リハビリテーションを担当する医師の任務であるとのべた。またケアが必要となる場合にはケアを行なう者を、教師が関与する場合にはその教師に向ってリハビリテーションに関する学習をすすめることが必要であり、またそれが効果を上げる。因みにFlax博士は2年前にサンファンで開催されたIRMAの会長である。次いでRost博士が精神科リハビリテーションにおける患者教育の問題を発表された。その教育学習の課程で患者が積極的に関与する場合があるという。

 フィンランドから2人の演者が立ち、そのひとりのKallio教授は、リハビリテーションにおいてもその学習課程に文化の問題が無規できない要素として存在すること、そしてそれがインテグレーションの性質を左右するという。Eskelinen博士は同じく学習課程について論じたが、視力障害者の職業相談にワークショップの方法を用いて行なった経験を報告した。

 ノルウェーのBramness博士は、腰痛患者や頚腕痛患者のリハビリテーションを取り上げ、この痛みの問題について患者教育を行ない、学習の成果が上った例を発表した。北欧諸国においてはすでに「腰痛教室」などの患者教育が良い成績をあげていることは知られており、リハビリテーションの重要な分野となっている。

 台湾のI-jen Loo教授は重度精神薄弱児(者)に対する教育プログラムについて論じた。ハンガリーのKullmann博士は老年障害者のうちでも複数の問題点を有する人々のリハビリテーション、たとえば片麻痺に合併した切断など、について発表した。またインドのChainini氏(理学療法士)は、筋ジストロフィー症のこどもが歩行不能となる原因について、種々の考察を加えて発表した。

 午後の部に入って、座長はカナダ、キングストンのSymington博士(1980年の第14回リハビリテーション世界会議がカナダで開催されたさい、医学委員会の幹事役をつとめられた)に交替した。

 地元のポルトガルからAndrada博士が立ち、脊髄障害を有するこどもの施設やコミュニティにおけるリハビリテーション・プログラムの結果を報告した。これには二分脊椎も外傷性脊髄損傷も含まれ、小児リハビリテーションの最近の歴史をふまえた発表である。

 オランダのde Kleijn de Vrankrijker博士は障害の国際分類がWHOでまとめられた内容について触れ、国内にこれを適用するに当っての意見を述べた。

 アイルランドのGregg博士は障害者の住居の問題を取り上げ、さまざまの問題点から得た建築上の対策と情報の重要性について発表した。

 インドのMukherjee博士は障害者のリハビリテーションに用いられる補装具に関する報告を行なったが、とくにここでは発展途上国における下肢のプラスチック装具をとりあげて、その情報が広く届きかねている現状と問題点をのべている。ポリオを始め、多数の下肢運動障害にこうした軽量装具の果たす役割は大きい。

 英国のHunter博士は障害者の中で自動車運転希望者を評価するさいに、問題となることがらについてのべている。いつも慎重さがとくに要求されるのは脳損傷者の場合で、認知の障害の有無が問題になる。反射的な動作、運動時間の延長などがその次の問題であるという。しかし一般に障害者の運転事故発生率は健常者の場合に比してむしろ低い。

 スウェーデンのOttosson博士は、上肢装具あるいは義手を与える場合の評価について検討し、国内的なモデルの概要を報告した。それによるとスウェーデンでは地域ごとに評価のためのチームを作っており、作業療法士、装具士あるいは義肢士、医師、によってまず各患者(障害者)について基本的な評価を行なう。そしてその後に理学療法士、ソーシャルワーカーその他が加わるという。国全体としても研究所を持って、調査研究、評価、教育、開発を行なっている。最近、動力源を内蔵した上肢装具の実用化を試みているらしい。

 最後にカナダのSymington博士が、いわゆる環境制御装置(ECS)の費用と有効性のバランスについてのべた。北米では高位頚髄損傷者など、重度障害者が日常生活に身辺動作の介助を減ずるECSを用いる例が増加した。すでに商品として販売されているものが何種類か見られる。通常のものが基本形成のもので約2,000ドルとすれば、毎日の介助に要する費用をどの程度軽減できるかがバランス計算の根拠となるだろう。しかしこれを慢性疾患病棟など長期看護を要する人々の施設に設置すればどうであろうかという提案がある。ECSはADLの向上に作用するので、患者の幸福感に結びつく可能性、いわゆる「生命の質」(QOL)の向上となる可能性がある。同時に看護する側も患者の要求にも早く反応する作業が減じ、いらいら感は両者ともに減るだろうという。もちろんこの発表に対する反論もあり、たとえば患者の心理的ケアにどのように影響するかはわからない。

 以上のように発表者の演題をひと通り説明したが、医学ワークショップに医師達が発表する内容は実に広い範囲にわたっており、しかもそれぞれが発表者の国や民族の異なる立場に基礎を置いているため、社会的な要素が強く影響してくることはやむをえない。むしろこのような異なる社会のリハビリテーション作業の実態を知らせ合うこと、各国の制約の中でリハビリテーション医の果す役割を話し合うこと、そして世界的な協力が可能かどうかを探ることに意味があると解すべきだろう。

 ワークショップ終了後の医学委員会の内容は、もっぱら1986年マニラで開かれるIRMAに時を同じくして行われる医学委員会のテーマであったが、種々の意見交換のあと、「地域ケアシステム」に主題を置くことに決定された。なお1988年東京で開催される第16回リハビリテーション世界会議のさいに医学委員会として何を行なうかもマニラで討議される予定である。

*帝京大学


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1984年7月(第46号)21頁~23頁

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