特集/地域リハビリテーション WHO報告(要約)障害者の最適な地域ケ

特集/地域リハビリテーション

WHO報告(要約)障害者の最適な地域ケア

Optimum Community Care of Disabled People

抄訳監修 上田敏*

 すでにWHOは、地域中心のリハビリテーションとしてCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)という概念を打ち出し、開発途上国で推進しかなりの成果を得ている。一方、先進諸国においても障害者に対する地域リハビリテーションの重要性が認識されているが、CBRの概念をそのまま先進地域には応用できない。WHOのヨーロッパ地域では、先進地域に於ける地域リハビリテーションのモデルとして、1986年の会議でoptimum community careという概念を検討している。日本における障害者の地域ケアを考える場合にも大いに参考になる考え方であろう。

 WHOヨーロッパ地域会議の報告書からこのoptimum community care(最適な地域ケア)という概念を紹介する。

最適な地域ケア

 リハビリテーションとは、「患者が達成し得る最高の肉体的、精神的および社会的適応力の回復を図ることであり、障害のために生ずる影響を減らし、障害者の最適な社会統合をはかるためのあらゆる手段方法が含まれる」と定義される。しかしこの定義は基本的に哲学的なものであり、いかにこの哲学を実践に移していくかという方策が重要である。

 また、CBRとは、障害者とその家族にセルフケアの訓練を行い、家庭で維持的療法が実行できるようにすることの重要性を認識して作り出された言葉である。すなわち、1960年代から70年代にかけて施設における専門的治療の発展に重点が置かれたことへの反動として生まれたものである。

 CBRは、ケアの基本的な部分を開発途上国に導入することには役立ったが、先進諸国には誤解をももたらした。すでに先進諸国では病院や入所施設などのリハビリテーション施設が、地域の障害者が利用できるサービスの一つとして存在している。このような先進工業国の状況を反映するには、「障害者の最適な地域ケア」という言葉に置き換えるべきである。

本報告の概要

 この報告の目的は、すでに障害をもった人々の直面する問題や障害に対処するためのサービス、機器、設備等に重点をおいたものである。このようなサービスは合理的に展開されることが重要であり、常にニーズを再評価し、現在あるサービスの運用状況を調査した上で発展させていくべきものである。

 本報告で強調したいのは、紹介システムの開発である。特に、専門家だけでなく、障害者本人や、家族親類、ボランティアなどにも利用できる情報サービスの開発が必要である。紹介サービスのルートを誰にでもわかるものにするための第一歩として問題点と解決案のチェックリストを提案している。

歪んだ社会通念

 サービスの実務面を検討する前に、障害者や障害者に関わる人々が日常生活において直面する歪んだ社会通念やジレンマにまず焦点をあてる必要がある。

 障害者は車いすにのっている このような社会通念は仕方が無いことかもしれない。障害者を表す国際シンボルマークは、車いすにのっている人であり、重い障害者の多くが車いすを利用していることも事実である。しかし、重い障害者と非障害者の能力は、ひとつの連続線の両端と考えることができるが、どこで正常が終わり、どこから障害が始まるというようなものではない。障害の中身はそれぞれの状態ごとに異なる。人々に与える認識と障害の状態は違う。例えば、心臓疾患のある人は、普通と変わらないように見えるが、呼吸が苦しいことや狭心症などのため行動が制限されている。他方、脳性麻痺のため極端に変わった歩き方をしながら、ほぼすべての事ができる人もいる。どちらが障害が重いと言えようか。

 障害の評価は容易である 評価が容易である場合もあるが、一般には、障害者の行動に与える心理的、肉体的要因の影響が大きいため、複雑かつ時間のかかる場合が多い。

 障害のことは、専門家に任せておけばよい、あるいは障害者自身に任せておけばよい 専門家の客観的見解というのは、えてして不完全であることが多い。専門家、特に医師は、機能障害(impairment)の判断は正確だが、能力障害(disability)や社会的不利(handicap)となると不正確である。一方障害者の主観的見解は自己の経験に頼り過ぎていて一般論にはなりにくい。専門家と障害者やその団体の意見がそれぞれ取り入れられる必要があるが、交通サービスや情報サービスなど障害者の実際の経験に基づく判断が重要な場合がある。

 プライマリー・ヘルスケア、自立、セルフヘルプは万能、施設ケアは軽蔑すべき 施設を出ての生活を援助することは望ましいことだが、状況によっては病院でのリハビリテーションが必要であり、また社会的要因や個人の選択によって居住施設も必要である。

 リハビリテーションは患者が正常に戻って初めて成功である リハビリテーションプログラムは障害者が新しいより適切なライフスタイルを身につけて、日常生活において最適な安定した状態を得て、社会に再び参加した時に終了する。中には障害を受容できず、そのフラストレーションが態度や動機に影響を及ぼしてしまう人もいる。

 サービスを提供すれば問題は解決する これは問題の枝葉まで十分配慮されているかどうかによる。例えば、外来通院にはすばらしい設備とスタッフだけでは十分でなく、送迎の交通手段も考慮する必要がある。

 地域ケアは施設ケアより経済的 最も安価で費用効率の高いサービスはなにもしないことである。施設ケアに比べて在宅ケアは一見安上りのように見えるが、介護者の負担など計算しなければの話である。費用に関する比較研究は少ない。

 先進諸国と開発途上国と問題は同じである 開発途上国におけるCBRの成功をヨーロッパに移植することも出来ないし、英国や北欧諸国のケア・モデルを他の西欧諸国にそのまま移すことも出来ない。成功した総合的障害者ケアプログラムには、共通の要素もあるが、国によってそれらの要素の比率が違う。

 ジレンマ

 「障害者にとってより良い機会」とはなにか 医療だけでなく、住宅、交通、余暇などの基本的サービス、物理的環境、また一人ひとりの障害者の最良のライフスタイルを可能にするような社会政策が重要である。政府は、障害者の生活の質に重要な基本的サービスや施設の向上のために資金を出すだけでなく、障害者に対する社会の態度を変えるよう努めることもその任務である。

 ケアプログラム全体の中で個々の要素の効果をどう判定するか ケアおよび治療は多数のサービスで構成される。障害者に対する治療やサポートを構成する個々の要素を取り出して個別に効果を検討することは困難である。手術によっては明確な効果が見られるものもあれば、薬物療法など効果がそれほど劇的でないものもある。歴史的に見れば、総合的な治療の進歩が脳性麻痺や切断者の罹病率を減少させている。一方あまり効果のない温熱などの治療も、治療を受けているという事実が障害者とその家族に効果をもたらすこともある。

 現在行われている多くの治療の効果を疑ってみることも必要であるが、個々には効果の無い治療でも害はないことを心に留意すべきである。患者の健康を維持するために普通行われている治療は、通常、効果のある積極的な治療であるよりも、否定的要素、つまり退屈とか社会的孤立、欲求不満などを取り除くことに重点がある。このような治療の効果をはかる問題は、後述の問題を片付けてはじめて論じることができよう。

 能力障害(disability)と社会的不利(handicap)をどのように評価するか 病院から退院する時の、あるいは在宅の人々の評価は、多面的でかつ個々のニーズに応じるものでなければならない。残念ながら今のところ限られた時間内に多面的に機能を評価できる簡単で信頼性のある有効な評価法で、国際比較調査に利用できるようなものはない。WHOの「国際障害分類」は現在人口調査には使われ始めているが、WHOは国際分類に対する批判に耳を傾け、能力障害と社会的不利とその影響の評価について基準を開発すべきである。

 通常集められている例えば伝染病に関する統計などには、障害をもつ前の年数と障害者になってからの年数についての情報はない。障害は、本人にも社会にも経済的負担を累積していく。この事はやっと最近になって理解されるようになったことだが、適切な評価法があれば、障害に対する資源の配分についてもっと客観的な論議ができるようになろう。全ヨーロッパのそれぞれの社会ごとに能力障害と社会的不利の疫学を明らかにすることが重要な前提条件である。

 障害の管理における医師の役割は 疾患や機能障害の管理において医師が重要な役割をはたすことには異論はないが、能力障害の管理における医師の役割はあまり明確でない。能力障害の効果的管理には、多様な専門家チームが必要である。伝統的に病院では医師がチームのリーダーであるが、病院勤務の医師の多くは、急性の医学的、外科的問題に追われて、能力障害の管理で調整役を勤めることにはあまり興味を示さない。施設によっては、また地域では、調整役を他の専門職が引き受ける事もある。障害者にとっては、サービスが調整されて最適のケアが提供されることが不可欠であり、チームリーダーの専門は二次的な問題である。

 しかし、北欧諸国ではすべての医師は自己の患者のケアに責任を持つべきであり、これには疾患や機能障害の直接的徴候だけでなく能力障害や社会的不利も含まれるというコンセンサスが生まれている。地域では、開業医が一番利用しやすい抵抗の少ない最も効率的な紹介システムの窓口として重要な役割を果している。従来の保健ケアシステムだけでなく社会サービスや他の団体の提供するケアを受けるにも、開業医が窓口となっている。病院では、専従のリハビリテーション医のポストが急激に増える見通しはないが、地域のリハビリテーションの導入と開発に責任を持つ障害医学専門家が、他の医学分野と兼務するような形で任命されるようになろう。

 すなわち、医師は障害管理の役割を担っており、医学部や大学院のカリキュラムでも障害管理を重視せねばならない。

 障害者のケアにあたる人のストレスは 在宅障害者のケアにあたる人、ほとんどが女性だがそのストレスについては近年ようやく注目されるようになり、金銭的、実務的援助が考慮されるようになってきた。

 家族構造の変化は、将来の援助のニーズに影響を与えよう。家族の結合は、地域によって違いがある。離婚の増加による不完全家庭の増加、三世代家族の減少、婦人労働の増加は、家族がもはやかつての機能を有しないことを意味している。一方、ヨーロッパ内のいろいろな地域で障害を持つ家族、特に高齢の親のために出来るだけのことをしたいという家族も多数みられる。しかし、そこでも、失禁、移動困難などの問題に直面し、特に行動上の問題を持つ家族の世話は、世話をする人にとって重荷である。この分野のケアについては詳細な研究が必要である。

障害者ケアの技術、補助機器、サービス

 治療技術 受身の治療としては、投薬、理学療法士による温熱療法などがあるが、治療技術の多くは積極的治療であり、障害者にいかにすれば最低限の援助でうまく活動ができるかを教えることが目的である。例えば筋力を強化し関節の可動域を広げるための運動、特定の状況に対する不安を解消するための行動修正、高性能な機器の利用技術の習得などである。最も有効な治療は、障害者が将来自立できるよう教育することである。教育にあたる人が有能で訓練が十分であると仮定するなら、成功するか否かは障害者自身の学習能力と身体能力によって決まる。したがって、知的障害を持つ場合は特に難しい。

 介助を永続的に必要とするような重度障害者の場合、障害への対応に問題があり社会的問題も抱えて、ずっと専門家の援助を必要とすることが多い。社会参加を図るためには日常生活が出来るだけでなく、人との交わりができ、意志決定と選択が出来ることが重要である。心理的問題を抱える人の場合特に困難となる点である。

 補助機器 補助機器の種類は多様であり、シンプルな物から環境制御装置のような複雑で大掛かりな機器までさまざまである。機器の分類システムが開発されており、ノルディック分類システムもその一つである。障害者が適切な機器を選択する場として、補助機器展示センターが発達した。障害者のための情報サービスも設立されているが、その主な機能は補助機器について総合的な情報を提供することである。コンピュータによる情報提供も行われており、国境を越えたシステムができるのも間近である。ECでは、Hndinet systemを開発している。

 専門職 総合的リハビリテーションの評価と処遇に関わる専門職は20種以上ある。通常は一人の障害者にこのうちの一部が関わるのだが、重度の障害者の場合などは多数の専門職が関わり、患者にとっては誰が何を担当しているかわからず治療の目的も理解できなくなる。ひとりの患者を担当する多数の専門職が会議を持ち、役割の調整を図ることが必要であり、これは患者のためばかりでなく、チームの技量の互いの向上にも役立つ。

 これが専門職の多様化により生じた専門職間の障壁をくずす一つの方法となっているが、また学部および大学院レベルで多専門訓練コースも試みられている。障害の管理についてほとんど訓練を受けていない専門職に総合的ケアの知識を普及するための重要なコースである。パラメディカルの多様な専門職がない国では、さまざまな専門に関する基礎知識を持った「多目的」治療士を養成することによってケアのある面を単純化出来るであろう。

 多専門職によるアプローチは、上述のような欠点もあるが障害者に対するさまざまなサービス間の相互関係を特に重視している。

サービス

(1) 専門的サービスと一般的サービス 

 多くのサービスはますます専門化している。特に医療は体の器官ごとに専門化して、専門家のヒエラルキーによって運営される垂直的組織になっている。一方、障害者の地域での生活を支えるサービスは専門的でなく障害者が誰でも利用できるものであり、サービスは水平的に組織されている。このような一般的サービスには、華やかな高度技術を駆使したケアにみられるような権威もない。障害者はこのような異なるアプローチのケアの真中に置かれている。病気が完治しないとわかるとたいていの人は医学の技術的アプローチに関心を失い、問題克服のための他の方法に関心を移す。障害者やその団体が水平的に組織されたサービス、すなわち能力障害や社会的不利を最小にするために必要な社会的、技術的、行政的、インフラストラクチャの改善を広く支持するのもそのためである。医学の伝統に対するこのような異論は各国で明白なものとなってきており、医師がこのような主張に留意を怠れば一般の支持を失うことになろう。

(2) 国、地方、自治体のサービス

 一部の特定の状況にある障害者のための施設を除き、大半は自治体レベルで運営される。このうちデイ・ホスピタルは入院患者に対するサービスと同じ種類の専門サービスが専門職によって行われる。目的は、障害を伴う傷病に改善がみられた患者の治療を在宅でも行えるようにして、早期退院を促す。第二に、親族にかかる負担を軽減したり、障害者の入浴などの面で個別に貢献することによって、重度障害者の生活を援助する支援的な役割を果す。これに対してデイ・センターは、一般にデイ・ホスピタルに通う障害者よりも軽度の障害者に対して、社会的な役割を果すという色彩が強い。

(3) 教育サービス

 障害別ニーズに対応するために専門分化している学校もあり、また重度障害者の教育には教師、理学療法士、言語治療士、バイオエンジニア、医師の協力がほとんどの国で行われている。障害のスクリーニングの制度も各国で確立している。また卒業後の継続的指導も必要となっている。

(4) 職業リハビリテーション

 職業評価、訓練、再訓練などの技術が開発されてきているが、対象となる障害者の変化、経済状況の変化により、このケアの分野も急速に変化しつつある。

(5) 住宅、レジャー、交通

 障害者用に改造された住宅や、保護住宅(必要なときは、管理人を呼ぶことができる)などが障害者のコミュニティー・ケアに貢献している。レジャー施設の改善も一部で行われている。交通面では、バスの改造、ミニバスの運行、個別交通サービスなどが地域によって実施されているが、救急車以外はどこでも利用できるという性格のものではない。これらのニーズは、今後の対応が必要である。

(6) サービスの活用

 サービスの活用度は患者グループにより、需要により異なる。多くのサービスは需要に十分対応できないため、通常、患者選択のガイドラインを持つ。一般に、プログラムの効果が確実な患者が優先される。したがって、従順な患者より、難しかったり、非協力的だったりする患者がまず弾き出される。病院、デイ・ホスピタル、デイ・センターなどを利用した後、社会への統合を目標とする臨床的リハビリテーションが進み、新しい生活スタイルに適応すると、ケアスタッフ、諸サービス、機器などへの依存が減る可能性がある。多くの障害者は、回復がプラトー(高原)状態に達した時点で、適当な時期に個々のサービスから離れる。この時点で次のサービスへの紹介が行われる場合もあるが、障害者自ら次の方策を選択することはまれで、大半はサービスシステムへの参加を単に止めてしまう。そして、ホームヘルパーや個人的ケアネットワークの支援に頼ることになる。住宅、交通、雇用は、需要と供給がアンバランスであり、障害者にとって優先すべき事項である。

 さまざまなサービスの提供についての責任が異なる機関に分化していることが、障害者のケアを改良するための大きな障害となっている。当面はこのサービス提供機関が分化している状況に対応して、障害者が利用できるような方策を考えねばならない。

 

 障害者のためにいかにシステムを機能させるか

 専門職がいかにサービスが機能しているかを知らねばならない 障害者のケアに関わる専門職はコミュニティ内で利用できるサービスや施設について、提供者の氏名住所を含めた一覧表を作成し、またサービスがいかに運営されているかを知るためにあらゆる努力を払うべきである。それぞれのサービスを担当する責任者と個人的に連絡を持つことが最大の利益につながる。

 効果的紹介システムの開発 複雑なサービスの迷路の中でも患者をうまく案内できる卓越した経験を有する専門職にしても、患者の抱える問題によっては解決が難しい。それぞれのサービスに従事する人々の間に効果的な紹介システムを開発すれば、これらの施設の連携を図って総合的ケアプログラムを提供することも容易になるはずである。それぞれのサービスによって、紹介の受け入れの方式が違うので、一覧表には書式による要請が必要か、非公式の文書でよいか、電話がよいかなども載せておく必要がある。紹介を行うときは、患者とその抱える問題やニーズについて適切な情報を口頭または文書で添えるべきである。

 一方、たいていの障害者は経験のある専門職と定期的に連絡があるわけではない。彼らが、自分の問題を解決するために利用できる施設の情報を自分で入手出来るようにするために、情報は彼等が利用できる形でも用意する必要がある。

 サービスに関する知識の改善と情報システムの開発 専門職が障害者や家族に助言、カウンセリングを行うときには、図入りのパンフレットや小冊子が大変有効である。全国的なあるいは障害者生活センターと提携した総合情報サービスも特殊な問題を抱える障害者にとっては重要な情報源となる。マスメディアや、コンピュータ・システムによる情報提供はまだ開発途上である。このような方法で障害者や非専門職に直接間接に情報を提供することができる。

 情報不足よりも情報過多により、問題の適切な解決策の選択が難しいことが多い。問題と可能な解決策を体系的に結びつける方法として、チェックリストが考えられる。リストの左欄には障害者の遭遇するであろう問題を、右欄には困難を軽減する解決方法を記入し、解決方法にはコード番号をつける。コード番号によって、サービス提供者が一欄表から確認できる。二つの問題に限って例を表に示した。専門職あるいはボランティア団体や障害者情報サービス機関が各地域のサービスに沿ったチェックリストを作るべきである。普遍的原則はあるが、詳細な部分は地域の状況によって変わってくる。このようなリストが広く作られるようになると、国内あるいは国を越えて地域によって利用できるサービスに違いがあることも明らかになる。またその地域に必要なサービスを明らかにする道具としても役立ち一般的なサービス改善の刺激剤ともなる。

 

表 予想される問題とサービスのチェックリストのサンプル
問題 サービスと援助
移動
薬物療法(1)※
理学療法(2)
移動補助具(2)
義肢(3)
装具(3)
車椅子(4)
電動車椅子(4)
自動車改造(5)
公共交通、バス(6)、電車(7)、航空(8)
特別交通サービス(9、10、11)
住宅改造(13、住宅の項参照)
金銭給付(14、補助金の項参照)
雇用
就労可能性の評価
 身体的(33)
 心理的(34)
 多面的(35)
 再訓練コース、手工(36)
 教育(37)
 職場の改善(38)
 雇用主への財政援助(39、補助金の項参照)
 就労者への財政援助(38)
 通勤援助(交通の項参照)
 雇用援助機関(35、40)
 保護雇用(41)
 家庭内雇用(42)

※番号は地域の障害者向けサービスの一覧表のサービス提供者の指名住所と対応している

 サービス利用の調整 リハビリテーションの成功には各セクターの多様な専門家の間の調整が重要な鍵となる。理想的には、個々の障害者についてその経過と問題を定期的に検討する会議を持つべきである。その中で障害者自身や家族の見解が重要な役割を果たす。実際には障害者が可能性を最大限に達成したと思われる段階で、適切な援助をえて満足しているようなら、ケアプログラムの専門職による調整は終了する。

 既存プログラムの効果並びに有効性のモニター 既存のプログラムの再評価は重要である。補助機器は、多くの国で終身貸与されているが、もし有効な在庫、配布、回収、そして定期的な再評価がなされれば費用対効果のあるサービスとなる。しかし国によっては、補助機器の種類によって提供機関が違う。これは障害者には混乱を生じ、自治体は無駄に重複したサービスを行なう。原則として補助機器は分かりやすい一か所で提供されるべきで、費用負担の行政上の区分などの問題は提供機関が決着をつければ良いことである。これは、障害者を対象とした全サービスの提供機関を各コミュニティ内で一か所にするというゴールに向けての一歩である。

 今後の動向

 調査研究 障害者の問題に関する調査研究がもっと必要であることは疑いない。短期、中期的には、特定の疾病による障害の発生率に関する相当大規模のデータベースが開発されるであろう。それにはツールの開発が必要であるが、その検討は本論の範囲を越える。しかし、日常生活動作の多くの指標の中でどれを用いるかについて緊急の合意が必要である。ツールは単純で、信頼性があり有効でなければならない。個々の患者の評価には十分でなくとも、多数の障害者の中の傾向を調査するのに適切でなければならない。WHOの国際障害分類のdisability codeは評価用の基準というよりも分類であって、今の形ではこのニーズに応じることは難しい。disabilityだけでなくhandicapについても測定法、さらにケアプログラムの成果を評価する測定法の開発が必要である。成果はその人の社会参加のレベルを左右する身体的、心理的、社会的多くの要因の相互作用の結果であるという前述の定義を採用するなら、社会参加の成果、すなわち障害者が出来るであろう可能性でなく実際にしていることを、依存性、目的のある活動(仕事でも余暇でも)、社会統合、および機能障害(impairment)の生活スタイルへの影響を測定することによって評価することができる。このように定義された成果は、能力障害(disability)の評価の大部分と社会的不利(handicap)と定義される概念のある部分を含む。

 経済面の考察 障害は、当人にとっても社会全体にとっても大変高くつくことは知られている。このことは障害者に対する政策に重要な意味を持ち、ケア体制の種類の選択と財政負担の関係についての適切な調査の結果について高い関心がよせられる。多くの障害者が受ける援助のレベルに関して限られた選択しかもたない。居住施設によるケアが唯一の選択である患者もあるが、実際はほとんどの重度の障害者は在宅でやっていくことができる。ただしこの場合家族、友人、および地域の支援サービスに相当の負担を強いる。軽い障害の場合でも、入所などを勧められることがあるが選択には直接、間接にそのプログラムの費用が影響を与える。

 サービスの運用に関する研究も重要である。基礎的科学的研究のもつ魅力には欠けるが、障害者の生活の向上には大切なことで、かなり知的、実務的力を必要とする。

 既存のサービスや新しいサービスのための財源をさらに求めていく必要がある。保険会社はすでに特定の障害者(労働災害、交通事故などによる)のケアに貢献しており、給付を受けている障害者へのケアの改善、例えばこれらの障害者へのサービスのコーディネーターに費用を払うなどの改善を行う用意もあるようである。

 サービスの開発や運用は一般にサービスの改善と効率的運用を目指して行われるが、その責任は時によって政府や民間団体の間を行き来する。組織やサービスの配分方法を簡略化する動きは歓迎されるが、これはサービスの運営に十分な資源が提供されて初めて効果があるものである。したがってサービスの提供方法の変更の影響も注意深く監視する必要がある。

 雇用 雇用リハビリテーションは特別な試練と困難に直面している。予想される雇用の形態の変化は、重大な影響を及ぼす。例えばパート労働が一般化することの障害者雇用に対する影響、失業率の変化などがあげられる。

 特別なサービス 特殊なカテゴリーに属する障害に対処するには、特別なサービスが求められる。現時点で最も困難な領域は、高齢者と脳損傷者のケアの問題である。痴呆高齢者のケアの整備も、今後保険その他のサービスに特殊な問題をもたらすことになろう。高齢者のケア、運動障害者、脳損傷と脳障害に対する対処についてのガイドラインの開発が必要である。

 勧告 省略

*東京大学教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年6月(第64号)8頁~15頁

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