特集/アクセスと福祉機器 ICTA委員会の活動

特集/アクセスと福祉機器

ICTA委員会の活動

―国際アクセス・技術委員会―

Bastian Treffers**

 ICTAは、どこにでも?

 私は、1988年東京のRI総会でICTA委員会委員長に選出されましたが、その時、新宿の京王プラザホテルに滞在していました。新宿にはレストランやパブが沢山あるのですが、車いすを利用している私にとっては、食べたり飲んだり楽しんだりできる場所に出入りすることはかなりの難題でした。きっと日本の車いす利用者の方々も同じ経験をされていることでしょう。さて、読者の皆さんはここまでの話が、ICTA委員会の役割の紹介かと思われたかもしれませんが、違います。障害を持つ人々は、視覚障害、音が聞こえない、難聴、肢体不自由であるといったその持つ障害には関わりなく、雇用、文化的生活、余暇、人との交流で、他の人と同じようにしたいのです。これが、インテグレーション、すなわち世界中の何百万という障害を持つ人々や、障害者団体が目標としていることの一つ、インテグレーションに、要約される概念です。

 ICTA委員会は、RIの専門委員会の一つであり、補助機器、アクセス、建物、交通に関する世界レベルでの障害者の取り組みです。この仕事は「技術とアクセス(TechnologyとAccessibility)」と要約されます。ICTA委員会は地域委員会が設けられており、アジア太平洋地域、ヨーロッパ地域、東欧地域、アメリカ、アフリカの各地域委員会ごとに、建物、交通機関及び情報へのアクセスや福祉機器の供給などの問題に取り組んでいます。

 委員は、1989年の活動報告によれば世界に110名です。委員会の活動は、二段階ロケットにたとえることができます。第一段階は、建物や環境を、障害を持つ人々が非障害者と同じように利用し、活躍できるように変えていくよう働きかけていくことです。第二段階は、人々の障害を可能な限り完全に補うような補助機器の開発、生産、供給を進めていくことです。補助機器には、機能的障害を補う道具のすべてが含まれ、大きく次の三種類に分類されます。

1.身体の機能を補完するもの、義手、義足、カリパス、副木、整形外科的補装具、眼鏡、補聴器、車いす。

2.身体の機能を間接的に補助するもの、飲食、衣類の着脱、身辺衛生、歩行、読書、書くことなどを補助する機器。

3a.ミクロの社会環境のインフラストラクチャア、すなわちトイレ、台所の改造、自宅や職場における移動を容易にする機器。

3b.マクロの社会環境の構造、すなわち公共建築物、公共交通機関、音声信号機などの改良。

 注目を集めている当委員会の活動の一つに、『国際シンボルマーク』があります。1969年にRIが採択したもので、白地にブルーで車いす利用者を図案化したものが一般的です。(またはブルー地に白)。1990年11月のICTA委員会で採択された『国際シンボルマークの使用に関するガイドライン』には、次のように述べられています。

(1)すべての国は、建築環境や施設を障害を持つ人々が利用できるようにすることを目標にしなければならない。

(4)この目標を達成するために建築物の最低基準は下記の通りであるべきである。

(4.1)建物へのアプローチに障害がないこと。

(4.2)入り口がアクセシブルであること。

(4.3)施設がアクセシブルであり、利用可能であること。

(4.4)トイレがアクセシブルであること。

このガイドラインは、山内繁ICTA委員の協力により、日本語でも翻訳発行されることになっています。

 ICTA委員会の活動として、『アクセシビリティに関するヨーロッパ・マニュアル』の作成にも寄与しました。これは、EC加盟12カ国の建築法規を調和させることを目標としていますが、文化的背景、地理的環境、経済水準が違う12カ国です。大変な事業です。

 開発途上国の障害者の状況にも重大な関心を持っています。第二、第三世界の両方です。1975年に世界で様々な種類、程度の障害に悩む人は4億9,000万人(世界総人口の12.3%)でした。2000年までには、8億4,600万人(13.3%)に達すると推定されています。1975年には障害者の75%が開発途上国に住んでいましたが、2000年には世界の障害者の80%(!)以上が開発途上国の住人であろうと言われています。ICTA委員会は、開発途上国がいわゆる「適切な技術」を築くよう支援していくためキャンペーンをはじめています。「適切な技術」とは、「それぞれの社会経済的および文化的状況のなかで障害者の機能の補完に利用できるすべての技術」と定義することができます。これは西洋諸国、金持ちへの依存を最小限にするためでもあります。このためには、多額の資金の調達が必要であり、オランダでまず始めています。

 1988年に東京で決定したICTAの活動計画の最後の項目は、「補助機器の情報サービス」を確立することでした。補助機器の情報サービスの問題、すなわち情報のギャップという問題を解決するためには、多様な問題や様々な状況に直面しなければなりません。環境、社会的状況、インフラストラクチュアの状況に応じた多様な情報提供の方法を編み出さなければならないと思います。補助機器に関する情報の交換と普及に関して、ICTA委員会の役割は組織間、国際間をつなぐ掛け橋の役を果たすことです。障害を持つ人々の立場に立ったRIのような国際組織の役割は重要です。

締括りに、俳句をオランダから一句、

access to the geisha's
guesthouse is attractive
wheelchair is getting wings.

(日本の芸者さんに会いたいけれどアクセスが、羽根付き車いすなら)

Rehabilitation International(RI)国際リハビリテーション協会の専門委員会のひとつ。
 ICTAは、International Committee on Technology and Accessの略。
**RI―ICTA委員会委員長、オランダ障害者協議会
***日本障害者リハビリテーション協会訳


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年3月(第67号)30頁・31頁

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