特集/アクセスと福祉機器 香港理工学院、リハビリテーション工学センターと福祉機器センター

特集/アクセスと福祉機器

香港理工学院、リハビリテーション工学センターと福祉機器センター

山内繁

 香港理工学院(Hong Kong Polytechnic)にこのほどリハビリテーション工学センターならびに福祉機器センターが開設され、1990年10月19日に合同開所式が催された。

 リハビリテーション工学センターは、1987年にジョッキークラブの寄付によって設立されていたものであり、福祉機器センターは、香港リハビリテーション協会の組織として1978年に設立された後、ロータリークラブの寄付などによって順次拡張されてきたものであるが、ジョッキークラブの寄付によって、香港理工学院に両者のための建物が完成し、上記合同開所式を迎えることになったものである。

 この両者は、目的、活動それぞれ独自のものを有しているが、同じ建物で活動することによって、より緊密な協力が期待されており、香港に特有の福祉機器サービスの展開も予想される。

リハビリテーション工学センター

 1987年の設立以来、ジョン・エバンス教授が運営にあたっており、コミュニケーション機器、移動用機器、日常生活用品等の福祉機器、治療評価用機器の開発の他、バイオメカニクス、電気刺激等の研究が行われている。香港理工学院の他の学科から修士レベルの学生を受け入れた教育にもあたっており、PT、OTの研修会も開催している。また、1992年には義肢装具のコースを設置する予定である。

 設立の経過からも分かるように、香港の地域社会におけるリハビリテーションに貢献することが求められているため、日本では容易に購入できる機器の開発も見られるが、独自の機器開発も進めている。興味深かったのは、車いすをエスカレータに載せるための器具の開発であった。車いすを簡単に改造することによって安全にエスカレータで昇降できるようにしようとするものであり、実用化のためにはさらに改良が必要であるが、機構的にはかなりの工夫が見られた。アクセス可能なエレベータがあれば危険性の高いエスカレータに乗る必要はないと考えることもできるが、移動の自由を拡張するための一つの試みとして興味があった。

 情報サービスとして、大学の計算機センターのVAXに福祉機器データベースを構築しており、電話回線を使って2400ボーでアクセスでき、使用料は無料である。集録されているのは香港で生産されている福祉機器の最新の情報であり、専門職員に情報提供することを目的としている。残念ながら短い見学時間でデモンストレーションを見る機会はなかったが、日本における情報サービスのあり方と考え併せて注目してよい仕事であると感じた。

 設立以来3年余りであることを考えると、かなり勢力的に活動してきたものと推察され、近い外国でのリハビリテーション工学の活動として、今後とも連絡をとり合って協力してゆきたいと感じた。

福祉機器センター(RehabAid Center)

 イギリスの障害者生活財団の福祉機器センターをモデルとして開設されたものであって、1978年以来、アン・マーデン女史の指導の下に運営されてきており、今回の新しい施設での開所を契機に一段と機能の強化がはかられた模様である。

 主要な業務は、香港で入手可能なすべての機器の展示(それぞれに定価が表示されている)と障害者の試用、適合の必要なものについてはその助言等であり、障害者が単独で来所するよりは、OT等の専門職員とともに来所することを想定しているとのことであった。

 このように、入手可能なすべての補装具、日常生活用品を障害者が直ちに手に触れてみれるように集めた福祉機器情報センターは、香港のように小さい地域だから可能であろうが、我が国では困難であろうと感じた。

 情報サービスとしては、リハビリテーション関連の図書をそろえており、その貸し出しも行っている。

 このセンターの業務のうち、我が国であまり普及していないのが巡回サービスである。1988年にロータリークラブの寄付によってバンを購入し、これに関連資料、福祉機器などを載せ、専門職員(OTあるいは建築家)が同行して訪問サービスを行うものである。持参する機器は予め訪問先の状況を聞いた上で選択するとのことであった。

 現状では、主として施設の訪問に重点がおかれているが、既にもう一台のバンが注文済みなので、近々に障害者の家庭を直接訪問するサービスも開始できるそうである。

 以上のように、福祉機器センターのサービスは、小まわりの利く運営がなされており、我が国も学ぶべき点が多いと感じた。

 以上、香港理工学院に新設された福祉機器関連施設を紹介した。香港は飛行機で4時間程の近い外国であり、新興工業国として我が国とのなじみも深い国であるので、今後も情報交換をはじめ交流を深め、互いに学んでゆく必要があろう。

国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年3月(第67号)32頁・33頁

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