●報告 アメリカの障害者の概要

●報告

アメリカの障害者の概要

―Chartbook on Disability in the United Statesから―

谷口明広
中島和**

 1989年、アメリカ教育省から出版されたChartbook on Disability in the United Statesは、全米の障害者に関する統計を、質問に答えるというわかりやすい形で紹介している。同書は、1.障害を持つ人達の数、2.障害を持つ人達の特性、3.障害の原因、4.高年者と児童・青年の状況、5.労働と障害 の5項目に大別して、各項目ごとに数種類の関連質問が用意されている。

 この中から興味深いものを選出してみていくことにしよう。

 なお、この書では障害(disability)の定義として、WHOの定義すなわち、「障害(disability)とは、人間として普通とみなされる範囲の活動を、普通のやり方で行う能力が(impairmentのために)制約されているもしくは欠けていること」という定義を用いている。

1.障害を持つ人達の数

 (障害によって)行動に制約を受けている人は何人いますか?

 7人に1人です。病院や施設で生活している人を除いたアメリカ在住者23,150万人の14.1%3,250万人が行動に制約を受けている。このうち、「主要な行動」ができない人が880万人、「主要な行動」のうちできる種類や量が限られている人は1,360万人、「主要な行動」以外の行動に制約のある人が1,010万人である。

 ここでいう「主要な行動」とは年齢によって分けられている。

70才以上 他者からの援助を受けないで、身の回りのこと(入浴、食事、衣服の着脱、家の内外の移動)および家の用事(家事、買い物、用事での外出など)ができる。
18才から69才 労働と家の用事
5才から17才 通学
5才以下 遊び

 (障害のために)身体機能が制約されている人は何人くらいいますか?

 15才以上の5人に1人です。在宅のアメリカ在住者のうち身体機能が制約されている人は、3,730万人、20.60%である。制約されている機能の内訳は(重複者を含む)

ベッドからの出入り 210万人
家の中の移動 250万人
言語 250万人
家の周囲を歩く 600万人
普通の会話の聞き取り 770万人
新聞を読む 1,280万人
階段を上る 1,810万人
450gのバッグを持ち歩く 1,820万人
400m歩く 1,920万人

一つの機能を全くできない、もしくは他者の援助を必要とする場合を「著しい機能制約」とすると、1,350万人(7.5%)が著しく身体機能を制約されている。

 日常生活に援助を必要とする人は、何人ですか?

 15才以上の在宅者の約4%です。日常生活をADL(入浴、衣服の着脱、食事、歩行、その他の身の回りの活動)とIADL(食事の支度、買い物、電話、洗濯、その他自立生活を営むために必要な活動)に分けると、IADLのみに援助を必要とする人が500万人以上、ADLにも援助を必要とする人は250万人となっている。

 精神発達遅滞者は何人くらいですか?

 精神発達遅滞者の数をとらえることは困難なため、合意を得られる数字はでていない。年齢により、定義により推定値も総人口の0.67%から3%と幅があるが、およそ1%(200万人から250万人)といわれている。

IQ51から70の軽度の遅滞者が全体の約90%を占めている。

 精神障害者は何人くらいですか?

 3人に1人が一度は精神を患ったことがあります。精神障害は定義が困難であり、また精神を患う期間も多様であるため、精神障害者の数を調べることは大変難しい。全米5カ所で、在宅の18才以上の人についてある1カ月について調べたところ、15.4%に精神の障害がみられた。また、過去6カ月間では19.1%、生まれてから一度でも精神を患ったことのある人は、32.2%であった。

2.障害を持つ人達の特性

 年齢による行動制約や機能制約の変化はみられますか?

 行動、身体機能とも年齢と共に制約を受ける人の数が増加している。特に、75才以上になると72.5%の人に、身体機能の制約があり、中でも41.2%の者が著しい制約を受けているという高い値を示している。

 性別によって障害による制約を受けている人数に差がありますか?

 在宅で暮らしている男性、11,180万人の中で行動に制約のある人は13.6%、女性11,980万人の中では14.5%である。年齢によってこの値は違っている。

表 年齢別行動に制約のある人の数
年齢 女性% 男性%

 ~5

2.0 2.5
5~17 5.1 7.3
18~24 5.2 6.3
25~44 9.5 9.8
45~64 24.5 22.8
65~69 39.1 41.0
70~74 32.8 34.3
75~84 41.2 38.3

85~

60.3 55.3

 人種や民族によるADLの援助に関するニーズに相違がみられますか?

 行動制約のある人の数やADLに援助を必要とする人の数について、人種や民族による有意な差がみられる。行動制約のある人の数が一番多いのは、Naitive Americans(他大陸から移民が来る前から北アメリカ大陸に住んでいた人々)(17.8%)、次が非ラテンアメリカ系黒人、非ラテンアメリカ系白人、ラテンアメリカ系黒人、ラテンアメリカ系白人と続き、一番少ないのはアジア系・太平洋諸島人(6.5%)となっている。

 家族の所得と、行動制約に関連がありますか?

 行動制約と家族の所得との間には、明らかに関連性がみられる。障害を受けたことによって、所得が減るということがしばしば起こる。低所得家族(年間所得1万ドル以下)の成員中、概算して25.3%(850万人)が行動制約を受けている。これに対して年間所得が3万5,000ドル以上の家族の成員で、行動制約を受けている者はわずか8.8%(550万人)である。

 教育程度は行動制約の発生に関係しますか?

 学校教育を8年間以下しか受けていない18才以上の者は、それ以上の教育を受けた者よりも行動制約を受けている人が多いという結果が出ている。8年間以下しか教育を受けていない者(2,020万人)のうち行動制約のない人が62.0%であるのに対して、16年間以上の教育を受けている者(2,780万人)のうち行動制約のない人は89.5%である。

 障害を持つ人達に地域差はみられますか?

 行動制約を受けている人達は、アメリカ全土に住んでいるが、南部(15.1%)や中部(14.4%)の方が、北部(12.7%)や西部(12.7%)よりもわずかに多い。都市部の方が、その他の地域よりも少ないという数字もある。

 病院や施設で生活している障害を持つ人の数は?

 約200万人が病院や施設で生活している。ナーシングホーム(療護施設)130万人、精神病院25万人、精神発達遅滞者施設25.2万人、居住型施設(高齢者と精神遅滞者向け)17.2万人となっている。

3.障害を持つに至った原因

 行動の制約を生む原因となる慢性的な健康障害は?

 慢性的な健康障害が行動に制約をもたらす原因になる。おもな原因となる健康障害には、多発性硬化症(この症状にある77.0%の者が行動の制約を受けている)四肢の麻痺(65.7%)、気腫(48.2%)、椎間板疾患(45.9%)、てんかん(42.8%)などがある。

 最も一般的な慢性的健康障害は?

 最も多い慢性的健康障害が必ずしも障害の原因となっているわけではないが、1000人に対する発生率は、慢性脊椎湾曲症(137.7人)、関節炎(122.8人)、高血圧症(112.6人)、変形および身体的欠損(83.9人)、聴覚障害(80.0人)となっている。

 傷害が障害の原因となりますか?

 傷害により、身体にimpairment(機能不全)を得た人々1,480万人のうち、52.1%が行動の制約を受けている。24.3%が、「主要な行動」に制約があり、15.3%は全く「主要な行動」ができず、12.5%が主要でない行動に支障がある。傷害によるimpairmentのうち、70%が変形もしくは整形外科的障害である。

4.高年者と児童、青年の状況

 行動の制約を受けている高年者は何人ですか?

 老人は、特に行動制約を受けやすいという結果が得られている。45才以下の人達は10%以下しか行動制約を受けていないのとは対照的に、65才以上の人では39.6%が行動の制約を受けている。身体機能の制約に関しても同様に65才以上では半数を超える(58.5%)者が制約を受けていると答えている。

 ADLに援助を必要としている高年者の数は?

 ADLに関する援助を必要とする者の割合を年齢別にみると、84才以下では10%に満たないが、85才を超えると急に19.1%に上昇する。

 IADLに関して援助を必要とする人は、74才以下の年代では10%に達しないが、75才から84才では14.7%、85才以上では27.0%となる。

 行動に制約を受けている児童の数は?

 320万人以上の児童が、行動に制約を受けている。これは、全児童数の5.1%にあたる。主要な行動(遊ぶ、学校に行く)以外の行動に制約がある児童がおよそ1.5%、主要な行動に制約のある児童が3.2%、そして、まったく遊ぶことも、学校に行くことも出来ない児童は0.4%となっている。また男子のほうが女子よりも行動に関する制約を受けているという結果もでている。(5.9%と4.2%)

 性別、人種、民族、所得が行動に制約を受ける児童の数に影響を与えていますか?

 児童(18才以下)が、次のどちらかに該当する場合、障害を持つと定義される。①走る、歩くもしくは遊ぶという能力に制約を受ける状態が、長期で継続的である。もしくは②学んだり、通常の学校生活を営む能力に制約を及ぼすような精神的、もしくは情緒的問題が長期で継続的である。

 この定義によると、全米で約200万人(18才以下人口の3.1%)の児童が、身体的、精神的もしくは情緒的障害を持っている。これらの制約を受けている児童の中では、女の子に比べて男の子が、白人に比べて黒人が高い値を示している。月収の低い世帯に属している児童は、高所得世帯に属している児童よりも制約を受けている。

 何人の児童および青年が特殊教育を受けていますか?

 アメリカ合衆国(島を含む)において、3才から21才までの440万人の障害児・者が障害者教育法(Education of the Handicapped Act,EHA―B)と教育の合併と改良に関する法律(Education Consolidation and Improvement Act)の第一章、障害者プログラム(State Operated Programs,ECIA―SOP)によるサービスを受けている。

 EHA―Bは全障害児に対して無料で適切な教育を保証し、固有のニーズに応じた特殊教育と関連サービスを強調しており、3才から21才を対象としている。ECIA―SOPは州機関により運営されるプログラムに参加する障害児・者に対する助成を規定しており、誕生から21才までが対象である。

 連邦の特殊教育プログラムを受けている障害児・者のうち43.6%が学習障害、25.8%が言語障害、15.0%が精神発達遅滞、8.7%が情緒障害となっている。一方、身体障害は1.3%、視覚障害は0.6%、になっている。しかし年齢グループによって、上記の割合は異なっており、3才から5才までは69%が言語障害であるのに対し、12才から17才までは60%が学習障害であり、18才から21才までは44%が学習障害、35%が精神発達遅滞となっている。

 障害児・者はどこで学んでいますか?

 26%が通常クラスの中で特殊教育サービスを受けており、41%はリソース・ルームを利用している。24%は普通校の中の特別クラスで、8%が特殊な施設や、居住型施設、病院などである。

5.労働と障害

 労働障害に関しては、調査が容易な年齢集団を対象としており、測るべき能力も特定されている(労働能力)ため、数の把握が他の場合に比べて容易である。

 労働障害を持っている人の数は?

 病院や施設で生活をしている人を除いた労働障害を持つ人の数は、1,330万人と概算されている。この数字は、全労働年齢人口(16才から64才)の8.6%に値する。

 白人やラテンアメリカ系に比べて、黒人に労働障害者が多いという結果が出ている。これを性別にみると最も顕著であり、黒人男性の13.7%、黒人女性の12.3%が労働障害を持っており、白人男性の8.6%、白人女性の7.6%に比べて、非常に高い。

 また、年齢が重なるにつれて、労働障害を持つ人の割合も増加する。

 労働障害を持つ人が就業している数は?失業している数は?

 労働障害を持つ人達の雇用については幾つかの見方がある。ここでは、一般雇用就業率と失業率の観点からみている。1,330万人の労働障害を持つ人達の中で33.6%が一般雇用市場で働いており、15.6%が失業している。この値は、障害を持たない人達(14,090万人)の状況とは大きく異なっている。その一般雇用就業率は78.5%であり、失業率はわずか6.8%である。

 フルタイムで働いている労働障害者の数は?

 労働障害を持つ人の場合わずか19.7%で、労働障害を持たない人の場合の59.4%にはるかに及ばない。

 健康障害のために労働できない、あるいは労働が制限されている人の数は?

 慢性的健康障害のために労働ができない人は、990万人(6.6%)、労働の種類や量が制限される人が750万人(4.9%)いる。加齢と共に慢性的健康障害のために労働が制限される人の数は増えている。

 労働活動を制限する慢性的健康障害は?

 一番多い原因は心臓病で210万人、続いて関節炎200万人、脊椎湾曲症およびその他の背骨の障害170万人、椎間板障害110万人、下肢障害88万人となっている。

 労働災害および疾病の労働障害への影響は?

 この15年間に、労働災害および疾病の数は減少したが、影響は大きくなっている。1972年には100人のフルタイム労働について10.9件の労働災害または疾病があったが、1986年には7.9件に減った。一方、1972年には労働者100人ごとに喪失労働日数は47.9日だったが、1986年には、65.8日になった。

 労働障害を持つ人達の主な職業は?

 労働障害を持つ男子就業者の24.0%は、機器の運転者もしくは単純労働者であり、労働障害を持たない人の場合の20.6%に比べ多い。一方、管理職および専門職に就いている人は労働障害を持たない男子の場合は25.5%であるのに対し、労働障害を持つ男子の場合は18.5%に過ぎない。

 女子の場合には、労働障害がある場合、41.9%が事務・販売、28.0%がサービス職に従事している。労働障害がない場合も45.4%が事務・販売に従事しているが、管理職・専門職に就いている女性が25.2%いる。労働障害がある場合は16.9%である。

 労働障害を持つ人達の収入は?

 労働障害を持つ人の平均年間所得は、障害を持たない人の平均所得1万3,403ドルに比べて、半額にもみたない6,434ドルである。しかしフルタイム雇用者のみを比較すると、あまり差はみられない。

 職業リハビリテーションサービスの援助を受けた障害を持つ人の数は?

 1973年のリハビリテーション法の改正により、1987会計年度に職業リハビリテーションサービスを受けた人は91万7,482人で重度障害者はこのうち58万3,688人であった。このうち21万9,626人(内13万6,442人が重度障害者)が、リハビリテーションを完了し就労している。

まとめ

 このチャートブックを読んで理解できることは、アメリカでいわれている障害というものが、impairment, disability, handicapという枠組みだけで捉えるのではなく、「生活」というものを基本としたlimitationやrestrictionという問題を取り上げてきているという事実を実感した。わが国における障害者を定義づける方法も、このような生活問題を踏まえて考えていけるようなものにしていかなければならない時代が到来していると思われてならない。

 また、障害を持つ人達を取り巻く現状にも、男女差別や人種、民族問題、そして貧富という問題までもが長い影を落としているという現実を痛感させられた。

障害者自立生活問題研究所
**日本障害者リハビリテーション協会


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年3月(第67号)34頁~38頁

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