特集/リハビリテーションにおける国際技術協力 青年海外協力隊

特集/リハビリテーションにおける国際技術協力

事例紹介

青年海外協力隊

稲葉泰

28年間

 東京オリンピックが開催された翌1965年に青年海外協力隊が発足した。その5年前に米国では平和部隊が発足している。協力隊の発足に際しては国内でさまざまな論議があり、その過程の中で米国の平和部隊のヴォランティアという概念が日本の協力隊を技術・技能を持つヴォランティアという形での発足に至ることを加速化させた。1965年の第1陣26名がアジアの4力国に派遣されてから28年たった今日、年間の派遣数は当時の50倍、1,000名が派遣され現在54ヵ国で2,000名が活動中であり累積数は13,000名にのぼる。途上国の情報が皆無に近かった28年前と、リアルタイムで情報が得られる今日とでは派遣される際の覚悟に当然違いはあるが、「現地の人々と共に」という協力隊員の基本姿勢は変わっていない。

そして今

 協力隊員が一人で活動する形態は今も変わりはないが、近年の傾向としてはグループ・チームにより予め設定した目標にむかう多業種による協力形態も増加している。例えば7年前からアフリカのニジェール、セネガル、タンザニアで展開されている砂漠化防止、村落開発のための「緑の協力」が植林、果樹、野菜、自動車整備、視聴覚隊員などがチームで活動を続けている協力や、中米ホンデュラスでマヤ文明遺跡発掘・保存プロジェクトに考古学、植物学、造園、システムエンジニアなどの隊員構成での協力など現在9チームが展開中である。また、注目すべきは女性の協力隊応募者が5年前から過半数を占め、女性隊員の派遣増がみられる。10年前に隊員のわずか2割であった女性が現在4割に達している。1986年に米国が、そして本年英国が男女比で女性隊員が過半数を占めたように、わが国もその傾向が遠くない将来に現実になることが推測されている。女性の派遣業種も医療、教育の分野から自動車整備、建築施工など拡大がみられる。協力隊事務局は各国からの要請条件から性別撤廃を相手側に働きかけており、女性の参加拡大の傾向にある。

 その他の新しい方向としては、マレーシアで作業療法、理学療法、養護の隊員がイギリスや各国のヴォランティアと協力し同国の社会福祉面で貢献したような、また、現在ソロモン諸島で進行中の日米協力隊による環境教育協力にみられるような各国ヴォランティアとの現場での協力の促進も途上国のニーズへの有効な対応として積極的に進められている。

問題がないわけではない

 第一に日本国内の青年人口の減少が第1次、2次産業に顕著であること。協力隊員の要請がいぜんこの分野で大きいシェアーを占めていることとのギャップへの対応が求められている。現実問題として無い袖を無理にふってもチリぐらいしかでないのであれば、現実は直視するべきと考えている。むしろ、国内で多くの優秀な人材が得られる保健医療や教育分野、あるいは環境関連分野での協力を一層強化していく方向で要請国との対話を進めている。

 要請への対応の他にいくつかの困難な問題がある。マラリアなどの病気、内乱、治安悪化などの政情不安、そして交通事故の発生などシステム的に懸命な対処がなされているが、緊急事態はいつの時点でも内在しており、冷戦後の今日の世界は政治・経済ともに安定・成長にむかっている兆しを見いだすのにはまだまだ時間がかかるようである。

リハビリテーション・社会福祉分野での協力

 こういう協力隊の過去・現在の中でリハビリテーションを含む社会福祉関連の協力隊員の活動と方向をちょっとのぞいてみたい。途上国の発展は工業化にありとの援助・被援助国双方にあった概念が結果として経済停滞、累積赤字、環境汚染あるいは福祉面での適正な予算配分の欠如など、マイナス要因を生み出した側面は見られる。アジアで飛躍的な成長をとげたマレーシアのような国でも障害者対応ではさまざまな葛藤の経過がみられる。1976年より同国に派遣されたPT、OT、養護隊員たちが「マレーシアにおける福祉隊員の調査分析」を本年4月にまとめた。同国の障害者対応が『施設』から、1989年から予算化された地域リハビリテーション(CBR)への取り組みの過程での改善やゼロへの逆戻りの協力内容がリアルに記されている。同報告書で協力隊員に求められることとして、『病院』から『地域』への役割の進出のための専門知識の必要性、障害者の就業、生活の場の確保のためには幅広い分野での関連領域との連携の必要が指摘されている。協力隊としてはリハビリテーションの領域を専門職種に限ることなく、まさに160職種ある協力業種の有効な、現場に合った組み合わせ(チーム派遣)、(現に協力中のヨルダンでの障害者スポーツ、インドネシアでの音楽教育、あるいはスリランカでの家政など協力内容を分析し)地域社会への取り組み、障害者の生活向上と、システム的に応えたいと考えている。障害者の8割が途上国に住むといわれている。マレーシアのように発展をとげている国はまれである。

 「アジア太平洋障害者の10年」の中で今までリハビリテーション分野で活動した協力隊員の貴重な体験・分析から導かれたひとつの明確な取り組むべき方向で我々がその役割を一層果たせることが可能になるよう努めていきたい。

青年海外協力隊事務局啓発課長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年12月(第78号)10頁~11頁

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