特集/リハビリテーションにおける国際技術協力 国際義肢装具協会(ISPO)

特集/リハビリテーションにおける国際技術協力

事例紹介

国際義肢装具協会(ISPO)

澤村誠志

 ISPO(International Society for Prosthetics and Orthotics:国際義肢装具協会)は、1970年にデンマーク、米国、カナダ、ドイツ、スイス、英国の外科医義肢装具士およびリハビリテーションエンジニアのグループにより設立され、事務局はコペンハーゲンのSAHVAにおかれている。

 現在2,800名の会員をもち、22ヵ国にISPO支部があり、わが国の事務局は兵庫県立総合リハセンターにおかれている。

1.ISPOの目的と国際的活動

1)ISPOは、義肢装具・リハ工学に関する公平かつ非政治的で協調的な諮問団体であり、他の国家的、また、RI、WHO、WOC、ICRC、ILOなど国際的な団体と緊密な関係をもち、義肢装具サービスの向上をめざすことを目標としている。

2)ISPOは、義肢装具・リハ工学に関する出版(年3回、“Prosthetic orthotic International”)を行っている。そして、地域または国際的なコース、セミナー、シンポジウム、カンファレンスなどを通じてメンバ一間の学識的な情報交換を行っている。最近では、本年3月タンザニアで、来年3月にはタイのパタヤで「切断術と義足」のコンセンサス・カンファレンスを行う予定である。最大の行事は3年毎に開催する世界会議であり、1989年第6回の世界会議を本協会の主催のもとに神戸で開催し、多大の評価を得た。

3)ISPOは、義肢装具・リハ工学にかかわる専門職の教育と訓練に責任をもっている。特に重要な問題は、先進国とくに教育過程の異なる欧米における義肢装具士の教育の標準化である。それとともに近年ISPOとしては、開発途上国における義肢装具サービスを技術者の教育標準を保つなかで、具体的にどのように進めていくかが問題となっている。ISPOは、WHOとの協力のなかで標準化した教育・訓練プログラムを作っており、今後ますます、開発途上国や他の国際組織と協力し、適切な指導を行っていくことが大きな役割となっている。

2.ISPOの技術協力とわが国の期待される役割

 ISPOは、これまでWHOなどの国際組織との連携を保ち、義肢装具・リハ工学の専門家集団としての諮問団体としての役割を果たしてきた。しかし、開発途上国における義肢装具サービスの向上に具体的で積極的な役割が期待されよう。

 開発途上国においては、2000年までに200万人の子供が新たに脊髄性小児麻痺に罹患すると予測される。また、最近の開発途上国における切断者の数は350万人、また、癩による足部変形で靴型装具を必要とするのが1,100~1,200万人と推測されている。義肢装具士一人でサービスできるのは1,000人のニーズに対応できるだけで、これには2万人の訓練された人々が必要となる。しかし、会員費により運営されているISPOには残念ながら、この教育の場を積極的に具体化する経済基盤がない。現実に、アジアの開発途上国のコンサルタントとして過去20年近く地域に足を踏み入れた知見からすると、「国連・障害者の10年」がその国の障害者に何をもたらしたか、胸が痛む思いがする。辛い本年より「アジア太平洋障害者の10年」がスタートした。アジアの障害者への義肢装具サービスは、主としてICRC、WOCなど海外からのNGOグループにより支えられてきた。しかし、いずれも一時的な経済的な援助を基盤としたもので、果たして、恒久的にその地域の障害をもつ人々のニーズに合い、社会参加を進めていけるか大きな疑問が残る。経済大国としてのわが国が、このアジアの地域の障害をもつ人々への具体的な施策として最も効果をあげうるものは、3年制の義肢装具士の養成施設と義肢装具のパーツ、材料を生産支給するサービスであろう。これには、タンザニアなどで多くの経験をもつISPOによる教育カリキュラムの標準化が必要である。これとともに、WHO、ICRC、WOC、ILOなど多くの国際機関の協力と認知のもとにすすめてこそ、効果が上がるといえる。今後の国際的な立場でのわが国のリーダーシップを期待したいものである。

ISPO次期会長、アジア担当国際コンサルタント
 兵庫県立総合リハビリテーションセンター所長、中央病院長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年12月(第78号)16頁~17頁

menu