特集/リハビリテーションにおける国際技術協力 当事者中心の国際技術協力体制の確立

特集/リハビリテーションにおける国際技術協力

私の提言

当事者中心の国際技術協力体制の確立

中西由起子

はじめに

 日本の経済成長に合わせて、国民の国際的な技術協力に対する関心は高まってきている。しかし、経済協力においては、先進国からの福祉的援助が必ずしも第三世界の庶民の経済的自立に役立たなかったことが証明されている。大衆的貧困は解決せず、各地で環境破壊が進行し、飢餓が激化した。(荒又重雄、1989)。リハビリテーションでの国際協力がこの轍を踏まないようにするには、行政マン、福祉専門家、医療やリハビリテーションのスタッフが国際技術協力の主役に踊り出る事なく、むしろ個人として問題を共有できる障害当事者を中心とすべきである。

 主に筆者自身のアジア太平洋地域での経験を基に、国際技術協力での彼らの参加の重要性とそれが真の社会開発に貢献しうる方策を論じてみたい。

障害者の権利に関する認識の強化

 障害者の権利を考える上で基本とすべきことは、障害者が自分の生まれ育った環境の中で自立して生活をすることである。リハビリテーションセンターが地域にない、養護学校への通学が困難だ、仕事は遠隔地の福祉工場にしかない、と多くの障害者は自分の地域を離れて施設で生活することを余儀なくされる。

 技術協力を行う多くの援助団体は、インフラストラクチャーが整備された人工密度もある程度高い都市部で援助活動を行いたがる。効率的に活動ができるし、成功を阻むリスクも少なくてすむからである。しかし途上国の70~80%の障害者が農村に住む現状では、彼らが地域で暮す権利を無視した援助方法といえる。

 地域社会での障害者プログラムを推進する際に気をつけなければいけないことは、ニードを把握する際には、障害者の意見を尊重し自国のモデルを押しつけないことである。また女性障害者や目につきにくい聴覚や内部障害の人、知的障害や精神障害の人など、障害者の中でも特に不利益を被っていると言われている人たちの参加の奨励も重要である。

リハビリテーションの定義の再確認

 国連・障害者の十年の基本的概念のひとつであったリハビリテーションは、次のように定義されている。

  「リハビリテーションとは、損傷を負った人に対して身体的、精神的、また社会的に最も適した機能水準の達成を可能にすることにより、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供していくことを目指し、かつ時間を限定するプロセスを意味する。これは、社会的適応あるいは再適応を容易にするための方策はもとより、機能の喪失や制約を補う(例えば自助具などの技術的手段により)ことを目的とする方策を含めることができる。」(障害者に関する世界行動計画、11項)

 従来のリハビリテーションのあり方に満足できなかった障害者は、それが機会の平等化への一手段にすぎないことを国連に認識させるに至った。

 機会の平等化の内容の多くの部分がリハビリテーションと呼ばれてきたものに含まれていたがために(ガーデストローム、1988)、障害者問題での国際協力において多くの弊害が生まれていた。例えば、PHC(プライマリー・ヘルス・ケア)と同じ発想で、障害者の自立を通して地域開発を進めるためにアジア太平洋地区で広く用いられているCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)がある。しかし名称にリハビリテーションが入っていたがためにフィリピン・バコロッドのCBRプロジェクトなどの数例を除いて、医療やリハビリテーションのサービスのみが重視されてしまった。その結果外国から供与される技術や知識はサービス提供者である専門家のエンパワメントには役立ったが、障害者レベルにまで届くことはなかった。障害者のリーダーシップ養成の国際協力においても、リハビリテーションと名付けられているがために、障害者リーダー自身が外国の障害者に経験を分かち合う直接的訓練がままならなくなっている。

専門家としての障害者の処遇

 自立生活の経験豊かな障害者は、重度の障害を持ちかつ地域で自立して暮らしていく際に必要な特殊な技能や経験をもつ。そのために、自立生活運動ではスペシャリストとしてしかるべき位置を与えられている。(中西正司、1992)。

 障害者問題に関する途上国への技術協力では、障害のない人を対象者として技能訓練が重ねられてきた。障害者の本当のニードを知っているのは障害者自身であるから、供与された技術を有効に活かせるのも障害者自身である。HI(ハンディキャップ・インターナショナル)では地域の技術者として訓練するのは障害者と決めている。障害者自身の自助を進めるための専門的技術者集団の養成と、障害者に自尊心と所得創出技能を得させるためである。

 日本ではJICAの専門家や青年海外協力隊を初めとして、技術協力を行う障害者は皆無に等しい。供与を受ける途上国の専門家をみても、日本の援助で建設されたリハビリテーションセンターでは障害を持つスタッフを見かけない。日本各地のJICAの研修センターが障害者のアクセスを充分考慮していないことも残念である。

終わりに

 現在各種の障害者からなる障害者自身の団体DPI(障害者インターナショナル)は世界的なネットワークを有し、政府の諮問機関に代表を送るなど強力に組織化されている。途上国においても、教育や社会参加の機会に恵まれない障害者が多いために指導者となるべく条件を備えた人が不足していたり、運営上の最大の問題は資金不足であるのに資金集めのノウハウに乏しいなどの問題を抱えているものの、政治活動、雇用機会の創出、識字教育、自立生活運動、啓発活動まで行っている。

 技術協力においてはILOやESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)が既に行っているように、まず彼らの国内組織や国際的ネットワークを利用することから始めて、最終的にはプロジェクトのカウンターパートとするような関係を築いていくのがよいと思われる。

参考文献 略

アア・ディスアビリティ・インスティテュート(ADI)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年12月(第78号)23頁~24頁

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